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カカオにシュガーを  作者: hi-ra
中学生編
26/52

26

視点がコロコロ変わります。

ご注意ください・・・


すみません、作者の力不足で(T_T)



 柊はどうして自分がここにいるのか全くわからなかった。

 そろそろデートも切り上げようと話していた時、丁度麗のケータイに優花から電話がかかって来た。そして二人はそのまま指示通りに優花から送られてきたメールの地図の場所へと向かったのだ。するとそこは、誠の家の前だった。辺りはもうすっかり茜色で、誠の家の白い壁が、薄くオレンジがかっている。

「……あれ?」

 麗はそう言って首をかしげる。

「どうしたの?」

「ここ、誠の家なんだよ。俺、もしかして道間違えたかな?」

「間違えてないわよ」

 と、誠の家の玄関の隙間から首を出しているのは、優花だった。

「優花ねえ!どうして青柳君の家にいるの?」

「ちょっとね。今日は楽しかった?柊」

「うん!噂通り凄く綺麗なところだった」

 と、柊は少し興奮気味にそう言って目を輝かせる。

「そう。ですって、良かったわね、麗」

 優花は薄笑いを浮かべて麗を見る。

「それよりも姉さん、何してるの?」

 少し照れたのか、顔を背けて麗は話を反らす。

「そうだった。ほら、早く入りなさい」

 なぜか優花は誠の家のドアを開けて待っている。けれども二人は素直に家の中に入る事が出来なかった。

「優花さん、警戒して当たり前っすよ。人の家なんだし」

「翔!お前も居たのか?」

「はい。たまたま街で優花さんに会ったんですよ」

「そうだったのか…」

 一応、状況理解はしたが、二人にはまだ疑問が残ったままだ。けれども促がされるまま恐る恐る家の中に足を踏み入れた。

 そして、二人して驚いた。その豪華さに、柊も麗もただ呆然と立ち尽くす。

「凄いでしょ」

 と、なぜか優花が自慢げに胸を張る。

「うん、凄い!」

 柊は見てわかるくらい、興奮している。何度も手を叩いて、飛び跳ねていた。

「このキッチン、スゴく使いやすそう!ピカピカでキチンとお手入れされてるし。――これ、自分でしてるの?」

 と、柊は不意に誠に笑いかけた。

 それは、自然と誠に五年前のあの笑顔を思い出させる。

「あ、あぁ。母さんが綺麗好きで、少しでもサボると雷が落ちるんだよ」

「自分でご飯作ってるの?」

「じゃないと金がもったいねぇだろ?わざわざ買うかよ」

「……お金持ちなのに?」

「別にお金持ちってわけじゃねぇよ」

「でも、この家……」

「父さんが建築士なんだ」

「へぇ――」

「柊、ご飯作ってくれるわよね?」

 と、急にここで優花が口をはさんだ。

「え――?でも……」

「いいよ。そのために呼ばれたんだし」

「……そうなの?」

 と、今度は麗が口を開いた。そして、自分の姉を見つめる。が、当の優花はよっぽど気にいったのか、ソファに身を預けたまま動こうとしない。

「姉さん?」

 麗は問い詰めるようにもう一度声をかけた。

「そうよ。だって、柊にこのキッチンを使ってほしかったんだもの。やっぱり、思い通りの反応。可愛いわね」

 と、優花は満足そうにそう言って笑う。

「優花ねえ……」

 その言葉には、流石の柊も苦笑いだった。

「さ、麗、手伝ってあげて!」

「言われなくてもそのつもりだよ」

 麗は呆れながらも柊の隣に立つ。

「青柳君、冷蔵庫の中、勝手に使っちゃってもいい?」

「あ、あぁ」

 そして柊と麗の二人は仲良く五人分の晩ご飯を作り始めた。

「柊、これ少し量多くない?」

「ううん、いいの。だってここには三人も食べ盛りさんたちがいるんだもん」

「……そうだったね」

 麗は申し訳なさそうに苦笑する。確かに食べ盛りの男三人がそろえば、柊の作る子の寮にも頷けるだろう。

「仲良いんすね、あの二人」

 二人を見て翔は素直にそう漏らしている。

「そりゃあ、一年以上のお付き合いだもの。何より、付き合う前から仲はよかったわ」

 ソファの向こう側から優花もほほえましそうに二人を見つめている。

「……優花さんは誠の事を応援してるのかと思っていました」

 翔は何気なく優花の隣に座ると、小声で優花に聞いてみた。

「私は、柊が幸せなら誰と付き合おうがかまわないわ」

 優花はそう言ってにやりと笑う。

「まさか、わざと今の二人を誠に見せつけたんじゃ――」

 翔は疑わしそうに目を細める。けれどもそれに対して優花はケロリとした反応だった。

「さあ、どうでしょうね?」

 優花が何を企んでいるのか、翔には全く理解できない。

 一方で、

「俺、何か手伝ったほうが――」

 と、考え込む誠を、

「やぼなことしないの」

 と、優花は静かに牽制する。

「それより、ここの家具って何処で買ってるの?私好みのものが多いから紹介してほしいんだけど――」

 と、優花は話をさりげなくすりかえる。けれど、それは誠の耳には届いていなかった。 

 ただ、何も言わずに二人を見ている。そして、気がついた。自分がどんなに、色に冷たく当たってきていたのかを。さりげない優しさや心配りを、自分は何一つしてやれていなかった。少しでも優しくしてやりたいと思って今まで一緒にいたはずなのに、目の前の二人を見ていると、自分との態度の差にがく然とする。けれどもし自分が柊の隣に居れば、麗と同じように接してしまうような気もする。やっぱり、柊の事を思うように、色の事を思ってやれない自分に、腹が立つと同時に、とてつもない罪悪感が押し寄せてくる。

「誠……?」

 急に黙り込んでしまった誠を、翔は下から覗き込んだ。

「あ、あぁ?」

 突然声をかけられたために、誠は思わず翔を威嚇してしまった。

「え、喧嘩売られた――」

「あ、わ、悪い」

「凄いうめき声だったわね」

 と、二人を見ながら優花はケラケラと笑っている。その笑顔を見て、翔は無意識に誠を睨んだ。

「ど、どうしたんだ?」

「いや……何か無性にイライラしてきた」

「――え?」

「俺、お前を殴り飛ばしてもいいか?」

「はぁ?」

 翔の唐突な言葉に、誠は身の危険を感じてか、翔との距離をとる。

「ど、どうしたんだ……?」

「いや、なんとなくムカついた」

「だから、何でだよ!――っていうか、なんとなくで人を殴ろうとするな!」

「大丈夫、一発だけだから」

「そういう問題じゃない!――ったく何考えてんだよ、一発でも痛いだろうが!」

「大丈夫」

「大丈夫なんかじゃねぇ。お前の目がすでに危ねんだよ!」

 翔の目は据わりきっている。

「あら、ホント。危ない目をしてるわね」

 と、優花も同意する。

 その瞬間、翔は誠めがけて飛びかかった。

「げっ――!」

 誠は咄嗟にそれをよけた。翔との力勝負で勝てるはずがないのがわかりきっているためだ。けれど、翔はしつこく誠に襲いかかる。そのまま二人は部屋中を走り回り、暴れまわる。

「な、何事なの?優花ねえ――」

 その騒々しさに柊は思わず料理の手を止めた。

「何事なのかしら――?」

「えぇ?」

「私にもよくわからないのよ。急に山城君が怒りだしちゃったことぐらいしか」

 と、そう言って優花は呑気にお茶を飲んでいる。自分の周りを走り回る二人には、目もくれない。

「おい、いい加減にしろよ。飯にホコリが入る!」

 と、麗が二人を牽制する。

「……麗君、心配するとこそこなの?」

 柊は目を丸くして麗を見た。

「だってまずくなるだろ?」

「う、うん……」

 しかしそれでも二人は止まらなかった。そして今度はだんだん柊がイラついてきた。

「ひ、柊?」

 ワナワナと震えはじめた柊の肩を、麗は心配そうに抑える。

「……いい加減にしなさいって……言ってるでしょう!」

 柊は思わず叫んでしまっていた。

「何考えてんのよ、あんたたち!こっちは包丁もってんのよ?死にたいの?」

 と、柊は手にしている包丁をかかげる。その目は、本気だ――。

「ひ、柊……」

 麗は柊の肩を離すまいと、さらに手に力をいれる。

「――ふふ、やっぱりこういう時に一番早くキレちゃうのが、柊なのよね」

 優花はそう言って面白そうに笑っている。そんな姉を見て、麗は思わずため息をついてしまっている。

「姉さん、もしかしてわざと二人を止めなかったの……?」

 誠と翔は蛇に睨まれた蛙のように固まっている。その場を少しでも動こうものなら、暴徒と化した柊が今にも襲ってきそうだったからだ。

「見てよ!姉さんのせいで、二人とも石みたいに固まってるよ!」

「あら、それは自業自得でしょう?私のせいではないわ」

「……姉さん」

 麗はため息をつきながら姉を見る。そして、誠と翔の二人はいまだに固まったままだった。

「ほら、柊。そろそろ作業開始しないと、今度は俺が暴れる事になるよ?」

 と、麗のその言葉で、柊は我にかえる。なぜなら、おなかが空いた麗は、キレた柊よりも大変なのだ。

「ご、ごめんなさい……」

 柊はそう言って肩を落として落ち込む。

「柊が謝ることないよ。悪いのは原因を作った張本人たちと、それを黙って見てた人なんだから」

 麗はそう言って微笑む。

「……麗先輩ってああ見えて、腹黒いよな」

「あぁ……。俺も前から感じてた」

 やっと動く事を許された二人が、ぼそぼそと呟いている。

「そこ、何か言った?」

『いえ!』

 麗の問いかけに、ピシッと直立した二人の声が重なる。

「じゃ、再開しようか、柊」

 柊と麗の二人はまたキッチンへと戻る。

「俺一生、麗先輩には敵わない気がする……」

 と、翔は呟いた。けれど、誠はそれに対して同意も反論もしない。ただ、その二人を見ているだけだった。

 もしかして……やっと、自覚できたのかしら?自分が柊を忘れることなんてできないんだってことを……。だってあの子、今でも変わらない目で柊の事見てるんだもの。色ちゃんとは比べられないくらい、複雑な表情でね……。

 優花は誠を見て、複雑そうな表情をしている。誰を応援しても、他の誰かが傷つく――。間違いなく……。それが、優花にはとても辛かった。

そして、そんな四人を、翔はわかっていそうでわかっていない顔をして見ている。

 外はもう完全に日が暮れて、星が出て来ている――。朝と変わらない寒空の下、五人にはひと時の休息を……。



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