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協力者

 狼は鳩子と根津の怒りという関所を何とか通り抜け、仙台駅へと到着した。

「へぇー、やっぱ県庁所在地だけあって駅も広いわね」

「確かにね。まぁ、さすが東北の中でもでかい都市ってことはあるよね」

 駅構内を見ながら根津が感嘆の声を上げると、鳩子が頷いた。

「よし、真紘から教えてもらった住所を頼りに、早く小世美を助けに行かないと」

「そうだね。さっさと行って小世美を助けてから、牛タンを食べないと」

「そこかよ!」

 友達を助けに行くという時でも、名物を押さえることを考えている鳩子に、狼は思わず声を張り上げた。

 けれど鳩子は狼の言葉など聞いていない様に、素知らぬ顔で口笛を吹いている。

「それで場所的には近いの?」

 名莉が狼の方を見ながら訪ねてきた。

「うーんと今住所を入れて、ここからの距離を検索してみたんだけど、大体バスで三〇分弱って感じかな」

「結構、市街地から離れてるんだ」

 鳩子がひょこっと狼の横から顔を出し、一緒に端末機のモニターを覗いてきた。

「まぁ、真紘の話だと相当広い家みたいだから、当然といえば当然な感じもするけどね」

「あはっ。ってことは、狼君って本当だったら金持ちだったんじゃん。それ考えると微妙にドンマイだよね」

 肩を竦めた狼に季凛がそんなことを言って来た。

 狼は季凛の言葉の意味を敢えて聞かないことにした。いや、むしろ、聞かなくとも季凛の言いたいことが理解できたからだ。

 いいや、ドンマイなんかじゃない。金銭は人の心を貧しくするって、どこかで聞いたことがある気がする。

 狼は内心で自分を励ましてから狼は駅構内を歩いた。

 駅から出ると少し肌寒い空気が狼たちの肌を撫でた。目の前にはぺドウェイが続いており、その下には、タクシーやバスなどが停まっているのが見える。

 狼たちは階段から一階に降り、仙台城跡行きのバスに乗り込んだ。

 一番奥の席に座り、狼たちが一息ついた所でバスがゆっくりと、車内アナウンスを流しながら発車し始めた。仙台駅近くのビルの光景を窓越しに、鳩子が少しワクワクとした声を漏らした。

「なんか、バスって新鮮」

「私も乗るの初めて」

「えっ!? 本当に?」

 鳩子と名莉の言葉に狼が目を丸くすると、二人はコクンと頷いてきた。そしてそれに頷いてきた鳩子があっけらかんとした声で

「車には乗ったことあっても、基本的に運転手つきの自家用車だからね。バスに乗る事自体、必要じゃないし」

 そんなことを言って来た。しかも狼と季凛以外の根津と名莉も鳩子の言葉に共感しているように、首を頷かせている。

「運転手つきって……なんか、久しぶりに皆とのギャップを感じた気がする」

「あはっ、確かに」

 明蘭に居る時は、皆が寮生活を行っている為、ついつい周りにいる生徒たちが上流階級育ちということを忘れてしまうが、こういう話を聞くと改めて実感させられる。

 うーん、この中で一番上流階級育ちと思えるのが名莉くらいかも。狼が内心でそうおもいながら、名莉と目が合った。

 名莉の格好はピンクと白のプリマニットワンピース姿だ。その格好も相まってか、名莉が上流階級のお嬢さんと言われれば、素直に頷けてしまう。

「狼、どうかした?」

「あ、いや別に……ただこの中でお嬢様って感じがするのは、メイくらいかな~って思って……」

「狼く~ん? それはつまり、鳩子ちゃんたちをがさつって言いたいのかな?」

「別にそんな深い意味は全然……」

 しまったといわんばかりに狼が口元を引き攣らせながら誤魔化す。すると鳩子が鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。

 狼は内心で自分の迂闊さに肩を落としていると、狼の腕を根津がつねってきた。

「いたっ!」

 腕に走った痛みに狼が顔を顰めさせると、根津が目を細めながら機嫌の悪そうな顔をしている。

 どうしよう? まさかのここに来て第二の関所になるとは。

「ほ、ほら、ネズミも鳩子もアクティブに動く感じがするだけで、別にがさつなんて思ってないって」

 狼が苦笑を浮かべながら、二人に弁解すると鳩子も根津も黙ったまま、狼をジト目で凝視している。目だけで『本当にそう思ってんのかよ?』という感じだ。

 そんな視線に狼は思わず顔を強張らせた。

「あはっ。狼君って馬鹿だからまったく学ばないよね?」

 季凛からのきつい一言に、狼の強張っていた顔が完全に凍りつく感じがした。

 ああ、こんな時に小世美がいれば……

 内心で狼はそう思う。小世美がこういう場にいれば、大抵は第三者という立場から仲介に入ってくれるのだが、今この場に小世美がいない。

 こういう状況を作ってしまったのは、狼たちが小世美を取り返せなかったことにあるのだが、今更それを嘆いたところで、どうしようもない。

 そのため、狼は鳩子たちからの冷ややかな視線を受けながら、大城家のある場所まで着くのを黙って待つしかなかった。



 バスから降り、狼たちはぽかんと口を開けていた。

「あのさ、まさかとは思うんだけど……」

「うん、何?」

 狼の言葉に同じくぽかんとする鳩子が反応を返してくる。

「この目の前にある白い塀が大城の塀ってことないよな?」

「ああ、それ狼以外の皆が思ってるよ。むしろ真紘が提示した住所ここだし」

「やっぱり」

 狼はざっと一〇〇メートル以上続く石垣と瓦の乗った白い塀を見ながら、口元を引き攣らせた。

 確かに真紘の言葉や、地図が必要な家と聞いていたためそれなりの大きさを想像してはいたが……まさか、ここまで広いとは思っても居なかった。汚れ一つない白い塀を見る限り、時代劇などで出てくる城がこの中にあると言われても、頷けてしまいそうな程だ。

 嘘だろ? 

 こんな土地開発が進められていく社会で、こんな建物が私有物として建っているということに、狼は驚き以外のなにもなかった。

「ここの塀の中に、小世美がいるってわけね……よし、じゃあ早速入れそうな所を探しましょう。これだけ広いんだったらどこからか侵入出来るでしょ?」

 根津がそう言うと、鳩子が首を横に振った。

「ネズミちゃん、それは安易に考えすぎ。塀の上には結構な数の赤外線センサーが張り巡らされてるみたいだけど? しかも、敷地内の至る所に」

「んー、そう言われると、どこから侵入しようかしらね? むしろ、鳩子がセンサーを作動させてる機械にジャミングみたいなの掛けられないわけ?」

「うーん、まぁ出来るは出来るんだけど。ここで上げられる危険性として外部からの遠隔操作でセンサーのスイッチが切られた場合、すぐに別の防犯装置が作動する可能性があるってことね。むしろ、これだけ赤外線センサーを張り巡らしてる家が、二重防犯をしてないとも思えないんだよね? 普通の家ならまだしも、ここは九卿家だし」

 鳩子が少し眉を下げてそう言った。

「確かに。鳩子が言うことも一理あるわね」

 根津も鳩子の言葉を聞いて唸る。

「じゃあ、誰かがお取り役になって、内部を混乱させるとか?」

「それはきっとダメ。もしそれで上手く敷地内に入れたとしても、中で捕まる可能性が高くなる」

 狼の言葉を名莉が苦い顔で諌める。

「そっか。それじゃあ他に何か良い方法を考えないと……」

「ちょっと待って、そこの裏口から誰かがここに近づいてるっぽい。注意した方が良いかも」

季凛が思考を巡らせていた四人に、注意を促してきた。

「いきなり、大城雄飛が飛び出してくるとかないよね?」

「あはっ。それどんな悪趣味サプライズ?」

 鳩子の言葉に季凛が答える。

「いや、さすがに……裏口からタイミングよく出てくるわけないって」

 口ではそう言いながらも、狼は内心でヒヤヒヤしていた。もしかしたら……という事態を頭の中で想像してだ。

 そして裏口が微かに開く。

 狼たちは思わず近くにあるバスの時刻表を見ているフリをして、横目で裏口から出てくる人物を注視した。

 すると中から出てきたのは、狼たちよりも俄かに年上に見える、着物姿の女の人だ。

 屋敷内から出てきた女の人を狼たちが横目で注視していると、周りを見回していた女性が狼たちの方に視線を向けてきた。

「ヤバい」

 小声で狼がそう呟く。

 しかもその女性が迷わず狼たちの方に近づいてきているのが分かる。

「ちょっと、こっちに近づいてくるわけ?」

「知らないって」

 根津の焦りの言葉に鳩子の焦っている言葉が重なる。

「もしかしたら、狼の顔を見て……ピンと来たとか」

 名莉がこういう状況でも冷静な口調で、もっとも考えられる可能性を口にしてくる。

「あはっ。狼君……こういう時に季凛たちの足を引っ張るの、止めてよ。マジ、迷惑」

「仕方ないだろ! 顔なんて簡単に変えられないんだから」

 狼たちがそんな小声でのやり取りをしていると、こっちに近寄ってきた女性が狼の肩を叩いてきた。

「もしかして、貴方……晴人叔父さまの息子さん?」

 ストレートな質問に狼は思わず背筋を伸ばす。

 すると着物を来た女の人が狼の顔を覗きこんで、マジマジと凝視してきた。

「……似てる。いや、似てるってもんじゃないか。これは瓜二つのレベルね」

 一人で納得した様に、着物の女性が頷いている。そして頷いていた着物の女性が冷や汗をかいている狼の顔を見て、ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべてきた。

「安心しなさい。私は別に貴方達を捕まえる気なんてサラサラないから。むしろ、中に入るのを手伝ってあげるわ。ちなみに私の名前は大城亜樹菜。よろしくね」

 亜樹菜がそう言って狼たちに片目を瞑ってきた。そんな亜樹菜に目を丸くしながら狼が訊ねる。

「じゃあ、もしかして亜樹菜さんが真紘の言ってた協力者の人ですか?」

「ええ、そうだけど? まさか本当に輝崎の当主が言ってたとおり、晴人叔父さまとこんなに顔が瓜二つだなんて思ってもいなかったけど」

「やっぱり、そんな似てるんですか……」

 狼が少し微妙な気持ちで苦笑を浮かべると、亜樹菜が顔を頷かせてきた。

「だから、何かで変装するしかないわよね……そんな顔が大城家内を歩き回ってたら目立つだろうし。よし! じゃあちょっとあたしに任せて。それで女子の方も今の格好から着替えてもらうから」

 溌剌とした亜樹菜の声に、狼たちはただただ頷いた。



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