嫌な瞳
「誰だ?」
斬撃を避けながら、イレブンスが声を上げると再び鋭い斬撃がイレブンスの方に放たれた。
再びそれを躱し、イレブンスは斬撃が飛んできた方向へと目を凝らした。すると、そこにはプラチナ色の髪に、紅い瞳をした男が何人かの銃を持った部下と共に立っていた。手には宝石の装飾がされた西洋剣を手にしている。
そして男はイレブンス達がいる場所へと近づいて来た。イレブンスは内心、プラチナ色の髪に紅い目で、誰が来たのかを勘付いた。
そしてそれは、イレブンスだけではなく、11thたちも同じなのか武器を下げ、動きを止めた。
「キリウス様」
マイアが少し驚きながら、近づいてくる男の名を口にした。
イレブンスは大体の予想がついていた為、やってくる人物に対しての驚きはしなかったが、その代わりに嫌な予感が頭を過ぎった。
きっとキリウスが来た理由は、自分とマイアにある。
部下を引き連れてやって来た、キリウスがイレブンス達のいる場所で足を止めると、鋭い視線をイレブンスとマイアに突き付けてきた。
「東アジア地区のイレブンスと、マイア、貴様達はここで何をしている?」
「見てわかるだろ?こいつ等とやり合ってるんだ」
挑発的にイレブンスが答えると、キリウスが短くため息を吐いた。
「王族の血を引いた私に対して、その様な口の利き方とは・・・身の程を弁えろ」
そう言って、キリウスは剣先をイレブンスの首元に向けながら話を続けた。
「低能な貴様にも分かりやすく、単刀直入に言ってやろう。自分の支部に戻れ」
キリウスが吐いた言葉は本当に短い言葉だった。そしてイレブンスが予想していた嫌な予感でもあった。
「想像どおり過ぎて、笑える」
「答えは?」
「断る。ここまで来てノコノコ帰る方がおかしいだろ。それより、俺たちが納得できる理由でティーネを連れ去った理由を言ってもらおうか?」
イレブンスが下げていたアサルトライフルをキリウスに向けると、銃を持っていた部下たちが一斉に、イレブンスを取り囲んだ。
「気安く貴様の様な者がティーネと呼ぶな」
「なんだ?兄貴の嫉妬か?」
キリウスが嫌悪感を走らせた様な顔をしてから
「貴様と話しても時間の無駄のようだな。・・・マイア」
マイアへと向き直った。名前を呼ばれたマイアは完璧な敬礼をしてから、返事をした。
「この男を連れて、支部へと戻れ。命令だ」
「・・・それは、できません」
マイアは静かに命令を拒否した。
「何故だ?」
キリウスの言葉は冷静だ。だがその言葉はマイアを威圧している。
「ティーネ様を連れ戻さずに帰ることは考えていません」
「そうか・・・」
淡々とマイアにそう言うと、キリウスが躊躇いなくマイアへと剣を振う。
「マイアっ!」
キリウスとマイアの間にイレブンスが入り、アサルトライフルで剣を受け止める。受け止めた手がビリビリする。これは確実にマイアを屠る気だったらしい。
「随分血の気が多いな」
イレブンスが剣を払いながら、キリウスを睨む。するとキリウスは眉一つ動かさず平然と口を開いた。
「命令を無視するなら、それなりの対応を取る。安心しろ。貴様もどっちみち末路は一緒だ」
「そう簡単に俺を殺れると思うなよ?」
「ならば・・・」
再びキリウスが剣を構え、因子の濃度と密度を高め始めた。イレブンスもすぐに因子を銃に流し込む。自分の身体へも流し込む。
「これだから馬鹿は嫌なんだ。おまえと共倒れなんてあたしは御免だね」
衝突する二人を見ながら、Ⅵがティーガーに乗り込む。
「馬鹿は早死にするって言うけど、あれ本当だな」
「変な事言ってないで、あたしたちもここから撤退!」
11thと1stも、事前に用意していたのか、空からやってきたラプターから垂れ下がる梯子に掴まり、撤退していく。
勝手に人が負ける事、決めつけんなよ。
イレブンスはそそくさと撤退していく、二組に内心で反論を吐いた。
だが確かに目の前にいるキリウスから感じる因子の量といい、質といい、物凄く高い。さすがと言うべきだろう。
けれど、ここで引くわけにはいかない。
引いてしまえば、全てが無意味だ。
それに、だ。
イレブンスは初対面であるキリウスが気に食わない。もしかしたら、今こうして対峙しているのは、それの所為かもしれない。
「アイツの紅い目は好きだけどな、おまえのは嫌いだ」
目の前のキリウスに向かってイレブンスが悪罵をつく。
「直にその軽口も叩けぬ様にしてやろう」
神王剣技 スヴァルト(軍神の剣) オブ ティワズ
巨大な高熱エネルギーを宿した光柱は天空へと伸びてから、そのまま一気に四方八方へと拡散するように膨張し、大気中にある全ての物を消滅せんとする。イレブンスはそんなキリウスの攻撃に、思わず息を呑んだ。
空間変奏 アンミリテッド バースト
イレブンスが放った銃弾が光柱の周りで無制限に爆発する。その数はどんどんと数を増していく。まるで横に膨張している光柱の表面に円形の突起が浮き出ているようにも見える。
それに続けてイレブンスはアサルトライフルに特殊弾を装填する。イレブンスが使う攻撃は普段、一般的な銃弾に銃越しに因子を流し、威力を高めた物を、空間を歪めイレブンスが定めた地点に移動させているだけだ。
だが先ほど装填した特殊弾は、弾自体が全て因子で出来ている為、大量の因子の塊となった銃弾が空間を歪めながら飛んでいく。しかも今のキリウスが放ったような一定の動きをしている攻撃に対しては、空間を歪めながら進むため、攻撃事態に捻じれを作りやすい。
以前に狼の放った千光白夜に対して使った物と同じ物だ。
空間変奏 スキューショット
空間を歪める八発の弾丸が光柱に向かって行く。二つのエネルギーが衝突し、激しい衝撃と爆風が当たりに広がる。
「はは。嘘だろ?」
乾いた笑みがイレブンスから零れた。キリウスが放った、とんでもなく強大で強力なエネルギーの柱は、表面がねじれているものの、その威力が衰えている様子はまったくない。
「消え失せるがいい」
そんなキリウスの言葉と共にイレブンスの意識は途切れた。




