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兵器と動力源とイレブンス

どうにかしないといけない。

 銃口から火花を散らせ、自分へと殺意を向けてくる戦闘員及びブローニングM2重機関銃を搭載した自動機関銃兵器を相手に戦闘訓練及び戦闘データを取られながら、イレブンスは苦い顔をした。

 ヴァレンティーネを連れ戻す事に失敗してから、もう二ヶ月という時間が経ってしまった。勿論、その間何もしていなかったわけではない。

 欧州にいるナンバーズや幹部たちの動向を事細かく情報をキャッチし、nil計画がどれくらいの段階に来ているのかを調べていた。

 そして今のところの情報から、nil計画はほぼ八割のところまで来ていて、欧州の方で一度、兵器の実験も兼ねた暴動をオランダのアムステルダムで起こしたという情報も入ってきている。

 その暴動に参加したのは、戦闘員七十名にナンバーズがE―Ⅸ、E―Ⅹ、E―Ⅺの三名だ。

 欧州地区の堅実二人衆と化け物一人。

 確かに新兵器を実験として使わせるには、妥当な面子だろう。

 アムステルダムで起した暴動は、オランダのアストライヤーが二名出動し、暴動を起こした過半数以上の戦闘員を取り押さえ、暴動を鎮圧すること自体には成功したが、ナンバーズの取り押さえは失敗し、その際にアストライヤーたちの攻撃を無効化にする新型兵器を持っていたという報告が、オランダ軍及び欧州連合上部へ伝達されたらしい。

 軍事上部に上がった新型兵器がきっと、ヴァレンティーネの因子を利用した兵器である事はまず間違いないだろう。

 しかもこの暴動は、トゥレイター内の本の一部の人にしか知らされてなかったらしく、裏でトゥレイターの繋がっていた軍人の間でも、かなりの波紋が広がったという情報も入っている。

 nil計画が本格的に始動するにあたって、各国の軍を切り捨てる気か?

 そんな事を考えながら、イレブンスの放つ銃弾は、襲いかかってくる戦闘員を沈黙させ、兵器を破壊していく。

 縦横無尽な動きを見せていた百体あまりの自動兵器も見る見る内に鉄の塊へと変貌し、五十弱ほどいた戦闘員でイレブンスと同じ様に立てている人数もかなり激減していた。

 そしてそのまま、残りの戦闘員と自動兵器をイレブンスが一掃したところで、訓練室に取り付けられているスピーカーから朱亞の声が聞こえてきた。

「はい、イレブンス、君の訓練はそこまで。タイムはいつもより落ちてるみたいだけど……考えごとでもしてた?」

 データの資料を見ながら、朱亞が目を細めている。

 イレブンスはそんな朱亞に返事をせず、訓練室から出て朱亞の元に向かった。

 データの解析室にいた朱亞は、徐にタバコを取り出して何もない天上へと白い煙を吐き出している。

「なぁ、お前はどこまで知ってるんだ? 今欧州の方で上がやろうとしていることで」

「唐突だな。どうせ聞くならもう少し具体的に訊いて欲しいんだけど?」

「そう言いながら、俺が聞きたい事分かってるんだろ?」

「さぁ。大体は予想がついているけど、それはあたし自身の推測にすぎないからね」

 そんな屁理屈を言って来た朱亞にイレブンスが、顔を顰めながら溜息を吐いた。

「俺が言ってるのはnil計画の事と、お前が以前に携わってたKa―4シリーズについてだ」

「あの二つについてだったら、イレブンス、もう君が知ってるくらいのところまでしか知らないよ。深く関わっていたのは、あたしが東アジア地区に来る前までくらいだからね。しかもその時は、Ka―4シリーズも向こうから奪ったサンプルを色々解剖して、試行錯誤を繰り返している感じだったし、nil計画だってあのお姫様の成長を待つ必要があった。つまり、あたしが知っている事は、初期段階の情報にしか過ぎないってこと」

 先ほど取ったデータを見ながら、朱亞が淡々とした口調で話し終えると、少しの沈黙が部屋に広がった。

 朱亞は手に持っていたタバコを半分残し、そばに会った灰皿へとタバコを擦り付け、横目でイレブンスを見ながら口を開いてきた。

「当てが外れてガッカリした?」

「いや……別に」

「そう、なら良いけど……あたしも質問に答えたんだから、イレブンスにも一つ聞きたいんだけど……今どうしてイレブンスはそんな必死になっているのか、理由を聞かせて」

「そんな事聞く必要あるのか?」

 イレブンスが眉を顰めると、朱亞がイレブンスの首に手を回しながら、顔を近づけさせ不敵な笑みを浮かべてきた。

「いや、君があまりにも必死になるもんだから、ボスに惚れてるのかなと思ってね」

「……なんで、そうなる?」

「そう思うのは当然だと思うけど? だって、元々イレブンスの目的は自分の友人を殺した化け物を裏で開発していた似非ヒーローたちへの復讐でしょ? なら、このまま向こうのボスが計画している計画を温かく見守って、似非ヒーローたちを倒せる兵器を作ってもらった方が、アンタ的にも好都合のはずだけど? でも君は東アジアのボスが兵器として活用されるのを良しとしていない。そうでしょう?」

 イレブンスはどう答えて良いのか分からず、間近にある朱亞の視線から目を逸らした。

 けれど、朱亞が余裕そうな笑みを浮かべ、イレブンスの方を見ているのは分かる。

「待機命令とか言って、ただ組織から干されているっていうことくらい分かってるでしょ? そして、今の段階で君が組織を裏切って動けないってことも、君は分かってる。でも、動き出したくて仕方ないのは、君が嫉妬してるから」

 朱亞が言って来た最後の一言に、イレブンスは思わず目を丸くさせた。

「嫉妬って、俺が誰に嫉妬なんてしてるんだ?」

「へぇー、自分で気づいていないの? あたしからしたらただボスを向こうのキリウスに取られて駄々をこねている様にしか見えてないんだけど?」

「そんなんじゃない」

 言葉でそう否定したが、否定した自分自身でも本当の所よく分かっていない。

 確かに朱亞の言う通りだ。

 自分のここにいる意味は、アストライヤー側への復讐だ。なら、それを行えるのならキリウスや上の奴らが何を企てようと、その企てにヴァレンティーネが良い様に使われようと関係ないはずだ。

 けれど、そう割り切る事が出来ないからこそ、こうやってイレブンスは情報を集め、動き出すタイミングを見計らっているのではないのか?

 当初の目的から遠ざかる様な事をしようと考えているのではないのか?

「俺は……」

 自分の中にある言葉を掘り出そうと、イレブンスが口を開きかけたとき、朱亞がイレブンスから離れ、口を開いた。

「自分で理解してないなら、今は口にしない方が良いよ。これは人生の先輩であるあたしからの助言。無理に絞った言葉なんて大抵は無価値だから」

 的を射た朱亞の言葉にイレブンスは、表情を曇らせた。

「まぁ、まだ君も若いし、色んな道を試してみても良いんじゃない?」

 表情を曇らせているイレブンスに朱亞が苦笑を浮かべてから、朱亞が徐にデスクの上においてあった書類をイレブンスの方へと突きだしてきた。

「この書類を読んでみな」

 イレブンスが朱亞から書類を受け取り書類に目を通すと、そこには露軍から日本の国防軍宛ての兵器導入日時についての長い文面だった。

 飽きもせずこんな長たらしい英文を並べられているが、つまりは兵器の引取場所や日時や支払方法など、事務的な事が書かれているだけだ。

「こんなの俺に見せて、どうするんだよ?」

「まぁまぁ、この書類に書かれている兵器とか、お金の方面はどうでも良いことなんだけど……ある幹部の話によると、この米軍が運んでくる兵器の中に、アムステルダムでの暴動に使われた兵器も運ばれてくるみたいよ?」

「どう言う事だ?」

「さぁ。上の事情なんて知らないけど。きっと色々試してみたいんじゃない? 兵器って使いに使って、不備な所を見つけて、そこを補って初めて完成品になるわけだし」

「なるほどな」

 朱亞の考えた言い分に、イレブンスも納得した。

 新型兵器を開発したとなれば、どこの軍事組織だって様々な場面で使用された兵器のデータを収集し、その兵器を完全なる完成品にしたいと思うのは当然だろう。

「なぁ、新型兵器って一気に世界各地の軍事施設に持ち込むのか?」

「それはないと思うけど。まぁ、断定はできないけどね。きっと量産だってまだ全然出来てないだろうし」

「ふうん。なるほどな。じゃあそんな量産も出来てない希少な新型兵器を日本に持ちだすわけは?」

「そこまではあたしだって知らない。ただ早めに消したい障害物があったんでしょ? そうじゃなきゃ、こんな小さい国でましてや他の国と陸路で繋がってない所より他の国と陸路で繋がってる国で実験した方が、運搬も好都合だと思うけど?」

「確かにな」

 朱亞の言葉にイレブンスは頷いてから、ニヤリと笑った。

「何? なんか閃いたの? その顔からして面倒な事のような気もするけど」

 笑みを浮かべたイレブンスを見て、朱亞が少し呆れた表情を浮かべてきた。

「閃いたっていうより、ティーネを連れ戻す可能性が出てきたってだけだ」

「可能性ね……新型兵器と一緒に日本に連れてくる可能性ってこと?」

「ああ、そうだ。銃にだって充填する弾薬は必要だし、どんな兵器にだって動力源の確保は必須だ。しかも海に囲まれた島国なら尚更な」

「君の考えも一理あるけど、その動力源を蓄えられるバッテリーを持参してたら? そしたら君の考えはただの想察(そうさつ)になるけど?」

「別にそれでもいい。全部の可能性を否定して、身動きとれずの()(おう)(じょう)よりはな」

「それもそうね。動かずウダウダと文句を垂れられるより、潔く無様に動き回ってた方が良いかもしれないね。特にイレブンスみたいなのは」

 苦笑を浮かべた朱亞にイレブンスは失笑を浮かべた。

 そうだ。

 いつまでもこうして、立ち止まっているのは自分の性分ではない。

 例え今のイレブンスがやろうとしている事が、ただのあてずっぽうな行動だとしても、やらないよりはマシだ。

 きっと新型兵器の導入には、露軍に紛れて欧州のナンバーズやキリウスもやってくる可能性が高い。

 もしそこで彼らに見つかったら戦闘は逃れ馴れないだろう。

 だがそれでも良い。

 その時は欧州での借りを返すまでだ。



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