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大切な人の大切な人

 一人で小世美を探していた名莉の元に、小世美を連れた根津や季凛、そして狼や雄飛の叔父にあたる大城霧斗という人物がやってきた。

 名莉は小世美や根津から事情を聞き、自分を含めた五人で狼と雄飛が戦っている所へと向かう。

「さっき鳩子と連絡を取ろうとしたけど、駄目だった」

 横を奔る根津に名莉が鳩子と通信が取れないことを告げる。すると根津が少し眉を顰めさせてきた。

「あたしたちもよ。だからきっと鳩子に何かあったんだわ。しかも狼と雄飛の戦いに巻き込まれて」

「どうして、そう思うの?」

 根津の言葉に、霧斗に抱えられながら鳩子の安否を心配する小世美が訊ね返している。

「通信が取れない状況ってことは、何らかの戦闘に巻き込まれたってこと。でも鳩子は情報操作士だから、単独で戦闘に参加する事は皆無。ってことは、誰かと一緒に戦闘に加わってたって考えた方が妥当でしょ?」

 根津の言葉に小世美が、やはり曇ったままの顔で頷いた。すると根津が小世美を安心させるように、少し戯けた笑みを浮かべた。

「鳩子なら大丈夫よ。悪運強そうだもの」

「あはっ。確かに。鳩子ちゃんって簡単に死にそうな顔はしてないよね」

 二人のそんな言葉で曇っていた小世美の顔に、微かな笑みが浮かぶ。

「私も大丈夫だと思う。だから早く狼と鳩子の所に行こう」

「うん!」

 小世美の返事を聞いてから名莉は、狼と雄飛が戦っている場所へと視線を向けた。視線の先には、さっきまでいた巨大な鎧武者が消滅している。きっとあの鎧武者は雄飛の技の一つで、狼が打ち破ったのだろう。ただ今でも狼と雄飛が戦っているということは、空気中に残る因子の余韻からわかる。

 早く狼と合流した方が良いことは確かだ。雄飛は強い。実力としては本当に九卿家の次期当主として通用するだろうし、国の代表に選ばれてもおかしくはないレベルだ。そんな雄飛と戦っている狼を少しでも手助けしたい。

 名莉にとって狼は大切な人でもあり、大切な仲間だ。そして名莉は後ろにいる小世美を一瞥した。

 小世美は狼の大切な人。

 名莉は小世美を心配する狼を見て……いや、前からそう感じていた。

 狼にとって、小世美は一番大切な女の子だと。それを思って胸が痛まないと言ったら嘘になる。見ているのが辛くなるときもある。

 けれど、小世美が自分にとって大切な友人であることも変わらない。

 だからこそ、名莉は心で強く思う。

 自分の友人を、自分の大切な人の大切な人を守ろうと。

「小世美、小世美の事は私が守るから」

「うん、有難う。メイちゃん」

 名莉の言葉に小世美が力強く頷いてきた。名莉はすぐに前へと向き直り、奔る速度を速める。

 そして、因子で強化した視界で見えた、狼へと刃を向ける雄飛へと銃弾を飛ばした。

「誰だ?」

 雄飛の声が聞こえた瞬間、名莉が内塀の上に立ち、銃口を雄飛へと向ける。雄飛が身構えるよりも早く照準を雄飛へと合わせられた今なら、雄飛を牽制できる。

 そして名莉が雄飛を牽制した所で、横の塀を破壊して根津たちも雄飛の前へと立つ。

 霧斗の腕から下ろされた小世美が、倒れている狼を見て叫んでいる。名莉は銃口を雄飛へと向けながら、そう考えていた。

 早く怪我が酷い狼を別の場所に運びたいが、今すぐに動けばすぐに雄飛によって阻まれてしまうだろう。そうなっては、狼を助けるどころか完全に名莉たちが動きにくくなる。

 そんな事を名莉が考えていると、雄飛が小世美の前にいた霧斗に反応を示してきた。そして雄飛と霧斗が少しのやり取りをしてから、二人ともお互いを見合い、武器を構える。

 そして、名莉たちの挟む口を与えぬまま、肉薄してきた雄飛と霧斗が衝突した。

 二人が衝突した衝撃は凄まじく、因子の残滓(ざんし)と砂埃が舞い、名莉たちがいる所にまで吹き込んでくる。

「季凛、小世美を頼んだわよ。名莉、あたしたちは今の内に狼の救出!」

 根津がそう声を掛け、激突する霧斗と雄飛の間を抜け、倒れて動けない狼の元へと疾駆する。名莉もその根津に続く様に、狼の元へと駆けた。

「狼、しっかりして」

 名莉が狼に声をかけ、抱き起こす。抱き起こした狼の顔は血を流し過ぎたのか青白い。そして意識も失ってしまっている。

「とりあえず、止血しきれていない所を何かで止血して……とりあえず、ここから移動させないと」

 険しい表情を浮かべる根津の言葉に名莉が頷き、二人で狼の腕を自分たちの首元に回し、季凛と小世美が居る場所まで移動させる。

 その時でも、霧斗と雄飛の衝突の際に生じる余波を受けない様に注意しながらのため、慎重に周りを見ながら、何とか小世美たちがいる場所へと辿り着いた。

 そして意識の無い狼を壁へともたれ掛けさせ、名莉が血の止まっていない所に因子を流し、表面上の止血をする。

「一応止血は出来たけど、狼のことはしばらく安静にしてた方が良い」

「そうね。とりあえず、今のところ霧斗さんが雄飛を相手にしてくれてるから、時間は稼げると思うし」

 名莉も雄飛と互角以上の力量でやり合っている霧斗を見ながら、頷いた。さっきまで狼と戦っていた時のダメージもあるだろうが、それでも霧斗が余裕で雄飛を押していることには、変わりない。

「あはっ。それにしても鳩子ちゃんはどこにいるんだろうね?」

「そうね。あたしの狼を運んでるときに周りを見てたけど、鳩子の人影らしい人影が見えないのよ」

「じゃあ、私が鳩子を探してくる」

 名莉がそう言って立ちあがると、それを小世美が制してきた。

「小世美?」

「お願い、メイちゃん。ここは私に行かせてくれない?」

 予想をしていなかった小世美の言葉に、名莉と根津が目を丸くする。

「ちょっと、小世美。小世美はここにいなさい。鳩子がどこにいるかもわからないのに、動くのは危険よ」

「私もそう思う。戦いがここに集中してるとしても、小世美が一人で動くのは危ない」

「でも、それでも……私も頑張りたい。だって、私がここにいても何もできない。でも皆は違うでしょ? ここにいてオオちゃんに何かあっても助けられる。でも私がここにいてもそれはできないっ!」

 俯きながら、そう言った小世美の声音には悔しさが込められているように聞こえた。そのため、名莉はなんて言葉を掛ければいいのか分からず、口を噤む。

「……ごめんね。ネズミちゃんやメイちゃんが私を心配してくれてるのは分かってるよ。だけど、私も心配されてるばかりじゃ嫌なの。これは私の我儘かもしれないけど、でも自分に少しでもやれる事があるなら、やりたい。やらせて欲しい」

「あはっ。ここまで熱心に言われたら、任せるしかなくない?」

 今まで黙ったまま聞いていた季凛がそう言って、話を続ける。

「メイちゃんとネズミちゃんの忠告を聞いても行きたいっていうんだから、止めても無理。むしろ、ここまで言うんだから、ちゃんと鳩子ちゃんを探して連れて来てもらおうよ……出来るよね? 小世美ちゃん? さっきも季凛のこと、助けられたんだし」

 季凛が真っ直ぐに小世美を見て訊ねる。

 すると小世美も季凛に力強く頷いた。

「任せて。絶対にハトちゃんを連れてみんなの所へ戻ってくるから」

「ああ、それと万が一の保険で、これ持っていけば? アイツに取られたのか分からないけど、情報端末持ってないみたいだし」

 季凛がそう言って、気絶している狼の手から端末を取り、小世美に投げ渡してきた。

「あはっ。今のところ狼君は気絶してるし、必要ないでしょ? 鳩子ちゃんが見つかったらそれで季凛たちに連絡してきて」

 狼の端末を受け取った小世美に季凛が片目を瞑りながら、そう言って来た。

「うん、わかった」

 小世美が季凛に笑顔で答える。そんな小世美を見ながら、名莉と根津がお互いに顔を見合わせて苦笑を浮かべた。

「こうなったら、ちゃんと鳩子を連れてくるのよ?」

「でも、あんまり無茶しないで」

 根津と名莉で小世美に言葉を掛ける。すると小世美が笑顔のまま頷き、名莉たちへと踵を返して走り去って行く。

 その後ろ姿を見ていた名莉を余所に、根津が季凛に声をかける。

「なんだかんだ言って……季凛、アンタも結構熱い所あるのよね」

「あはっ。何言ってんの? 使える人は有効活用でしょ?」

「そんな事言って、照れ隠しするのはなしよ」

「別に~。さっ、季凛たちも少し頑張らないといけないんじゃない?」

「そうみたい」

 季凛の言葉を聞いた名莉が手に二丁の銃を構える。そして名莉たちの視線の先には、霧斗と雄飛が戦っている場所の後方から、にっこりとした笑みを浮かべた女性が立っている。

「あの人って、あたしたちを座敷牢から出した人じゃない……手には武器を持っているみたいだけど?」

 根津が目を細め、着物の女性を見ている。名莉たちが視線を向ける女性は手に刀を持ちながら、名莉たちから視線を外し……次の瞬間には雄飛を押していた霧斗に斬りかかっていた。

 不意打ちの女性の剣戟を霧斗が素早い反応で受け止める。だが受け止めた瞬間地面に大きな亀裂が走り、霧斗の足が地面にめり込む。

「あら、ヤダ素敵……不意打ちを狙ってみたけれど、受け止められてしまったわ」

「何故、貴女がここで助太刀に入るのでしょうか?」

「うふふ。それは雄飛ちゃんと貴方を戦わせないためよ」

「ほう。それは何故ですか?」

「決まってるじゃない。雄飛ちゃんが戦うべきは貴方じゃなくて、そこで意識を失くしてる(おおかみ)君の方でしょう?」

「そのために、貴女が私を引き受けると?」

「ピンポン、ピンポン、大正解~」

「そうですか。ですが一つ訂正です。彼の名前は(おおかみ)君ではなく(ろう)君ですよ」

「あら、そうなの? なんか中二病に罹った名前ね。名付け親のセンスを疑うわよね」

「それは、晴人兄さんたちが考えてつけた名前だと思うので、余り深くわ言及しませんよ」

 そんな会話をしながら、霧斗が上から地面に押し付けるように斬りかかる女性を上へと押し返す。そこに雄飛が間断なく攻撃を入れる。

「二人相手って卑怯じゃない?」

 そう言って、根津が雄飛を青龍偃月刀から斬撃を放ち、雄飛から霧斗への攻撃を阻んだ。そして根津の両隣りに名莉と季凛が立つ。そして勝気な笑みを浮かべた根津が雄飛に口を開く。

「今からあたし達を相手にしてもらうわよ」


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