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アストライヤー〜これは、僕らの世界と正義の物語〜  作者: 星野アキト
第7章 ~world a whirlwind~
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大黒天

 狼に向かってきたエルマンが狼に剣を揮う。

「はああああああああああああ」

 声を張り上げ、エルマンが狼に向かって突貫してくる。そして突貫しながら剣を振り、エルマンの斬線が狼へと向かって来る。熱を持った斬線を狼は迎撃し、狼もまたエルマンへと突っ込んだ。二つの刃が交叉し、火花が散る。お互いが刃に因子を流せば流すほど、BRVが放出される熱エネルギーの質量が高まり、周りの温度が上昇する。

 狼が斬撃を繰り広げれば、エルマンがそれを往なし、追撃を加えてくる。二つのBRVから出る斬撃が衝突し、爆発、炎へと変わり二人を炙る。

 それでも狼とエルマンの足が止まることは無い。狼が放った斬撃が鋼のグランドを大きく抉り取りながら、エルマンへと向かって行く。

「ふんっ」

 エルマンは自身へと向かって来る斬撃を躱すことなく、刀身の大きなイザナギが放つ斬撃を、力任せに一刀両断させる。エルマンと戦っている間にも動く鋼が狼に襲って来るが、それはイザナギから放出される熱の所為で融解されてしまう。

 そのため、狼は不規則な動作を見せる鋼を完全に意識から外し、目の前でさらに己の因子を練り上げているエルマンへと意識を集中させる。

 空気を伝い、エルマンの因子が確実に濃度を上げているのが分かる。そのためか、エルマンのBRVが悲鳴を上げている様な、刃の軋む音がする。

 相手も本気だ。

 狼はイザナギの柄を強く握り、試合が始まってからイザナギに温存させといた因子の量を確認する。

「もう少しって、感じかな」

 狼はそう呟き、エルマンへと肉薄する。エルマンから出る因子の熱で髪先が焼かれる。それだけではない。エルマンが立っている周りの鋼が赤く染めあがり、溶けだしている。

 それほどの熱の中心に立っているエルマンが、向かって来る狼を見てニヤリと笑みを浮かべた。きっと何かの策があるのは明白だ。

 けれど、策があるのは狼だって同じことだ。

 因子が刃全体に蓄積されているイザナギは蒼く光っている、このままエルマンへと斬りつければアメリカ戦で見せた天之尾羽張と同じだが、今狼がやろうとしている事はこれではない。

 狼がやろうとしている事は、刃全体に広がっている自分の因子を穂先の一点に凝縮させ、放つという技だ。

 簡単なように見えて、実はかなり難しい技術だという事を狼はもう既に知っている。この技の提案をしてきたのは、真紘だ。真紘とWVAに向けての鍛錬をしているときに、真紘が因子をコントロールする訓練として、提案してきたのだ。

 最初真紘に手本を見せてもらい、狼も試してみたが、一度集中を切らしてしまうとすぐに因子が刀身全体に流れてしまい、失敗してしまう。

 この練習は幾度となく繰り返されたが、狼が成功したのは一、二回だけだ。

 そんな技を狼は今、使おうとしている。

 成功するかは、もはや賭けでしかない。

 だが、やろうと決めたら成功する、しないは、考えない。

 考えるとするなら技を決め、目の前にいる相手を倒すということだ。

 狼は穂先に因子を凝縮させる、だんだんとイザナギの刀身全体に広がっていた因子が穂先に集中し、穂先になる一点の球体がどんどん膨張を始め、そのエネルギー凝縮の副作用のように気流が乱れ、狼の周りでは強い風が吹き荒れる。

「そちらも策を考えているようだが・・・君たちの幸運はもう去った」

 そう言ってエルマンがフランベルジェを胸の前で剣先を真上に構え、因子を一気に放出させる。

 エルマンの周りで次々に爆発が巻き起こり、爆風が狼の顔を撫でる。

 そして狼が技を放つよりも先に、エルマンの技が放たれた。

 連爆剣技 サン・デフェール

 強大な爆発がエルマンを爆心地として起こり、狼がいる所まで爆発の熱が届く。直撃は逃れたものの爆発で生じた余波までは避けられなかった。

「くっ」

 爆発の余波で吹き飛ばされながら狼は短く声を漏らす。

 しかも狼の意識がエルマンの攻撃を受け、気がそがれた事により、穂先に溜まっていたエネルギーがすぐに球体の形を崩し、刀身全体に広がってしまった。

そして狼を吹き飛ばした爆発の熱が事前にグランド内に拡散されていたエルマンの因子と誘発し合い誘爆を引き起こす。膨張速度が爆轟となった炎があっという間に日本陣地を焼き尽くさんと迸る。

 このままだと、日本の陣地にあるフラグが焼かれてしまう。そうなっては日本の敗北が決まってしまう。

 何とかしなければいけないと狼は内心で焦るものの、火傷を負いながら壁へと叩きつけられた身体は、回復がまだ追い付いておらず、身体が思うように動いてくれない。

 こんな体で奔ったところで、迸る炎を止められるとは思わない。だが動かなければそれこそ全ての終わりだ。

 そう考え、狼が足に力を込めた瞬間、慶吾からの通信が入った。

『黒樹くんはそこで待機して、回復と次の行動のための準備をしといて』

「でも!」

『はは。大丈夫だよ。こっちには優秀な守備選手がいるからね』

「え?」

 狼が今もなお日本陣地の方へと広がって行く炎の波に目を向ける。炎の勢いは衰えず、むしろ炎の勢いは上がって行く一方だ。

 だがそんな炎の前に、いつの間にか一人の男が立っていた。

 黒い霧を辺りに霧散させ、押し寄せてくる炎を前に柾三郎が悠然と立っている。

「柾三郎先輩?」

その姿を狼が捉えたのは一瞬だ。そして次の瞬間には炎が柾三郎を呑みこむが、事態は激烈に動く。

 柾三郎の操る黒い霧が爆轟となった炎を引き千切るように、辺りに広がり出し、そのまま炎を押し返す。

 暗雲忍術 塗壁

「これ以上、我が国の陣地に踏み入る事は万死に値する」

 その言葉を吐き棄てながら、壁となった黒い霧の上に柾三郎が現れた。

「なにっ?」

 そう唸ったのはフランス陣地内にいるホルシアだ。

「あの男は、アメリカ戦に出ていたニンジャか。くっ、何故私は見落としていた?」

 悔しそうにホルシアが顔を歪ませる。

 そしてそれは他のフランス選手も同じらしく、柾三郎の出現に動揺が走る。

「ふん、俺はずっと同じ場所にいたがな。・・・自身の気配を掻き消すなど忍者にとって造作もないことだ」

「すごい」

 狼は柾三郎を見ながら、思わず呟いた。

 仲間である狼ですら、柾三郎の存在を忘れてしまうほど、柾三郎は自身の気配を完全に殺していたのだ。

 柾三郎が操る黒い霧の壁は、瞬く間に面積を広げがり、炎の大半を鎮静化させてしまう。

 その様子を見ながらエルマンが再び因子を練り始める。それを援助するかのようにデエスの綺麗な声で謳われる聖歌が聞こえてくる。

 エルマンは再度強化した追撃を加える気だろう。

 だがそうはさせない。

 回復と因子を練り上げる事に専念していた狼は、地面を強く蹴りドーム型になっているアリーナの天井すれすれの所まで跳躍する。

 狼は柾三郎が相手の気を引いている間に、回復するのと同時に技を放つ準備はしていた。

 狼の手には穂先に球体型に凝縮されたエネルギーが溜められている。

 次の一撃で決める。

 次で決めなければ、再度因子を練る時間が作れるかわからない。そんな不確かな賭けをするわけには行かない。それに次の攻撃を外せば、すぐにエルマンの攻撃が狼を撃つのは確実だ。そうなれば、今度こそ狼は地面に倒れることになるだろう。

『おい、エルマン!上からデカいのが来るぞ』

 狼の動きに気づいたギ―が怒鳴るような声で叫ぶ。

『撃たせるなっ!』

 ギーの声がグランド内に響き渡る。

「撃たせるか!」

 ネージュが狼に向かって、水矢を放ち攻撃を阻止せんとする。だがその矢を周の砂塵が阻む。

「ちぃ」

「まだ、こちらの攻防は終わってはいないからな」

 苦い顔でネージュが舌打ちしながら周を睨む。そんなネージュの横をホルシアが操る鋼が無数の強大な針蜂の様に向かって来た。

 だが、それを柾三郎の操る黒い霧から現れた綾芽が蹴り砕く。

「華やかな舞台が始まるのだ。それを邪魔するとは無粋ぞ?」

 不敵な笑みを浮かべる綾芽にホルシアが可変式ソードを構え突進する。

 綾芽とホルシアによる、空中での接近戦が開始される。

 綾芽への攻撃を加えながら、隙あらば狼への攻撃をしようとホルシアが動くが、その行動は慶吾を通して、綾芽にもはや伝達されている。

「無駄な足掻きは止さぬか?」

「ふざけるなっ!」

 綾芽が目を細め、ホルシアを嘲笑する。

 それに静かなる怒りを感じたホルシアの因子が膨張するのを狼は感じた。

 もしかして、わざとやってるのかな?あの人。

 そんな事を考えながら、狼は静かに息を吸い、的であるエルマンに穂先を向けた。

「どのような攻撃が来ようと、屈する私ではない」

 エルマンが狼の攻撃に備え、身体全身に因子を張り巡らせ身構える。

「はぁああああああああああああああああ」

 狼はそう叫びながら、真下にいるエルマンへと技を放つ。

 大神刀技 大黒天

 穂先から凝縮された球体が放たれ、真下へと落下していく。

 ほぼ野球ボールほどの球体が落下速度を高めながら、エルマンが繰り出す斬撃と衝突した瞬間、球体型に凝縮されたエネルギーが楕円形に広がりながら、それと同時に光束(こうそく)を走らせ、エルマンへと降り注ぐ。そしてそのまま光束は威力を拡大し銀の世界を強い光で包みこむ。

 光束は鋼となったグランド内を大きく抉り、小さく飛び散る鋼は何かに衝突することなく、大気中で蒸発させる。

 一方でエルマンは身体に強い衝撃と熱を浴びせられ、熱で皮膚が焼かれる。骨が軋む。だがそれでもエルマンは耐える。血が出るほど歯を噛み締め、衝撃を耐える。

 目を血走らせ、気力を外に押し出す。

 そんなエルマンの姿は、息を吸うのを忘れてしまうくらいの豪壮さがあった。

 受け切られた。

 狼が唇を噛み締め、そう思った瞬間にエルマンが片膝を着き、そのまま倒れ込む。

「エルマン!」

 近くにいたネージュが叫ぶが、エルマンからの返事はない。

「寄せ!ネージュ。エルマンはよくやってくれた。後は我々だけで敵を討つ。エルマンの為にも」

 ホルシアはエルマンに駆け寄ろうとしたネージュを止め、倒れ込んだエルマンを周りの鋼を動かし、安全な場所へと移動させる。

 そんなホルシアが狼たち、日本選手を睨みつけてきた。

「このままで済むと思うな」

「ほう、ではただで済まぬということを妾に見せてみよ?」

 綾芽がホルシアの方に手を伸ばし、挑発する。

 そんな綾芽にホルシアが目を細め、地面に可変ソードを突き立てる。

 可変錬金 ル・シュヴァリエ アシィエ

 可変ソードを突き付けられた場所から突如として、植物が地面から生えてくる様に甲冑を被った鋼の兵士と鋼の馬が現れた。


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