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ゲスト

 時間が少し戻り、座敷牢から出た小世美と霧斗は雄飛と狼が衝突している場所へと向かっていた。

「本当に皆さんの所に行くんですね?」

「はい。だって、皆が私を助けるために頑張ってくれてるから。私だけが逃げるなんて、絶対に嫌です」

 霧斗に小世美が力強い言葉で言い切る。すると霧斗が軽く頷いて来た。

「わかりました。では、私が小世美さんの大切なご友人の元へと運びます」

 そう言って霧斗が小世美を腕で抱きかかえ、一気に広い大城家内を走る。

「それと、小世美さんに一つ質問なのですが……貴女はご自身がどうしてここに連れてこられたのか、検討はついていますか?」

「……私が持ってる因子が原因ですか?」

 一人で捕まっているときに、微かに感じていた予感を小世美が口にすると、霧斗が小世美の顔を一瞥してから頷いて来た。

「ええ、その通りです。小世美さんの因子は、はっきり言って、他者から見ればすごく魅力ある因子です。貴女がいれば、因子疲労で悩むどころか、自分が保有する因子を増やすと共に質を上げられる。そしてそれに加え、因子を元々から有していない者にも、因子という恩恵を与えることができる」

「そうみたいですね。その事は以前、別の人から聞きました」

「そうですか。では、それを聞いて貴女は、自分が持っている因子をどう思いましたか?」

「正直……何も考えられませんでした。特殊な因子を持ってて、その因子でこんな事が出来るって言われても、使った事もないし、なんか漠然としすぎてて」

「なるほど。確かに貴女の言う通りかもしれませんね。自分で試した事が無い力を他人に言葉で説明されても実感はわきませんからね。ですが、もう時期に分かることになると思います。そして約束してください。その自分の中にある力を使った時、どう思ったのかを覚えておくということを」

 時期に分かる?

 一瞬、霧斗の言っている言葉の意味が分からず、小世美が目を見開いていると、霧斗が走るのを止め、小世美を地面に下ろして来た。

「本当に貴女は、良いご友人を持ちましたね」

 小世美にそう言葉を書けた瞬間、霧斗の姿が遠く前方に移動していた。そして前方に移動していた霧斗の向かった先には、男女二人組と戦っている根津と季凛の二人の姿が見える。

「ネズミちゃん、季凛ちゃん!」

 何かを考えるよりも先に、小世美の足は二人の友人へと向かっていた。向かわずにはいられなかった。自分の大事な友人が、戦って傷ついている。

 そんな姿を見て、じっとなどしていられない。

 だがそんな二人の元に駆け寄る小世美の目に、倒れる季凛の姿とそこに疾駆する霧斗、そしてそんな二人を無情に白柱のような斬撃が二人を包み込むのが見えた。

 一気に顔の筋肉が強張り、耳には遠くから根津の叫び声のような物が聞こえてきた。

「やだ。そんな……」

 走っていた足が止まり、そのまま地面に両膝を着き脱力する。そして目の前で季凛と霧斗を飲み込んだ白柱が消える。

 その瞬間、誰かが近くに会った家屋を破壊するように中へと吹き飛ばされた。小世美の目には誰が吹き飛ばされたのかわからない。だからこそ、身体の奥底から恐怖が出てくる。

「結城っ!」

 恐怖に飲み込まれそうになった小世美の耳に、根津を相手していた男性の声が聞こえてきた。そしてその男性と根津の間に入って、男性へと刃を向ける霧斗の姿が見えた。そして片方の腕には、意識の無い季凛を抱えている。

「霧斗様、これはどういうことでしょうか?」

「いえ、どうということはありませんよ。ただ私の客人が不躾な応対を受けていたので、目に余っただけです」

「客人? 私どもには侵入者を排除しろと時臣様からの命を受けていますが?」

「そうですか。ですが彼らは侵入者ではありません。私の大切な客人ですから。そういうことなので、君たちがこれ以上、この方々に刃を向ける必要はありません。君は向こうで倒れている彼女を連れて下がりなさい」

 いきなり現れた霧斗に困惑する根津を余所に、霧斗が凛とした声で男性にそう告げる。

 すると根津と対峙していた男性が、少し黙考してから首を頷かせた。

「御意。この場は霧斗様のお言葉に免じて、退かせて頂きます」

 そう言って、男性が家屋の中に倒れていた女性を連れて立ち去る。そして、そんな男性の背に霧斗がこんな言葉を残した。

「先に言っておきますが、今日は学生服を着た客人が多いみたいですよ」

「畏まりました。肝に銘じておきます」

「ええ、そうして下さい」

 霧斗がそう返事をすると、男性ゆっくり頷き立ち去った。

 小世美はその様子を見ながら、慌てて立ちあがり霧斗たちの元へと駆け寄る。

「ネズミちゃん!」

「小世美!? どうして小世美がここに? 捕まってたんじゃないの?」

「うん、そうなんだけど、色々あって……ここにいる大城霧斗さんに助けてもらって、オオちゃんと皆がいる所に向かおうとしてたの」

「なるほどね。でもどうしてこの人……霧斗さんは小世美やあたしたちを手助けしてくれたの?」

「それは、貴女方の御友人に頼まれたからですよ」

 小世美が答える前に、霧斗が優しい笑みで答えてきた。そしてそんな霧斗の言葉で察しがついたのか、根津が瞳目しながら頷く。

「もしかして、真紘が頼んだ協力者って……」

「ええ、私です」

「正真正銘の?」

「ええ、正真正銘の協力者です」

 何故か一瞬、霧斗に疑いの眼差しを向けた季凛に、小世美が首を傾げていると、霧斗が破壊されていない家屋の縁側の傍へと移動し、腕に抱えていた季凛をそっと寝かせた。季凛の顔は青白い。それを見ながら霧斗が眉を寄せる。

「彼女は怪我も酷いですが、それより因子疲労が深刻ですね」

 霧斗の言葉に根津が険しい表情で頷く。それを見ながら小世美ははっとした。

「霧斗さん、もしかしてさっき言ってた言葉はこれを見越して言ってたんですか?」

「ええ。御明察の通りです。この大城という家は、因子の保有量を周りに誇示しているくらいの家です。ですから、そんな大城の家の者たちと戦った、今迄の方たちは八割くらいの確率で因子疲労を起こし、倒れるんですよ。だからこそ、私はすぐに貴女の出番が来るという事を見越していたんです」

 優しい口調でそう言いながら、霧斗が苦笑を零してきた。その姿が小世美の目に一瞬、幼い頃に見た、狼の父親である晴人の面影があるように感じた。

「分かりました。傷は治してあげられないけど……因子疲労を治す事は出来るんですよね?」

「ちょっと待って。因子疲労を治すなんて出来るの? これまで因子をすぐに回復させるなんて話、聞いた事ないけど」

 小世美と霧斗の言葉が信じられない様子で、根津が驚いた様子で訊ね返してきた。

「小世美さんが持つ因子は因子を作り出す力を持っています。ですから、厳密に言うのなら、回復させるというより、因子を作り出す因子を流し入れると言った方が正しいです」

「因子を作り出す?」

 やはり、因子を作り出すというのが信じられないらしく、根津が眉間に眉を寄せている。

「信じ難いとは思いますが事実です……小世美さん、ではまず彼女の身体に触れて、意識を集中させて下さい」

 小世美は頷いて、霧斗に言われた通りに季凛の手を優しく握る。

「冷たい」

意識の無い季凛の手はすごく冷たく、死んでしまっているのでは? と思ってしまう程だ。

「重度の因子疲労による低体温症に陥り始めているのかもしれません。出来るだけ、早く因子疲労を回復させてあげてください」

 小世美は霧斗の言葉を聞きながら、内心で緊張していた。霧斗の言う通りすぐにでも、回復させたいという気持ちはあるが、小世美はこれまで因子を使うどころか、身体に流したこともない。そんな自分が上手く出来るのか、正直凄く不安だ。けれど、この場で季凛を回復できるのは、自分だけだ。それに、季凛は自分のために頑張ってくれた。そんな季凛に小世美も頑張りたい。小世美は静かに目を瞑った。

 小世美は頭の中で、狼やデンのメンバーが模擬訓練をしている光景を思い浮かべる。

 まず意識を集中させて……身体の中心にある熱を手足に流すイメージをする。気持ちを落ち着かせてゆっくりと。

 息をするのにも気を使う程、小世美は自分の持っている因子を季凛へと流す事だけを考えていた。

 自分の力で季凛を助けられるのであれば、何としてでも助けたい。そう思いながら小世美が軽く握っていた季凛の手をきつく握る。すると、自分の身体に今迄感じた事のないような熱が身体に流れるような感覚を感じた。

 そしてその感覚と共に、握っていた季凛の手が暖かくなってきた。季凛の手から伝わる暖かさに小世美は瞑っていた目を開く。

 開いた目で季凛を見ると、先ほどまで血の気が引いていた季凛の表情も、少し良くなっているように見える。

「これって……」

 小世美が安堵した笑みを浮かべ、霧斗に訊ねるように振り向く。すると霧斗も小世美の問いに答えるように、頷いてきた。

「無事に小世美さんの因子が届いたようですね。これでもう大丈夫ですよ」

 霧斗の言葉を聞いた瞬間、小世美は足から力が抜けて地面に座り込んだ。

「良かったぁ~」

 地面に座り込みながら、心底から溢れてくる安堵感を口から吐き出した。そんな小世美を見ながら、霧斗の隣に居た根津が顔色の戻った季凛と小世美を交互に見ながら、狐につままれたような顔をしている。

「嘘でしょ? 本当にできちゃうなんて……」

「これでお分かりになったでしょう? 大城が小世美さんを家に連れてきた理由が」

「本当に凄いです。これが小世美の力なんですね」

 驚きを噛みしめる様な声で霧斗に返事している根津の手を小世美が握る。

「小世美、もしかしてあたしにも……?」

「うん、そう」

「そんなに一気に因子を使って大丈夫なの?」

 自分に因子を流そうとしている小世美を心配するように、根津がそう訊ねてきた。

「大丈夫。私のことは気にしないで。ネズミちゃんたちも私の為に一杯頑張ってくれたから、私も頑張るよ」

 小世美は根津にそう答えながら、笑みを浮かべた。


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