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再会

「フフ、まずは雑魚から服を脱いでってもらうわよ?」

 ジャンケンによるファーストボールを勝ち取った万姫が、含み笑いを浮かべながら狙う先は、一番運動神経には乏しい小世美だ。

 蛇に睨まれた蛙となった小世美が、少し慌てた様子を見せているものの覚悟を決めた様に万姫からのボールに対しての構えを取っている。

 まさか、初っ端から小世美が狙われるなんて……いや、でも万姫だって海での遊びで本気のボールを打ち込むことはないだろうと思うが、やはり狼は少し心配になる。

「アンタにあたしのボールは取れないわ。精々、この暑さから逃れられるとでも考えなさい」

 構えのポーズを取る小世美に対して、そんな言葉を吐きながら、万姫がボールを高く上げそのまま強烈なアタックを小世美へと叩き出す。

 万姫は普通にボールをアタックしただけだが、そのスピードは一般レベルではない。

「小世美、危ない!」

「やぁあーっ!」

 狼の言葉と同時に小世美が高い声を張り上げながら、そのボールへと腕を伸ばす。

 やばい。

 内心で狼は内心で焦ったが、そんな狼の焦りは杞憂に終わる。

 万姫のボールは、小世美の腕をスルリと抜け小世美の足元へと着地したからだ。

 そのため、小世美はパーカーの上からテルテル坊主のように羽織っていたバスタオルを脱ぎ捨てている。

 そして二打目は、落としてしまった小世美からセツナへとボールが周り、そこからルカ、鳩子、名莉、フィデリオ……とビーチボールのラリーが続いて行く。

 そんなとき、狼からデトレスへとボールが向かったとき、

「このままラリーが続いているのも辛いからな……脱いでもらうぜ?」

「あら? 私狙い? でも、あたしが脱ぐのはまだ早いでしょ。だから、私の代わりに貴方に脱いでもらうわね?」

 デトレスが対面に立っているテレサへと強烈なアタックを打ち込んだ。

 テレサはデトレスから来る強烈なアタックを中腰体勢で睨み、そのまま腕でボールを()ね返す。そしてそのまま宙へと跳躍し、自分が上げたボールを手でデトレスの方へと叩き落とす。

「シュート!!」

「なんの!!」

 デトレスが自分へと戻されたボールを待ち構える。だが、そのボールはデトレスが予測していた軌道を大きく外れ、デトレスの真後ろへと叩きつけられた。

「うーん、カ・ン・ペ・キ」

 デトレスを負かしたテレサがデトレスに向け、ウィンクをする。

 テレサからウィンクを受けたデトレスが地面に手をつきながら、悔しそうにしている。

「……かっこ悪い」

 悔しそうに呻くデトレスに、アクレシアが冷めた目つきで言葉を突き刺す。

 恋人からの冷たい言葉にデトレスの気分が下がっているのが、第三者である狼たちにも分かった。

 そして、再びデトレスからのラリーが開始され、次はヤーナが一枚上着を脱ぐ羽目になり、その次に鳩子、マルガと、どんどん女性陣が上着を脱いでいく。

 まだ過剰に着込んでいた服を脱いでいるだけだからいいけど、本当にこのままこれ続ける気なのか?

 狼は内心で野球拳の継続に疑念を感じながら、ラリーを続けていく。アデーレから自分に向かって飛んでくるボールを狼が受け、セツナへと飛ばす。

「よぉーし!」

 セツナらしい気合いの声を上げ、狼が上げたボールをセツナが構えていると、そこに一瞬の強い海風が吹き荒れる。

「わぁっ」

 いきなり吹き荒れた海風にセツナが反射的に髪を抑え、目を瞑り、海風に飛ばされたボールが少し離れた場所に落っこちた。

「これは、私が落とした事になる……のよね?」

 風が止み、目を開けたセツナが自分を指差しながら、周りに訊ねてきた。

「微妙だけど、セツナへのボールだったから一応、そうなるんじゃない?」

「そっかぁ。じゃあ……」

 鳩子の返答に、セツナが頷き上に羽織っていたパーカーを脱ぎ始める。

 すると地味に動いて紐が緩んでいたのか、セツナのホルターネック型の白ビキニの紐がハラリと解け……

「あっ……」

 セツナが思わず小さな声を漏らした瞬間、セツナの白い胸元が一瞬見えた瞬間、刹那的な速さで動いたフィデリオが、自分の身体を隠す様に座り込んだセツナに自分の羽織っていた上着を着せていた。

「セツナ……大丈夫?」

「え、あ、うん。……ありがとう。ごめんね。私がドジした所為で……」

「ううん。気にしなくて大丈夫だよ。セツナの所為じゃないから。それに一瞬だったから見えてないと思う」

 顔を赤らめながら気恥ずかしそうにするセツナを宥めた、フィデリオがくるっと身を翻し、狼や男性陣に顔を向けた。

「ねぇ、みんなに聞くんだけど、見えてないよね?」

 フィデリオの言葉に、男性陣が必死に首を縦に振る。フィデリオは『みんな』と言っているが、明らかに男性陣への質問だ。

 むしろ見たなんて答えたら、それこそ今度は海風ではなくフィデリオの因子が吹き荒れてしまうだろう。

 それが容易に想像出来てしまうからこそ、狼たち男性陣が見てないと否定を続けるが、その様子を楽しんでいる悪魔が口を開いた。

「あはっ。見えてるに決まってんじゃん。だって季凛もばっちり見えたもん。それなのに、目の前にいた狼くんとか見えてないわけないよね」

 なんてこと言うんだ? この悪魔はっ!!

 狼だけではなく、他の二人も内心でそう叫んだだろう。

 しかもそれを煽るように、セツナが顔を赤らめて気恥ずかしいような、困ったような声を上げてしまっている。

 確かに事故で自分の胸を見られたセツナからしてみれば、声を上げたくなる気持ちはわかるが、フィデリオの怒りボルテージを上げてしまうような声は上げないで欲しいと狼たちは切に思う。

 きっと季凛は、おもしろ半分、早くこの野球拳を終らせて服を脱ぎたい半分の気持ちで言ったに違いない。

 そして季凛の言葉とセツナの声を聞いたフィデリオが引き攣った笑顔を見せて、着実に因子の濃度を上げているのが分かる。

 しかも今、この場にいる男子たちの味方になってくれる女子はなし。

 みんな『えっ? セツナの胸見たの? サイテー』という様な目で男性たちを見ているからだ。

 こんなの不可抗力なのに。

 しかも端から野球拳というゲームをしていたのだから、最終的にはこういう事になるのを予想できたはずだ。それになのに、こんなケダモノを見る様な目で見られるなんて不当すぎる。

 狼がいくら内心でそう項垂れても、聞き入れてくれるような空気はない。

 それより、むしろどんどんフィデリオの因子の熱が静かに燃え上がっているのが分かる。

 どうしよう?

 男子たちがフィデリオとはまた違う引き攣り顔を見せている中、フィデリオに手を突きだしデトレスが口を開く。

「落ち着け。フィデリオ! あれは事故なんだ。俺たちが見たくて見たわけじゃない!」

「バカッ! 余計な事言うな!」

「へぇー、見たくて見たわけじゃないって事はつまり……デトレスはセツナの見たってことだよね?」

 どうにかしてフィデリオを落ち着かせようと口を開いたデトレスは、一番最初に海へと吹き飛ばされることとなった。そして悲惨な事にデトレスの口を塞いでいたルカも。

 海へと姿を消した二人をみながら、狼は恐怖で口を無造作に動かす。

 デトレスは一枚脱いだとしても、まだ服を着てたのに……

 何枚か服を着たまま海に投げ飛ばすなんて、悲惨すぎる。無情すぎる。

 だが狼に向かって鬼の様な殺気を立てるフィデリオには、何を訴えかけても無駄に違いない。

 いや、無駄だ。

 狼は思わず、生唾を呑み後ろを振り返る。

「えーっと、フィデリオ?」

「大丈夫。ロウはデトレスより遠くに飛ばすから」

 全然大丈夫じゃなかった。

 そして狼は、息つく暇もないままフィデリオによって海へと放り出された。




「なにか先ほど騒がしい音がしなかったか?」

「ええ。私にも聞こえたわ。何だったのかしら?」

 狼たちがフィデリオに海に投げ飛ばされたとも知らず、真紘は希沙樹と顔を見合い首を傾げる。

「なんか、祭りでもしてるんじゃないのか?」

 正義が気分良さそうに笑いながら、呑気そうにしている。

「そんなわけないだろ。またどっかの馬鹿共が下らんことをしてるに決まってる」

「まぁ、だろうね。海だし」

 暑さに少しうんざりとしている陽向に棗が頷き、真紘もそれに頷いた。

「まぁ、場所が場所だからな。だが、すまない。俺の用事につき合わせてしまったな」

「別にいいのよ。私たちは気にしてないもの。それで、用事は済んだの?」

「ああ、一応な」

「そう。なら良かったわ」

 真紘は希沙樹の返事を聞きながら、海に出る前に真紘の端末に入った家からの伝言を思い返した。

 入っていた伝言の内容は、今週末に皇居に出向けという事だったのだが、それが妙に引っかかる。伝言を連絡してきた家中の者の様子を見るに、緊急な物ではなさそうだった。それよりも、どこか緩い空気さえ漂わせていた気もする。

 だからこそ、真紘は不安とも違う妙な引っ掛かりを覚えていた。

 まぁ、良い。

 どちらにせよ、今週末に皇居へと赴けば分かる事だ。

 それに……

 WVAのときは、結納との和解すらできたものの、あの後落ち着いて顔を合わせる機会がまったくといってなかった。

 だからもしかすると、皇居に行けば結納と少しでも落ち着いて話せる場面が出てくるかもしれない。

 それを考え、真紘は自然と口を綻ばせた。

 真紘がそんな事を考えながら、遊びに誘ってくれたセツナ達を探していると、少し砂浜の真ん中より、少し離れた所にセツナや狼たちの姿を見つけた。

「ヘルツベルト、黒樹」

 真紘がそう呼びかけると、気づいた二人がこっちを向いてきた。

 だが何故か狼は服を着たままびしょ濡れになりながら、息切れをしている。

「何故、黒樹はそんな格好をしているんだ?」

「なりたくてなったわけじゃないよ。少し厄介なトラブルに巻き込まれて……」

「トラブル?」

 溜息を吐く狼に真紘が首を傾げていると、そこに白と黒のシンプルな水着姿の左京と誠がやってきた。

「服のまま海なんて、何かの訓練でもなさってたんですか?」

「そんなのするわけないでしょ! 遊びに来てるのに」

「そうですか。では何かの遊びというわけですね。ですがあまり、海に服を着たまま入らない方がいいですよ。服が水分を吸って動きにくくなりますから」

「……知ってますよ」

「? 真紘様、黒樹様はどんな遊びをなさってたんですか?」

「いや、俺も実はよくわからなくてな。黒樹たちとはついさっき合流したばかりなんだ」

「なるほど。若者は羽目を外すと愚かな行動に出ると聞きますが、本当の様ですね」

 白水着姿で頷く左京を狼がジト目で見ている。

「なんですか? 黒樹様」

「いえ、なんでもないです」

 そんな二人のやり取りを見ていると、ブツブツと文句を言っているデトレスとルカもやってきた。

 二人の様子から、どうやら二人も狼と同じトラブルに巻き込まれたらしい。

「俺が知らぬ間に、黒樹たちは大変だったみたいだな……」

 真紘がそう呟いていると、腕に柔らかい感触が密着してきた。

 その柔らかい感触に真紘が驚きながら、顔をそちらに向けると季凛がニッコリ笑顔で腕に巻きついて来ていた。

「あはっ。真紘くん遅かったね。何してたの?」

「いや、大した事はしてなかったんだが……」

「ふーん。じゃあ、早く季凛たちと遊ぼうよ」

「ああ、そうだな」

 季凛の無邪気な声に頷きながら、真紘は腕に当たる感触から離れようとするが、何故か真紘が離れようとすればするほど、季凛がきつく腕に巻きついてくる。

 困ったな。

 真紘は素直にそう思った。

 いくら、邪な考えを起こすまいと考えても、やはり腕に当たる感触がそうはさせてはくれない。

 しかも、自分と季凛の方をみて口をへの字にしているセツナと、冷ややかな視線を送る誠、そして妙な頷きをしている左京の姿がある。

 どうしたものかと、真紘が悩んでいるとそんな季凛が腕から離れた。真紘の腕から季凛を放したのは、殺気を放ちながら季凛の腕を持つ希沙樹だ。

「貴女いったい何してるの? 真紘に変な物押し付けて良いなんて誰が言ったのかしら?」

「変なものって、何の事? あはっ。季凛はただ真紘くんと向こうで水遊びでもしようかなーって思っただけなんだけど?」

「貴女と真紘が水遊び? 笑わせてくれるわね。でも残念ね。真紘はこれから私と泳ぐのよ。貴女はせいぜいあそこにいる輪の中にでも入れてもらったらどう?」

 口元を大きく引きつらせた希沙樹が、指さす方向には波際を横にして両サイドに数人の女子を引き連れ、浮かれるバリージオの姿があった。

 バリージオは一番自分の近くにいる両サイドの女子二人に腕を回しながら、今日会ったばかりであろう女子と戯れている。

「あはっ。残念。季凛ちゃんはあんなスケベは興味ないんです。むしろ、希沙樹ちゃんが混ざってくれば?」

「なんですって?」

 季凛と希沙樹がピリピリとした空気を流し始める。

 真紘からしてもこの二人にこういうやり取りは何度か目にした事があるため、あまり気にも止めないが、今日の二人はいつになくお互いに闘志を剥き出しにしている。

 そんな二人を見ながら、真紘も含め皆が、半ば呆れているとそこに水着姿のホルシアがやってきた。

 そして海辺で女子と戯れるバリージオを見て、露骨に嫌な顔を見せながら呟いた。

「浜辺のゴミは奴だけではなかったらしいな……」

 そんなホルシアの言葉に釣られる様に、一同はバリージオの真正面から来たサングラスを掛ける男を見た。男はバリージオと同じように両サイドに女子を抱えている。

 そんな男を見ながら

「あれは……」

 真紘は見たことある面影を感じ、思わず呟いた。

 そして、サングラスをかけた男と目が合ったらしいバリージオが、男を指さしながら

「あれ? 兄貴?」

 と口を開くのだった。


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