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アストライヤー〜これは、僕らの世界と正義の物語〜  作者: 星野アキト
第6章 ~captured princess~
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悪夢

「入れ」

 会場にいたスタッフの男が木の扉を開きながら、マイアにそう言った。

 イレブンスへと離れ、マイアが会場内を歩いていると、目の前にいる男が近寄ってきて、「キリウス様がお呼びだ」と言われ、ここまで連れて来られたのだ。

 男に従い部屋の中へと入ると、真正面にテーブルの前で座るキリウスがいた。

 キリウスが後ろの男に向かって、目で合図を送ると男は一度キリウスに向かってお辞儀をし、部屋から去って行った。

 扉が閉まり、マイアがキリウスの方を見ながら突っ立っていると、キリウスが口を開いた。

「一つ訊こう。何故命が助かっていたのなら、すぐに立ち去らなかった?命令したはずだ」

 淡々としながら威圧的な言葉は、マイアを委縮させる。

「それは・・・決めたからです。ここにいるティーネ様を連れて帰ると」

 畏縮しながらも、マイアははっきりとそう言った。

 するとキリウスがうんざりとした顔で溜息を吐く。

「貴様、何を思い上がっている?貴様が従うべきは貴様の感情ではない。貴様が服従すべきは我がフラウエンフェルト家だ。つまり、私だ」

 確かにそうだ。

 そんな事は、とうの昔にマイア自身が重々に承知している。それなのに、返事ができない。

 まるで動き方を忘れた人形の様に、マイアは固まって動けなくなってしまう。

 戻る事はできない。

 誓ったからだ。

 一緒にヴァレンティーネを連れ戻すと。

 誰かに言われたわけでもなく、自分の意思で。

 だから、ここでキリウスの言葉に従う事は出来ない。

 マイアが沈黙していると、キリウスが徐に椅子から立ち上がりマイアへと近づいて来た。

 そしてマイアの横まで来ると

「人形が持たなくても良い感情という物に翻弄されているのなら、それを直さなくてはいけない、通常に動けない人形など、ガラクタに過ぎないからな」

 直す?

 その言葉で自分に何か重い物が圧し掛かってくるような感覚に襲われる。

 確かに以前は人形の様に、動いていたかもしれない。だが今は前とは少し違う。

 そうだと信じたい。

 手に力を入れ、マイアがキリウスを睨む。

 そんなマイアを見て、キリウスは淡々とした口調でこう言った。

「マイア、そんな強気な態度を見せた所で、状況は何も変わりはしない。何故なら貴様が今抱いている感情は私に対する畏怖だ。そしてその感情が人間を操る上で一番便利な感情という事を知っているか?」

 キリウスが耳元で囁いてきた言葉に、マイアが瞳を大きく見開く。

 そして瞳の中に映ったキリウスはひどく冷めた表情をしていた。

 キリウスの手がマイアの頭へと伸び、マイアの頭を鷲掴みにする。

 頭がガンガンと痛む。昨日も同じような痛みを感じた。頭を鈍器で叩かれたような痛みで目を強く瞑る。自分が今何をされているのかが、わからない。理解出来ない。

 怖い。

 見る見る内に膝が笑い、身体が震えだす。まるで自分の中に存在する恐怖が全て剥き出しにされるような感覚がマイアの頭の中で広がっていく。

 恐怖に浸食されていく。

「あ、あ、・・・」

 恐怖の余り、哀れもない声がマイアから漏れる。

 どうして、自分がこんな声を出しているのかわからない。

 ただ喉が引き攣って、上手く言葉が出ない。

 それに追い打ちを駆けるように、キリウスがBRVを取り出し、躊躇いもなくマイアの方へ突き出した。

 身を震わせ身構えたが、キリウスのBRVはマイアの顔を少し掠めただけで、突き刺さりはしなかった。だが、その代わりにキリウスがマイアを嘲笑うかのような笑みを見せた。

「安心しろ。さっきのは未だ単なる脅しだ。だが次に命令に背いたら、どうなるかは理解しているだろうな?」

 そう言ったキリウスが扉の方に向け、剣を投擲する。

 すると投擲された剣は扉を突き抜けたかと、思うとマイアをここまで連れ着てきた男の呻き声がマイアの耳に届いた。

「次は貴様がこうなる」

 横目でジロリとマイアを睨みながら、キリウスが見せつけのように、扉に刺さった剣を抜き、赤く染まった刃を払う。

 マイアはそれを見ながら、膝から力が抜けるように床に座り込んだ。

 ああ、どうしてだろう?

 怖くて、怖くて堪らない。この恐怖に逆らえる気がしない。

「もう、貴様は恐怖に憑りつかれた・・・もはや、その感情からは抜け出せないだろう。そう、貴様が以前の様に、ただの人形に戻るまではな」

 そしてマイアの横を過ぎ、椅子に座ろうとしたキリウスが足を止め、虚ろな表情のマイアを無情な言葉で突き刺した。

「マイア、あの男を殺せ」



 イレブンスはⅥと別れ、操生の案内でワルシャワ支部内を進んでいた。支部の内部は国立劇場を兼ねているだけあって、大理石で出来た柱や、廊下には絨毯まで敷かれている。

 これだけ見たらとても、反逆者たちの支部に使われているとは思わないだろう。

「やけに静かだな」

 自分たち以外の人影を見かけない廊下を見ながら、イレブンスが呟いた。

「そうだね。でも、それは当然だよ。ここで下手に暴れられて、保管している研究データでも吹っ飛ばされたら堪らないだろうからね」

「研究データって、nil計画って奴のか?」

 イレブンスがそう訊ねると、操生がこくんと頷いた。

「そうだよ。よく知ってるね。」

「まぁな。おまえんとこのⅥから訊いた。それにE―10たちも崇高だのなんだの、言ってたからな」

「そうだったのか。まぁ、nil計画っていうのは、簡略的に言うとアストライヤー側から因子を無くすという計画だよ。私もこの内容はちょっと前に調べて知ったんだけどね」

「因子を無くす?」

 聞きなれない言葉に、イレブンスが眉を寄せる。

「訊きなれないかもしれないけどね。出来るんだよ。東アジア地区のボスの因子を使えば」

「嘘だろ?」

 まさか、ヴァレンティーネにそんな特殊な因子を持っているとは、思いもしなかった。それだったら、泳ぐのが速かったり、腕相撲が強かったりなど、見かけに寄らず運動能力が高かったため、肉体強化系の因子を持っていると言われた方が、すんなり頷ける。

「因子を使えなくするって、チートすぎるぜ。そんな事が出来んのかよ東アジア地区のボスは」

「いや~、まいったね。美人の上にそんな因子持ってるなって、さすが俺のボスだ」

 感嘆しているのか、呆れているのか分からない感じの11thに続いて、セブンスが顎に手を当て、すまし顔をしている。

「おまえのじゃないだろ」

「なんだよ?俺とボスの熱い中に、イレブンス(おまえ)、嫉妬してるのか?」

 目を細めたイレブンスに、セブンスがニヤリ顔をしてきた。

「違う。別にそうじゃない」

「またまた~。F―11もだけど、11って嫉妬焼きが多いのかねぇ」

「おい、何でそこで俺の事まで出てくんだよ?」

 11thがセブンスをギロリと睨むと、セブンスがそれを無視して

「だって、そうだろ?F―11は、E―5に惚の字だから、イレブンスのこと気に入らないんだもんなー。おい、イレブンス、おまえも何とか言ってやれよ」

 セブンスが棒読みな口調でそう言ってきた。

 そのため、イレブンスが割と真剣に驚きながら

「・・・・おまえ、好きなのか?操生の事?」

 11thに向かって訊ねると、明らかに11thが動揺したのがはっきり分かった。

 それを口火に、騒ぎ出しそうなメンバーが次々と口を開く。

「あーあ、皆にバレちゃって、アンタどんまいね」

 1stが11thの肩を叩きながら

「やっぱりね。だと思った」

 サードが興味津々という感じで

「なるほどな」

 後から合流してきたテンスが納得したように

「若いねー」

 フォースが茶化す様にそんな事を言っている。

 フィフスがおかしそうに笑っているが、後のナインス、エイス、シックススは興味がないように気にしていない。

 そして極めつけは・・・

「そうだったのかい?知らなかったよ。でも悪いね。私は出流にフォーリンラブ(Fall in love)さ」

 と操生がウィンクを11thに向かって、飛ばした。

 ポップな感じで、操生にフラれた11thは口をあんぐりとさせている。

「Don’t lie・・・(嘘だ・・・) It is nightmare (悪夢すぎる)」

 英語でそう呟きながら、精神的衝撃から立ち直れないのが窺える。

 そのため、イレブンスはあえてこれ以上は触れまいと決めた。

 だが、セブンスやテンスが11thを真ん中で挟み、

「ここで負けたら負けやで?男やったら「おまえを絶対物にする」くらいの意気込みを見せえーや」

「そうだぞ。女性を落とすには時に強引に押したり、時に引いたりして、上手く微調整をかけるのが必要なんだ」

 と偉そうに説教を始めているが、足を動かしながらも放心状態の11thには届いていない。

 イレブンスたちが支部の奥にあるという、ヴァレンティーネがいる部屋まで急いでいると、外が急に明るくなり、花火が上がったかのような音が聞こえた。

 それと同時に外側の窓が一斉に、割れ飛び散った。

「いきなりかよ!!」

 イレブンスがそう叫びながら、11式小銃を復元し外に居た戦闘員に向け発砲する。

 他のメンバーもBRVを復元し、戦闘態勢に入る。

 そんなイレブンスたちの前方から、ゆっくりと近づいてくる気配があった。

「やぁ。Ⅶ。随分と豪快な出迎えじゃないか?」

 操生が薙刀型のBRVを構え、Ⅶに笑みを浮かべる。

「外で待機している者達には、もっと銃弾を節約しろと言ったのに・・・まるでわかってない奴らだ。それにしてもⅤ、何故君はそちらにいるのか、説明してもらおうか?」

 片手に鎖で繋がれた黒い鉄球型のBRVを持ちながら、Ⅶが操生を睨む。

 睨まれた操生はそれでも、あっけらかんとした表情で

「女性が愛する者のために戦うのはいけない事かな?それと、君のBRVは屋内で使うには、少々物を壊し過ぎてしまうだろ?それでは研究データにもしもの事があった場合と、向こうにいるゲストたちが騒ぎだしてしまうよ?」

「愛の為か。まったく呆れた理由だな。それとⅤ、君が心配している研究データや向こうにいたゲストの事なら問題ない。ボスからもう許可は降りているし、向こうにいたゲストも早々にお帰り頂いたよ」

 そのためか。

 今に至るまでに、自分たちを待ち受ける戦闘員ですら居なかったのは。

 辺りが静かすぎた理由に納得しながら、前方から投擲された鉄球を避ける。躱された鉄球は盛大に割られた窓の窓枠をぐっしゃっと折り曲げながら、壁ごと破壊する。

 破壊された壁の破片が当たりに散乱し、それにより巻き上がった砂埃が視界を遮る。

 そしてイレブンスの視界が遮られた瞬間、お腹の鳩尾にⅦが投擲した鉄球が直撃し、口から血が溢れ出す。しかもその衝撃により、破壊された壁から中庭へと吹き飛ばされた。

 真正面から吹き飛ばされ、背中から地面へと埋もれるように激突したイレブンスは体中の骨が軋むような痛みが全身に走る。体が悲鳴を上げている。

 だがまだ気力は死んでいない。

 なら自分はまだ動ける。

 イレブンスは口に残った血を吐き出すと、建物の屋根の上からこっちに照準を合わせてきたⅪに11式の銃口を向けた。

 その隣には、デュランダルを持ったⅩもいる。

「もう、本当に困った子ね。大人しく自分の地区に戻ればいいのに。東アジア地区のナンバーズばかりか、F―1と11まで引きつれてきちゃうなんて」

 そう言いながら、Ⅺが愛銃からイレブンスの頭、手、足、胴に向け5.56×45㎜の銃弾が連射される。しかもその銃弾は躱されにくいように、わざわざビリヤード撃ちを応用して、四方にある壁で跳ね返りながら、イレブンスの元へとやってくる。

 イレブンスはすぐに目で最初に撃った四発とそれの保険のつもりなのか、あとから来るに初の銃弾を目で追う。

 イレブンスは、F2000のアサルトライフルを復元し、11式小銃と合わせて銃弾を放つ。

 一方は飛んでくる銃弾を撃ち落とす為に。もう一方はⅪとⅩを撃ち落とす為だ。

 Ⅺの銃弾を撃ち落とした音と共に、イレブンスの顔を相手の銃弾が掠めて行く。

 さすがにビリヤード球みたいに動く銃弾をミラー撃ちするのは、きつい。

 だがその時、ⅪとⅩの周りの空間が歪み始めた。

 空間変奏 小糠雨(こぬかあめ)

「この技嫌いなのよね~」

 そう文句を漏らしながら、細かい雨の様に飛び出してくるイレブンスの弾をⅪ素早い連射で撃ち落としていく。

 Ⅹも降りかかってくる銃弾の運動時間を止め、防いでいる。

「では、こちらからも行かせて頂きます」

 イレブンスの銃撃を防いだⅩが屋根を蹴り、真っ直ぐにイレブンスの方に向かって来る。

「おっと、このまま彼に突撃させるわけにはいかないよ」

 イレブンスへと向かって飛んできたⅩを操生が薙刀で、振り払う。振り払われたⅩが地面へと着地し、少し離れた所に着地した操生を訝しみながら睨む。

「人を睨んでばかりいると眉間に小皺が増えるよ?」

「そんな安い挑発には乗りません」

「女性である、私達からしたら小皺が増えると言うのは死活問題だと思うけどね」

 そんな軽口を叩きながら、操生が薙刀を構えながら跳ぶ。

 薙刀技 (けん)()

 薄桃色の淡い光を放つ突きの斬撃がⅩの身体を切り裂いていく。そして今まで突きの仕草から、下から斜め上へと刃を払う。

 その払いをⅩがデュランダルで受け止めた。

「貴方は少し、私を侮り過ぎです」


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