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なぜ彼女は?

 時間が少し巻き戻り。

 無人島での海を大満喫していたイレブンスたちは、ヘリに乗り込んでいた。

 地上で演習を行っているところを奇襲するためだ。

 はっきり言ってしまえば、失敗するはずのない作戦だった・・・のだが。

「おい、おっさん行くぞ」

「やる気満々なんだから。おじさんはもっとゆっくりしてたいな~。だから、サードとナインス達と一緒に第二陣ということで、よろしく」

 すでにF2000のアサルトライフルを手にしたイレブンスに対し、ファースはだらけた声で答えた。

「ったく、ダメだな。この糞オヤジは。もういい、ファースト行くぞ」

「いいだろ」

 ファーストはすぐに快諾し、イレブンスとファーストはヘリのドアの両側に立ち、勢いよくドアを開く。

 ドアを開けると、上昇気流の風が二人の髪を強くなびかせる。その風を顔面に受けながらイレブンスとファーストが目を細めていると

「では、行きます!!」

 という声と共に、ヴァレンティーネがヘリから外へ飛び出して行ってしまった。

「え・・・」

 一瞬の呟きをイレブンスが漏らす。

「あいつ、なんも付けてなかったか?」

 一瞬見えたヴァレンティーネの姿を思い返しながら、イレブンスの思考は止まっていた。

だがそのとき、唖然としていたイレブンスの背を、ファーストが後ろから強く押し、ヘリから突き落とした。

「早く追え!」

「何で俺なんだよ――――っ!」

 すでに自分の頭上に見えるヘリから顔を出し、ファーストが何かを言っているが、荒れ狂う気流の音で、まったく聴こえない。

 ファーストに反論したい気持ちを抑え、イレブンスは思考を切り替えた。

 イレブンスはすぐさま下を向き、ゲッシュ因子を利用して落下速度を上げる。そして先に落ちていたヴァレンティーネの腰に手を回し、抱き寄せる。

 だがすでに地上との距離は数十メートル。イレブンスはゲッシュ因子を放出し、減速を開始する。その時イレブンスは背を地面に向け、抱き寄せていたヴァレンティーネを離さない様に腕に力を込めた。そして枝の折れる音と共に鈍い痛みが背中から体中に拡散していく。

「あー、楽しかった。たまにはいいわね」

 まるで何事もなかったように、ヴァレンティーネはにっこりと微笑を浮かべている。

「おまえな~、楽しかったじゃないだろ!なんの用意もなしに飛び出すな。あと、なんでおまえが先陣を切ったんだよ?」

 ヴァレンティーネの顔を指差しながら、イレブンスが問い質す。

 するとヴァレンティーネは、何故こんな質問をされているのかもわからない、というふうに首を傾げている。

 駄目だ、こりゃあ。

 そんなヴァレンティーネを見て、イレブンスは深い溜息しか出てこない。

 しかもさっきの気流のせいで、落下地点からかなりずれてしまっている。

 こんなことはまさに予想外の出来事だ。

「そんなに落ち込まないの。なんでも前向きに考えればなんとかなるわ」

「誰のせいで、気分が下がってると思ってんだよ・・・」

「あら、何か言った?」

「いや、なんも」

 まったく呑気なヴァレンティーネの様子に、イレブンスはすっかり毒気を抜かれたように脱力してしまう。

 深い溜息を吐くと、一緒に力が抜けていく気がする。

 なんで、俺がこんな破目に遭わないといけないんだ?

 不平な気持ちを抑え、イレブンスは黙って歩き出した。その横をヴァレンティーネが笑顔を作りながら、歩く。

 まるで遠足気分だな。

 作戦から逸しているヴァレンティーネを見て、イレブンスはそう思った。

 落下した場所から歩き続ける二人だが、まったくと言っていいほど、人の気配がしない。

 それもそのはずだ。

 イレブンスたちが落ちた場所は、狼たちが演習している区域から外れた場所に、落下してしまった為だ。だがそのことを知らないイレブンスたちはひたすら密林の中を模索するしかない。

 歩き続ける内に、だんだんヴァレンティーネが疲れてきたのか、歩く速度が遅くなっている。

「おい、大丈夫か?」

「ちょっと、疲れたみたい。今までこんなに歩いたことなかったから」

 笑顔を作っているものの、その顔にはやはり疲労の色が見える。

「まったく、おまえ本当にどこの城から来たんだよ?仕方ない、少しここらへんで休憩するか」

 立ち止まって、イレブンスは傍にあった大木に寄りかかるように座り込む。ヴァレンティーネもいそいそと上品な素振りでイレブンスの隣に座り込んだ。

 隣に座っているヴァレンティーネを横目で見る。

 最初に見たときも思ったが、こんな何をするにも初めてという感じのヴァレンティーネがトゥレイターにいるのはおかしいと思う。

 トゥレイターにいる者のほとんどが、アストライヤー制度に不満を抱き、謀反を起こそうと考えた者たちだ。そのため、アストライヤー側の者たちからはテロリスト扱いを受けている。

 人は見かけに寄らないとも言うが、ヴァレンティーネを見ていると、アストライヤーに含むところがあるようには思えない。

 むしろ、どんなことも平和的に解決しましょう。などと、言い出しそうな雰囲気を醸し出している。こんなことを感じてしまうのは、ヴァレンティーネから出るおっとりとした風貌の所為なのか?

 どちらにしろ、トゥレイターに向いていない。そう思った。

 だからこそ、何故ヴァレンティーネがトゥレイターにいるのか興味が湧いた。

「なぁ、なんでおまえトゥレイターにいるんだ?」

 いきなりの質問で戸惑うかもしれないと思ったが、それはとんだ杞憂だった。

ヴァレンティーネはイレブンスの方に顔を向け、あっけらかんと答える。

「私のお父様が、トゥレイターだったからよ」

 あまりにも簡単な答えに、イレブンスは目を丸くしてしまう。

「ここに入った理由がそれだけか?」

「ええ。私のお父様はスウェーデン王室の家系で、厳格な人だったわ・・・」

 ここにはいない人物を思い浮かべているせいか、最後の方は単なる独り言のようになっている。イレブンスはそのことを気にも止めず、質問を続ける。

「他にアストライヤー絡みで嫌な思い出があるとかじゃなくて?」

「そうね、考えてみれば私にはないわ」

「ちょっと、待て!おまえ、そんな親がトゥレイターだからって理由でこの組織に入ったのか?」

 ヴァレンティーネの返答は、まったくもってイレブンスには理解出来ないものだった。そのためか、言い回しもくどくなってしまう。

「そうよ。私は小さい頃からトゥレイターの役に立つ為に育てられて来たの。だからそんな私が組織に入らない方が変じゃない?」

「まぁ・・・」

 そう言われてしまえば、そうかもしれない。人には人それぞれの意見があるのだ。だとしてもイレブンスはヴァレンティーネの言い分に、違和感を覚える。

「でもそれじゃあ、おまえの意思はどこに入ってるんだよ?」

 イレブンスが違和感を覚えた場所は、そこなのだ。

「うーん、そう言われてしまえばそうなんだけど。イレブンスに言われるまでそう思ったこともなかったわね」

 なんの気兼ねすることなく、返答するヴァレンティーネにイレブンスは嘆息を吐いた。

 どうして、自分の周りには家に翻弄される者が多いのか。

 イレブンスの脳裏に複数の人物が浮かび上がる。

 しかもそういう者に限って、頑固な考えを持っているのが多い。

 まったくもって嫌になる。

 イレブンスが一人、辟易としていると

「では逆にあなたは、なぜトゥレイターに入ったの?」

 ヴァレンティーネからの質問が飛んできた。

「俺は・・・」

 少し言葉を濁していると、ヴァレンティーネが少しむすっとした表情を見せた。

「私は質問に答えたんだから、あなたも答えるべきだわ。それともレディにだけ、言わせて男性は言わないのが、日本の習わしなのかしら?」

 ちょっとばかり皮肉を混じらせた言い方で、ヴァレンティーネがイレブンスを見る。

「わかったから、そんな目で人を見るな。・・・俺のはただ単純にアストライヤーって奴らの卑怯さを思い知っただけだ。あんなくだらない奴等の為に、犠牲にならなくても良い、・・・生きるべき奴が死んだ。そこを俺が見ちまっただけだ」

 自身の過去話を割愛しながら話す。

 別にヴァレンティーネに話すのが億劫だったわけではない。ただ単に自分の苦い思い出を人に話すことで、自分が悲劇の主人公になるのも、悲観されるのも嫌だったからだ。

 そんなイレブンスの気持ちを察してか、ヴァレンティーネから深く追究されるようなことはなかった。そのことにイレブンスは小さく安堵した。

「大体、トゥレイターに入った意味はわかったし。今度はあなたの本当の名前を教えてくれない?」

「なんでいきなり、名前なんて知りたいんだ?」

 いきなり実名を知りたがるヴァレンティーネに、イレブンスは怪訝な顔をする。

「だって、あなたの本当の名前は数字ではないでしょ?」

「まぁ、そうだけど。別に知る必要もないだろ」

「必要のあるなしに関係なく、私が知りたいと思ったんだもの。それじゃ駄目かしら?」

 ヴァレンティーネが見上げるように、イレブンスの顔を覗き込む。

 覗き込まれたイレブンスは、思わず顔を後ろに引いてしまう。

 そして、押し切られるように答えた。

出流(いずる)だ」

「イズル?それがあなたの名前なの?」

「ああ」

 確認するように聞き返すヴァレンティーネに、首を縦に動かす。

 するとヴァレンティーネは満足そうに笑った。

「そう。じゃあ改めてよろしくね、イズル」

 アストライヤーに奇襲を仕掛けるつもりが、何故こうなったのか。イレブンスは笑っているヴァレンティーネを見ながら、最初に落ちた時と同じ問答を頭の中で巡らせていた。


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