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……どうしてこんな物があんな所に落ちていたの……?私の予想が当たっていれば……今の話、聞かれてた?でも、それならどうして声をかけてくれなったの?
柊は険しい顔をしたまま、足早に廊下を突っ切っていた。
……まだ、いるといいんだけど……。
そう考えながら、柊はサッカー部の部室へと急いだ。すると、「柊?」と、後ろから呼ばれた。
柊の探していた人物だった。
「……麗君」
「そんなに急いで、どうかしたの?」
「麗君こそ、教室の外で私たちの話聞いてたんでしょ?どうして声かけてくれなかったの?黙って聞いてるなんて、悪趣味だよ……」
柊はそう言って麗に詰めよった。
「これ、麗君のでしょ」
そう言って差し出した柊の手の中には、去年の夏、つまり小学校の修学旅行先で買ってきた、柊が麗にあげたはずのキーホルダーだった。
「……何処でそれ見つけたの?」
「……え?教室の前だよ?だって麗君、私の教室に来てたんでしょ?」
「いや、行ってないよ?それに柊にもらったキーホルダーは、ちゃんと肌身離さず俺が持ってるし……ほら」
と、麗が差し出したケータイには、柊の持っているそれと全く同じキーホルダーが付いていた。
「じゃ、じゃあこのキーホルダー、誰のなんだろう……?」
「さぁ……。どうして?」
「さっき、私たちあんまり人に聞いてほしいような話ししてなかったから、もし誰か聞いてたんなら、怒ってやろうかと……」
柊は口ごもった。その視線は定まらず泳ぎまわっている。
「俺を怒りに来たの?柊」
麗はそんな柊がおかしくて思わず笑い始めた。何よりも、その行動があまりにも柊らしかったからだ。
「あんな険しい顔して話しかけて来たから何かあったのかと思ってびっくりしたんだけど、見当違いだったみたいだね、お互いに」
と、麗はまだ笑い続けている。
そして笑いすぎでおなかが痛くなってきたのか、その場に座り込んでうずくまってプルプルと震えはじめてしまった。
「そんなに笑うことないのに……」
柊は拗ねたように口を尖らせて俯く。
そんな柊を、麗は下から嬉しそうに見上げた。
「……ごめん。柊があんまり可愛かったから」
そんな麗を見て、柊は真っ赤になった。そんな言葉をかけられるとは思っても見なかったのだ。何より、下から見上げてくる麗の顔が何よりも色っぽかった。
「えっ……れ、麗君?」
「うん?」
そう返事をしながら麗は立ち上がると、何とも自然に柊の手を握った。
「一緒に帰らない?俺も今日はもう部活終わったんだ」
「あ、う、うん……」
麗は戸惑う柊と手をつないだまま教室のほうへと歩き始めた。
柊は握られている自分の手を見つめる。
れ、麗君と手を繋ぐのなんか、初めてじゃないのにすごく緊張する……何で……?
柊は自分が真っ赤になっている事を自覚していない。対する麗は、繋いだ手を振りかえって柊を見ても、それが窓から差す夕日のせいだと、勘違いするだけだった。
そして、それは柊も一緒。
真っ赤になっている麗の顔を見ても、何の疑問を抱く事はなかった。
「……実は、嘘なんだ」
と、麗は急に、歩みを止めることも無く話し始めた。手を引かれている柊の角度からは、麗の顔が見えなくなっていた。
「……え?」
「柊の教室に行ってないっていうの。……まぁ、正確にはまだ着いてなかっただけなんだけど」
「……どういう事?」
そう言って柊が首を傾げると、麗は微笑んだまま柊のほうを振り返った。
「柊が教室で友達と話してるのがグラウンドから見えたから、一緒に帰ろうかと思って誘いに行く途中だったんだ」
「……そうだったんだ」
柊は少しはにかんだように笑う麗を見て、少しほっとした様に笑った。
麗君といると、凄く落ち着く……。私、こんなに人といて穏やかな気持ちになれるの、麗君だけだな……。
二人は手を繋いだまま、そのまま一緒に家に帰った。少し照れくさそうに。けれど、とても幸せそうに……。
そんな後姿を、誠がじっと見ていた。
「……やっぱり――」
誠は、色の急な告白に少し戸惑った後、すぐに自分を取り戻すと、走り去ってしまった色の後を追いかけた。そして、三人の会話を偶然聞いてしまっていたのだ。




