阻止すべきこと
「つくづく呆れた奴らだ」
辟易とした声で呟きながら、右京はヘリの中で自分へと届いたイレブンスからのメッセージに目を通していた。右京はEU圏に連れ去られた東アジア地区のボスであるヴァレンティーネと、彼女を連れ戻す為に動いたイレブンスとマイアの援助をするために、EU圏に向かう事になっていた。だが、右京がトイレへと行っている間に、他のナンバーズに置いて行かれてしまったのだ。
右京からしたら実に嘆かわしいことだ。
そして置いて行かれた右京はWVAが日本で開催され、各国からアストライヤーの候補生が来ているのにも関わらず、特に上からの指示もなく、他のメンバーもいないため動く事が出来ず暇を持て余していたのだ。だがそんなとき欧州のナンバーズからある連絡が入ってきた。
右京の元に入ってきたのは、一条家の者が会場にやってくるという物だった。
そして、そのナンバーズからはもう一つのメッセージが送られてきていて、それは一条の物を支部へと連れてきて欲しいという内容だ。
もし上手い事行けば、アストライヤーの管轄をしている公家を揺すれる。
そう考えた右京は早速行動に移した。
一条家の者は前にデータとして見たことがある。後は会場に誰が来ているのかを確認するだけなのだが、それは欧州地区のナンバーズから、写真が送られてきていた。
そして右京は送られてきた写真を見て、思わず眉を潜めた。
こんな所で、再び輝崎の者と関わる事になるとはな。
これはもはや、因縁と言わず何というのだろう?
そんな事を思ってしまうくらいだ。
会場内へと無事に潜りこんだ右京は、早々に結納を発見しそのまま誘拐を決行した。
すんなりと事が運んだのは良かったが、結納が放出する因子の小ささに、右京は結納が因子を放出している事に気づくのが遅れてしまったのだ。
そのため、自分の後を選りにも選って左京に追跡されてしまった。まだ他の者に追跡されるなら何にも思わないが、左京から追われるというのが、右京の中で癪に障る。
しかも左京は自分の半身。
それなりの距離ならば、いくら因子を放っていなくても因子を感じ取ることができる。はっきりいって、他に因子持ちの連中を連れていなかった右京にとっては、厄介だ。
もし他にも因子持ちがいたなら、自分以外の者が執拗に因子を放出し、攪乱することも可能だっただろうが、それもできない。
右京が人工島内にあるビルの屋上に用意して置いたヘリに向かいながら、半ばやる気を削がれている時に、イレブンスからの通信が届いた。
その内容を見た右京はすぐさま、結納をヘリポートの隅へと放し、用意していたヘリへと乗り込んだ。
その内容は衝撃的な物だった。
イレブンスからヴァレンティーネを連れ戻す際に、欧州の統括者であるキリウスと接触し、そしてキリウスと接触した東アジア地区のナンバーズが、ほぼキリウスの前に倒れたという内容ともうすぐ国防軍の基地がある横須賀に到着するというメッセージが届いたのだ。
右京はヘリを運転しながら、自分が焦っているのを感じていた。
俺が居ない場所でとんだ大事になったものだな……まさか欧州地区のボスに楯突いていたとは。
しかも肝心なヴァレンティーネ(ボス)を奪還できず、失敗に終わるという状況は最悪すぎる。
静かに嘆息を漏らしながら、ヘリの正面に見えてきた東京支部を見ながら、イレブンスたちが接触した欧州地区の統括者であるキリウスの事を考えた。
右京自身、欧州地区の統括者であるキリウスの実力はもう既に知っている。だからこそ、そんな彼に立てついてイレブンスたちの命がある事にも驚愕はしたが、そのことよりも注視するべきは今後の東アジア地区の体勢の方だ。
次期トゥレイター総括者であるキリウスに楯突いた東アジア地区が現状体勢を維持出来るかというと、出来るはずもない。仮に出来たとしても何かしらの管制が置かれるに違いない。もしそうなるとしたら、まず統括者として来るのはキリウス本人がヴァレンテォーネに変わって、こちらに来る可能性が高いだろう。ここ最近、トゥレイターの上層部は東アジア地区に重点を置いているからだ。その点を考えるとまず以前の様に幹部を最高責任者に置くことはない。
そしてキリウスが統括者になれば、東アジア地区の根本的なやり方が変わってくる事になる。そうなると色々と不便になることは間違いない。
キリウスという人物は、完璧主義者で自分の思い通りに行かない者に容赦しない性格だからだ。だから、自分の独断行動という物が取りづらくなる事も右京にとって不便に感じる所の一つだ。
だからこそ、それを何とか阻止しなければならない。右京は縛られる為にトゥレイターにいるわけではないからだ。
「早めに行動に移さなければな」
きっとイレブンスも何か策を講じようと足掻くはずだ。だがただ足掻くだけでは、今回の結果を再び招いてしまうだろう。
だがイレブンスからのメッセージだけでは何か策を考えようにも、簡潔すぎて詳しい状況まで把握が出来ない。そう考えた右京は東京支部から進行方向を変え、イレブンスたちが到着する横須賀へと切り替えた。




