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アストライヤー〜これは、僕らの世界と正義の物語〜  作者: 星野アキト
第7章 ~world a whirlwind~
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タイミング

「あれ? ここって……」

 そう呟きながらセツナは会場内にある医務室のベッドで横たわっていた。

「寝ぼけてる場合?」

「そうよ! いきなりいなくなったと思ったら、熱出して医務室にいるってフィデリオから聞いたときは、本当にびっくりしたんだから」

 寝ぼけたセツナを見ながら、二人の幼馴染であるアクレシアとマルガが呆れた様子でセツナの顔を覗き込んできた。

「あ、そっか……。私ったらフィデリオと話しながら、色々考えてたら急に頭が回っちゃって……」

 セツナが身体を起こしながら、自分の今の状況を整理するように呟くと、アクレシアからの溜息が聞こえてきた。

「つまり、頭の使いすぎで熱出したと……。確かにセツナらしいと言ったらセツナらしいけど、本当に知恵熱出す人、初めて見たわよ」

「あはは。私もまさか自分が知恵熱出すとは、思ってなかった」

「それで、いったいどんな事を考えて知恵熱なんて出したの?」

 おどけながら笑うセツナにマルガがベッドに頬付をつきながら訊いてきた。

「えーっと、それは……」

「言いにくい?」

「ううん。そういうわけじゃないの。ただ私も混乱してて……。実はね、フィデリオとマヒロが戦ったみたいなの」

「嘘でしょ!? それってやっぱりフィデリオから聞いたの?」

「うん。そう。でもどうしてフィデリオがマヒロと戦ったのか、理由がまだわからなくて」

 セツナが顔を俯かせると、アクレシアがセツナの肩に手を置いてきた。

「セツナ……。本当にわからない? フィデリオが戦った理由」

 アクレシアにそう聞かれ、セツナは首を縦に頷かせた。

 だがそれでも、アクレシアはセツナの肩から手を離さず、視線も逸らしてくれない。

 こんなの、卑怯だ。そう内心で思いながらセツナは顔を赤らめさせた。

「なんだ、気づいているんじゃない」

「うぅ」

「モテる女は辛いですな~」

「マルガッ!」

「そうよ。マルガ、茶化さない。せっかく鈍感セツナが気づいたんだから」

 アクレシアに窘められ、マルガが舌を出して誤魔化している。

 そんなマルガの頭をアクレシアが軽く叩いてから、再びセツナへと向き直ってきた。

「それで? 恋する男子、フィデリオ・ハーゲンの気持ちにようやく気付いたご感想は?」

「感想って、それはすごく嬉しいけど……驚きの方が大きいかも。だって、フィデリオは誰にでも親切だし、女の子からも人気だし、ドイツの代表候補生に抜擢されるくらい強し、そんなフィデリオが私を女の子として見てくれてるなんて、思わなかったんだもん」

「まぁ、フィデリオは優男だよね。完全なる。まっ、あたしは好みじゃないけど。でも、その優男ぶりが裏目に出てたなんて、あの男もバカだよね」

 アクレシアがセツナの肩から手を離し、冷静な口調でそんな事を言っている。

「でも、セツナもフィデリオの事が好きなんだし、これってセツナとフィデリオが両想いってことじゃない?」

 マルガが大きな声でそう言いながら、身を前に乗り出してきた。

「りょ……!!」

 セツナは先ほどよりも更に顔を紅潮させながら、目を瞬きさせた。

「もう、マルガ分かってないな。確かにセツナとフィデリオは両想いって感じだけど、今のセツナからしたら、やったー、嬉しいって感じの安易な問題じゃないんじゃない? だって、セツナはマヒロの事も好きなんでしょ?」

「あ、そうでした」

 アクレシアの言葉に、マルガが手をポンと叩き頷いてきた。そんな二人を見ながらセツナは何とも言えない複雑な心境になった。

 アクレシアとマルガが言うように、本当にフィデリオと自分が両想いなんだとしたら、自分の中にある真紘への気持ちはどうすれば良いのだろう?

 はっきりいってセツナは、フィデリオと自分が両想いだからと言って真紘への気持ちを無かった事にするなんて出来ないと思う。

 一度自分で好きだと自覚してしまった。

 だからこそ、これからフィデリオと恋仲になったとしても、フィデリオがドイツに帰ってしまった後、真紘と関わり、気持ちが揺らがないという自信が持てない。

 こんな状態で自分はフィデリオの元になんて行けるはずがない。

 そんな事を考えながらセツナが身を縮ませていると、マルガがまるで自分の事の様に唸っているのが見えた。

 そんな幼馴染の姿を見て、セツナはすごく有り難い気持ちになった。

「マルガ、ありがとう。私の為に悩んでくれて」

「セツナ……」

 セツナがマルガの手を握ると、そこにアクレシアの手が添えられた。

「まっ、セツナとは長い付き合いだしね。一緒には悩んで上げるけど、最終的な判断は自分で出しなさいよ?」

 ウィンクをしてきたアクレシアにセツナが笑顔で頷いた。

「でも、本当に悩むわねぇ。あたしが見たところ、あのヤーナって子、絶対フィデリオに気があると思うのよね」

「あ、それあたしも思った。絶対あれは狙ってるね。セツナ、いくらフィデリオがセツナ馬鹿だとしても、ちゃんとキープしないと駄目だからね」

「キープって……」

 アクレシアとマルガの言葉に、セツナが身を仰け反らせていると、廊下で何かガラスの様な物が割られる音が聞こえてきた。

「何、さっきの音?」

 マルガが廊下の方を見ながら、そう呟いた。

「わかんない。行ってみよう」

 セツナはそう言って、ベッドから勢いよく起き上がると廊下へと出た。セツナが廊下の左右を見ると、右側の廊下の奥に花瓶が割れて落ちていた。セツナたちは割れた花瓶へと近づき辺りを見渡すが、人が居た気配はあっても、人の姿が見当たらない。

「これって、どういう事?」

「さぁ」

 アクレシアの言葉にマルガが肩を竦めている。

「でも、ここに誰かいたんじゃない?そうじゃなきゃ、こんな所に花瓶が割れて落ちてるはずないし」

 セツナが割れた花瓶の破片を見ながら、うーんと唸っているとそこに誰かが走ってやってきた。

 走ってくる人影をセツナたちが目を細めながら見ると、走ってこちらに向かって来たのは眉間に皺を寄せ、焦った様子の左京だ。

「サキョウさん! そんなに慌ててどうしたんですか?」

「すみません。ヘルツベルト様。今は緊急を要しているので失礼します」

 焦った様子の左京がそう言いながら、セツナたちの横を駆け抜けて行ってしまった。

 あんな風に焦ってるサキョウさん、見た事ない。もしかしたら、何かあったのかも。

 内心でセツナはそう思い、左京を追うように走りだした。

「え、ちょっと」

「セツナ?」

 いきなり走りだしたセツナに、驚いた二人もセツナの横に並んできた。

「どうしたのよ、いきなり?」

「だって、何かあると思わない? あんな風に焦ってるサキョウさん、私初めてみたもん」

 目を眇めてきたアクレシアにセツナがそう答えると、アクレシアの向こう側にいたマルガも手を叩いて頷いてきた。

「確かに。あんなクラマエ教官見た事ないかも」

「でしょ! だからついてって見ようよ。ねっ、アクレシア、マルガ」

 セツナが横にいる二人に向けて、そう言うとマルガとアクレシアが短い息を吐いた。

「どうせ、止めても行くんでしょ?」

「セツナだしねぇ」

「もちろん!」

 セツナはいつもの様に笑顔で二人の幼馴染に返事をしてから、姿が見えない左京を、左京から出る因子の気配を頼りに、走る速度を上げた。




「困ったわね……」

「あはっ、マジここまで来た意味」

「そんな事言っている場合ではありません。早く結納様がどこに居られるのかを調べなくては」

「言われなくても分かってるわ」

 誠に急かされ、希沙樹がムッとした表情を見せている。

「じゃあ、誠さんが居場所を知ってそうな人に連絡取ってみるとかは?」

「私もそう思って、左京に連絡を入れてるんですが、左京と繋がらなくて」

「あはっ。マジ使えないんですけど」

「そんなこと私に言われても困ります」

 季凛の言葉に今度は誠がムッとした表情を見せた。

 今誠たち三人は、アリーナの外周にある公家専用の特別室に来ていた。

 何故誠たちがこの特別室にいるかと言うと、誠たちが考えた真紘と結納の仲を回復するための作戦には、どうしても結納の手助けが必要だという事になったからだ。

 最初はこの特別室にいくら輝崎に仕えている誠といえと、そう簡単に入れる場所ではないため、公家や各国のゲストが試合を見る為のゲストルームなど、入れる場所から探してみたが、どこにも居なかったため、結局一番公家である結納が居そうな特別室に忍び込むことになった。

 最初、誠が特別室に忍び込む事を拒絶していたが、そんな誠を無視して季凛と希沙樹が強行突入の道を選び、この部屋に忍び込んだものの、肝心な結納の姿が見当たらない。

「意外と真紘くんの病室にいたりして……」

 季凛が考えられる可能性を口にすると、希沙樹が手で蟀谷を抑え始めた。蟀谷を抑えたいのは私の方だ。と誠は内心で思ったが、そこは辛うじて口には出さなかった。

「確かにありえるわね。もしそうなら、ここに忍び込むための時間が勿体なかったわ」

「だから、私は止めようと言ったんです」

 そう誠はちゃんと言っていた。希沙樹と季凛が強硬手段に乗り切っている時に。

 結納は見た目に寄らず、外に出かける事が好きな性格の為、ここにいる確率は低いと。

 だがそんな自分の助言は一切耳にいれてもらえなかった。

 そして誠の制止の声も聞かず、強行突入した結果がこれだ。

 まったく、頭が痛くなる。

「あはっ、じゃあもうここから出て、真紘くんの病室の方行けばいいだけじゃない?」

 最初に強行突入案を出してきた季凛が、自分の失敗を掻き消す様に早くも考えを切り替えてきた。

「そうね。さっさと行きましょう」

 季凛の案に乗った希沙樹もすぐに季凛の意見に同意している。呆れるくらいの切り返しの速さだ。

 誠が二人にばれない様に、嘆声(たんせい)をもらした。するとそこに誠の端末に左京からの連絡が入った。

 誠は急いで左京との通信を繋ぐと、焦った様子の左京の顔が映し出された。

「佐々倉、大変だ。今どこにいる?」

「どうした、左京? 私は少し用があってアリーナの外周付近にいる」

「そうか。……今さっき、結納様が何者かに攫われた」

「何っ!?」

「今私は、その者を追跡しているんだ。私の位置はこの後すぐに送る。だから佐々倉も早くこちらに急行してくれ」

「わかった」

 誠が左京とのやり取りを終え、通信を切るとすぐに左京から自分がいる位置が示された地図が送られてきた。

「一条様が攫われたですって?」

「あはっ、なんていうタイミング」

 誠の端末から聞こえてきた話を聞いていた、希沙樹と季凛が顔を顰めている。

 それは無理もない。

 誠たちが考えていた作戦とは、まさしく今何者かがしたように、結納を別の場所に隠し、真紘の本心を探るという物だったからだ。

 だが今起こっているのは、誠たちが演技で行う誘拐ごっこではない。本当に何者かが公家である結納を攫ったという事件だ。

「私は左京の元に向かいます。お二人は、この事を真紘様へとお伝えください」

「真紘以外には?」

「いえ、伝えないで下さい。この事は出来るだけ周りに気づかれない様にしたいのです」

「それは、どうしてかしら? 他にも伝えるべき人はいるはずよ」

 希沙樹が真剣な表情で誠にそう言ってきたが、誠は頭を横に振った。きっと希沙樹が言う伝えるべき人物とは、日本の首相である行方総一郎や国防軍などの物の事だろう。

 確かにその考えはすごく妥当だ。だがしかし、それはできない。

「いえ、他の人に伝えてはいけません。真紘様を、輝崎の家の立場を守る為に、そこは絶対に知られてはいけません」

「なるほどね……」

「あはっ。でもそれで今よりももっと大事になったらどうするの?」

「大丈夫です。これ以上大事にさせない為に動くんですから」

 誠は強い意志を宿した瞳でそう言うと、追跡者を追う左京の元へと走り出した。


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