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カカオにシュガーを  作者: hi-ra
中学生編
32/52

32 side:shiki・hiragi


 「柊ちゃん!」

 柊が学校に来ると、色は血相を変えて柊のもとに詰め寄って来た。

「な、何――?何かあったの?」

「何かあったのはこっちの台詞!麗先輩が入院したって聞いて……」

「誰から聞いたの?」

 柊はなんとなくわかっていたけれど聞いてみた。

「……ま、誠君……」

 と、ここで色は少し言いづらそうにうつむく。

「色、言いたいことがあるのはこっちもなんだよ?」

「……わかってるよ。でも今は柊ちゃんのほうが大変じゃない」

 色はふくれっ面のまま柊を睨みつける。

柊のほうが色よりも背が高い所為で、色が柊に怒っても見上げる形になる。そんな色を見るのが柊は案外好きだった。

「可愛いね、色」

「今はそんな話ししてないでしょう?」

「うん、わかってる。――色、きちんと話したいの。だから今は聞かないで。どうせ明にも同じことを言わなくちゃいけないんだし、今日の放課後、一緒に私のうちに来て?」

「……部活は?」

「一日くらいサボったっていいでしょ?」

「……柊ちゃんのそのマイペースなところ、嫌いじゃないけど今はイヤ」

「少しくらい待ってよ。半日だけなんだし」

 と、柊はクスクス笑うと自分の教室に入って行った。

「色、柊どうだった?」

 色の後姿を見つけた明は早足で近づくと心配顔で色に尋ねる。

「空元気みたいだった……?」

 と、色は小首をかしげる。

「何で疑問形なの?」

「何かいつもと違って見えたんだもん……大人びたっていうか……」

「え――?」

 明はよく意味がわからない。

「何も言ってくれなかった。放課後、部活サボって家に来てって……。それだけ言って笑ってた」

「その表情が、空元気な笑い方だったの?」

「うん……?」

 色は先程とは逆の方向に首をかしげる。本当にわかっていないのだ。柊が何を考えているのかも、どういう結論を出したのかも……何もわからなかった。

「とりあえず、柊ちゃんの家に行かないと何もわからないみたい。柊ちゃんは話す気ないみたいなんだもん」

「話す気ないって……」

「学校ではって意味だよ?帰ってからゆっくり話したいみたい」

「――そう。柊がそうしたいなら、そうするしかないわね」

「うん。私は柊ちゃんを信じるよ」

「……そう言えば、自分の事は柊に何か伝えたの?」

「まだだよ?」

 色はキョトンとした顔で明を見上げる。明も、バスケをしているだけあって柊よりも背が高い。昔は三人そろって同じくらいの背丈だったのに、今となっては差が歴然としていた。

「じゃあ今日一緒に聞いても良いのね?」

 明は首を傾げる色を見ながら呆れたようにため息をつく。もちろん明も、色から何も聞いていなかった。柊と同じで三人そろっている時に聞きたかったのだ。

「……うん。だって私の場合はもう後日談なんだもん。柊ちゃんよりは話しやすいよ」

「柊は、これからどうするんだと思う?」

「……わからない。でも、柊ちゃんらしく真っ直ぐ前を見て歩いて行くことを選んだんだろうね」

 と、二人は笑い合った。自分たちのこれまでと、これからを考えて――。






 その日の放課後、柊と色と明の三人は柊の家で何気ない話をしていた。三人とも確信をつく事は何も話そうとしない。けれど誰もが思っている。話したい……聞きたいと――。そこで、明がようやく重い口を開いた。

「柊、色。そろそろ聞いてもいい?今まであったことと、これからの事を――」

 二人は目を合わせると、まず色が先に話し始めた。

「なにが聞きたいの?」

「どうして誠君とわかれたの?柊に聞いたんだけど、青柳君が誰を好きでも、色と付き合うって約束だったんでしょう?」

「うん……。でも、誠君がその子に本気を出しちゃったら私の出る幕なんかないでしょ?だから、身を引いたの」

「本気にって……誰に?結局青柳君の好きな人は誰だったの?」

 明は不満そうにそう言って首をかしげる。そこで色は柊を見た。柊は色が何を言いたいのかがわかっていたので、そこで言葉を引き継いだ。

「私だったの……」

 柊のその言葉に、明は目を見張った。柊も色も、困ったように笑っている。

「……私だけ知らなかったの?」

「ううん、私も知らなかったの。あの日色が目を真っ赤にして学校に来るまでは……」

 と、すまなさそうに柊はうつむく。

「私は、ずっと知ってたの。それでも、誠君のそばにいたかった。だって、諦めたらそこで終わりでしょ?絶対に自分から終わりにはしたくなかったの」

「でも……」

 明は何かを言おうとしてやめた。そんな明を柊は少し不思議そうに見つめると、その意図にピンときた。明は、昔の自分を悔いているのだ。でも、それには触れずに色に問い掛ける。

「苦しくなかった?私といて……青柳君は、私にも言ったわ。ほかに好きな奴がいるのに色と付き合ってるって――。その時色はあの場にいたでしょ――?」

「苦しかったよ、もちろん」

 少しくぐもった声で、色は続ける。

「でも、しょうがなかったんだもん!柊ちゃんも誠君も比べられないくらい好きだったんだから。どっちか一人を選ぶなんて私には出来なかった……」

「それが――」

 今度は柊が言葉を詰まらせた。明はそれを代わりに言った。

「それが青柳君と離れてしまう理由になるかもしれなかったのよ?」

 明の慎重な声に、色は黙り込む。

「色……私、答えを出したよ」

 柊は俯く色に向かって真剣な表情で真っ直ぐ言った。

「柊ちゃんは知らないんだよ」

「え……?」

「誠君は、本当に柊ちゃんの事が好きだったんだよ?柊ちゃんを……柊ちゃんだけをずっと思っていたんだよ?」

「……わかってる」

「なのに、そんなに簡単にきめてもいいの?」

「……色?それじゃあ柊がどんな答えを出したのかわかっているような言い方よ?」

 明は今にも柊に襲いかかりそうな色を落ち着かせるように優しく肩を支える。

「わかってるよ……柊ちゃんは、甘いの。誰よりも……麗先輩に」

 柊は何も言わなかった。ただ、悲しそうに、淋しそうに笑っている。

「私は……誠君の心を変えられなかった」

「色……」

 明は思わず肩を掴む手に力が入ってしまう。

「色、私の心も変わらなかった」

「え――?」

 色と明の二人はよくわかっていないような微妙な表情で柊を見つめる。

「私も、ずっと青柳君が好きだったの」


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