護衛の二人
生徒たちが密林の中で、演習に励んでいる一方では、モニター越しにその様子を榊たちが監察していた。
榊たちがいる場所は、スタート地点とは反対側にある、簡易式のテントだ。テントの中では、衛星から送られてくる鮮明な映像が、モニターに映し出されている。
「撃破、五名。……予想通り、最初に得点を獲得したのは輝崎たちのところか」
モニターを見つめながら榊がそう呟くと、
「まぁ、それはそうでしょ。なんせ一軍の成績優秀者なわけですし」
コーヒーカップを二つ手に持った館成が、へらっとした笑みを浮かべながら答え、「どうぞ。榊教官」と言いコーヒーカップを榊に差し出してきた。
「確かにな」
例年、このサバイバル演習での高得点者は一軍生だ。そんなこと教官のみならず、生徒たちも理解している。
だがそれでも、今回のように二軍生が奮起することも少なからずあるのだ。そういった二軍の生徒の戦いは、慢心に溺れている一軍生に焦燥を感じさせ、二軍生の士気を上げる役割も果たしている。むしろ、こういった流れが出来上がれば、この演習の目的は達成されたも同然なのだ。
そのため、真紘たちが叩き出した得点の下に、狼たち二軍生が獲得した得点が表示されているのを見て、榊は内心満足をしていた。
今年は骨のある輩が多いな。面白くなりそうだ。
そんな榊の後ろから声が掛かった。
「恐れ入りますが……―、発言をさせて頂いてよろしいでしょうか?」
艶の中に礼儀の良さを感じさせる声に、榊が振り返る。
振り返ると後ろには、姿勢正しく椅子に座る二人の女性がいる。
言葉を発した女性は、艶やかな濡羽鴉の髪を棚引かせ、凛々しい表情を携えた麗人だ。彼女は綺麗な紫の瞳で榊を真っ直ぐに見つめている。
女性の名は佐々倉誠。代々九卿家である輝崎家が抱える、数ある家臣武家の一つである御家人。ーー通称、懐刀の家の出身者だ。その隣の女性は蔵前左京。艶のあるブラックグリーン色の長い髪を後ろで結い、精悍な顔つきをしている美女。彼女の家もまた佐々倉家と同様の御家人で、由緒ある家の出身者である。
二人は真紘の護衛として、このサバイバル演習に同行していた。
きっとこの間、狼が学園で起こした騒動で、真紘が重傷を負ったことで警護体制が強まったのだろう。
今回の演習のセキュリティ体制が気になったか?
榊はそんな事を考え、手に持っていたコーヒーカップをデスクへ置き、誠の言葉に応じる姿勢を見せる。
「どうぞ。何か質問でも?」
「ええ。では……、お伺いしますが。現在二位の得点を獲得している班の中の一人が、イザナギの所有者で間違いないのですか?」
「そうです。ですが、それが何か問題でも?」
「いえ、特段の問題というものではなく、ただ純粋に疑問を感じたのです。何故イザナギを使用している者、しかも黒樹家の方が二軍生なのか? と少々興味が湧いただけの事ですので、ご返答に困るようでしたら、お気遣いなく」
イザナギというBRVを知る者なら誠の疑問は当然だろう。
「ーーあのBRVと因子量、質だけを考えれば一軍だな。だが……明蘭学園の選考基準は単に高火力が出せれば良いってわけじゃない。まぁ、その選考基準は生徒たちには伝えられてないから、卒業生であっても貴女たちが知らなくても無理はないが」
榊の言葉に誠たちが一瞬だけ、きょとんとする。そんな二人の顔を見て榊は説明を続けた。
「強い攻撃が数多く放てるのは基本中の基本だ。二軍生の中にだって黒樹以外にも火力だけ高かったり、技数が多い生徒はいる。ーー偶に家柄で評価を落とされた! とほざく馬鹿もいるけどな。けど俺たち教官が見てるのは……その最大火力を非殺傷レベルまで瞬時に落とし、尚且つ攻撃範囲や照準を的確に調整し、戦況に応じて己の動きを変えられる判断力を有している。ーーここまでやれて一軍生だ。そしてその一軍上位者になる為には味方へのサポート力も必須になる。ーーそしてさっき話題に上がった黒樹は完全に条件を満たしていない。だから理事長がアイツを二軍生にしたのは納得できる」
「なるほど。そうだったのですね。確かにその基準を聞けば黒樹様が二軍に入るのは分かりました。ですが、まだ一つ疑問が残ります。何故、黒樹様のご家族は黒樹様を幼少部の頃から明蘭に入学させなかったのでしょう? もしその頃から入っていれば、一軍生になっていた可能性は大いにあると思いますが?」
榊の言葉に一度頷いた誠がさらに疑問を重ねてきた。
だが、この問いに対しては榊も答えを持ち合わせていない。
この問いに答えられるのは、理事長でもある宇摩豊くらいだろう。むしろ、誠たちの方が詳しいのでは? とさえ思う。
身も蓋もない物言いでいうなら、狼の入学時の実技成績は下の下。因子の量と質を除けば他の二軍生となんら遜色ない。
しかし狼はBRVの中でも、突出しているイザナギを使用しているのが事実。本来ならばありえないことだ。二軍生レベル、いや一軍生レベルでもイザナギをちゃんと復元できるかどうかという代物だ。それにも関わらず、狼は難なくイザナギを復元し、さらにとんでもない技まで繰り出している。
だからこそ、榊は考えていた。
このサバイバル演習は、例年にない番狂わせが起こるのではないかと。
けれど今のところは、番狂わせというところまでには至っていない。
それこそ狼たち二軍が二位にいるというのも、別に驚くことでもない。
二軍生の中にも、優秀な人材はいるのだから。
黒樹狼……やはりお前は……。
榊は狼という存在について考えていた時、
「それにしても、お二人ともかなりの実力者にも関わらず、何故、アストライヤーになられなかったのですか?」
二人に新しい飲み物を渡しながら、館成が質問する。
「そのような問いは、とんだ愚問です。我々両家は、輝崎家に仕える懐刀です。そのため、アストライヤーになるという考えは、毛頭ございません。それ故にです」
館成の質問に答えたのは、誠ではなく左京だ。
左京にしても誠にしても口調がどこか古風なのは、家柄のためか。そのため、館成は肩を竦めさせている。
この二人の姿を見ていると、輝崎の頑固さの理由も窺えるな。
そう思い榊はひっそりと苦笑を漏らした。
「それと一つ、気がかりな案件が浮上しているようですので、その事案についてのお話に移行します。既に、ご存知かと思いますが、この島の近海で軍事用のヘリが一機、確認されたとのことです」
淡々と話す左京の目に鋭さが宿り、そのヘリの正体を榊が口にする。
「トゥレイターか」
「ええ。その様です。何か我々も策を講じますか?」
榊の言葉に返したのは誠だ。彼女もまた左京と同じく表情を鋭くさせている。
「いえ、教官が対処しなくても良いでしょう。もし何かあれば生徒たち自身で対処させた方が実戦的で、我々としても好都合です。
ですがもし、生徒では対処不可能だと判断した場合に動ける準備は整えておきます。無論、貴方方が本職としている行動については、止めたりはしませんが」
榊の言葉に誠が同意の意を示して頷く。
「では、我々は緊急事態に備えて、準備を怠らず、後は生徒たちを見守るということ、そして万が一の場合、私と左京には、懐刀としての行動制限は無い。ということでよろしいでしょうか?」
誠が榊、館成の意思を確認する。
「それで一向に構いません」
話がまとまったところで、榊たちはモニターへと視線を戻す。
モニターには、各所でぶつかり合う生徒たちの姿が映っている。
そして、その中に一際目を引くものがあった。
その光景を見て、榊は口元を少し上げながら
「これは、見ものだな」
と呟いた。
今回は、ちょっとした繋ぎ部分なので短いですが、区切りということで、お願いします。




