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アストライヤー〜これは、僕らの世界と正義の物語〜  作者: 星野アキト
第6章 ~captured princess~
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鳴弦

 サードたちがパレルモ支部にやってきた頃、イレブンスたちはチェコへと入り、ブランスコ郊外で足止めを食っていた。

 足止めを食った場所は、郊外にある森の中だ。ブランスコへと北上している最中に脇道から突如として現れた人外に奇襲を掛けられたのだ。

「数が多すぎ。どうするの?」

「どうするの?って言われてもなぁ~。こんなに仰山いたら、進むわけにも行かないやろ?化物の中に突撃しに行ったイレブンスも暴れまくってるみたいやし」

「では、奴らを一匹残らず、殲滅するしかない」

 そう言ってマイアがエイスとテンスの横を横切り、目の前に軽く百はいるであろう化物へと地面を強く蹴り疾駆した。目の前にいる化物は腐臭を漂わせ、双方の紅い目をギョロギョロと動かしながら、雄叫びを上げている。化物近づいてくるマイアへと尖った爪を振り下ろしてくる。

 マイアは横へと跳び、そのまま化物の生物としては異常な甲殻の肌に覆われた腕を鎌で切り落とす。そこからドロドロとした血を溢すが、すぐに肉片がボコボコと気泡の様な物を出しながら、すぐに再生を始めている。

 やはり、首を落とさなければ駄目か。

 マイアはすぐに鎖の部分を自在に操り、鋭い刃で化物の首を刈る。

 化物が咆哮を上げる前に、頭が地面に落ちる。だがそれを確認する暇もなく東西南北から同じ化物がマイアへと突進してくる。

「やらせるかあああああああああああああああああああ!」

 その怒り狂った叫びと共に、次々と空間から飛び出す銃弾がマイアを囲んでいた化物たちの頭を吹き飛ばす。

 マイアが叫び声を上げたイレブンスの方を見ると、イレブンスはもうすでにこっちは見ずに、違う化物たちを薙ぎ倒していた。

 その目には憎悪と怒りしかない。

 化物たちは不規則に鋭く尖った爪と牙でイレブンスに襲いにかかる。だがイレブンスの足は止まらない。まるで何かに取りつかれたかのように、的確に化物を仕留めている。

 マイアも自分の周りにいる化物を殲滅しながら、何か胸が突っかかる。何か息が詰まるようなそんな感覚がある。

 だが何故そうなのるのか分からない。

 正体不明の化物たちに襲われているとはいえ、対処は出来る。周りにいるテンスやフィフス、エイスも化物の再生能力には顔を顰めているが、押されているわけではない。

 足止めは受けているものの、順調に事は進んでいるはずだ。

 それなのに、すごく嫌な気分になっている。

 それは化物たちから漂う腐臭の為か?無造作に散らかっている死骸の為か?いや、そうではないはずだ。

 自分がこんな化物たちの臭いや死骸だけで、気分を害すような事にはならない。

 では、やはり・・・、あの男の所為か?

 マイアは今もなお、荒れ狂う因子を流しながら化物を屠っているイレブンスを一瞥した。

 化物と対峙しているイレブンスは、今まで見た事ないほど怒りに満ちていた。

 どんなに化物の屍が増えようと、イレブンスの気が治まる気配はない。

「荒れてるイレブンスが気になるのは分かるけど、余所見には気を付けた方がいい」

 そう言って、後ろから唾液まみれとなった鋭利な牙でマイアに襲い掛かろうとしていた化物をフィフスが手刀で真っ二つに切り裂いた。

 そしてマイアの横に立つと、そのまま手刀で化物を牽制していく。マイアも化物の足元に高圧の電流を流し、化物の動きを止めたまま、放つ。

 電磁破壊 ペルン(雷神)

 高圧の稲妻が化物の身体を貫き、細胞レベルから全てを焼き尽くす。すると化物の身体が炭化し、ボロボロと土の塊の様に、崩れ落ちていく。次の攻撃へとシフトしようとしたマイアを後ろから、化物が鋭い爪を振り下ろしてきた。マイアはすぐに鎌の刃で化物の腕を切り落とし、化物の懐へと入る。そしてそのまま化物の頭を吹き飛ばそうとした瞬間、変化が起きた。

 その変化はすぐ後ろから来た。

 先ほどマイアが切り落とした化物の腕からだ。

 マイアが切り落とした腕は、地面に落ちたまま、まるでそれが単体かのように脈動を打つと、その腕が一気に破裂した。

 そして破裂した腕の破片がマイアへと飛来してくる。マイアはすぐに横へと跳び、それらを躱すが、細かく飛び散った破片を全て躱すことは出来なかった。

「くっ」

 マイアが短い呻き声を上げる。

 自分の身体に付着した化物の肉片は、まるで硫酸の様にマイアの衣服を焼き、肌を焼く。ジリジリとした痛みがマイアを苦悶させるが、ここで集中を途切れさせている場合ではない。すぐにマイアは化物の肉片が付着した所に、因子を流しこれ以上の被害を防ぐ。

「こんな事も出来るんか。厄介やな~」

 テンスがそんな愚痴を溢しながら、紙で作った鋭利な刀で化物を切り刻んでいく。だが、そこでマイアは異変に気付いた。

「数が減っていない?」

「いや、数が減ってないっていうより、元に戻ってるって感じ」

 訝かしむマイアの呟きに、エイスが答える。

 能力に制限があるエイスは、汎用型のサバイバルナイフを使い化物たちに対応しているが、一撃で化物を仕留めるまでには至っていない。因子を抑えての攻撃では、化物の再生能力に追い付けていないからだ。

「数が戻っているとは、どういう事だ?」

 マイアはエイスに訊ねると、エイスは黙ったまま周辺に散らばる化物の死骸を指差した。

「原因はあれ」

「なるほど。そうか」

 頭を潰した化物たちは、完全に死んでいるわけではなかった。ただ他の部位より再生に時間がかかるのだろう。そのため、頭を打てば死ぬと勘違いしていた。

 この化物たちを倒すには、少しの肉片も残してはいけない。きっとそういう事だろう。事実、先ほどマイアが炭化させた化物たちは跡形もない為、再生は不可能となっている。

 だが、気づくのが遅すぎた。

 もう既に、最初の方に倒したはずの化物たちは再生し、立ち上がってしまっている。しかも、倒れる前よりも一回り程、大きくなっている。

「ここが最終地点ってわけでもないから、出来るだけ因子も温存しときたいのが、正直な所だけどな」

 八極拳技 浸透勁(しんとうけい)

 手刀から繰り出す斬撃は数十体の化物の身体へと食い込み、浸透破壊を起こす。化物は空気を揺らすほどの咆哮をあげながら、足の関節部分から崩れるように、地面へと倒れ込み、そのまま塵となるまで浸透破壊が続く。

 化物はその間も、手足を動かし斬撃に抗うように、のたうち回っている。だがその行動も無意味に終わり、直に跡形もなくなった。

 化物への対処法は分かったが、数が数だ。細かく対処すれば時間もかかるし、因子の方もかなり疲弊する。

 この場を効率よく切り抜ける方法を頭で巡らせながら、マイアは自分たちに襲い掛かってくる化物の対処をする。

 化物の動きは、今までと変わりないが、気になる点が一つある。それは化物が集まってくる行動に規則性がある事だ。

 基本的に化物の動きは、鋭い牙と爪で襲い掛かるか、硫酸と同じ性質の身体を一部切り離し、破裂させることだ。

 だがしかし、そんな化物たちが見せる一つの規則性ある行動。

 それは因子が激しく流れる所に集まってくるという事だ。

 さっきからマイアたちが技を放つ度に、それに引き寄せられる様に化物たちが集まってきている。近寄った所で、化物たちは炭化していくだけだ。それにも関わらず近寄ってくる。

 その真意が分からない。

 いや、真意という物事態がないのかもしれないが。

 では、この行動は何を意味している?

 マイアが考えている傍らで、まだ激しい爆発が起きた。

 爆発が起こった先を見ると、そこには円形に抉られた地面とその真ん中に佇むイレブンスの姿があった。化物たちの姿はない。さっきの爆発によりイレブンスがいる一帯の化物たちは全て気化してしまったらしい。

 そして、そんなイレブンスの手に見慣れない形のBRVが持たれていた。

 イレブンスが手にしているのは、2m以上の大弓に分類される和弓だ。普段は銃を好んで使うだけに、妙な違和感を感じさせる。

「へぇー、あれがアイツの特化型BRVか。中々良いじゃないか」

 近くにいたフィフスも、化物との攻防戦を続けながら、イレブンスの方を見ていた。

 マイアも、もう一度イレブンスの方を見た。

 もう既にイレブンスの方は、集まってきた化物たちとの戦闘を始めている。

 すぐにマイアも戦闘を再開する。

 マイアを囲んでいる化物の数は七体。獰猛に開かれた口から牙が怪しく光り、荒い息を漏らしながら、マイアを威嚇してくる。

 そして一体の化物が聲を上げると、一斉にマイアへと跳躍し襲い掛かってきた。

 マイアは身を屈めながら鎖鎌に電流を流し化物を薙ぎ払って行くが、後ろから来る化物への対処がやや遅れてしまった。鋭い爪がマイアの横腹を抉ってくる。

 マイアは痛みに顔を歪ませながら、そのまま身を捻り鎖鎌を後ろの化物へと振りかざし、炭化させる。けれどマイアは横腹から全身に走る痛みの所為で次への攻撃が取れず、地面に足を着いた。

 抉られた横腹が急速に熱を持ち、血流が早くなっているのがわかる。それとは対照的に、顔には汗が浮かび、傷口以外の体温が抜けてしまったかのように、身体が震えているのが分かった。だがすぐに動かなければ新手が来る。

 迅速に止血を済まさなければ。そう、できるだけ化物たちに気づかれる前に。

 唯でさえ因子に群がってくる習性を持っている化物だ。もしかしたら身体に流す微弱な因子に反応を示すかもしれない。

 そうなったら、確実にこちらに不利だ。

 木の陰に身を潜めながら、マイアはゆっくりと出来るだけ静かに傷口へと因子を流す。

 ドクン、ドクン、ドクンと鼓動が微かだが、早くなる。

 これは恐怖なのだろうか?

 恐怖を感じたのはいつ以来だろう?もう、ずっと恐怖というのを感じていなかった様にも思える。それなのに、何故今となって・・・?

 その理由が分からないまま、マイアは止血に専念する。

 グオオオオオオオオオオオオオオオオ。

 獰猛な方向がすぐ間近から聞こえ、近くにあった木の幹が吹き跳ぶ。

 しまった。

 マイアがすぐ後ろに振り返ると、木の幹を爪で吹き飛ばし、目の前に凶猛な牙を向ける化物がマイアの眼前へと迫っていた。

 喰われる。

 直感的に、確定的にそう思った。

 そしてその瞬間、マイアの中に明確な物が胸から込み上げてきた。

 死に・・・たくない。

 自分の中に生まれた素直な気持ちだった。

 それなのに身体が目の前の恐怖に竦み、この場から動けない。自分の脳と体が分離してしまったかのような絶望感がひしめく。

 すでに目の前にいる化物は自分を喰い殺せんと迫ってきていた。

 マイアの思考が真っ白になる。ただぼんやりと自分に迫りくる化物の牙を見つめた。

 マイアが何もかも諦めかけた、次の瞬間、無形エネルギーを凝縮させた山吹色に輝く一射が化物の首元を貫き、有無を言わさず絶命させる。

 化物に一射を与えた人物がマイアの前に立つ。

「無事・・・ってわけでもなさそうだな」

 目の前に立ったイレブンスがマイアの傷に気づき、眉を潜めた。

「いや、これはさっきの奴にやられた物ではない。だから、貴様気に病む必要はない。直に止血も済む」

 マイアは少し俯きながらそう言った。

「そうか。ならある程度傷口が塞がるまでじっとしてろ。それまで俺がアイツらを食い止めててやるから」

 そう言ってイレブンスが弓を構え、弦を引く。

 するとこちらに向かって来ていた化物たちへと的確に命中させ、尚且つ激烈な威力で化物たちを粉砕している。威力は汎用型のBRVを使用している時と比べ、遥かに凌駕している。

 化物たちを圧倒するイレブンスの姿には、豪壮ささえ感じられる程だ。

 イレブンスが化物を殲滅している間に、マイアは傷口を塞ぐことが出来た。

「・・・イレブンス、傷口は塞がった。もう、大丈夫だ」

 イレブンスにそう言いながら、マイアはすくっと立ち上がった。

「早いな。ちゃんと塞いだが?」

「問題ない。一点に集中して因子を送り込めたからな」

「そうか。でもあんま無理すんなよ?」

「わかった」

 マイアが頷くと、イレブンスがここより更に化物が密集している所へと跳躍した。

 マイアは郊外に広がる森の中を疾走しながら、化物たちの数を確認する。数は元いた数の半分以下。

 化物たちの数自体は、かなり少なくなってきた。それ自体はいい。だが、数が少なくなってくると、化物たちは次なる行動を取り始めた。

 今までバラバラに動いていた数十体の化物たちが一つの場所に集まりだしたのだ。

「次は何をする気なんやろ?」

 テンスがマイアの横に立ちながら、化物の行動を観察している。今は変に距離を縮めず、向こうの出方を窺った方がいいだろう。

 マイアはいつでも攻撃が出来る態勢を取り、身構える。

 化物たちは一か所に集まると、いきなり一匹の化物が周りにいる化物たちを咀嚼し始めた。そして瞬く間に自分以外の化物を咀嚼した一匹は、身体にも変化が起こった。

 背中からは、無骨に尖った骨の様な物が突き出し、あちこちの関節部分が裂け、爪と牙の鋭さが増し、尾の様な部分も鋭利な刃物の様になっている。体格もさっきの化物たちより数倍大きくなっている。

「わおー・・・合体した」

 エイスが抑揚のない声でそう言った。

「合体か。確かにそんな感じやな。・・・それじゃあ、さっそくお力比べでもしてみましょうか?」

 そう言って、テンスが一歩前に出る。

 紙七変化奥義 羅刹(らせつ)

 テンスが持っていた刀が黒色に染まり、その刀の刃を前へと突き出す。

 突き出された刃から放出される濃度の高い因子が、そのまま化物を貫く。

 その瞬間、化物の胴に大きな穴が開き、化物が甲高い咆哮を上げ、自分の尾を無造作に動かしている。それによって、地面が微動しながら、土埃を撒き散らす。

 そしてそのままテンスたちがいる方へと肉薄し、爪で襲い掛かってきた。それらをマイア達はそれぞれの方向に飛び、躱す。

「ありゃまー。フツーやったらあれで殲滅できるんやけどね。相当固いわ。あの化物さん」

 躱しながらテンスが、苦笑を浮かべている。

「でも、さっきので倒されたら、面白みに欠けるだろ?」

 納得がいっていない様子のテンスの横を、含み笑いをしながらフィフスが通り過ぎる。

 フィフスが化物へと疾駆する。化物も迫ってくるフィフスを切刻もうと腕を振り下ろす。そこで二人が衝突した。化物の尋常ではない筋力により、フィフスが跳ね返される。跳ね返されたフィフスはすぐに宙で体制を整え、すぐに化物へと接近する。

 今度は化物の懐に入ると、フィフスがやや左前にいる化物に対し、対構えの姿勢を取り、技を放つ。

「はぁっ」

 八極拳技 死穿鳥(しせんちょう)

 因子を纏わせた穿拳の突きで、テンスが空けた穴をさらに拡張させると、そのまま二手を加える。すると二つに別れた化物は、再生せぬまま塵と化した。

「残る数はあと、十数体・・・」

「次で一気に決める」

 マイアの言葉に重なる様に、イレブンスがそう言うと弦を強く引いた。

 空間変奏 鳴弦(めいげん)

 放たれた矢は、高い音を奏でながら真っ直ぐに化物へと飛翔していく。そして矢が空気を揺らし、大規模な震動破壊を起こす。振動破壊によって地盤沈下を起こした地面へと化物たちが埋まって行く。埋まって行く怪物たちに矢が刺さった瞬間、数十メートル規模の爆発が生じ、辺り一面が灼熱と化した。

 高熱の炎で生き残っていた化物全てが焼かれ、土へと変わった。


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