49 side:kakeru&makoto
すみません・・・私の力不足で、視点がコロコロ変わります。
ご容赦ください<(_ _)>
翔が優花と別れて夜も遅くに家に帰ってくると、その玄関先に誠が座りこんでいた。どのくらいそこに居たのか、暗い中、街灯の光に照らされている誠の鼻は真っ赤になっており、ぐるぐる巻きのマフラーに顔をうずめてピクリともしない。
「お前はこのくそ寒い中、何してんだ?」
翔は呆れて誠の隣に立つと手を差し伸べた。
誠はその手を取ると、勢いをつけて立ち上がる。けれども足が固まっていて、思うようには動かず、フラフラしてしまった。
「どのくらいかな……。部活が終わってすぐ来たんだけど、いないって言われたから」
誠は一応玄関のインターホンは鳴らしたようだった。
「じゃあメールでも何でもすればいいだろ?」
「どうせ優花先輩とデートだったんだろ?邪魔しちゃ悪いと思って」
と、誠は細く笑む。
「いいから中入れよ。あったかい茶ぐらい出してやる」
翔はぶっきら棒にそう言うと誠を家の中へと招き入れた。翔の部屋はそれなりに汚く、それなりに片付いている。きっと普通の人から見れば汚いのであろうが、自分の部屋の方が汚いので誠は何も言えなかった。翔はテーブルに置いてあったプリントや雑誌を適当に隅っこに積み上げると、運んできたお茶を置いた。
「で、どうしたんだ?」
翔は誠の向かい側に腰を下ろすと、真剣な眼差しで誠に視線を合わせる。
「……今日、色が学校に来たんだ」
翔はその言葉に思わず手に持っていたコップを滑り落としそうになった。
「色ちゃんが来た……?男子校に?」
「あぁ――」
誠はカップに目をやったまま顔を上げようとしない。
「ずいぶんと積極的になったもんだな……。――で、色ちゃんは何て言ってたんだ?」
翔はそんな誠を見つめたまま、話の先をうながす。
「……伊吹が、前から俺の事が好きだったって……見てればわかるって、雄太にまで言われた」
「雄太?あいつ、サッカー部に入ったのか?」
「いや、色を連れて来たんだ、グラウンドに。その時に一緒に話を聞いてたから」
そう言えば、二人がとても仲よさそうに喧嘩していたことを思い出して誠は思わず思い出し笑いを浮かべた。
「何笑ってんだ?」
そんな誠を見て翔はとうとう誠は気が狂ったのかと心配になってしまった。
「いや、あの二人、なかなかいいコンビだったと思って」
「……色ちゃんと雄太が?」
「あぁ……。楽しそうに喧嘩してた」
「そっか……」
翔は心からほっとして笑った。色にもようやく心から喧嘩できる相手が出来たのだ。……そう言ってしまうと変に聞こえもするが――。
「で、その数日前に麗先輩も俺に会いに来てたんだ」
「麗先輩まで?」
翔は目を見開いて誠を見つめた。
「イギリスに留学するって……」
「イギリス?」
翔はあまりにも会話が突拍子もないので、一つ一つの事にいちいち驚いていかなければならなかった。
「で、伊吹も連れて行きたいって言ってた」
翔は流石にその言葉には開いた口がふさがらなかった。
「……で、お前は何て答えたんだ?」
翔はなんとなく、その答えが心配になって聞いてみた。
「連れて行かないでほしいって……」
翔は思わず誠の肩を思い切り叩いた。
「言ったのか、連れていくなって?」
翔は興奮気味に、誠が顔を上げるのを待った。誠はゆっくりと顔を上げて翔の方を振り向くと、弱々しくほほ笑んだ。
「あぁ――。だれにも渡したくない。あいつの相手は俺にしかできないんだ。絶対に、麗先輩にだって、譲らない」
「やっと、そう思えるようになったのか?」
翔は嬉しそうにそう言って笑っていた。誠がようやく本気で麗と向きあう気になってくれたのが嬉しかった。ようやく、柊を欲しいと思っている感情に歯止めがきかなくなっているという事に、自身で気づいてくれたのが、嬉しかったのだ。
「今度、伊吹に会いに行こうと思ってる」
誠は急に真剣な表情で翔と目を合わせた。
「あぁ。戦ってきな」
それから二人は夜がふけるまでずっと話し続けた。誠は久しぶりに、翔の家に泊まることとなり、その夜は二人にとってとても掛け替えのないものとなった。その時間が嬉しくて、お互いに話を途切れさせようともしなかった。




