11×11
翌朝、イレブンスたちはⅥが乗ってきた攻撃ヘリであるティーガーに乗り込んだ。ティーガーにはⅥの好みなのか、通常武装のAM―30781ではなく、GAU―8、アヴェンジャーが武装されていた。
さすが武器マニア。小生意気にヘリを自分仕様にカスタマイズしてやがる。
馴れた手つきでヘリを操縦するⅥを見ながら、イレブンスはそう思った。
そして、すぐに高度を上げワルシャワ支部までの進行方向に進んで行く。このまま何の邪魔が無ければ、数時間で到着できるはずだ。
そのまま何時間かは、Ⅵからの他愛ない話に付き合っていたが、しばらくすると会話もなく無言になった。
イレブンスとⅥが下らない話をしている間、マイアはぼんやりと窓の外を眺めていた。今もそれは続行中だ。
「外見るの、好きなのか?」
イレブンスがふいにマイアに話しかけた。すると、マイアはイレブンスの方を向き首を横に振った。
「いいや。別に好きなわけじゃない。ただ、少し上から下を眺めていたら虚しいような気分になっただけだ」
「虚しい?寂しいじゃなくて?」
イレブンスたちが今飛んでいる真下には、未だ広大なロシアの地が広がっている。だから、自分の国を離れるのに、寂しさを感じるのなら分かる気もするが、虚しいとはどういう事なのだろう?
イレブンスは不思議に思い、首を傾げた。
「そうだ。私はロシアで過ごした記憶が少ない。それに、私の生まれた地域は紛争地帯だったからな。あまり良い思い出という物がないんだ。だから寂しくもない。だが、私の祖国がどこかと言われたら、何の愛着も感じないこの国だ。軍にいるのだって、前にも言った通り表上の物だしな」
「なんか、複雑だな。それも」
「そうなのか?私はそうな風には思ってもいなかった」
「人それぞれだろ。でもまぁ、そんな深く考える必要なんて無いだろ」
イレブンスがそう言うと、マイアは何故だ?という顔をしてきた。
「だってそうだろ?俺たち無法者にとったら、国なんて関係ないし、居たい所にいればいい。それだけだ」
「居たいところに居るか。なら、私は・・・・ティーネ様がいる場所だ」
「なんか、おまえらしいな」
マイアらしい答えにイレブンスはほくそ笑んだ。そんなイレブンスに、
「貴様もだろう?」
と真顔でマイアが訊ねてきた。
「はっ?何で俺までそうなるんだよ?」
「違うのか?イレブンス、貴様が言ったんだ。貴様と私が似ていると。だから貴様も同じなんじゃないかと思っただけだ」
イレブンスはそんなマイアの平然とした言葉を聞いて納得した。
確かに自分とマイアは似通っている部分がある。それは認める。だが、全てが一緒というわけでもない。
「おまえな、似てるって言われたからって、全部、一緒の事考えてるわけじゃないんだ」
「そうなのか?なら何故貴様は、そんなにティーネ様を連れ戻したいんだ?」
「それは・・・俺がそうしたいと思ったからだ」
「何故そう思ったんだ?」
マイアにそう訊かれ、イレブンスは一度黙った。
ただ単にヴァレンティーネを守りたいという理由ではないだろう。まだ、ヴァレンティーネが本当に危険な目に合ってるかは不確定で、イレブンスたちはただ欧州と北米の怪しい動きに、敏感になり過ぎて、危険だと思い込んでる可能性だってある。むしろ、イレブンスはその可能性に期待している。
だから、守りたいという理由ではないと思う。
では何故自分はヴァレンティーネを連れ戻したいのか?答えが出そうで出ない。喉に何かがつっかえているような感覚だ。
「さぁな。俺自身、よく分かってない」
イレブンスが両手を上げて降参ポーズをした。
「そうか。なら、もうこれ以上は訊かない」
あっさりとマイアが引き下がってくれた事に、イレブンスはほっとした。
「何、人が操縦してる時に、呑気にしゃべってんだよ?」
「別にいいだろ。俺たちは何もやることないんだし」
「人に操縦させといて」
「なんだ、操縦して欲しかったのか?言ってもらえれば操縦してやったのに」
ニヤリと笑って、イレブンスが答えるとⅥが目を吊り上げた。
「あたしのティーガーに触れさせるわけねぇーだろ。このアホ男」
「だったら最初から文句言うなよ」
「うっさい。あー、今から着陸するからな」
「はっ?まだ全然着いてないだろ」
「ああ。着いてないけど。モスクワの基地から無線が入ったんだよ。支部に寄れって言うさ。あたしもどうせ、降ろさないといけない荷物もあったから丁度いいしな」
「そんなの後にしろよ。俺たち急いでんだよ」
「おまえの意見なんて聞くか。これはあたしのヘリなんだよ」
Ⅵはそう言いながら、パフォーマンスかのようにヘリを急降下させた。
「なっ、ふざけんな!」
「やっほーい」
急なヘリの傾きにイレブンスが身体をよろけさせている横でⅥが楽しそうにそんな声を上げた。
そして、そのままモスクワの基地に着陸する頃には、絶叫マシン並みの意味ない動きを繰り返され、イレブンスは怒る気力さえ湧かなくなっていた。
「あー、楽しかった」
「楽しかったじゃねぇよ。意味ない動きばっか繰り返しやがって」
「普通に降りても楽しくないじゃんか」
「おまえなぁ・・・」
イレブンスが目を眇めながら、呆れていると支部の方から二人の影が近づいて来た。
「「うげっ」」
近づいて来る二つの影を見て、イレブンスとⅥが嫌悪感たっぷりの声を上げた。
「随分な声を上げてくれるじゃない?」
「そっくりそのまま、お前らに返してやるよ」
そう言ってきたのは、ピンクブラウン色の髪を肩位の位置で軽くパーマを掛けた女と茶色に薄く緑を混ぜた様な髪色で、シャギの掛かった短髪の男だ。この二人は北米の1stと11th。
「この二人のナンバーズと知り合いなのか?」
「ああ。まぁな」
横にいたマイアに答えて、イレブンスは1stと11thを見た。
イレブンスはこのどちらとも面識がある。11thは北米にいた頃、1stは欧州に居た頃にだ。
どちらもやたらとイレブンスに好戦的に突っかかってきた二人で、正直、今の状況で会いたくない二人だ。そして、横にいるⅥは1stの方と相性が悪いのか、会う度に喧嘩している。
まさか、この二人でバディを組んでいるとは思ってもいなかった。
「まさかあたしに、弾薬の仕入れを頼んでたのって・・・」
「そっ!あたしたちよ」
そう言って1stがⅥに片目を瞑った。それをドン引き顔でⅥが見ている。
「でも、銃弾を取りに来たらテメェまでいるとはな。あのまま輸送機と共にくたばってくれれば良かったんだけどな」
皮肉を言いながら、11thがイレブンスを挑発してきた。
「そうか。じゃあ、おまえがあの時のラプターか。だったら、おまえに銃口向けても理由はつくな」
そう言って、イレブンスが89式のアサルトライフルを取り出すと、11thが鼻を鳴らした。
「おまえなんて、3分以内でぶっ飛ばしてやるぜ」
「やれるもんなら?」
11thもG36のアサルトライフルを構えた。
「おっ?また俺のパクリか?」
「ふざけんなっ!誰がテメェの真似なんかするかよ?」
G36の銃口から、因子を纏った銃弾が二、三発、飛び出してきた。イレブンスがその銃弾を全て避けると、銃弾は後ろの方で大きく火を噴いて大爆発を起こした。
イレブンスも11thに向け五発の弾を撃つ。イレブンスの撃った弾は空中で姿を消す。そして、11thとの距離、わずか1メートルの距離で姿を露わし、11thの顔面に、腹に、背中に、足に、そして頭上に飛んでいく。
だが、11thは素早く、バタフライナイフを持ち、背中に向かってくる銃弾をナイフで弾き返すと、高速で身を後ろへと移動させ、5発の銃弾を避けることはせず、全て弾き返す。バタフライナイフが、重い衝撃を与えてくる銃弾を弾き返す際に、刃が欠け、破片が11thの頬を掠めた。だがそんなこと11thは気にせず、イレブンスへの攻撃を強める。お互いがお互いを追うように銃撃しあい、そして、11thの肩にイレブンスの銃弾が掠めた瞬間、瞬時に自分へと肉薄してきていたイレブンスの蹴りが横腹を殴打した。
「チッ」
11thが小さく舌打ちすると、バタフライナイフをイレブンスに向かって投擲し、続けて近距離から銃撃してきた。
イレブンスはその銃弾をそのままミラー撃ちで撃ち落としていく。
「俺に銃撃戦で敵うと思うなよ?」
そう言って、イレブンスが笑った。
そしてその横では1stとマイアもⅥを差し置いて、戦いを始めていた。
マイアの鎖鎌と1stが復元した戦斧が火花を散らし、ぶつかった。
「誰よ?アンタ?なんであの男と一緒にいるわけ?」
「それは貴様に関係あることか?」
「ある!だって、あの男を倒すのはあたしなんだから。変な女と一緒にいて軟弱になったら、嫌じゃない。はっ」
マイアへと躊躇いなく戦斧を振り下ろしながら、好戦的な笑みを浮かべた。マイアはそれを躱し、1stの腕に鎖を絡ませる。
そして、そのまま高電流を流す。電流を流された1stは短く呻きながら、鎖を戦斧で打つ。
因子で強化された戦斧が鎖に亀裂を入れ始める。
マイアはすぐに鎖を自分の方に1st共々引っ張ると、そのまま1stの顔面を殴った。
「ざっけんな!」
それで怒った1stがマイアに頭突きを喰らわせると、そのまま戦斧でマイアの身体を横に引き裂いた。
マイアの衣服が破れ、そこから血が流れ出す。そこに1stがさらなる追撃を加えようと肉薄してくる。だがそこに
「いつまでも人をシカトしてんじゃーね」
ククリナイフを持ったⅥが身軽な動きでマイアを横切ると、1stに向かって切りかかる。
「あーもう、変なのがうじゃうじゃと」
苛立った声を上げながら、1stがⅥを戦斧で弾き返すと、空中で身をくるっと回転させ地面に着地すると、Ⅵがニヤっと笑った。
その顔を見た1stが、顔を顰めた。
「最悪」
そう言って、刃がまるで粘着性のある液体状になりながら溶けだしている。
「そのまま、おまえの身体も溶かしてやるよ」
悪戯っぽく、Ⅵが笑う。
Ⅵは因子を強力な猛毒に変え、どんな物質でさえ溶かしてしまう。そのため、アストライヤー関係の者からは、『ベノムの魔女』と呼ばれているくらいだ。
「面倒が増えたな。だが、迅速に片付ける」
そう言って、マイアが鎖鎌を構え直し、Ⅵと1stに向かって疾駆しようとした瞬間、遠方から鋭い斬撃が、戦っている5人に向かって放たれた。




