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現れる障壁

 名莉は母屋に近い離れで、追手と交戦していた。追手は木刀型のBRVを手にしている。名莉は物陰に身を隠しながら、銃撃による牽制を行う。追手を牽制している名莉の耳に離れた場所から、誰かが自分と同じように追手と衝突している音が聞こえてくる。

 自分たちのことがもう、かなりの者に知られているということだろう。

 その所為で小世美に何の影響もなければ良いのだが、自分たちの狙いが小世美にあると分かられている可能性がある以上、あまり期待は出来ない。

 小世美の事を考えながら、視線を追手の方へと向けていた名莉の元に別の方向から近づいて来る人の気配があった。

「驚いた……貴女たちどうやって、あの座敷牢から出たの?」

 気配と共に声を掛けられた方へと名莉が顔を向けると、そこには手に刀型のBRVを手にした亜樹菜が少し離れた所で立っていた。

「亜樹菜さん……」

 名莉が険しい表情で亜樹菜を見る。亜樹菜の顔には会ったときの友好的な雰囲気はまるでない。その代わりにあるのは名莉への敵意だけだ。

 そんな亜樹菜からの敵意を肌に感じながら、名莉は二丁の銃を亜樹菜へと向ける。自分へと銃を向けて来た名莉を見て、亜樹菜が口元に微かな笑みを浮かべて来た。

「へぇー。銃口を向けるってことは簡単に捕まってくれる気はないってことね」

 亜樹菜の言葉に名莉が頷く。

 すると、亜樹菜が一気に名莉へと距離を詰めて来た。その速さに名莉は思わず目を見張る。しかしそれも一瞬の事だ。すぐに名莉は気持ちを引き締め、近づいてくる亜樹菜へと銃撃を開始した。

 自分へと向かってくる銃弾を亜樹菜は、刀で切り裂いていく。そしてそんな亜樹菜からの一振りを名莉が跳んで躱す。

 跳んで躱した自分へと続けて放たれた斬撃を銃弾で霧消させ、名莉は亜樹菜へと連続射撃。

「甘く見られたものね。刀と銃では相性が悪いことくらい分かっているでしょう?」

 名莉の銃弾を切り捨てながら、亜樹菜が言葉を吐き捨てる。けれど名莉はその言葉を無視し、冷静に的確に亜樹菜へと照準を合わせ、射撃数を増やして行く。

 そして射撃数が増えて行くにつれ、銃弾の火力、飛翔速度がどんどん上がって行く。火力が大きくなれば、切り捨てたときの反動が大きくなり、次の一振りまでにタイムロスが生じる。そして飛翔速度が上がれば、亜樹菜へのダメージを与える可能性も高まる。

 名莉はそれを考えながら、さらに自身のBRVに因子を注ぎ込む。

 火炎爆技 ベテルギウス

 名莉が放った銃弾が銃口から発砲された瞬間銃弾が爆発し、灼熱とした炎が一気に周りへと飛び、地面に鉤爪で引っ掻いたような跡を描きながら、刀を構える亜樹菜へと奔流する。

 亜樹菜はその炎を刀で受け止めるが、炎の勢いまで殺すことはできない。

 その様子を見ながら、名莉はすぐさま追撃を放つ。

 火炎爆技 流星群

 銃口から放たれた銃弾が真上へと上がり、亜樹菜の頭上へと落下していく。すると名莉の攻撃を見た亜樹菜が、舌打ちをしてから攻撃を受け止めるのを止め、後方へと飛び退く。

 飛び退いたまま亜樹菜が斬撃を放ち、流星群を打ち消しベテルギウスの炎を避けながら、今度は名莉へと突貫してきた。

 この行動を見て、名莉は流石だと思った。

 ベテルギウスの炎は攻撃の効果がなくなるまで、名莉が照星を合わせた相手を追撃する攻撃だ。つまりどこへ逃げても逃げ場がないのなら、逃げることを止め名莉を攻撃して、あわよくば自爆させようという魂胆だろう。

 でも、そうはさせない。

 名莉は亜樹菜と共に自分へと向かってくる自身の技へと銃弾を放つ。

 名莉の銃弾を受けたベテルギウスの一線が枝分かれし辺りへと散らばる。けれどそれで攻撃が消滅したわけではない。名莉の銃弾と衝突したベテルギウスの炎は円形に名莉と亜樹菜を囲むように飛び散り、そこで炎の壁を作った。

 そんな様子を横目で見ていた亜樹菜が名莉へと視線を戻す。そして無言のまま刀を振り上げてくる。そしてそのまま亜樹菜が名莉へと鋭い刀を一振りしてきた。名莉はそれを銃で受け止め、受け止めた時の衝撃で後ろへと弾き飛ばされる。名莉は体を弾き飛ばされた瞬間に、身を翻しそのまま斜め上から亜樹菜の頭部に向けて発砲し地面へと着地する。

「亜樹菜さん、私が貴女に勝ったら……どうして、私たちにあんなことをしたのか、教えて貰います」

「……ええ、いいわ。でもそれは私に勝てたらの話だけどね」

 銃弾を躱し、刀を構え直した亜樹菜が頷く。

 名莉がその瞬間、次なる攻撃を亜樹菜へと開始した。




 根津は同じ方向へと来ていた季凛と合流し、追手と対峙していた。追手の数はどんどん増え、人数にして一〇〇人くらいはいるだろう。そんな数の追手に二人は完全に包囲されていた。

「あはっ。二人相手に気張りすぎでしょう?」

「本当よね。なかなかのVIP扱いなんじゃない? あたしたち」

 背中合わせに立つ季凛に根津がそう答える。BRVを持って自分たちを囲む追手は、先ほどの二人組には及ばないものの、かなりの腕は持っていることは確かだろう。

 しかも包囲される前にもこの人数と同じ数を二、三度相手にしている。そのため根津と季凛の顔には疲労の色が浮かんでいた。

 けれど、それでもここを乗り切らなければ小世美を助け出すことは出来ない。友人を助けることはできないのだ。

 きっと、今もどこかで狼も頑張っている。小世美を助け出すために必死になっている。そんな狼の足手まといになるのは御免だ。絶対に。いや、狼だけではない。ここにはいない他の仲間の足手まといにもなってしまう。

 部長のあたしが()を上げたら駄目よね。

 根津は内心で自分を叱咤し、自身のBRVである青龍偃月刀を構えながら因子を練る。根津のその気配を感じたのか、相手が根津たちに武器を向けながら身構えている。

「季凛、あたしが三つ数えるから、そしたらあたしと同じ方向に技を放って。そしたら、二人でここから脱け出すわよ」

「あはっ、りょうかーい。いい加減この景色にも見飽きてたんだよね」

 季凛がクロスボウを構えて根津に返事を返してきた。根津は自身のBRVに注ぎ込んでいる因子の熱を感じながら、相手よりも早く動き出すことを考える。

 動き出すなら相手が動き出す、その瞬間だ。

 そのタイミングを考えて、根津が青龍偃月刀の刃に溜まった因子を確認し、カウントをし始めた。

「行くわよ……三、二、一、はいっ!」

 月刀技 飛竜円月

 連弩投擲 煉獄

 根津の放つ黄金の飛竜と薄紫色の炎を纏った矢が、一斉に中庭側へと立っていた追手へと向かい、そのままその追手を吹き飛ばす。

 そして根津と季凛が一気に中庭へと奔る。後ろから別の追手からの斬撃が飛んでくるが、その斬撃をかわして奔り抜ける。

 そして少し経つと追手からの追撃が止んできた。根津がその事を怪訝に思っていると……隣を奔る季凛がにこりと笑みを浮かべてきた。

「あはっ。作戦大成功~」

「作戦? ……もしかして」

 季凛の言葉にピンと来た根津もにやりと笑みを浮かべた。

「ネズミちゃんの想像通り。後ろに居た馬鹿な追手は季凛たちの幻覚をひたすら追ってると思うよ。だからさっさと別の場所に移動するなり、隠れるなりするなら今だよ」

「さすが! でも本当に季凛も急激に技に磨きがかかったわよね。いい加減、誰に特訓してもらってるのか教えなさいよ?」

 根津がしたり顔を浮かべる季凛に訊ねると、季凛が冷ややかな笑みへと表情を変え根津を見てきた。そんな季凛の顔を見て、根津は何か自分が不味いことを訊いてしまったのかと心配になる。

「……季凛?」

 沈黙に耐えられず、根津が季凛の声を掛けた。

 すると季凛は冷ややかな笑みを浮かべながら、小さい声で根津の声に反応を返してきた。

「クソ理事長」

「え?」

 聞き返さない様に注意して根津も耳を澄ませていたのだが、余りにも小さい声で、しかも早口で言われたため聞き逃してしまった。

「もう、季凛はネズミちゃんの質問に答えたから、これ以上の質問にはお答えしませ~ん」

「う、嘘でしょう? 一回きりだったらもっと大きい声で言うとか、ゆっくり言うとか、してくれればいいじゃない」

 季凛にそう抗議するが、当の季凛はまるで聞く耳を持っていない。そこまで教えたくない相手とは、誰なのか? 根津はそう考えてますます相手が気になった。

 けれど季凛がそう簡単に口を割ってくれるとは思わない。

 ここは割と言う事を聞く名莉とかから聞いて貰うしかないだろう。

 根津が内心でそんな事を考えていると、前から見た事ある二人組のシルエットが現れた。

「あれって……」

「一番最初に襲って来た二人組じゃない? あはっ、マジ最悪」

 根津と季凛の前に誠司と志保が立ち塞がっている。せっかく追手たちを撒いたのに、次に現れたのが()りに()ってこの二人とは。運がないにも程がある。

「何で、こんな時にあの二人と会うのよ?」

「絶対、ネズミちゃんの所為だって。何か、ネズミちゃん運なさそうだもん」

「ちょっと、最近運がないのは季凛の方でしょう?」

「あはっ。ほら、季凛の運の悪さはあのふざけた体育祭で相殺されたから」

「そんな事言っても、今運がないのは、あたしも季凛も一緒でしょーが!」

 無理矢理、季凛との話を終わらせ、刀型BRVを構えて肉薄してくる二人と衝突する。根津は自身の青龍偃月刀と誠司の刀と刃を交え、そのまま押し合いになる。だがやはり押し合いとなると根津の分の方が悪い。因子をBRVに流して相手を押し返そうとするが、相手の因子の方が根津の因子よりも量が多く、押し返そうにも押し返す事が出来ない。

 どんどん誠司の力で、根津が後ろへと押されて行く。そんな自分の状態に根津は思わず奥歯を噛んだ。こんな所で負けてはいられない。

 どうしかしてこの状況を打破しなければいけない。

 こうなったら……いちかばちかだ。

 根津は青龍偃月刀を消し、誠司との押し合いを半ば強制的に終わらせる。すると誠司が容赦なくBRVを消した根津の横腹へと蹴りを入れてきた。

 蹴りを入れられ、そのまま地面へと蹴り飛ばされる。口の中に血が一気に溢れ吐き出す。

 蹴られた箇所は熱を持ち、ズキズキと痛む。根津はその箇所に因子を流し、痛みを少し緩和させるが、かなりのダメージにはなっている。

 けれどこれで、また誠司から距離を少し開ける事ができた。

 そう思いながら……

「セット・アップ」

 根津は再び青龍偃月刀を復元した。


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