表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/493

1stステージ(1)

 こうやって、海水浴するの久しぶりな気がする。

 狼は一人、海から少し離れた砂浜で場所取りをしたパラソルの下でそんな事を考えていた。

 今、狼たちがいるのは横須賀基地がある汐入から近い走水海水浴場だ。

 この海水浴場は東京湾も一望でき、家族連れも多い。

「まさか、フィデリオとか他の海外組も来ることになると思わなかったなぁ」

 WVAを終え、すぐに学校は夏休みに入り、鳩子と季凛の提案で海に行くという話になったのだが、その時丁度近くに居たセツナ達声掛けたところ、その話がドイツ選手たちに広まり、そして何故か他の海外組にも広まり、イギリス、アメリカ、フランス、中国、ドイツ、イタリアの選手たちが一連帯で来ることになったのだ。そして場所は米軍基地が近いと言う理由で、アメリカがこの海水浴場を押してきたので、それに異論がない他の国が合わせた形となった。

 狼は周りでそれぞれの場所取りをしている海外組を一瞥しながら、力なく呟いた。

 フィデリオたちはテキパキと場所取りをし、万姫は他のメンバーに押し付け場所取りをさせている。

 その隣に場所を置いた、バリージオたちのパラソルにいたっては、少し傾きが見える。

 アーサーにいたってはもはや砂浜ではなく、砂浜近くにあるカフェテラスで優雅に読書をしているのが見えた。

「オオちゃん、アイス買って来たよー」

 周りを見渡していた狼の前に、アイスが入ったビニール袋を持った小世美と、その隣には海近くの砂浜に出ている露店で勝ったラムネの瓶を何本か抱えている名莉がやって来た。

 小世美は白生地に花柄、スカート状の裾が少しフリルのようになっているワンピース型の水着を着ている。名莉はそんな小世美とは対照的な無地の黒生地に、胸元にリボンが着いているホルターネック型の水着を着ている。

「おかえり。けっこう露店は混んでた?」

「うん。やっぱり人が多いから混んでたよー。それでも、ここでお留守番してるオオちゃんのために、私とメイちゃんで頑張って戦利品をゲットしてきました」

「へぇー、そんなに混んでたんなら小世美とメイにここにいてもらって、僕が行けばよかったね」

 狼が小世美からアイスを受け取りながら、そう言うと小世美と名莉が顔を見合わせて首を横に振ってきた。

「私とメイちゃんは海が見たかったから、丁度良かったんだよねー?」

「うん」

 小世美がはしゃぎながらそう言うと、名莉が少し微笑みながら頷いている。

「そっか。なら良かった」

「鳩子ちゃんアターック!!」

「ぐへっ」

 小世美や名莉と微笑み合っていた狼の顔面に、鳩子からの猛烈なビーチボールアタックが飛んできた。

「おいっ! 何するんだよ!」

「へへーん。海に来たらやっぱりビーチボール遊びだよね?」

「ボールで遊んでもいいけど、人に当てるな! しかも思いっきり」

「えー、狼だったら鳩子ちゃんのボールを受け止めてくれるかな? って思ったんだけどなー」

「不意打ちで受け止めるなんて、無理だろ! 真紘や柾三郎先輩じゃあるまいし」

「あははー」

「まったく」

 人にボールを当てた事を笑って誤魔化す、鳩子に狼は文句を言うのを諦め、溜息を吐いた。

 鳩子は三角水着で柄は、カラフルな花柄をしていて、下は鳩子らしいショートパンツスタイルだ。

 その横の根津は、ライトブルー生地にカラフルな蝶柄、そして腰には生地と同じ色のパレオを巻いている。

 そんな四人に水着姿を一目見た時は、狼も最初は照れ臭くなったのだが、このメンバー以外でも周りに水着姿の女性がたくさんいるため、免疫がついたといえばそうだ。

 だがそれでも、免疫がつきづらい人物もいる。

 それが……

「あはっ。やっぱり海ってナンパ野郎が多くて、季凛困っちゃう」

 そういつもの様に毒を吐いているのは、バンドゥ型の水着に溢れんばかりの双丘を弾ませている季凛だ。

 しかも何故だが、狼が季凛の姿を見ると四人から冷めた視線を送られてしまうため、狼はあえて季凛から目を逸らさなければならない。

「ねぇー、みんな! あっちでビーチバレーやるんだけど、良かったらやらない?」

 少し離れた所から声を掛けてきたのは、白ビキニ姿のセツナだ。

 セツナは無邪気な笑顔を向けながら、狼たちに手を振っているが、その周りにはセツナに視線を向ける数々の男性陣の姿があった。

 だがそんな男性陣を牽制するかのように、フィデリオがセツナの横に立ち笑顔で殺気を放っているのも見える。

「いいね。ビーチバレー。やろやろ」

 鳩子がぴょんぴょんと跳ねながら、セツナたちの方へと向かい狼たちもそれにつられる様に、セツナたちの元へと向かった。

 セツナはフィデリオの他に、デトレス、ルカ、マルガ、アクレシア、ヤーナ、アデーレとドイツ面々が勢ぞろいしている。

「マヒロたちも誘ったから少ししたら来ると思う」

「そっか。じゃあ、それまで皆で円とかになってボールを討ち合ってる?」

「そうね。そっちの方がいいかも」

 狼とセツナの話が纏まった時に、二つの影が近寄って来た。

「そのビーチバレー、あたしも入るわ」

「おもしろそうね。あたしも入れてもらおうかしら?」

 そう言って来たのは、赤ビキニ姿の万姫と大胆なヒモビキニ姿のテレサだ。

 二人の際どい格好に、狼やフィデリオが顔を赤面させ、フィデリオと一緒にいたデトレスが口笛を吹いている。ルカにいたっては目を背けてしまっている。

「じゃあ、早速始めましょうか?」

 テレサが赤面している狼たちに向かってウィンクをしてきた。

「くぅ、強い! これが豊乳の奴の余裕かぁああ」

 テレサの一部行動を見ていた鳩子がオーバーリアクションに落胆している。それに何故か、波長を合わす小世美、名莉、マルガ、ヤーナの四人。

 何が強いんだろう? と狼が内心で思いながらも口に出してはまずいと直感的に感じた。

 そして少し大きめの円に広がった狼たちのビーチバレーが始まり、最初は普通にビーチバレーをやっていたのだが、その内、何かを思い立ったかのように万姫がある事を提案してきた。

「ちょっと、このままじゃつまらないわ」

「そんなこと、言われても人数が多いんだから仕方ないだろ?」

「啊呀ー、狼、アンタはあたしの旦那なんだから発想を少しは豊かにしないと駄目よ?」

「どういうことだよ?」

「そうね……あっ、ねぇ日本には野球拳っていうのがあるらしいじゃない? それやりましょうよ」

「ちょっと、それがどういう遊びか知ってるのか?」

「知ってるわよ。服を脱ぐゲームでしょ?」

「えっ、服を!?」

「良いじゃない? 面白そうだし」

 野球拳というゲームの内容に驚くルカに、楽しそうと気分ノリノリになるテレサ。

「さすがに女子が多いんだし、野球拳はキツイだろ?」

「きつくないわ。だって、負けそうな人はそれだけ着込めば良いんだし? 裸になりたくない人は負けなきゃいいんだから」

「そうそう! ってことで野球拳しましょう!」

 乗り気のテレサと万姫が、他の女子を引っ張るように脱衣室へと押して行ってしまった。

「どうする?」

 引っ張られて脱衣所に向かって行く、女子の背を見ながらルカが溜息を吐く。

「どうするって……」

「うん……」

 ルカの質問に上手い言葉が見つからない、フィデリオと狼が顔を見合わせて言い淀む。

「よしっ。ここまで来たらその野球拳って奴を楽しむしかないだろ? 勝てば女子たちのサービスショットが見られるわけだし」

 野球拳の根本的な内容を復唱しながら、デトレスが納得した様に頷いている。

 そして、デトレスが野球拳をやるために男子脱衣室へと足を運び始めた。

 狼たちも仕方なくそんなデトレスに続くように脱衣所へと向かう。

 そして、さっそく狼たちが着込み始める中、フィデリオがデトレスへと口を開いた。

「……デトレス、そんなこと言って良いの? アクレシアに怒られるよ? 恋人なんだろ?」

「仕方ないだろ? 野球拳っていう遊びはこういう物なんだから、もしこのゲームをやって見るなって言う方が非合理的だろ?」

「え? デトレスってアクレシアとそういう仲なの?」

「へぇー、それは初耳だな。何で今まで教えてくれなかったんだよ?」

 デトレスがアクレシアと付き合っていることに狼とルカが驚きの声を上げるが、デトレスは惚けたように肩を竦ませるだけだ。するとそこで、フィデリオが口を開いた。

「まぁー、俺たち五人は家が近くて昔からの幼馴染なんだ。ドイツでは因子を持っている人を幾つかの地区に集めてるから、そこにいる同い年くらいの子供で集まるだろ? だから自然とね。それに未来にアストライヤーになるような人を決まった場所に集めれば、政府としてもそれ相応の施設を整いやすいし、幼少期から因子の訓練が受けさせられる利点があるんだ。ちなみにルカやアデーレ、ヤーナは別の地区出なんだ」

「へぇー、なるほど。そういうわけか」

「合理的だろ? けっこうこの方式を取ってる国は少なくない。だからどうして日本がこの方式を取ってないのかわからない」

 納得する狼にルカが目を眇めて、訊ねてきた。

「いや、日本もあまり変わらないと思うよ? だって、僕は高校から入ったからあれだけど、他の人は大概両親とかが幼少期の頃から明蘭に入学させるみたいだし。ただ違う様に思えるのは日本と他の国の規模の違いって感じなんじゃない?」

 狼がそう答えると、何故かデトレス、フィデリオ、ルカの三人が目を丸く見開いている。

「え? 三人してどうしたの?」

 狼が目を丸くし続ける三人に首を傾げた。

 すると意を決したような顔でフィデリオが口を開けた。

「ねぇ、ロウ……さっき高校からって言った?」

「うん、言ったけど。それがどうかした?」

「いや、さっきのロウの説明だと日本の子供たちが因子の使用法とか、実技とかを教わるのは今ロウたちが通っている明蘭に行かないと教えて貰えないんだろ?」

「まぁ、大体はそういう事になるのかな? 真紘の家とかみたいなら家でも教えて貰えると思うけど」

「じゃあ、ロウはマヒロみたいに家で習ってたの?」

「まさか! 僕の周りは因子なんてもってない普通の子しかいなかったし。僕が因子っていう存在を知ったのは小学生の時で、知った理由もたまたま小学校の運動会で身体に力が入って因子を流しちゃったときに、父さんに怒られてその後に父さんが教えてくれた時だったんだ。それで因子の存在は知ってたけど、まさかそれを使ってアストライヤーの人が戦ってる事は知らなかったんだ。そんな家で因子の使い方とか実技の事とか教えてもらえるはずないよ」

 狼が後ろに手を当てながら、へらりと笑っていると、さらにフィデリオたちが愕然とした表情を浮かべてきた。

「つまり、ロウは戦い始めたのってつい最近ってこと?」

「そう、なるかな? 四月からだからまだ初めて三ヶ月しか経ってない」

 狼がそう答えると、夏にも関わらず空気が凍りついた気がした。

「なんか僕、変な事言った?」

 凍りついた空気に狼が自分の言った事で可笑しな事が混じっていたのかと感じ、焦りを見せると、フィデリオが何か諦めたような溜息を吐き出した。

「いや、俺たち三人が狼と直接戦ったわけじゃないから、あれなんだけど……きっと、狼と戦った選手はかなりショックを受けるんじゃないかな?」

 狼は今のフィデリオの言葉を聞いて、三人が何を言いたいのかを理解した。

「ちょっと、待った。フィデリオたちが言いたいことはわかったけど、それは僕が凄い素質持ってるとかじゃなくて、教えてくれてる人たちが凄いっていうか……」

「ロウ、ロウが自分を高く見積もらない性格ってことは分かったけど、それでも三ヶ月で国の代表としてWVAに出られるなんて、そんな馬鹿な話が他にあると思う?」

「それは……」

 そうだ。

 フィデリオの冷静な言葉に、狼は返す言葉もない。

 だがやはり、三ヶ月で国の代表になるというイレギュラーなことをしていたとしても、それを認めるのは、自分の中でどうしても気が退ける。

 今まで狼は、平凡な中で暮らしていたため尚更だ。

 そのため狼は、

「あんまり、変な過大評価されると困るかな」

 こう言い返すのがやっとだった。

「やっぱり、日本人は自己主張に乏しいな」

 やっと返した言葉をルカにそう突っぱねられ、狼は自分の中にある日本人的な血を感じられずにはいられなかった。

 狼たちが服を着込み、砂浜に戻るとまだ女子は来ていなかった。

 熱い砂浜で厚着ということもあり、一気に身体から汗が噴き出してくる。

「まだかなぁ……」

 もう既にバテ気味の声で狼が呟くと、そこに真夏の砂浜に似つかわしくない厚着姿の女子たちがやってきた。

「あ、来た来た」

 待ってましたといわんばかりに、フィデリオが女子たち一同を見てそう言った。

 だが、その中に一番厚着して欲しい気がする万姫とテレサが厚着していない。

「あれ? なんで万姫とテレサは厚着してないの?」

 狼が二人を指で指しながら不思議そうにしていると、二人が肩を上下させた。

「だって、服来たらやっぱり暑いのよ。だから仕方ないじゃない」

「そうなの。だからまぁ厚着しなくても勝てば大丈夫かなって思ってね」

 すごい、この二人。

 まったく自分たちが負けることを念頭に置いていない。

 さっきの話をぶり返すつもりではないが、自分にもこのくらい自分に自信を持てた方が良いのではないか? と狼はふと思った。そして、今もなお狼の額から噴きだしている汗を後目に試合は始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ