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アストライヤー〜これは、僕らの世界と正義の物語〜  作者: 星野アキト
第6章 ~captured princess~
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三視点

「くそっ。まんまと輸送機から脱出しやがった」

 ラプターを操縦しながら、北米地区の11thが無線に向かって悪態を吐いた。

「ちょっと、勝手に墜落なんてさせないでよ。そんな所でアイツがやられたら、あたしがアイツを負かせないじゃないの」

 無線の向こうで、11thのバディである北米の1stがヒステリックに騒いだ。

「五月蠅いな。仕方ないだろ。任務なんだから。東アジア地区の輸送機を追撃しろって。まさか、それに乗ってるのが、アイツだったっていうのは、驚きだけどな」

 二人が話すアイツとは、勿論東アジア地区にいるイレブンスの事だ。二人はイレブンスが北米にいた頃に、面識がある。

 自分より向こうの方が一足早くナンバーズになったのだが、それも気に入らない。しかも、自分が数字付きになった時に、欠番したのも11という数字だった。だから、とても最悪な事に、イレブンスと同じ数字になってしまったのだ。

 11thは、その事に辟易としていた。

「確かに。でも、いいじゃない。これでアイツよりあたしの方が強いって分からせる事ができるんだし」

「はっ。出来んのか?そんなこと言って、前やり合ったときは、蹴散らされてたみたいだけど?」

「あのね、あの時のあたしは本調子じゃなかったの。次やったらあたしを認めざるおえないわ」

「そーかよ。じゃあ、もうそろそろ、モスクワ支部に着くから、通信切る。それと、俺、腹へってるからBLTサンドでも用意しとけよ」

 そう言って、一方的に通信を切り、11thは溜息を吐いた。

 アイツを負かすのは、この俺だ。



 ポーランド、ワルシャワ支部。

「Ⅴ(フィフス)、よくやった。後は随時、上からの命令が出るまで待機だ」

「了解」

 欧州地区の統括者で、綺麗な銀髪に、鋭さを宿した紅い目をしたキリウス・フラウエンフェルトに敬礼をしてから、操生は部屋を出た。

 連れ去ったヴァレンティーネは、支部に到着した際に、医療研究室に運ばれてしまった為、今そこで何をしているのかは、わからない。

 操生は支部にある自分の自室に戻りながら、短くため息を吐いた。

「まったく、あんな所で会えるとはね」

 目標対象であるヴァレンティーネと一緒にいたのは、紛れもなく出流だ。やはり、以前と比べると、成長しているようにも見えた。

 二年前、自分から別れを告げた相手。

 その別れはただの自分の身勝手さと弱さの為だ。

 出流と出会ったのは、出流がナンバーズに入ることが正式に確定してまだ間もない頃だった。皮肉にも彼が与えられたのは11。操生が出流と出会う前に恋仲だった者と同じ数字。戦いに敗れ死んでしまった恋人の数字が出流に与えられたのだ。

 最初その出流とバディだと言われた時は、正直嫌悪感が走った。

 何故、自分なのかと?

 第三者からして見れば、丁度バディを失い、しかも同じ日本人だ。何の問題もない。それは分かっていても、操生は受け入れられなかった。

 そして15歳くらいの出流がやってきてから、そのまま上から言われた通りバディを組んだが、お互い何の干渉もせず、任務を行っていた気がする。

 それに対して、出流の方も然程気にしていないようも見えた。

 では、いつからだろう?

 出流と普通に会話をするようになったのは?恋仲と周りから認知される程になったのは?

 話す様になったのは、二人での任務中に操生がミスをして、相手に殺されそうになった所を、出流に助けてもらってからの様な気がする。それから普通に下らない事でも会話するようになった。だが恋仲になったきっかけという物は、ない。

 はっきり言って、どちらかが気持ちを伝えて、そういう仲になったのではないからだ。二人がそういう仲になったのは、ごくごく自然だった。ただ、お互いが別の誰かを想っている事は、お互い承知していた。自分も死んだ恋人を想っていたし、出流も血の繋がらない姉を想っている事は知っていた。それでも、二人は別に恋仲というのは否定しなかった。

 会話する様になって、分かったのは不器用に見えて出流は、とても優しい。文句を言いながらも結局は、いつも自分を助けてくれたし、笑ってくれた。だからこそ、自分は出流に対して心を開いた。

 バディとしての延長線上での恋仲だとしても、当たり前の様に肩を寄り添い、キスをし、肌を重ねた。二人で他愛もない話をして、彼の腕に抱かれて眠るのが心地よかった。

 すごく幸せだった。

 すごく愛おしくてたまらなくなった。

 そして、その気持ちは今も変わらない。自分は今でも彼を愛している。

 だからこそ、苦しくなったのかもしれない。

 自分の中の気持ちと出流の中での気持ちの違いが。

 出流の中にある記憶と共に、想い人の事を口にされるのが。

 だからこそ、心の内に別れをしなければいけないというのは、在った。でもそれがずっとできなかった。離れたくなかった。

 でも、離れたくないという一方で、ドロドロとした感情は溢れかえってくる。

 何故、彼は自分といるのに他の人の話をする?

 何故、彼は自分以外の人とも楽しそうに笑える?

 何故、彼は自分だけを考えてはくれないのか?

 そういった感情が操生の中で制御が出来なくなりそうだった。

 そんな風に操生が女としての感情を抑え込むのは、自分の母親が起因していた。

 操生の家は、代々から続く神社の家系で、関係者の中では知らない者がいない程、由緒ある家だった。

 勿論、操生の父親も神主をやっていて、とても穏やかな性格だった。アストライヤー制度が発足する前までは。

 アストライヤー制度が発足され、ゲッシュ因子という存在を知った操生の父は、その存在に大きく魅せられ、見る見る内に人が変わってしまった。

 ゲッシュ因子は、神の御加護の結晶だと。

 だからこそ、操生が因子を持っていることに気づいた父は、それ以来、操生を放さなくなったし、操生以外の者に興味を抱かなくなった。

 妻である母親にも。そして因子を持たずに生まれてきた弟にも。

 それ故に、母親も歪んだ。

 操生が成長するのに比例して、母親も操生を冷遇していった。つまり、自分の娘に嫉妬していのだ。自分の夫を取った女として。そのため、母親は操生を弟に合わせる事はしなかった。もし、操生が少しでも弟と話した所を見れば、母親は卑しい物を見る視線を操生に送ってきた。そんな母親の態度から弟も、いつからか自分を穢い物を見るような目線を送ってくるようになっていた。

 父親からの執拗な執着。

 母親からの嫉妬。

 弟からの蔑視。

 それらの事が操生の中で抱えきれなくなっていた頃、事は起きた。

 母親が弟と共に、心中をしたのだ。母親と弟は首を吊り自殺していた。それを最初に発見したのは、操生だった。

 操生は哀れもない姿で、天井にぶら下がっている二人を見て血の気が引いたのを覚えてる。

 そしてその瞬間に母親の死体と目が合った。

 まるで自分を責めているような気がしてならなかった。

 二人の死は、ただの火葬だけで終わった。操生は悲しいというより、ただただ怖かった。あの母親の目が脳裏に焼き付いて離れなかったからだ。

 そして、もう限界に来ていた操生は父親の目を盗んで、家を出て、気づけばトゥレイターに入っていた。

 その後、こっそりと家の様子を見に行った時に、父親も自殺した事を知った。

 それを聞いても思ったより、ショックは受けなかった。ただ虚しかった。自分の家族はこんなにも張りぼての様な家族だったという事が。

 そんな経緯があるからこそ、母親のように醜い嫉妬をしている自分が嫌だった。そんな自分を出流にも見せたくないし、自分自身も見たくなかった。

 だからこそ、別れを選択した。

「ざまぁない。自分が選らんだ癖に、こんなにも後悔して、また近くにいたいと思っているなんて」

 操生は自分自身に呆れながらも、どうしようもない自分の感情を見据えた。


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