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焼け石に水

 狼は追手がどんどんと増えて行く中、母屋内で小世美が捕まっていそうな場所を探す。探すと言っても、どこを探せばいいのか分からない狼は、取り敢えず追手と鉢合わせしなさそうな部屋の襖を開き、見て回っているだけだ。しかしこのままだと際限がない。もうすでに外は暗くなってしまっている。

 小世美が無事だと良いけど。

 狼はそれを考えながら、家の中を進んでいると……進んでいた狼へと強烈な一閃が飛翔してきた。狼はすぐさま手にしていたイザナギでその一閃を防ぐ。

 防いだ際にイザナギを通して、狼の腕にビリビリとした衝撃が走る。

 この一閃を放ったのって……もしや……

 自分へと向かって来た一閃の方へと、狼が視線を移す。するとそこには、やはり大城雄飛の姿があった。

 雄飛が狼を見ながら酷薄な笑みを浮かべて来ている。その笑みに狼は思わずぞっとした。

「出かけ先で連絡を受け、戻って来てみれば……貴様たちのような無粋者が屋敷に闖入しているとはな」

 雄飛は綺麗な刃文の刀を狼へと構えている。狼も雄飛の動きを注視しながらイザナギを構えていた。

 間合いを取りながら、狼は必死に雄飛の懐へと入るためのタイミングを見計らう。しかし、雄飛はさすがというべきか、狼が懐に入れそうな隙が見当たらない。

 どうする?

 隙がない相手の隙を探していても、時間だけが過ぎてしまう。狼はそう思い、雄飛へと先攻した。冷視を向けてくる雄飛へと狼が突貫する。

 大神刀技 大黒天

 穂先に凝縮されたエネルギーが、雄飛へと飛んでいく。狼が放った大黒天を刀で受け止めるのは危険と判断したのか、雄飛が向かってくる大黒天を飛び躱した。だがそんな雄飛の行動自体は狼が予測していた通りだ。

 そのため、もう既に天之尾羽張を発動させていたイザナギで、大黒天を躱していた雄飛を斜め上から斬りかかる。

 自分の頭上から斬りかかってきたイザナギの刃を、雄飛が身を少し捻りながら受け止める。狼の因子で満たされていた刃を受け止めた為か、刃を通して雄飛の身体に衝撃を与える。衝撃を与えられた雄飛の足が畳みへとめり込み、畳が大きく窪む。

 衝撃を受けた雄飛が一瞬だけ表情を歪めさせてから、狼を力技で跳ね返してきた。

 宙へと跳ね返された狼は天井を足で蹴り、再び雄飛へと肉薄する。

「同じ動きが通用すると思うなっ!」

 雄飛が怒鳴り、向かってくる狼へと技を放ってきた。

 鬼神刀技 冥漸(みょうぜん)

 雄飛の放ってきた漆黒の斬撃は、落下するように雄飛へと突撃していた狼を天井へと押し返し、そのまま破壊する。

 狼は咄嗟に斬撃をイザナギで受け止めるが、受け止めが甘く、身体の至る所から血が滲みだし、痛覚が刺激される。狼は思わず目を瞑り、歯を喰いしばった。

 そんな狼に雄飛が追撃をしようと、狼へと肉薄し斬りかかってきた。狼はまだ身体に走る痛みの所為で、思う様に雄飛の剣戟を避ける事や受け止める事ができない。

 そのため、どんどん狼の身体が血に染まって行く。

「貴様の様な未熟者では、もはや何の手も出せないはずだ」

 淡々とした口調で雄飛が狼へと言葉を突き刺す。そして斬りつけていた狼の首を雄飛が掴み、首を絞めつけたまま、暗くなった部屋で怪しく光る刃の穂先を狼へと向けてきた。

「すぐ、楽にしてやる」

 雄飛の短い言葉が次に何をしようとしているのかを伝えてくる。首を絞められている狼は声を出す事が出来ない。

 けれどここで殺されるわけにはいかない。別の場所では他の皆が頑張っているのだから。狼は出血し、震える手に何とか力を入れイザナギを強く握り直す。

 その瞬間、雄飛の刀が狼へと向かって来た。

 間に合わない。何とか抗いを見せようとしていた、狼の頭が一気に冷却される。力を込めた手が再び力が抜ける。

 そして狼が死を覚悟して、目を瞑った瞬間……雄飛の驚嘆の声が上がった。

「なにっ!?」

 狼が目を開けると、雄飛の手に持たれていたはずの刀の姿がない。

「狼! 早くそこから脱け出して!」

 声に急かされ、狼が勢いよく雄飛の横腹に蹴りを入れ雄飛から距離を取る。

 そして狼の背後にあった襖から、狼の危機を救った鳩子が焦り切った表情で狼たちを見ていた。

「鳩子! 無事だったんだ」

「もち! むしろあたしが助けなかったら、無事で済まなかったのは狼の方でしょ?」

「そっか。やっぱり、鳩子が助けてくれたんだ。ありがとう……でも、どうやって?」

「BRVって、基本的に情報端末に保存されてるデータを元に、復元してるわけ。だからそのデータにジャミングして、復元されたBRVを一時的ではあるけど無効にしたの。近くにあたしを邪魔する情報操作士もいなかったし、相手も完全に油断してたから、なんとか、ね。でも、やっぱりデータを無効に出来る時間は持って五秒が限度だけど」

「そうだったんだ。けど、鳩子のおかげで本当に助かった」

 狼は鳩子にお礼を言いながら、狼はすぐに自身のBRVを復元させ、眉間に眉を寄せている雄飛を見た。

 狼は鳩子を背後で守る様にして、イザナギを構え直す。刀を復元した雄飛が狼へと肉薄してきた。

 そのため、狼は止血を中途半端になったまま雄飛の刃をイザナギで受け止める。

「さっきは運よく情報操作士に助けられたが、次はない」

 そう言って、重くて勢いのある雄飛の一振りが狼を襲ってくる。抜刀術や斬り返す時の速さを重点に置いている真紘の一太刀より速さは劣るものの、その代わりに受け止めた時の刃の重量感で言うなら、雄飛の方が上だろう。

 そんな雄飛と剣戟戦を行っているためか、イザナギを揮う腕の感覚がだんだん麻痺してきている。狼はそんな自身の身体に危機を感じながら、雄飛を睨む。

「まだ、戦意はあるか」

「当たり前だろ! 僕たちはここから小世美を助け出す。絶対に」

 雄飛の言葉に狼はあえて強気な口調で返した。すると雄飛が理解し難いといわんばかりに、失笑を浮かべてきた。

「強がるのも大概にしろ」

 そう言いながら、雄飛が後ろへと跳躍し狼と距離を取る。

それから、着地した地点で刀を下へと突き刺した。

 鬼神刀技 滅刹(めつせつ)

「狼、下から攻撃が来る!」

 鳩子の叫び声を聞いて、狼は鳩子を抱え横に跳んだ。すると狼がいた場所に大きな黒い穴が開いた。それは床だけではない。狼の頭上にあった天井もなくなっている。

 つまり狼が立っていた場所の直径二メートル内にあった物、全てが消えているということだ。「あの技……禁止技にするべきでしょう」

「うん、僕も思う」

 雄飛の攻撃を目の当たりにした狼と鳩子の口元が引き攣る。とりあえず、狼は離れた所で鳩子を降ろし、雄飛へと突貫した。

 あんな技を雄飛が使える以上、距離を取るのが得策とは言えない。

 そう思った狼は雄飛との距離を詰める。詰めながらイザナギを揮う。思い浮かべるのは、真紘の斬り返しの速さだ。思い返した所で、真紘の動きが真似できるわけではない。けれど、雄飛との剣戟戦で有利に立つためには、あの速さに近づく以外で狼に勝機はない。

 自分と比較して、雄飛の方が狼より受けているダメージが少ないのは歴然としている。仮にここがどんな攻撃を放っても大丈夫な場所だったら、因子の量を増やし無理矢理この場を切り抜けることが可能だったかもしれないが、ここは無闇に大きな技を放てる場所ではない。しかし、攻撃力を押さえた技を放ったとしても、体力のある雄飛に押し返される可能性は高い。

 手加減をすると相手には勝てず、手加減をしなければ別の二次被害を生んでしまうという、ジレンマに狼は思わず奥歯を噛む。

 真紘の動きが出来るか分からないけど、迷ってる暇もない。

 狼は瞳に力を込め、自身の身体の方に因子を多く流す。出来るだけ真紘の動きに近づけさせるためには、因子でカバーするしかない。しかも向こうに気づかれないようにだ。狼のように因子でカバーしなくても、技倆的がすでに狼を上回っている雄飛に身体を強化されたら、もう狼の打つ手はなくなってしまうからだ。

 だからこそ、狼が因子で身体を強化していることを、分からせずに身体を強化するしかない。その事を考えた狼の脳裏に、フィデリオと戦っていた時の真紘の姿が思い浮かんだ。あの時……真紘が目の前で戦っていたフィデリオにでさえ、気づかれないくらいに、ゆっくりとイザナミに因子を流しているのを、狼は気づいていた。

 ただ気づいたからと言って、出来るには直結しない。それは、前に一度、狼自身試してみて、分かっている。

 狼が真紘と同じ様に、デンメンバーと模擬戦をやっている時に試してみたが、すぐにバレてしまい、対策を取られてしまったからだ。

 焼け石に水とはいえ、今の状況ではやる以外の選択肢が狼にはない。

 狼は雄飛との剣戟を行いながら、身体へとゆっくりと因子を流す。気持ちを焦らせてはいけない。気持ちを取りみ出してはいけない。身体に力を入れすぎてもいけない。

 狼は改めて、相手に気づかれないように因子を流すという事がどれほど難しいことか、痛感する。

 雄飛との距離を一定以上開けない様にしながら、雄飛の攻撃を躱す。後ろへと押される形ではあるが、まだダメージを受けているわけではない。

 第一に雄飛に狼が密かに身体に因子を流し、身体を強化しているということはバレていない。

 なら、今はこれで良い。

 そしてその内に、だんだんと狼の剣戟が雄飛の剣戟の速さを上回ってきた。そしてついに、狼の剣戟が雄飛の身体を斬り込む。

 斬り込んだ雄飛の身体から、微かな血飛沫が宙に舞う。雄飛の目がまるで信じられない事が起こった様に、見開かれる。

 狼はすぐに刃を斬り返して、さらに雄飛へとダメージを与える。連続で狼からダメージを受けた雄飛が、小さくよろめく。

 狼はそこに間髪を容れずに、技を放った。

 大神刀技 千光白夜

 狼の放った千光白夜により、雄飛が敷地内から庭先へと吹き飛ばされる。狼はすぐさま砂埃で姿が見えなくなった雄飛の元へと向かう。

 だがそんな狼に、鳩子からの通信が入った。

『狼、離れて。何か今まで以上にヤバいのが来る!』

「それって、どういう……」

 鳩子に聞き返そうとした狼の言葉が、次に狼を襲った衝撃で遮られる。全身を打つ衝撃により、狼は吹き飛ばされながら地面へと叩きつけられた。

 地面へと叩きつけられた狼が、前方の方を向く。

 するとそこには、険しい顔をする雄飛の後ろに、全長八メートルは下らない鎧武者の姿があった。

「褒めてやる。こいつを父以外で俺に出させたのは、貴様が二人目だ。だが、こいつを出した以上、貴様に勝機はないと思え」

『うわっ、あんな化け物を出すなんて無しでしょ』

 耳元に狼の気持ちを代弁するかのような、鳩子の言葉が聞こえてきた。


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