表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アストライヤー〜これは、僕らの世界と正義の物語〜  作者: 星野アキト
第7章 ~world a whirlwind~
128/493

革命

 希沙樹と季凛が誠の協力を得られている間、狼は選手控室で次の自分たちの試合相手である国を確認していた。

 狼たちの次なる相手は、ホルシア・ド・レ=ラヴァルという女性が率いるフランスとの闘いだ。ホルシア選手は薄ピンク色の長い髪を横に流し、キリッとした雰囲気を持つ女性だ。

 前の試合の様子を見ていても、女性という事を忘れてしまうくらいの勇ましさがある。

「はぁー、次の人も強そうだな・・・」

 狼は鬼神の如く相手国を薙ぎ払って行くホルシア選手を見て、気分が重くなった。慶吾からの情報によれば、フランスの国としての順位は第7位という成績だったらしいが、個人戦で見ると、第3位には入るレベルの選手らしい。

 そして、今回の大会はそんなホルシア選手が率いるフランス代表だ。強敵だという事は間違いない。

「何をそんなに食い入って見ている?」

 狼の背後から声を掛けて来たのは、いつもの様に気怠そうにしている綾芽だ。

「いえ、次の試合相手なので一応、研究しとこうと思って・・・」

「研究する必要があるか?」

「あるに決まってるじゃないですか?やっぱり強豪国でもあるし」

「そうか。・・・だが妾には関係などない。妾の前に立つ者は、全て叩き潰すのみぞ。そこに弱者も強者も区別はない」

 そう言い残し去って行く綾芽を見ながら、狼は呆気に取られるしかない。九条綾芽という人物は恐れる者がないという事なのだろうか?彼女が言っているのは、つまりそういう事だ。

「僕には考えられないなぁ・・・」

 自分よりも強いと思う人に、恐怖や不安を感じずにはいられない。それは人だからというより、生き物としての生存本能の所為とも思える。例えこれが戦いではなく試合だとしても、戦えば血が出る。痛みがある。だからこそ恐縮してしまうのは当然だ。

 そして狼はそこに会えて逆らおうとは思わない。

「でもだからって、試合から逃げられるってわけでもないんだけど」

 選手に選ばれた責任がある以上、試合を放棄するという選択肢はない。それに今の狼の中にはもう一つ別の理由がある。

 もう一つの理由とは、真紘をこのWVAという中で戦わせることだ。医務室にいる真紘は試合には出られない。大将である綾芽がそれを許可していない。きっと綾芽も真紘と結納の関係は承知だろう。そしてその所為で、真紘が不安定になる事もだ。だからこそ、不安定の真紘を試合から退かせたのは、至極妥当な判断だ。

 だがそれでも狼は、真紘を試合に出て欲しいというのが正直な気持ちだ。

 むしろ、今回の大会で試合に出られなければ、結納と真紘の溝は今よりもさらに深くなってしまう気がする。

 結納も真紘もきっと、互いを責めたりはしない。責めるとしたら自分自身の事を責めるはずだ。狼は結納と話して、とても真紘とよく似ていると思った。

 外見からでは分からなくとも、話せば分かる。

 似ているからこそ、上手く行かない事もあるだろう。だが逆もまた同じだと狼は思う。

 だからこそ、二人の仲が修復されるまでの、真紘が試合に出られるまでの道を止めてはいけない。止めるわけには行かない。そしてその為には、次の試合にも勝つしかないのだ。




 会場中が興奮の熱に包まれた頃、狼たちは出場ゲートから屋内グランドへと足を進めた。真正面からはホルシア選手率いるフランス代表がいる。

 ゆっくりと両国の選手が中央へと歩いていき、大将の綾芽とホルシア選手が握手を交わす。

「本日の午後一番の試合は、日本対フランス戦だー!さてさて、大会出場三度目となるホルシア選手率いるフランスに、初出場の日本はどう戦っていくのか?それでは、試合スタート」

 マイクのナレーションと共に、ホイッスルが鳴らされ一気に両国が火花を散らし始めた。

「鎖国文化を華とす、小国に我らフランスが革命を起こせーッ!!」

 勇ましいホルシア選手の言葉で、一気にフランス選手の士気が上がる。観客からも鬨の声が響き渡っている。

 その声の威圧を背に、狼は目の前にいるフランス代表エルマン・ド・モントーバンと衝突する所だ。

 エルマンのBRVはフランベルジェ型の武器だ。エルマンは狼の顔面に刃を向け刺突せんとしてくる。

『黒樹くん、その剣には気を付けてね。その剣形状は肉を引き裂くのに特化してて、止血もしにくい。だから【死よりも苦痛を与える剣】って言われてるくらいだからね』

 死よりも苦痛を与える剣か。すごく厄介そうだ。

 だが刃の大きさで言えば、イザナギよりも細い。なら自分が隙を作るならければ防御することも可能だ。

 だがそれにしても、狼へと刺突を繰り返すエルマンには隙がない。しかも狼を刺突する速さも徐々に上がってきている。

 そしてエルマンの刺突が狼の腕を掠めた。掠めた所から血が滲み出てくる。

 このままスピードが上がれば、防ぎきれなくなるのも時間の問題だ。

 だからこそ、この刺突を受け続けているわけにはいかない。狼は後ろへと跳躍しエルマンとの間合いをとる。

 エルマンとの距離が約10メートルだとして、一気に両者がぶつかりあえば、1秒にも満たない速さで衝突することくらい分かる。

 けれどエルマンが距離を縮めようとする動きはない。

『黒樹くん、今すぐ左のN地点に跳ぶんだ』

 狼はすぐに慶吾に指示された通りに跳ぶ。そして次の瞬間、狼がいたH地点から爆発が起こる。火力からしても威力からしても申し分ない程だ。

「あともう少しだったのに、残念だ」

 少し離れた所でエルマンが肩をすくめて、そんな言葉を吐いた。

 だがそれでも狼への攻撃が止んだわけでなはかった。

 狼が着地したN地点でも、爆発が起こる。その後も、狼が着地した場所で爆発が繰り返し、起こる。

 それを目にしながら、一つの可能性が狼の頭を占有した。

「もしかして、爆発してるのって僕の所為?」

 狼は自分の頭の中にある考えを口に出す。するとエルマンがニヤリと笑ったのが見えた。

 もしかしたら、さっきの繰り返されていた刺突は、狼への攻撃というよりも自分の技を仕込んでいた物だったのかもしれない。そして狼の腕を掠めたあの刺突で仕掛けは完了していたのだろう。そう考えれば狼が間合いを取った時に、距離を詰めて来なかったのも頷ける。

 これでは他の選手との連携も取れない。

 どうする?

 狼が着地した所で爆発が起きる。けれどずっと宙に浮いている事はできない。少なからず跳ぶ為の足場は必要だ。

 狼がその事に難色を示していると、狼の足元に細かい砂が集まってきた。

 その砂に気がつき、下を向けると周の姿が見える。

 自分の足元に集まってくる程度の砂を蹴りながら、狼はイザナギに因子を注ぐ。

 イザナギに因子を注ぐ中、下に見えるグランドでは大きな火花が散っていた。

 ホルシアと綾芽が交戦している。

 ホルシアの可変改造型BRVの刃が綾芽の横腹へと突き刺さるが、それを気にしていない様に綾芽が足を振り上げ、ホルシアへと直撃させる。

いや、直撃にはならなかった。

 素早い判断でホルシアが可変式BEVをシールドへと切り替え、綾芽の蹴りを受け切る。

「ほう・・・」

 短い感嘆が綾芽から零れる。

 その瞬間綾芽の身体から一気に因子が噴き出した。

 ホルシアもすぐにそんな綾芽から距離を取ろうとするが、綾芽の手や足は既にホルシアを捕らえていた。

 貫手でホルシアの首皮を裂き、拳で顔を殴打する。そして吹き飛ばされたホルシアの首を綾芽が鷲掴みにし、地面へと叩きつける。

「どうだ?はよ、妾から抜け出して見よ?」

 幾度となく、綾芽がホルシアを地面へと叩きつけるのを繰り返す。その度に砂埃が舞い、空気を鎮圧させる。

 そこに音無き刃が飛翔する。

「小賢しい・・・」

 そう呟いたのは綾芽だ。

 綾芽へと向かって一矢が飛んでいく。

 そしてその一瞬。

 綾芽が横目で視線を矢へと向けた瞬間、首を掴まれていたホルシアが身体を動かし、綾芽の横顔を足で蹴り上げた。凄まじい威力で綾芽が蹴り飛ばされる。

そんな綾芽にフランス代表候補生、ネージュ・ブノワの持つアーチュリー型BRVから放たれた一矢が綾芽を的とし、飛翔を続けている。蹴り飛ばされた綾芽は、まるで無防備だ。だがしかし、その矢が綾芽に当たることは無い。

矢の前に現れたのは、砂壁だ。それも巨大な。

 巨大な砂壁が矢を呑みこんでいく。だがその砂壁が次の瞬間、下から崩れていく。強固さを見せた砂壁が脆く崩れていく。

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ、ズウゥゥンといおう音を立てながら、土砂崩れの様になった砂壁を周が見る。

「水か」

 周がネージュに目を細めながら、呟く。

 あと一矢で、巨大な砂壁を脆くしてしまう程の水因子を凝縮させたネージュがニヤリと笑みを浮かべている。

「貴方に私は倒せない」

 ネージュの言葉は、表情の割に淡々とした口調だ。

 それは見栄でも何でもないだろう。彼女は確信してその言葉を吐いている。

「・・・では、その事実覆させてもらいましょう」

 そして周が操る砂と、ネージュが放つ水の矢が衝突し合う。

 周とネージュの攻撃がぶつかり合う中、綾芽から逃れたホルシアが、一気にBRVをソード型へと変換し因子を巡らせ、放つ。

 可変錬金 プラティーヌ

 ホルシアから放たれた白い斬撃が、グランド内に迸るとグランド内が、一瞬にして白銀の鋼の世界へと豹変する。

 グランド内にあった全ての物が鋼となる。

 見事に銀色の光沢を見せる鋼の世界に、狼は息を呑んだ。

「これって、一体・・・」

 初めて目にする銀色の世界は、選手である狼に関わらず観客たちの目をも奪う。

 そしてそんな銀の世界に、綺麗な歌が響き渡る。

 歌っているのは、フランスの陣地で最も旗の近く居るデエス・アモロスという女性選手だ。

「Les anges dans nos campagnes・・・・Gloria in excelsis Deo」

 フランス語で歌われる聖歌に呼応するかのように、フランス代表たちのBRVが光りを強める。

 美しすぎる光景と歌。思わず狼は自分が戦っているという事を忘れてしまいそうになる。

 だがそれはならなかった。

「日本の選手には、理解出来たかな?この美しさが・・・」

 声と共にエルマンの剣が、狼へと振り下ろされる。

 狼がイザナギでそれを受け止めるが、受け止めきれずに鋼へと変貌した地面へと叩きつけられる。

「かはっ」

 狼は地面へと叩きつけられ、口から血をむせ返らせる。

 強い衝撃で、狼が落下したというのに、地面には穴ひとつさえ空いていない。それに今や人間爆弾となった狼が触れているのにも関わらず、爆発も起きていない。

『この鋼が全てのエネルギーを吸い取ってるからかもね。それとさっき黒樹くんがエルマン選手の技を受け止め切れなかった理由も知っとく?』

「いえ、大丈夫です」

『そう。なら俺が言わなくても分かるよね?』

「はい。大体は予想がついてます」

 自分がエルマンの攻撃を受け切れなかった理由。それは紛れもないあの歌にあるはずだ。

 狼の考えが正しければ、あの歌はBRVを強化する役割があるのだろう。

 そのため、戦況が大きくフランス側に傾いてる。先ほどまで上手く攻防戦を続けていた周もネージュに押され始めているのが見える。

 狼は慶吾に言葉を返しながら、イザナギへと因子を注ぐのを止めない。

「條逢先輩は、向こうの情報操作士の居場所は分かりました?」

『まぁね。でもあんまり、俺たちに対して向こうの情報操作士は役に立たないかな』

「え?」

 狼がそう聞き返した瞬間。

 キィィイィィィイィイィイィィィイィィィィ

 という音が響き渡り、狼の意識がそちらに向かう。

 視線の先には先ほど蹴り飛ばされた綾芽が、ニヤリと笑みを漏らしながら手には、鋼と化したグラウンドを囲む巨大な壁の一部を手に持っていた。

 それをフランス陣営のほぼ中央へと向け綾芽が投擲する。投擲された鋼が地面の鋼を削り、細かい破片が辺りに飛び散る。

 だがそれだけではない。銀色の鋼が赤く熱を持ち、溶けだしている。そしてそれが粘着質の融解された液体へと変貌すると、まるで生き物のように風を切りながら、綾芽へと一気に向かって行く。

 それを発端に、狼たちの足元の鋼となったグランドもぐにゃぐにゃと動きだしだ。

「うわっ」

 いきなり動き出した鋼の足場が、次々と形状を変え円錐状の突起物が狼たちを襲ってくる。それを跳んで躱した所で、その突起物は自由自在の伸縮性で狼たち、日本代表を刺突せんとする。狼は出来るだけイザナギに溜めた因子を温存しながら、それらを躱していく。

 綾芽は自分へと向かって来る鋼を見ながら、逃げる事もなく笑みを浮かべ続ける。

 周りの空気が小刻みに震えだす。

 己の身体へと因子を流すのではない。むしろ逆だ。自分の体内で蓄積されていた因子を外へと放出し続ける。そして放出され続けた因子は、外気を炙り、破壊を引き起こす。

 帝血神技 絶鬼

 綾芽が技を繰り出した瞬間に、溶けた鋼が一気に綾芽を呑みこんだ。

 だが綾芽を覆い尽くした鋼の表面に、波紋が広がり、ボロボロと崩れ落ちて行く。

 そして鋼の中には、居るはずの綾芽の姿はもう既にない。

「クソッ。奴はどこへ行った?ギ―、すぐに見つけ出せ」

 ホルシアがフランスの情報操作士であるギ―・アラン=フルニエに指示を出す。

『ホルシア、それが奴の気配があちらこちらで確認されて、正確な位置情報が把握できない』

「なにっ?ならば・・・エルマン、ネージュは残った奴らを殲滅。デエスは二人の援護を。私は出てきたあの女を薙ぎ倒す!」

「「「はっ」」」

 ホルシアの言葉に三人が返事を返し、すぐに行動に出してきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ