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アストライヤー〜これは、僕らの世界と正義の物語〜  作者: 星野アキト
第6章 ~captured princess~
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nil計画

 バイカル湖から一旦、ウラジオストク基地に入ったイレブンスとマイアは、基地内にある休憩室に通された。

「上に報告してくる。そのため貴様達二名は、ここで待て」

「「了解」」

 軍の兵士にマイアとイレブンスが答え、兵士は部屋を出て行った。

「このまま軍事装備が施されたヘリでも拝借できたら、最高なんだけどな」

 イレブンスがそう呟きながら、休憩室にある椅子に腰かけた。

 休憩室と言っても、とても質素で狭い。部屋には簡単な給水機とパイプ机と椅子、それと休憩している兵士様になのか、小さいテレビがある部屋だった。

「確かに。装備されたヘリだったら、輸送機のように簡単にはやられないと思うが・・・戦闘機相手では分が悪いな」

「まっ、そうだけどな。贅沢も言ってらんないだろ?それとも、ちょっとばかし、おまえんとこの戦闘機貸してくれない?って聞いて、OK出してくれるのか?」

「それは、ない」

 イレブンスの冗談交じりの言葉を、躊躇いもなく一刀両断した。

「だよな」

「トゥレイターの幹部クラスの者が頼めば、許可が降りるだろうが、私達だけでは無理だ」

「おまえ、ザスローン部隊だろ?なんか、使用できる特権とかないの?」

「部隊があるモスクワの基地ならば、それも可能だったかもしれないが、ここの基地は海軍の管理下にあるからな。そう簡単にはいかないだろう。使用するならば其れなりの手続きが必要となってくる」

「なるほど。要するに面倒ってことだな」

「そうだ。それに私が所属する部隊は、機密性が高い上に、CBPの部隊だ。そう大きくは動けない」

「つまり、コソコソと動けってわけか」

「まぁ、そうなる。だからあまり私的には軍は使いたくないのが正直な所だ」

 マイアの言いたいことはよくわかった。

 今のイレブンスとマイアは身分を証明する物を所持していない。つまり不棒侵入者という事だ。今その事について問い詰められないのも、マイアのおかげと言っても過言ではないだろう。

 偽装のパスポートを用意しておけばよかったが、こんな途中で足止めをする事になるとは思っていなかった為、その用意もしていない。

ならば、ワルシャワまで早く到着する事を踏まえて、やはり一番の最善策は、モスクワにあるトゥレイターの支部から、ジェット機などを奪取する事だろう。

「とりあえず、今日はここで休ませてもらうとして、明日の朝にここを出てモスクワまで行くぞ。それで良いな?」

「ああ、私は構わない」

 よし了承は得た。というか、これしか今の自分たちに方法はない。

 そしてそのままイレブンスが部屋に取り付けられているテレビを見ながら、ぼーっとしていると、休憩室の部屋が勢いよく開けられた。

「こーんな所でなしてんだよ?おまえ!」

 そう言ってきた声には、はっきりと人をからかいに来た意図が見えた。

「じゃあ、俺から質問する。なんでおまえまでここにいるんだよ?Ⅵ(シックスス)?」

 イレブンスが声がする方に、顔を向けると茶褐色の肌に、クリクリな目を細めて笑う、欧州地区のⅥがニタニタ顔で立っていた。

 Ⅵは女性としての成長が乏しい身体で仁王立ちしながら、何故か上から目線で話してきた。

「あたしは、ここの基地から武器の仕入れを任せれたんだ。誰かさんと違って、湖の近くでびしょ濡れになりながら、軍のお世話になってる間抜けとは違うんだよ」

 イレブンスを完璧笑い者にしにきた、Ⅵには腹が立つが、丁度良いタイミングだ。今回の事について何か聞きだせるかもしれない。

「おまえのアホさはほっとくとして・・・おまえ、今回欧州と北米がどんな動きをしてるか、知ってんのか?」

「おまえ、地味に人を貶しやがって・・・ふん。誰がお前なんかに教えるかよ」

 Ⅵは腕を組みながら、そっぽを向いてしまった。

「小さい事で腹を立てるなんて、まだまだ子供だな。だから出るとこも出ないんじゃないのか?・・・おっと!」

 イレブンスがそう言い掛けた所で、部屋の棚に置いてあったタバコの灰皿が飛んできたので、イレブンスがそれをすらりと避ける。

「なっ、生意気によけてんじゃねー」

「いや、おまえが投げた灰皿を受け止める義理ないから」

「なにをー!!」

 両手を上に上げ、犬歯を剥き出しにしながらⅥがイレブンスを威嚇している。イレブンスは、呆れながら短くため息を吐いた。

「欧州のⅥ、貴様は何かティーネ様について知っているのか?」

「ああ?」

 今まで黙っていたマイアが鋭い視線でⅥを見た。

「なんだよ?その目つき?気に入らないな」

 負け意地と、Ⅵが片足を一歩前に出しながらマイアを睨み返す。

「目つきなど、どうでもいい。私の質問に答えろ」

「偉そうにっ!」

 Ⅵがククリナイフ型のBRVを復元し、そのままマイアへと突貫してきた。マイアは瞬きもせず、Ⅵの動きを見て、それから素早い動きでⅥの後ろへと突くと、Ⅵの空いてる方の腕を掴み、そのまま床へと叩きつけた。

 一瞬、何が起きたか理解していない様に、Ⅵが目をぱちくりと開きながら自分を上から押さえ込んでいるマイアを見た。

「貴様の負けだ。答えろ。答えなければ肩の骨を外す」

「卑怯だー」

 負けた事に腹を立てているのか、Ⅵが見っとも無く声を張り上げている。だが、そんな声がマイアに届くはずもなく、押さえこむ力をさらに強めている。

「ぐう」

 身動きが取れない上に、肩の骨を外されそうになりⅥが唸った。

「ああ~、わかったよ。言えばいいんだろ!東アジア地区のボスなら、うちのボスが進めているnil計画に参加させるんだと!!」

「nil計画?」

 イレブンスが訊き馴れない言葉に、首を傾げる。

「ほら、答えたんだから放せよ!!」

 睨まれながらそう言われたマイアはすんなりとⅥを解放した。

「くそ。あたしが最初から本気出してたら、こんな狂暴女なんかに負けない」

 マイアに掴まれていた方の腕を見ながら、Ⅵがぶつぶつと文句を言っている。

「おい、Ⅵ。おまえがさっき言ってたnil計画ってなんだ?」

「知るかよ。その計画についての概要はお偉いさんしか知ってるわけないだろ。あたし達はただの戦士。だからあたしたちの役割は戦士らしく、戦場で敵を()ればそれでいいんだよ」

「そういう事か」

「なるほどな」

 イレブンスとマイアは同時に納得した。

 つまり、今上層部の方で目論んでいる計画は、ナンバーズレベルにも話していないということだ。ナンバーズが行っていることは、その計画を実行する為の云わば土台作りだ。

 そして要となるのが、ヴァレンティーネなんだろう。

 しかもヴァレンティーネ自身、そのnil計画というものを知らない事は確かだ。

 だかこそ、ヴァレンティーネは連れ去られた。

「変な事にアイツを巻き込みやがって・・・」

 イレブンスは上層部の勝手な行動に、腹を立てながらイレブンスは拳を握った。

「勝手におまえらだけで納得すんなよ!!」

 一人、今の状況を呑みこめていないⅥが、じれったそうに声をあげた。

 だが今はⅥに説明している場合じゃない。

「早めにアイツを連れ戻すぞ」

「当然だ。そのためには・・・・」

「こらぁぁ!あたしの事を無視すんなーーー!!」

 イレブンスとマイアの間にⅥが割り込んできた。そしてそのままイレブンスとマイアを交互に睨んでくる。

「よしっ。わかった。おまえも話に入れてやる。だから、おまえが俺たちをワルシャワまで連れて行け」

「はっ?ヤダよ。なんであたしがお前らの足にならないといけないんだよ?」

「ケチケチすんなよ。ちゃんと向こうに着いたら飯でも奢ってやるからさ」

「人を飯で釣れると思うなよ?」

「いいのか?俺たちを運ぶだけであっちでタダで上手い飯が食えるんだぞ?おまえ、いつもナイフやら、弾薬やらを無駄に買うから金に困ってんだろ?」

「むぅ」

 イレブンスがⅥの痛い所を突くと、Ⅵがイレブンスの提案を魅力に感じたのか腕を組んで考え始めた。

 そして悩むこと3分。

「よし、今回はお前らの口車に乗ってやる。でも、これはあたしの善意だからな。別に食べ物に釣られたわけじゃないからな」

「善意ねぇ。じゃあ、あっちでの奢りはなしでいいのか?」

「ちょっ、それはなしっ!そんなん、あたしがタダ働きってことじゃんか!絶対そんなの御免だからなっ!」

 ニヤリと笑うイレブンスに、Ⅵが慌てて反論してきた。

「わかった。わかった。ちゃんと奢ってやるよ」

「よしっ。やっぱりナシとか言うなよ?」

「そんなガキみないな事、するかよ」

 念を押してくるⅥにそう言うと、Ⅵがニコニコ顔で嬉しがりながら、

「あたしのお肉~。お肉~。肉厚の肉があたしを待っている~」

 と自作の鼻歌を歌っている。

 なんて趣味の悪い・・・。

 肉をもう既に食べたかのような、喜びようで小躍りしているⅥを見て呆れていると、Ⅵが小躍りを止めてイレブンスへと向き直った。

「なんだよ?追加注文とかナシだからな」

「その手もあったか~」

「違うのかよ?てっきりお前の事だから、そんなんだろうと思ってたけどな」

「人を喰い地張ってるみたいなこと言うな」

「いや、実際そうだろ」

「なにをー!あたしはただⅤ(フィフス)からこの狂暴女に乗り換えたのかを訊こうと思っただけだ」

 予想外のⅥからの言葉に、イレブンスは一瞬当惑した。

「あー、別にマイアとはおまえが思ってるような関係じゃない」

「ふーん。だったらいいけど」

 Ⅵがイレブンスの目の前に腰を下ろしながら、ジト目で見てきた。

 その目線から逃れるように視線を逸らすと、今度はマイアと目が合ってしまった。マイアはイレブンスと目が合うと、無表情のまま視線を逸らしてきた。

 そんなマイアの行動に何とも言えない気持ちになる。

 なんで、俺こんな焦ってるんだ?

 自分が妙に焦っていることが、自分自身でも分からずイレブンスは苦虫を噛んだような気分になった。

 まったく余計な事を言いやがって。

 イレブンスは心の中で毒を吐きながら、呑気にテレビを見始めたⅥを睨んだ。マイアの方は敢えて見ないように努めた。


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