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アストライヤー〜これは、僕らの世界と正義の物語〜  作者: 星野アキト
第7章 ~world a whirlwind~
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開戦

「次勝てば決勝で、さっき決勝進出を決めたイギリスとか」

「うん、そうだね」

 ドイツ選手用の控室でフィデリオがデトレスの言葉に頷いた。

 そして頷きながら、フィデリオは妙な緊張感に襲われていた。次勝てば決勝戦だからなのか?

 フィデリオは内心でそう思ったが、それも納得できない。

「おい、フィデリオ。おまえ、今緊張してるだろ?」

 デトレスに今の自分を見透かされ、フィデリオはドキリとした。そんなフィデリオにデトレスが肩を竦めた。

「相手が日本だからって、特別意識する必要ないだろ? それにおまえが一番気にしてるキザキは試合に出てくるかもわかんないし。 まぁ、強いて警戒するとしたら、ニンジャと情報操作士くらいだろ。あとは何とかなる」

「まぁ、そうだけど……」

 確かにデトレスが言っている事は一理ある。

 これまで日本の試合を見てきた中で、脅威に感じたのはその二名だ。狼は確かに因子の量や質はWVAに参加している選手の中でも、群を抜いているとは思うが、制御が甘いという弱点があり、大将を務める綾芽は確かに一発あたりの攻撃力は高いが、守備が甘い。そしてもう一人の砂を使う周は、攻防のバランスは取れているとは思うが、こういう選手はどこの国にもいるため、どう対処すべきかが考えやすい。

 だがデトレスが言っていた通り、忍者姿の柾三郎は攻撃スタイルが特殊な上に、フランス戦で分かったように、自分の気配を消せるという事が分かった。

 基本情報操作士は因子の流れで相手選手の動きを把握するのだが、ルカ曰く、あれは因子で気配を消したわけではないらしい。

 そして日本選手の中で一番の厄介者が、情報操作士である慶吾だろう。

 慶吾の存在は、はっきり言って脅威すぎる。

 アメリカ戦やフランス戦で分かった様に、彼はBRVの動きを封じてしまう。摂取型BRVだったら、動きを封じる事は不可能だろうが、ドイツ選手の中に摂取型BRVを使う者はヤーナ以外にはいない。だが、ヤーナはサポートを担当のため攻撃要員ではない。つまり慶吾にBRVをヤーナ以外の全員が封じられれば、まともな攻撃は愚か相手選手の動きを把握することすら出来なくなるということだ。

 アメリカの情報操作士であるミーシャも慶吾に対して、ジャミングを掛けていたらしいが、それよりも早く彼にBRVの動きを封じられたという情報もある。フィデリオは決して自分の国の情報操作士であるルカの能力を低く見ているわけではないが、條逢慶吾という情報操作士があまりにも他を逸脱した存在だとう事は明らかだ。

 そして仮にルカが日本選手のBRVのジャミングをかけ、動きを鈍くさせたとしても完全に停止させているわけではないし、ましてや日本には摂取型の選手が二名いる。ということは、例えジャミングが上手く掛かったとしても、完全に相手の攻撃勢を封じることは出来ないと言うことだ。

 その事を考えると慶吾を早めに倒さなければ、フィデリオたちが日本に勝てる見込みはまず不可能だ。

 そしてそれをカバーするにはヤーナの能力が重要だ。ヤーナはフィデリオと同じく今年初出場の選手のため、他の有名選手に比べると認知されている情報が少ないが彼女の能力は『永劫回帰(ewig(エーヴィヒ) wiederkehren(ヴィーダーケァレン))』という特殊すぎる能力だ。

 この能力は言葉通り、一部の空間の時間を巻き戻す事ができるのだ。この能力はかなりの集中力を必要とし、普段の試合では、ヤーナの能力はフラグの守備に回している。そのため、初日での中国との試合でも、相手選手が放った弾丸がフラグに当たった瞬間に、弾丸が当たっていない状態に巻き戻し、実際の球は素早くアデーレが処理したという仕掛けだ。

 この能力をフラグ守備から攻撃勢のBRVの周りで発動させ、もしジャミング及び因子経路の切断をされた場合は、その前の状態に巻き戻しを繰り返しながら、試合を続けるという事になった。

 だが、このヤーナの能力もいつ向こうに知られるかは分からないため、早々に相手を倒したいというのが本音だ。

「上手くいけば良いけど……」

 フィデリオがそう呟いた瞬間に、控室に設置されているスピーカーから、グランドに向かう様にという指示が入った。

 そして控室にある簡易のベンチから立ち上がったフィデリオは、短く息を吐いてグランドへと足を進めた。



 グランドの中心に立ち、フィデリオは観客から叫ばれる歓声を耳にしながら日本の選手が来るのを待ち構える。

 そんな中、ふと自分の横にいるヤーナに視線を向けると、緊張しているのかあまり表情が優れていない。

「ヤーナ、どうかした?」

 フィデリオが小声でヤーナに耳打ちすると、ヤーナは一瞬身体をビクッと震わせた。

「あ、ごめん。驚かしちゃった?」

 フィデリオが驚いた様子のヤーナに謝ると、ヤーナが首を横に振ってから、口を開いた。

「大丈夫だよ。それにフィデリオが謝ることじゃない。試合が始まるっていうのに、ぼーっとしてた私が悪いだけだから」

 そう言って、ヤーナが苦笑を浮かべてきた。

 苦笑するヤーナを見ながら、フィデリオは彼女が無理をしていないか心配になった。

 ヤーナは確かにこういう場所は緊張してしまうから苦手だと言っていたし、高校に入りたての時は目立つのが嫌だという理由で、アストライヤーになりたくないとまで言っていたくらいだ。けれど、そんな彼女が高校入って少し経った頃、『私もアストライヤーになりたい』と言い始めたのだ。物凄く素質のあるヤーナがそう言ってくれるのは、フィデリオとしても同じ国のアストライヤーを目指す立場として、とても心強いし、嬉しく思う。

 そしてヤーナはドイツで行われた代表選手選出トーナメントでも、いつもの控えめな性格が影を潜め、堂々としていたのも憶えている。

 だからこそ、ここに来てこんなに不安そうにしているヤーナが心配になる。

「ヤーナ、あんまり無理しないようにね」

 フィデリオがそう声を掛けると、ヤーナは少しの笑顔を見せ頷いてきた。

 すると横でアデーレがニヤニヤとした笑みを浮かべているのに気がついた。

「どうしたの? アデーレ」

「えっ、何があたし変な事してる?」

「いや、変な事って言うか、顔がニヤついてるだろ?」

「あれ? そう? おかしいなー。普通の顔してたはずなんだけど」

 そう言うアデーレの顔はやはり、ニヤついている。

 そしてそんなアデーレの表情に首を傾げるフィデリオとは違い、ヤーナは意味が分かったのか身体をモジモジとさせている。

 なんだろう? 俺何かしたっけ?

 やはりアデーレとヤーナ、二人の行動の理由が掴めず、フィデリオは首を傾げるしかない。

 そして少し経つと、再び観客席から歓声が沸き立ち始めた。

 その歓声を聞き、フィデリオが日本の選手が入場してくるゲートへと視線を向けた。そして向けた視界の先に見える、人物を見てフィデリオは思わず目を疑った。

 まず最初に出て来たのは、今まで試合に出てこなかった真紘だ。しかも自分と戦い終わった時にはなかった傷が増えている。

 だがそれは真紘だけではなく、狼も何故だが負傷している。そしてそれをまったく気にしてない様に、大将である綾芽に周そして慶吾が入場ゲートからグランドへと入って来た。

 今まで出てこなかった真紘が試合に出来た事に対して、観客も驚いている様子が分かる。

「おーっと、ここで日本。ニンジャ・マササブロウを下げて、キザキ選手を投入して来たぞー!しかも、何故かキザキ選手とクロキ選手、二人とも負傷しているが大丈夫なのかー?」

 司会者であるマイク・ピーターがそんなナレーションをして、さらに会場内の注目を集めている。

「フィデリオ、キザキがいるからって熱くなるなよ?」

 フィデリオより少し後ろにいたデトレスが、フィデリオの横に来て釘を打ってきた。

「……わかってる」

 フィデリオはデトレスにそう返事をし、真紘たちを観察する。

 そして観察して気づいた事は、前に戦ったときより真紘の顔が晴れているような気がした。もしかしたら、真紘がやる気を出しているという事だろうか?

 でも何故いきなり? やはり自分に負けて悔しくなったのか?

 単純に考えるとそうなるが、どうも腑に落ちない。

 そしてもう一つフィデリオには不思議な事がある。

 それは、真紘以外の選手が何故か前に出てこようとはしないのだ。そのことに、デトレスたちも怪訝そうに眉を顰めている。

「何か向こうに策があるのかもしれない。全員、油断しないように」

「「「「Einverstanden(アインフェアシュタンデン)!(了解!)」」」」

 デトレスの言葉に皆が口を揃えて返事をしながら、真紘たちの様子を窺う。

 すると真紘が刀型のBRVを復元して、一歩一歩グランドの中心へとやってきた。だが、真紘以外の日本選手が一切BRVを復元していない。

 これは一体どういうことなのだろう?

 何か策があって、わざとBRVを復元していないのか?

 一番妥当な考えは、何か策があっての行動に違いない。そうでなければ、自分たちを侮り過ぎている。

 そして自分の前まで来た真紘が鋭い視線でこちらを見ながら口を開いてきた。

「この戦いは、俺一人だけで戦う」

 真紘がそう言った瞬間、アデーレの鋭い刺突の攻撃が真紘に飛んでいく。

 そしてそんなアデーレの攻撃を諸共せず、真紘が次々と交わしていく。だが真紘がしているのは、アデーレのレイピアの動きを正確に見極め、避けているだけだ。

 デトレスの言葉に従い、フィデリオとアデーレ以外のメンバーがグランドの中心から扇形を描く様に横に広がっていく。そして広がりながらフィデリオは真紘が自分と戦ったときの事を思い出していた。

 今の真紘は自分と以前戦った時の様に、反撃はせずただアデーレからの攻撃を避けているだけにも関わらず、あの時とは何かが違うとフィデリオは直感的に感じていた。

 どうしてそう思ってしまうのかは、わからない。

 けれどフィデリオは今の真紘を見る限り、そう思ってしまうのだ。

 そしてそんなフィデリオの考えは正しかった。

 フィデリオがルカの通信を介して、デトレスから指示を受けた場所に着地した瞬間、アデーレのレイピアが宙を舞い、その瞬間にアデーレが地面へと膝を着いて倒れ込んでいた。

 一瞬何が起こったのかわからない。

 だが真紘に負けたというのは確かだ。

 そしてアデーレを瞬殺で倒した真紘は、何も気にすることなく試合中の足取りとは思えない速度で足をグランドの中心から、フィデリオたちの方へと足を進めてきた。

『デトレス、次は俺が行くよ』

 フィデリオが真紘を睨みながらデトレスに提案したが、デトレスから『まだ行くな』の返事しか帰って来ない。

 そこにフィデリオはじれったさを感じた。

 きっとデトレスにも何か考えがあるのだと思うが、それでもこのままでいいはずがない。そんなフィデリオの元にルカを介してのヤーナから『私に任せて』の通信が入り、その直後にアデーレが操る水が、真紘の身体に蛇の様に巻き付いて行く手を阻む。

「ちょっとあたしも油断してたかしら、ねっ!」

 そう言ってアデーレがレイピアを宙で十字に斬り、そして十字の真ん中を突く。そしてその水がアデーレ自身に降りかかると、アデーレの姿が水の中へと消えてしまう。

 だがそんなアデーレの様子に、真紘が動じている素振りはない。

 今のアデーレの使用している技はこの大会の為に考えたもので、この大会では未だ使用していない技だ。そしてこの技の威力は、強烈だ。

 この技をアデーレが最初に使用したのは、この大会への選手選考トーナメントで使用され、この技を避けきった者はおろか、受け切った者はいない。

 フィデリオはそのトーナメントでブロックが違ったため、実際に技を受けたわけではないが、見ているだけでも技の威力の高さが分かった。

 そんな技を真紘に向けてアデーレが繰り出す。

 重水剣技 ウンディーネ

 真紘から少し離れた場所に小さな水たまりの様な物が出現し、そこから高速の水針のような物が連続的に真紘へと飛んでいく。そしてその中にアデーレが揮うレイピアの強烈な刺突も混ざっていた。

 この高速の突きと水針を元々、水によって動きを阻まれている真紘が避けられるはずもない。

 けれどそんな様子の真紘を見ているはずなのに、他の日本選手は動こうとしない。

 見ている限り、狼だったら真紘を助け出すための行動を取りそうな感じがしたが、それはただのフィデリオの見当違いだったのだろうか?

 そう思ってしまうほど、狼はただ少し離れた日本の陣地で見ているだけだ。

 今の所一番警戒していた慶吾も、アデーレや自分たちのBRVにジャミングや因子経路を切断して来ているような予兆もない。

「本当に一人で戦うつもりなのか?」

 フィデリオが眉を顰める中、アデーレの突きと水針が真紘へと襲いかかり、グランド内の地面から砂埃が高さ20メートルもある、アリーナの天井まで到達してしまう様な衝撃が起こった。

 これでは、真紘でも唯では済まないだろう。

 では次の選手は誰が来るのか? 

 それとも、次からは全員で向かって来るのだろうか?

 頭の中でそんな事をフィデリオが考えていると、グランド内の視界を霞ませていた砂埃を一掃する様な風が吹き荒れた。そしてその瞬間、二か所で大きな衝撃音がフィデリオの耳に届いた。

 そしてグランド内に吹き荒れた風により砂埃が霧散した視界には、アデーレのレイピアが宙に吹き飛ばされ、レイピアの持ち主であるアデーレとヤーナが倒れている光景が広がっていた。

「なっ!」

 予期せぬ光景に、短い声がフィデリオの口から洩れる。

 そしてそんな二人を倒した人物は、アデーレからの攻撃をまったく受けていない様な立ち振る舞いで立っていた。

 きっと、あの時の衝撃音は真紘がアデーレとヤーナを倒した物で間違いない。

 そして真紘が立っている位置から距離にして、100メートルくらい離れたヤーナまでグランドの地面に細い溝の様な斬線の跡が残っている。

 そして真紘は次の標的に向かって動いていた。

「ルカッ!」

 フィデリオが真紘の向かう場所を読み、ルカの名前を叫ぶ。

 だがもうそれは遅い。

 すでに真紘の斬撃がルカへと襲い掛かり、彼を壁へと吹き飛ばして沈黙させている後だった。

 その速度を目の前で見せつけられ、仲間を倒された怒りと共に興奮があった。

 あのスピードから成る技を往なし、そしてその技を凌駕してみせるという意気込みがフィデリオの身体をあっという間に覆い尽くす。

 そしてそんなフィデリオから斜め横の前に居たデトレスの太い鉄鞭と真紘のBRVが衝突した。

 真紘を押し潰さんとデトレスが鉄鞭に因子を流し、下へ下へと真紘を地面へと埋めるかの様に圧力を加えさせている。

 そんな真上からの攻撃を真紘が受け止めている。

 だがやはり、力の面ではデトレスの方が上なのか真紘が少しずつ後ろへと押され始めた。しかし、それでも真紘の表情に苦渋さや焦りが一切ない。

 これは真紘に余裕が存在するということだ。

「はぁあっ」

 真紘がそう叫びながら、周りの空気を自分の追い風にするように流れさせ、その風の勢いと共にデトレスの鉄鞭を右上へと押し上げ、すぐに左上へと斬り返す。

 そして左上への斬り返しでデトレスの手から鉄鞭を奪うと、息もつく暇もないまま、真紘がデトレスをそのまま背負い投げで地面へと叩きつけた。地面へと叩きつけたデトレスを真紘が足で踏みつけ、そのまま近くにあったアデーレのレイピアをデトレスの腰部に突き刺した。

 デトレスからの短い呻き声が聞こえる。

「その足を退けろぉぉぉ」

 そう叫びながらフィデリオが真紘へと肉薄し、真紘へと斬りつける。

 まだ試合が開始されて10分弱、もう既にドイツ勢で残っているのは自分一だけだ。こんな事が本当に現実なのか? そんな途方もない事を考えてしまう。

 真紘へと斬り込んだ刃は、真紘にすぐさま受け止められる。

 そして自分の刃を真正面から受け止めてきた真紘が徐に口を開いてきた。

「ここから、本気を出させてもらうぞ」


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