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アストライヤー〜これは、僕らの世界と正義の物語〜  作者: 星野アキト
第6章 ~captured princess~
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瞳の中の決意

「おい、迎えに来たぞ」

 イレブンスがそう言いながら、ヴァレンティーネがいる部屋の窓ガラスを蹴破った。

 甲高い音を響かせながら割れた窓ガラスから部屋に入る。

 そして・・・居た。

 ヴァレンティーネはベッドで上半身を起こしながら、紅い目をぱちくりと瞬きさせながら驚いた表情をしている。

「イズ・・ル?」

 暗がりのためか、ヴァレンティーネの声には信じられない物を確かめる様な雰囲気があった。

「ああ、そうだよ。それとも俺と似た声の奴でもいたか?」

 冗談を言いながら、イレブンスがゆっくりとヴァレンティーネへと近づく。

 月明かりで照らされ、さっきよりも鮮明に見えるヴァレンティーネの表情は、すごく柔らかい笑顔だ。そう、とても彼女らしい、優しい笑顔だ。

 その笑顔に何とも言えない安堵を感じる。

 ああ、やっと連れ戻せる。

 その事が嬉しくて、嬉しくて堪らない。自分でも知らぬ間に笑みが零れていた様な気がする。

 イレブンスが自然とヴァレンティーネの頬近くに手を差し出すと、ヴァレンティーネが手を握り返しながらイレブンスが差し出した手に頬を摺り寄せてきた。

「ここにイズルがいるってことは、やっぱり外での騒ぎはイズルたちが起こしてたのね」

「まぁな。予想以上に人が集まって来たからな。騒ぎが大きくなった」

「お兄様とリーザも?」

「ああ、そうだ。何でもおまえの因子でドデカい事するんだと」

「そう・・・。私ね、実を言うと、自分の因子がどういう物なのか分かっていたけど、ぼんやりとって感じだから、自分でコントロールしたり、どうやって使えばいいのか分かんなかったけどね。でも、やっぱり薄々気づいちゃうものよね」

「そうだな・・・。それでおまえは、この事を聞いてどう思ったんだ?」

 イレブンスがヴァレンティーネの真意を確かめるように訊ねるとヴァレンティーネは少しこまったような表情を見せた。

「うーんと、単純な感情だけで言えば、お父様とお兄様に怒ってるわ。だって、すごく勝手だもの。私はあの二人のお人形じゃないわ」

「なら、決まりだな」

 イレブンスがそう言って、ヴァレンティーネの手を引こうとするとヴァレンティーネが首を横に振った。

「でもね、イズル。私はここに残る事にしたの」

 ヴァレンティーネから出た言葉にイレブンスは目を見開く。一瞬、何を言われたのか、理解出来なかった。けれど目の前にいるヴァレンティーネの悲しそうな表情が、現実を突き付けてくる。

 だが、そんなヴァレンティーネの表情を見ても、素直に頷く事は出来ない。

「ここに残る事にしたって、どういう事だ?俺がここに来るまでに、キリウスに何か言われたのか?」

 納得できない気持を抑え、出来るだけ冷静に訊ねる。するとヴァレンティーネが少しだけ顔を俯かせている。

 イレブンスは手を引こうとして握った手を、強く握る。

 するとイレブンスの意思が伝わったのか、黙っていたヴァレンティーネが静かに口を開いた。

「イズル、私すごく嬉しいの。イズルが、皆がここに来てくれた事が。ちゃんと私の事を必要としてくれてるって事が分かったから。だから、私もすごく皆の所に帰りたいって。イズルの近くに居たいって思うの。・・・でもね、私にはどうしても、お父様やお兄様を放っておくなんて、出来ないわ。それに私の力でお兄様たちが何かをやろうとしていのなら、それを止めることだって出来るかも知れない」

 そう言ったヴァレンティーネの表情は決意を固めた顔をしている。その表情にイレブンスは怒りにも似た悔しさを感じた。

「それを言われたからって、すぐに納得しろって?普通に考えて無理だろ。俺やマイア、向こうで戦ってる奴らだって、おまえを連れ戻す為に、戦ってるんだ。それなのに、それを全部無駄にするなんて、出来ない。絶対に」

 ヴァレンティーネを見ながら、そう言うがヴァレンティーネは静かに首を横に振るだけだ。

 どうすれば、ヴァレンティーネが帰ると言ってくれるのだろう?

 どうすればいい?

 イレブンスがそんな事を考えていると、ヴァレンティーネの手がイレブンスの手を握り返しながら、視線を合わせてきた。

 口は開かず、ただじっと見てくるヴァレンティーネの視線に、イレブンスは頭が冷えてくのを感じる。感じずにはいられない。それをさせてはくれない。

「一つ訊く。俺は今のおまえにとって必要か?」

 静かな声でイレブンスが訊ねると、一瞬ヴァレンティーネが目を見開いてから、静かに首を横に動かした。

 ただその時に握られた手は強く握られている。

 イレブンスが口を開こうとした瞬間、部屋の扉が吹き飛ばされ、イレブンスの声がかき消された。

 イレブンスが吹き飛ばされた扉の方に向き直り、89式小銃を構え、人影に向け銃弾を撃つ。

 一直線に相手の頭と心臓を狙った銃弾は、すぐに鎖のついた鎌で防がれた。

「マイア?・・・おまえ、何してるんだ?」

 真正面からこっちを睨みつけるマイアを、イレブンスはわけがわからない気持ちで見た。マイアの表情は、まるで最初に会った頃の様に冷たい視線で自分を射貫いてくる。

「貴様に答える必要はない。さっさと消えろ」

 マイアが刃を投擲し、イレブンスへと投擲された鎌は青光りする雷撃を放ちながら襲い掛かってくる。

 イレブンスは横へと跳びながら、それを躱す。

「マイア、いきなりどうしたの?」

 ヴァレンティーネもマイアの行動に驚きながら、声を上げた。

「安心してください。ティーネ様に危険が及ぶ事はありません。それと早急にJ―11を排除します」

 すると、ヴァレンティーネの周りに電流の柱が六角形型に立ち、柱の間にも微弱の電流が流れている。

 そんな防衛網をヴァレンティーネの周りに張り巡らせながら、イレブンスへと雷撃を走らせる。

 イレブンスは自分へと向かって来る雷撃を、撃墜し攻撃を往なす。だがその胸中は穏やかではない。目の前で自分を言葉の通り排除しようとしてくるマイアを見て、動揺が身体に走り、動きを鈍くさせる。

 鈍りは油断を作る。

 そのため、身体にマイアが放った雷撃が直撃し、身体を激痛が襲った。その痛みに顔を歪ませながら、窓から外へと出る。

 イレブンスを追ってくるように、マイアも窓から出てきて落下しながら、追撃を加えてくる。マイアから放たれる電槍は容赦なく、イレブンスへと降り注ぐ。

 それを真正面から銃弾で打ち抜き、霧散させる。

「いきなり、どういう事だよ?」

 自分の後を追ってくるマイアに向かってイレブンスが叫ぶ。

「キリウス様からの命令だ。おまえを殺せと。だから私は貴様を殺す」

 マイアの鎖鎌をイレブンスの頭上で円を描く様な軌道を描くと、そこに円環状となった雷撃が降ってくる。だがその雷撃はイレブンスの真横を過ぎ去ると地面に向け、一直線に落下していく。そして地面へと衝突した円環状の雷撃は、衝突した瞬間地面を削りながら、その威力を消失することなく、形を変え太い針山の針の様にイレブンスを刺突しようとしてきた。

「変な小細工しやがって・・・」

 イレブンスは身を捻りながら身体へと因子を流し、飛んでくる針状の細かい雷撃を耐え防ぐ。幾つもの衝撃が身体を揺さぶるが、ダメージまでには届かない。未だにマイアからの攻撃は続いている。だが反撃する気力がどうしても湧いてこない。

 ヴァレンティーネからの拒絶の事もある。それにマイアが自分を襲ってくる理由に納得出来ていない。仮面舞踏会会場で別れるまで、マイアは自分と同じくヴァレンティーネを連れ戻そうとしていた。それなのに今はまったく逆の事をしている。きっと自分と離れた時にキリウスと何かあったのは明白だろう。

 だが、それにしてもマイアの態度が急変したように見える。その理由が分かるまで攻撃はしない。

 イレブンスは出来るだけマイアと一定の距離を保ちつつ、飛んでくる攻撃を躱す。

「おい、マイア。おまえが何をキリウスに吹き込まれたかは知らないけど、俺も簡単に殺される気ないからな」

 向かって来るマイアへとレブンスが言葉を投げる。

「それでは困る。それでは私の中にある恐怖が治まらない。・・・私は死にたくない」

 マイアは表情を歪め、最後は懇願するかのように叫んできた。マイアが叫んだ瞬間、巨大な稲妻が吹き荒れ、辺りを破壊している。

 イレブンスはその稲妻から避けながら、まだ壊されていない屋根の上へと着地する。

 マイアも少し離れた所に着地すると、イレブンスと向かい合う様に立ち、そして一気に屋根を蹴った。そしてイレブンスへと瞬時に肉薄してきたマイアは、鎌を手で持ち斬りかかってきた。イレブンスもすぐに銃を盾にし、それを受け止める。

 マイアが鎌に因子を流して、力任せに押し切ろうとしてくるのが分かる。

「いきなり、力技かよ?さっき、おまえ死にたくないとか言ってたけど、俺を殺さないとおまえを殺すとでも言われたのか?」

 銃と鎌で押し合いをしながら、マイアに声を問いかける。これでマイアが集中を切らす事はあり得ないとは思うが、イレブンス自身、マイアと戦う前に他のナンバーズとも戦っている為、因子も体力も疲労している。そんな自分に比べるとマイアはまだ、因子の面でも体力の面でもまだ余裕があるはずだ。そんなマイアと押し合いを続けるのは、後々イレブンスの方が不利なる。その為、すぐにでもマイアを押し返し、距離は欲しい。

 そのための声掛けだったが、マイアは表情を変えず押し合いを続けてくる。

 イレブンスは出来るだけ銃を構える手に因子を流さず、横隔膜の方へと因子を流す。そしてそのまま静かに息を吸い込む。静かに息を吸いながら、静かに因子も腹部へと流し込む。

 そして息を吸うのを止め、吸った息を吐き出す様に腹部へと溜めた因子を声という振動にする。

「はあっ」

 イレブンスが放った鯨波が、振動となりマイアを吹き飛ばす。イレブンスは少し後ろへと後退する。マイアも宙で回転しながら屋根に着地した。

 二人が着地した次の瞬間、イレブンスとマイアの元に熱線を放つ巨大な光と共に爆砕の音が耳に届いてきた。

 光と音がした方に振り向くと、そこは先ほどイレブンスがナンバーズたちと戦っていた場所だ。イレブンスの額に嫌な汗が浮かぶ。

 イレブンスがすぐに跳躍しよう足に力を入れる。

「待て!」

「なんだよ?今はおまえと戦ってる場合じゃない」

 イレブンスがそう言い放ち、跳躍しようとした瞬間、眼前にマイアの鎌が飛んできた。

「邪魔するな」

「行くなっ!」

 イレブンスの怒鳴り声と声を張り上げたマイアの声が重なる。だが、そんな声を上げたマイアも狼狽している。

 なんなんだよ?いったい・・・

 マイアの取る行動の意味が分からず、イレブンスは困惑した。

 だが困惑している場合じゃない。今もなお中庭の方では爆砕が続いている。

「・・・悪い」

 狼狽しているマイアに一言そう言い、イレブンスは爆音が続く方へと向かう。操生たちがいる中庭へと向かいながら、イレブンスは歯軋りをした。

 苛々する。

 自分は何の為にここまで来た?ヴァレンティーネを連れ戻す為に来たんじゃないのか?それなのに、ヴァレンティーネを連れ帰ることも出来ず、自分を襲ってくる理由もわからないままのマイアと戦った。

 そして最後はこの様だ。

 最悪すぎて、怒りが込み上げてくる。

 その怒りと共に、イレブンスは自身のBRVである和弓を構える。そして弦を強く引いた。

 空間変奏 梓弓

 イレブンスが放った弓が、爆砕を引き起こすドーム型に広がる熱エネルギーに向け飛んでいく。

 イレブンスが放った弓は、ドーム状の熱エネルギーへと接触し、ドーム状の表面がシンクホール現象を引き起こしたかのように、中心部からどんどん沈んでいく。そしてそのまま穴が開いた部分から飽和状態となった風船の空気が抜けるように、高熱エネルギーが大気中に霧散していく。熱風が建物の壁の表面を焼く。あちらこちらで火災が起こる。イレブンスはすぐに中庭の方へと何も考えず駆けた。



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