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カカオにシュガーを  作者: hi-ra
中学生編
2/52


 そのまま、柊たちは、中学生になった。


 何も変わらないまま……誠とは一言も話すことのないまま、時が流れ、小学校の頃は少し柊を遠巻きにしていた子たちも、今ではまるで何もなかったかのように普通に話しかけてくる。けれどもそんな中、やっぱり誠とだけが、気まずいままだった。

 柊は、誰にも自分の初恋のことを言えなかった。それは、親友である色と明の二人であってもだ。教室であんなことを言ってしまったあとでは、何だか言い出しにくかったし、言うのが気恥かしかった。それでも、気づくと目で誠の姿を追ってしまっている自分に気づく度に、泣きたくなる。

 それは、柊にとって消したくても消えない傷になってしまっていた。

 気づいた時の絶望感を、今でも忘れる事が出来ない。その中には、気づかなかった自分自身への怒りもあるのだ。


 それからというもの、柊は恋愛というものに関してどこか冷めたような気持ちを持つようになってしまった。



「……少し、寒くなってきたね」

 柊は、ぽつりと無意識にそう口にしていた。

 放課後、柊と色、明の三人は、校舎を出て学校の中庭のベンチに並んで座っていた。

 そこはお世辞にも穴場とは言いにくいが、部活生の掛け声とともに時間がゆっくりと過ぎていくのを感じる事が出来る数少ない場所だった。

「明は、この後部活?」

「うん。柊と色は?」

「今から合奏」

練習はしなくていいのか、などという突っ込みは置いとくとして――。

そんなくだらないような、どうでもいい会話が、グラウンドで走り回っている部活生たちの掛け声に掻き消されていく……。そんな時、三人はふと、それぞれに彼らの頭上に広がる空を見上げた。

「……雲、高いね」

 綺麗な秋空の夕日。見上げた三人の目に飛びこんで来たのは、朱に染まる校舎だった。澄んだ空気のせいか、その朱が目に染みる。

「……こうして見ると、うちの学校ってもの凄くボロイ……?」

 色が不安そうに首を傾げる。

「確かに……。綺麗なのは内装だけなんだね」

 明もそう言って笑った。

「私は、なんかほっとするんだよね、この学校」

 そう言って目を細める柊は、どこか含みのある笑みを浮かべる。

「うん。それはわかる。だから、この学校好きだもん」

「あ、合奏遅れる!柊ちゃん、急がないと!」

 明が笑ったままベンチの背に深くもたれかかると、今度は色が時計を見て急に柊をせかし始めた。

 その声に、柊は苦笑しながらも重い腰を上げて立ちあがった。

「じゃあまた明日ね、明」

「うん、バイバイ」

 と、そこで柊と色は明と別れた。

 二人は、急いで四階の音楽室へと走り出す。どうして音楽室というものは、一番上の階にあるものなのだろうか……。息を切らしながら、ぶつぶつと文句を言いたくなってしまう。

 そんな時、色が急に階段の踊り場で立ち止まった。

「……色?何してんの、合奏遅れるよ」

「見て、誠君がいる」

 と、色の指さすほうを見ると、グラウンドで楽しそうにサッカーをする誠の姿が目に入った。

「……ほんとはね、小学校の頃、柊ちゃんが好きなのは誠君じゃないかなぁーってずっと思ってたんだ」

「……え?」

 柊は思わず柊の顔を見下ろした。柊よりも少し低いその身長は、丁度夕日のせいでぼやけて上手く見えない。

「いつも目で追ってるような気がしたから……。でも、違ったんだね」

 と、色は柊のほうを振り返ってごめんねと言いながら微笑んだ。

「うん……」

 柊はなんだか急に胸が苦しくなったような気がした。何も言えない自分がもどかしい。

「……明は、まだ青柳君の事が好きなの?」

「ううん。今は違う人って言ってた」

「そうなの?」

 柊は色のその言葉に目を丸くした。

 そんなに簡単に好きな人って変わるものなの?

「でも、私、誠君のことが好きなんだ」

 と、色は少し照れたように笑う。

 そんな色を見て、柊は内心飛び上がるほどびっくりしていた。何が「でも」なのか、聞き返したい思いをこらえて、口をつぐむ。文脈が上手く繋がっていないせいか、柊の耳にいつまでもその言葉が残り、反響している。少し時間はかかったが、取りあえず、理解することが出来た時、色はどこか淋しそうにうつむいていた。

「色、小学校の時は何も言ってなかったよね?」

 ようやく口を開く事が出来た柊は、震える声で聞いた。

「言えなかったんだ。明ちゃんが好きだって言ってたし、柊ちゃんも誠君の事が好きなんだって、あの日まで思い込んでたから」

 色はそう言って目を細めた。なんとなく、色の考えている事がわかるような気がした。少し違ってはいても、柊も同じような気持ちを持っている。

「……私は、色、好きだよ」

「え……?」

 柊のその急なことばに色は目を丸くして顔を上げた。

「優しくて、いつも人の事気にして過ごせる色、可愛いと思うよ」

 と、柊は優しく微笑んだ。

「……知ってた?そんなだから、柊ちゃんは女の子に人気があるんだよ?」

「え、女の子……?」

 それには流石の柊もびっくりした。

「うん。もう、私と明ちゃんなんかいつも嫉妬しちゃってさ、他の女の子に柊ちゃん取られないように、いつも頑張ってるんだから!」

 色はそう言って可愛く怒った。そんな色を見て、柊は思わず吹き出してしまった。

「ありがとう、色」

 二人は笑いながら、また、音楽室へと走り出した。


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