表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アストライヤー〜これは、僕らの世界と正義の物語〜  作者: 星野アキト
第6章 ~captured princess~
119/493

マスカレイド

 午後二十時、国立劇場。

 Ⅸから受け取った招待状に指定されていた準礼服に着替え、受付に舞踏会で着ける仮面を受け取る。

 顔の大半を覆う仮面をして会場に入ると、もうそこには大勢の人が集まっていて、色々な所で男女が飲み物を片手に談笑をしている。中には、隅の方で固まり話し合っている連中もいる。

 会場内は薄暗く、広い会場内を照らしているのは、豪華にクリスタルなどがあしらわれた蝋燭のシャンデリアだ。

 そのほかには、机に置かれたキャンドルで、手元を淡い明るさで垂らしているだけだ。

 それに加え、皆が仮面をつけた格好。

 怪しさこの上ない感じの雰囲気を醸し出している。

 ここにキリウスの奴は、来てないだろうな。

 周りを見渡しながらイレブンスがその事を確認していると、

「ここにキリウス様はこない。来るとしたら幹部の連中だろう」

 イレブンスの内心を読み取ったかのように、マイアが答えてきた。

 マイアは胸元が開けた黒いイブニングドレスを着ている。ちなみにこのイブニングドレスはフィフスに選んでやれと言われたため、イレブンスが選んだ。

 そのイブニングドレスを着こなしているマイアは周りにいる男性からの視線を集めている。

 だが当の本人はまったく気づいていない様で、気にしていない。

「幹部か。幹部クラスに因子を使える奴って少ないだろ?だったら、少し脅して支部の方に入るか?」

「そうだな。幹部と言っても軍関係者の上層部の奴らだ。そいつらを幹部に置くことで、物資や大陸内の移動などの援助を受けているからな」

「だから、偉い地位を上げましょうって?」

「そういう事だ」

「アホくさ」

 因子がないため、戦場に行くこともなく悠々と地位からなる恩恵を浴びている幹部たちに、イレブンスは少しの理不尽さと呆れを覚えた。

 だが、自分も間接的にその者達からの優遇を受けているのだから、皮肉にも持ちつ持たれつの関係になっているということだ。

 つまり、今の自分は自分自身を幹部の奴らに担保しているという感じだ。

「よし、じゃあ俺は向こうを見てくるから、マイアはあっちな」

「わかった」

 そしてイレブンスがマイアとは離れ、辺りを見回す。

 辺りには仮面をつけたゲスト同士がワイングラスを片手に陽気に話している。きっとどこかの大手企業の関係者や政府関係者、芸能関係者だろう。

 豪華なイブニングドレスに身を包んだ女に対して、自分を驕心している口調で男が会話を続けている。一方で話をされている女は感心したような声を上げているが、内心の程はわからない。

 似たようなやり取りをしている様子があちらこちらで見受けられる。

 ったく、幹部たちはどこに居るんだ?

 中々それらしき、人物が見当たらない。

 仮面を付けていると言っても、大体はその人物が醸し出す雰囲気でわかる。やはり軍人は、企業家とも政治家とも芸能人ともまた別の雰囲気を持っているからだ。

 さすがに薄暗い中で、仮面をつけた奴がわんさかいる場所で人を捜すのはきついかもしれない。

 こんな所で時間を取られたくないっていうのに。

 じれったさにイレブンスが舌打ちすると、誰かと肩が当たった。

「Sorry・・・(すみません)」

「No Problem(問題ありません)」

 肩が当たった男が軽く謝ってきた為、イレブンスも返事を返すと男が一瞬首を傾げた様に見えたが、すぐにどこかへ歩いて行ってしまった。

 さっきの何だったんだ?

 男の行動の意味が分からず、イレブンスも首を傾げていると、後ろから腕を掴まれた。

「なっ」

 イレブンスが驚きながら後ろを振り返ると、そこには綺麗な黒髪を舞踏会様にアレンジし、深紅のイブニングドレスに身を包んだ女が口元に微笑みを浮かべて、笑っている。

 黒髪に、微かに香る甘い匂い。

「おまえ・・・」

 イレブンスが口を開こうとした瞬間、口元に指を当てられた。

「ここでは名前を言ってはいけないよ。ルールをなんだからね。それじゃあ、せっかくの舞踏会だし、一曲踊ってもらえるかな?」

「踊るって、俺がどうしてここに来たか分かってるんだろ?」

 イレブンスの手を引きながら歩き出す操生を止めようとするが、操生はまったく聴く耳を持っていない。

 そしてそのまま、会場の中でゲストがダンスを楽しめる様になったダンスホールへと連れて行かれた。

「そうだね、君が素敵に私をエスコートして踊ってくれたら、この中を案内してもいいよ」

 つまり、操生がここの会場から支部へと案内してくるという事だろう。

 この手に乗らないわけには行かないだろう。

 操生の奴、何を考えてるんだ?

 そんな疑問を浮かべながら、マスカレイドでのダンスが始まった。クラシック音楽に合わせて、周囲が踊り始める。

 イレブンスも操生の腰に手を当て、操生もイレブンスの肩に手を置いた。

 そして優雅に流れる曲のリズムに合わせて二人も踊る。

 トゥレイターでもこういった場所に潜り混んで諜報活動をすることもある。そのため基本的な動きだったら踊れる。

 操生も馴れた足取りで、リズムを刻んでいく。

「こういうのも良いだろ?」

 そう言って、操生が無邪気な笑みを見せてきた。心の底から喜んでいる事が分かり、自然とイレブンスにも笑みが浮かぶ。

 その所為か、懐かしさと共に温かい気持ちになった。それと同時に安心した。

 パレルモ支部で会話した時も思ったが、操生は昔のままの、自分がよく知る操生だ。

 どこか的の外れた事をいう時もあるが、基本は真面目で優しい。

 そういう所が好きだったのだと思う。

「でも、よかったよ。君が変わっていなくて・・・」

「そうか?俺もおまえとまるっきり同じ事、思ってた」

「奇遇だね」

「奇遇だな」

 そう言って、笑みを零し合う。



 楽しそうに踊る二組の男女を、苛々としながら一人の男と一人の女が見ていた。

「やっぱり、あのヤローだったのか・・・ありえねぇ・・・」

「何なの?あの女?なんであたしのイレブンスと踊ってるのよ?」

 そう呟いた男女がお互いの顔と向き合う。

「この声・・・まさか・・・J―3?」

「あ、アンタ、F―11ね?受付の所で離れたっきり姿が見えなかったから、てっきり、どこかで女と油売ってるのかと思ってたけど、こんな所にいたんだ」

「誰が女と油なんか売るかよ?おまえんとこのセブンスじゃないからな」

 皮肉を言いながら、多数の女性を同時に口説いているセブンスの方を見た。

「あれは、ただの女好きじゃない。あんなのに引っ掛かってる女の気がしれないわ」

 呆れたようにサードがそう言った。

「それにしても、どうしてE―9は、俺たちに招待状を渡してきたんだ?俺たちがやろうとしている事くらい、分かってるはずだろ?」

 11thは、欧州地区のⅨが自分たちに招待状を渡してきた事を、ずっと疑問に感じていた。Ⅸは、ドイツ人らしい謹厳実直な性格で、戦略指揮力も抜群の男だ。

 そのため欧州地区の幹部からの信頼も厚いらしい。そんなⅨが今回の事を知らないわけがない。

「まったく同感だな。俺もそこは気になっていた所だからね」

 そう言いながら一人の男が近づいて来た。

 仮面をつけているため、一瞬誰が話しかけてきたのかサードと11thには分からなかったが、男が徐に5本の指を立てた。

 東アジア地区以外の5の数字は、女性しかいない。

 そのおかげで二人は目の前の男が誰なのか分かった。

「J―5か。なんだ、おまえもE―9から招待状をもらったのか」

「ああ、そうだ。あっちからの申入れでね」

 11thとフィフスがそんな会話を交わしていると、サードが鼻で笑った。

「アンタたちは無知ね~。当たり前じゃない。E―9はあたしのバディであるナインスの同胞だもの。彼も元ナチス家系でSSの親衛隊大将の家らしいわよ」

「ナチスのSSか。また偉い家系だね。まぁ、それでナインスに忠誠を誓ってるわけか。確か彼らのモットーはMeine Ehre Heiβt Treue(忠誠こそが我が名誉、我が名誉は忠誠を宣する事)だっけ?それを未だに続けてるなんて、さすがとしか言いようがないな」

 フィフスが肩を竦めて、Ⅸの忠誠心の高さに感嘆した。

「そのおかげで、ここにもすんなり入れたけどな。・・・なんでアイツは呑気にあそこで踊ってるんだよ?」

「そうそう。あたしにとっても凄い気に障る光景なんですけど?」

 11thはイレブンスたちを睥睨(へいげい)しながら、隣のサードは両頬を膨らませながら不満を漏らしている。

 そんな二人を見て、フィフスがすまし顔で

「けっこうお似合いじゃないか」

 と言うと、さらに二人の顔が不機嫌な顔になる。

「NO,NO、ありえない。あんなの認めない」

 サードが頭を抱えながら、悶絶している。

「これがワルシャワ支部じゃなくて、別の場所だったらあのヤローの頭を吹き飛ばしてるんだけどな」

 悔しそうな表情で11thが悪態を吐く。

 そんな二人を見て、フィフスはクスリと笑った。

「それじゃあ、じゃあ本人に直談判でもしたらどうだ?」

 そう言った、フィフスが曲が終わり踊るのを止めたイレブンスたちの所へ向かって行った。

「フィフスの奴、また避けない事を・・・」

 苦い顔で11thが呟いている内に、イレブンスたちを引き攣れたフィフスが戻ってきた。その顔は不敵に笑みを浮かべている。

「ほら、彼がおまえに伝えたい事があるらしいよ?」

「俺に?って、おまえさっき人の顔見て首を傾げてきた奴」

 まだこの状況を把握していないのか、イレブンスが首を傾げている。

 すると、そんなイレブンスの腕に隣にいたはずのサードが抱きついた。

「もう、あたしとういう者が居ながら、他の女と踊るなんてぇー。ムキィィィ」

「その声は、サードか!」

「うん!イレブンスが心配で手助けしに来ちゃった。あっちにフォースと馬鹿セブンスがいて、向こうにナルシシックススがいるよ。ナインスはE―9と話すから別の部屋。・・・それにしても、何でいきなり私の知らない女と踊ってるの!?」

 サードが金切り声を上げながら、操生を指差した。

「そうか。おまえ、みさ・・・いや、E―5とは初対面だったっけ?」

「へぇーあんたが、E―5なわけ?でもね、そんなの今はどうでもいいもん。今重要なのはあたしのイレブンスと楽しそうに踊ってんのよ?」

「そんなの親しいからに決まってるだろう?君も早くJ―11から離れるべきだと思うよ?」

 操生の口元は笑っているが、口調は冷たい。

 そんなやり取りをしているサードと操生を差し置き、11thが口を開いた。

「おい、テメェー、ここまで来て何楽しんでんだよ?」

 11thがイレブンスを睨む。

「おまえ、F―11か!なんで、お前がここに居るんだよ?」

「はっ!俺だって来たくなかったよ。テメェーの厄介事に巻き込まれたくないからな。知りたかったら、俺の馬鹿なバディに訊けよ」

「その馬鹿に付き合ってるのは、どこのどいつだ?」

「うるせー!!テメェなんか、欧州地区のボスに八つ裂きにされて来いよ」

 11thがイレブンスを野次るが、イレブンスは嘲笑している。

「やれやれ。困った二組だ」

 そう口では言うものの、フィフスは口元に笑みを浮かべている。

「おー、何か馬鹿な奴らがいるとおもったら、おまえらか」

「「馬鹿はお前だ」」

 気分上々で近づいて来たセブンスに、イレブンスと11thが声を揃えて言った。

「あれまー、声まで揃えちゃって、いつの間にそんなに仲良くなったの?」

 それを言ってきたのは、仮面をつけ無精髭を生やした男だ。

 だがその人を諧謔したような口調ですぐに、フォースだという事がわかった。

 その後ろには後ろで溜息を吐いている男もいる。

 その男は溜息を吐きながら

「俺、仮面をつけるの嫌いだってーのに。俺の顔が全然見えねぇーし」

 ぼそりと呟いた。

「シックススか」

 イレブンスが呆れた声でそう言った。

「おい、おまえが不明な事するせいで、俺たちまでとばっちりだし。どうしてくれんだし?」

「知らんわ。そういえば、ナインスは別の部屋に居るとして・・・ファーストは?」

 辺りを少しキョロキョロとしながら、フィフス以外の東アジア地区メンバーに訊ねた。

 すると東アジア地区のメンバーが顔を見合して

「あれ、いつから居なかったっけ?」

「さぁ、おじさん知らない」

「男に興味なし」

「俺以外の事なんか、眼中にねぇーし」

 薄情な言葉を交わし合っている。

 そして・・・東アジア地区のメンバーが黙る事数十秒。

「もしや、置いてきた?」

 サードがそこだけ神妙な表情で、一つの可能性を口にした。そしてそれは十分に濃厚な可能性だ。

「そういや、アイツ飛び立つ前にトイレに言ってなかったっけ?」

 セブンスがそう言うと、サードが首を傾げながら

「そんな事言ってったっけ?」

 と記憶があやふやな感じだ。

 そんな二人の所に、Ⅸと話を終えたナインスがやってきた。

「確かに言ってたわよ。でも、アンタがそれを忘れてすぐに離陸し始めちゃったんじゃない」

「あれ?そうだったっけ?」

「まっ、大丈夫。大丈夫。ファーストだし」

 セブンスが呑気に笑いながらそう言っている。

 確かに問題はないだろうが、トイレに行ってて置いて行かれたって・・・、微妙な理由すぎる。

「そういえば、彼女は?」

「マイアの事か?」

「そっ。一緒に来たんでしょ?」

「ああ、最初はな、けど支部の方に行くために、ここに来てそうな幹部でも見つけるかって話に、別れたんだ」

 イレブンスがマイアと別れた経緯を話すと

「で?何でそれなのに、お前は呑気にEー5とダンスを踊ってるんだよ?」

 11thが目を細めてイレブンスを見ている。

「それは、ダンス踊ったら、E―5が支部を案内するって言ったからな」

 イレブンスがそう言うと、操生がコクコクと頷いた。

「なんだ、そんな手でイレブンスを釣ったのね」

 ニヤッと笑みを浮かびながら、サードがぼそりと呟いた。

「フッ。今の私は使える手段は使うだけだよ」

 サードの呟きに、操生がそう反論している。反論されたサードは短い声を上げながら、口をわなわなと無様に動かしている。

「おい、おまえら何ここで屯ってんだよ?」

 話に途中参加してきたのは、何故かナンバーズの所属着を着たE―Ⅵだ。

「おまえ、こんな所まで来て、それ来てんだよ?」

「あたしがドレスなんて着るわけないだろ。バーカ」

 呆れた顔でイレブンスが訊ねると、Ⅵが小生意気に舌を出してきた。

 だが、そんなⅥが何かを思い出したかのように手を叩いた。

「そういえば、あのおまえと一緒にいたロシア人女、アイツ会場のスタッフの奴らと、どっか行ったけど、またここで面倒な事やるんじゃないだろうな?」

「それ、本当か?」

 イレブンスが目を見開きいてⅥに聞き返す。

「本当だって。あたしがこの目で見たんだ」

 そう言うⅥは、疑われた事に不服そうな顔をしているが、今はⅥをかまっている暇はない。

 もしⅥが言う事が事実なら、マイアが一人でヴァレンティーネを救出しに行こうとしているということだ。

 それなら、早く自分たちも向かわねばならない。

「まったく、見かけに寄らずせっかちなんだね、彼女は。では私たちも行こうか」

 操生が短く息を吐いて、踵を返すと歩き出した。

「おい、Ⅴマジかよ?」

 Ⅵが歩き出した操生に慌てて、声をかける。

 声を掛けられた操生がⅥの方を一瞥してから、イレブンスの方に顔を向け

「約束だからね」

 そう言って片目を瞑った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ