23 side:rei・yuka
「柊、何してるの?」
気づけば柊たちは三年生に。麗は高校生になっていた。
麗は余裕で高校受験をパスし、県内でも有数の私立高校に入学した。
付き合い始めて一年たっても、二人は変わらずいつも一緒にいる。
そんな麗の視線の先には、麗の部屋の隅っこで背を向けて丸くなっている柊がいる。
「麗君……」
「ん?」
「――だって急に脱ぐんだもん!」
「……え?」
思っても見ない事に柊は腹を立てている。
「そんなこと……?」
「そんなことじゃないよ!びっくりしたんだから!」
と、柊はふくれっ面になって拗ねていた。
「だって柊の前だと気が緩むんだよ。それとも着替えないほうが良かった?」
と、麗は嬉しそうにそう言って高校の制服をひらひらとかかげて見せる。
「そ、そうじゃないけど……」
柊はまだ隅のほうで麗に背を向けたまま膝を抱えている。
「ほら、こっちむいて、柊」
麗は柊の肩に手をそえて囁きかける。
「……もう着替え終わった?」
「うん、着替えたよ。ね、今度からキチンと予告するから」
「……ほんとう?」
「ホントホント」
麗は優しく言う。
柊はゆっくりと麗のほうに向き直ると、頬をほんのり赤らめて笑う。
麗はそんな柊が愛しくてたまらず、思わず抱きしめてしまった。
「麗君?」
「……ん?」
「行かないの?」
「行くよ?」
「……この体制じゃ歩けないよ」
「うん。もうちょっと……」
麗は柊に抱きついたまま離れようとしない。
「もう、またデートをダメにするつもりなの?」
そう、麗は以前部活の急な練習試合によって柊とのデートを延期しているのだ。もちろん、柊は怒って一週間ほどメールも電話も、もちろん会うことさえもしてやらなかった。
仕方のない事だとわかってはいるものの、それでも柊としては面白くない出来事だったのだ。
今日はそんな柊へのお詫びと、まぁ麗自身もしたかったから、これから二人で最近できた話題の水族館へとちょっと遠出のデートだった。
「もう、麗君が今日は午前中だけ授業があるって言うから待ってたのに。あんま時間ないんだよ!」
と、柊はまだ拗ねている。
「わかってるよ」
そう言って麗は名残惜しそうに柊に軽いキスをしてすばやく離れた。
柊としてはもう少し麗のキスが欲しかったけれど、言うのはしゃくだったので堪えてまだ拗ねたふりをしている。
「さ、行きますか、俺だけのオヒメサマ」
と、麗は立ち上がると柊に手を伸ばす。
柊は迷わずその手をとると、麗に引かれて立ち上がり、
「よきにはからえ!」
と、元気良く言った。
二人はそのまま仲良く水族館へと向かう。
まだ日は高く、明るかった。
そんなお日様の下を、手をつないで歩いている二人は誰もがうらやむようなカップルだった。
人は立ち止まる事を知らず、のんびりと歩く優花を、次々と追い越していく。そろそろ熱くなっても良いと思うくらい、外は涼しかった。上着なしでは歩けないくらいだ。
優花はその日、バイトの帰りにフラフラと街を歩きまわっていた。
靴を買おうと立ち寄ったが、自分好みのものがなかなか見つからず、そろそろ帰ろうかと思っていたところだ。
そのとき、
「優花さん?」
優花の真正面に、翔がいた。
「……えぇと、山城君……だったかしら?」
優花は不安げに首を傾げる。
そう何度も合ったことがないため、顔ですらうろ覚えな状態である。
「はい。山城翔です。お久しぶりですね。麗先輩はお元気ですか?」
「えぇ、すこぶるね。そちらこそ楽しそうね」
とそう言う優花の目線の先では、翔の腕にしがみついている小柄なショートカットの女の子が不安げな顔で優花を見つめ返していた。
「いえ、そんな事は……。ほら、離れろよ」
翔は急にしどろもどろになりながら女の子から腕を引き放そうとする。
女の子は意地でも翔から離れようとせず、そのままの体勢で口を開いた。
「……この人だれ?」
その言葉に、思わず優花の眉間にピシリとしわが寄る。
「中学の時の先輩のお姉さん。お前には関係のない人だよ」
「それが彼女に言うセリフ?」
女の子は間違いなく、自分なんかより断然見るからに何もかも上をいく優花に嫉妬している。
けれどもそんな女の子相手に、翔は鬱陶しそうな顔を隠しもせずにため息をつく。
「いつ、彼女になったんだ?」
「今日だってこうしてデートしてるじゃない」
女の子は嬉しそうにそう言って満面の笑みで返す。
「お前が人の買い物に勝手に着いて来ただけだろ。俺は別に約束した覚えはねぇよ」
「ひっどーい!せっかくの休みに一緒に居てあげようと思ったのに!」
「だから頼んでねぇって……」
翔は呆れてそう言う。
誰が見てもわかるような、迷惑そうな顔をして――。
「なによ!私よりこのおばさんの方がいいっての?」
『はぁ?』
このセリフに葉思わず優花も口が出てしまう。
「もういい!」
翔のそのそっけない態度が頭に来たのだろう。女の子は怒って身を翻すと、帰ってしまった。
「……良かったの?」
ため息とともに呟いたその言葉に、色々な意味が含まれている。
「良いんですよ。どうせあいつの本当の狙いは誠なんスから」
「……青柳君?」
優花は目をぱちくりさせながら問い返してしまった。
「でも、色ちゃんと付き合っているのでしょう?」
「えぇ。それでも、諦めてきれない奴がいるってことっスよ。別れるのを待ってる奴や、待てずに邪魔しようって奴が」
「そんな人たちがいるのに、二人の関係は変わらないのね……。凄いわ」
優花は心の底から関心してしまっていた。
自分と緑も最初はそうだったのに、後から 綻びが出来てしまった。それを、元に戻すことができなかった自分としては、これから二人がどうなるのか、とても興味がわく。
「――それは……」
翔は急に黙り込む。
「……何かあるの?」
優花は翔の煮え切らない返事に反応して急に鋭い眼差しになった。
「い、いえ……」
「何かあるのでしょう?やっぱり――」
「やっぱり?」
翔は思わずそう繰り返す。
「柊の様子、おかしかったもの。何かを諦めた様な顔をして、私に二人が付き合い始めたことを話して来たわ。しかもそれと同時に麗と付き合いだしたんだもの」
「でも、伊吹たちは好きあっているんですよね?」
「『は』ってどういう事?色ちゃんたちは好きあっていないの?」
翔は思わず墓穴を掘ってしまっている事に戸惑い、バツが悪そうに片手で口を塞ぐ。
「い、いや、それはその――」
「そうなんでしょう?やっぱり青柳君は、柊の事が好きなのでしょう?」
「やっぱりって……どうしてそれ――」
「わかるわ。初めて会ったとき、あの子が柊を見る目、違ったもの。見てるこっちが恥ずかしくなるくらい、愛しそうに見つめていたわ」
それを聞く翔も、何だか恥ずかしくなってきた。
「……山城君?」
「はい?」
翔は思わず返事をしてしまっていた。
優花はそんな翔に急に寄りつくと、下からうるんだ瞳で見つめ始めた。
「私を青柳君の所に連れて言ってくれないかしら……?」
そんな優花を見て、翔は真剣な表情になって優花を上から見つめ返すと、にやりと笑った。
「甘えても無駄っスよ。優花さんが俺に興味ないのは知ってるんですから」
すると、優花もわかっていたのかすばやく翔から離れ、つまらなさそうに話を続ける。
「連れて行ってくれないの?」
「いえ。ただ普通にお願いしてもらいたかったな、と……」
「普通の男の人ならこれですぐに言うこと聞いてくれるのよ?」
「優花さん美人スから。でも生憎、俺の周りにはそうやって俺を騙そうとするやつが多いんで」
そう言って翔は思いのほか楽しそうに笑っている。
そんな翔を見て、優花は何だか調子が狂ってしまうのを感じた。
少し長くなったので、中途半端なところで止めます。
すみません(ーー;)




