第九話:砂漠
都市に生き残っていた住民たちはまた街の復興に取り掛かった。
李は涙を拭い立ち上がる。目にはしっかりとした光が宿っていた。
強い男だ・・・。
孝太は思った。哲とはまた違った強さ・・・この強さがあるから人はここまでこれた。
「気をつけてな。」
孝太は李に言う。
李はまっすぐに孝太の目を見た。覚悟を決めた目だ。
「私も連れて行ってください。孝太さん。」
意表をつかれたように孝太はえっ?と言ってしまった。
「だめですかね?」
李はその反応をみて続けて言う。
「いや、構わないが・・・・。」
家族の元にいてやらないのか?と孝太は思った。
「家族の墓はこの街のみんなが守ってくれます。」
それに、と李は続けて言う。
「この地球の行く末をこの目で見てやろうと思いましてね。」
「あなたがこの地球をどう変えるのか、ね。」
李の意思は固いようだ。
「私は別にいいけど?」
明菜が言う。
「たくさんいるほうが楽しいし!」
そう言うと、エヘヘ、と明菜は笑った。
「たくさんいるほうが少しでも有利だしな!」
そういうと、がはは、と哲は笑った。
なんだこのおっさんは・・・・・。
ともかく、李は喜んでいた。
確かにこの先俺の部隊だけでは先には進めないだろう。
孝太は李に向かって手を差し出す。
「よろしくお願いします。」
李は少し恥ずかしそうに笑って孝太と手を交わした。
「劉さんは・・・?」
明菜が李の後ろにいる小柄な男に向かって言う。
李が劉のほうを向いた。
「部下は上司の意思に従うものです。」
そういうと、劉はニコリと微笑んだ。
李の部下は街の防衛部隊を残して、街から500名ほどが加わった。
この先は長い行軍になり、できるだけバグに見つからないように行動しなければならないので大軍は連れて行けないのだ。
もっともこの街にいた部隊も残りわずかとなっていたのだが・・・。
移動にはバギーがかなりの台数用意された。驚いたことに侵略以前にあった大砲(野砲)も一基あった。
李がかなり苦労して手に入れたものらしい。
その野砲を車の後ろに牽引した。
「・・・。」
李が街をしきりに振り返る。
「無理しなくても、いいんだぞ?」
孝太は李にそういう。
「いえ、自分の故郷の姿をしっかりと目に焼き付けておこうと思いまして。」
李はそういった後、なんでもないと言った風にこう続けた。
「それに・・・もうこの街を見るのも最後かもしれませんし・・・。」
グッ、と孝太は胸が締め付けられる思いがした。自分が死ぬ覚悟を決めること、それは傍観者にとってはつらいことなのかもしれない。
李は相変わらず街をじっと見ている。
「きっと、帰ってこれるさ。」
孝太は自分にも言い聞かせるようにそうつぶやいた。
バギーは広大に広がる砂漠を走り出した。街は舞い上がる砂埃に消えていった。
孝太たちが乗っているバギーは哲が運転していた。
ブゥン!!とうなり声をたてバギーが飛び上がる。
「て、哲!運転が荒いぞ!!!」
「なんだ、小僧びびってんのか!隣の席の奴をみてみろ!!」
隣の席では明菜が身を乗り出して叫んでいた・・・。
「いっけぇぇぇえええええ!!!!」
げ、元気だな、こいつ・・・。
あいかわらず哲はブンブンとエンジンをふかしていた。
う・・・。ちょっと酔ったかもしれない・・・。
と、明菜の叫び声が聞こえないのに気づいた。
横を見ると、さっきまで車から乗り出していた明菜は自分の席に戻ってうつむいている。
どうしたんだ?
「ごめん・・・吐きそう・・・・。」
・・・・っ!!!!!
全てのバギーは砂漠の真ん中で急停止した。
明菜は石の上に座って、空を見上げていた。
孝太はその横にゆっくりと腰掛ける。
「やれやれ、お前はホントに災難を呼ぶ女だな。」
ふぅ、と孝太はため息をつく。
「ご、ごめん・・・。」
明菜は恥ずかしさで顔を少し赤くしながらも相変わらず空を見続けていた。
雲ひとつ無い空。
真上にある太陽の光に照らされている明菜の横顔に孝太はどこか美しく感じた。
「ま、まぁみんなも疲れてたからいいんだけどな。」
なぜか孝太はその横顔が直視できずに慌てて目をそらした。
「うん、ありがと。」
明菜が言う。
・・・・・・・。
静寂が訪れた。
といっても、周りの連中は相変わらず騒いでいる。哲などはどこから手に入れたのか酒ビンを持ち出し、今にも宴会でも始まりそうな雰囲気だった。
ただ二人だけはその雰囲気からはずれ、ただ二人とも空を見上げていたのである。
・・・・・。
孝太はえも言われないような不思議な感じに包まれていた。
というのも幼い時からの付き合いでこいつ(明菜)とこんなにも無言で過ごした時間はなかったのだ。
ふぅ、と孝太はまたため息をつくとその雰囲気から逃げるようにゴロンと石の上に寝転がった。
太陽の熱で暖められた石は少し熱かったが視界には青い空が広がった。
「よいしょ。」
明菜がつられたように孝太の横に寝転がった。
すぐ横には明菜の顔がある。
なぜかわからないが孝太は自分の顔が赤くなるのを感じていた。
「ね、孝太。」
「おう。」
突然明菜に声をかけられ少し動揺して孝太が答えた。
「今なら、孝太が空を好きな理由がわかるかもしんないな。」
「え?」
「なんかさ、こう大きな空を見てると自分がどれだけ小さいかわかっちゃってさ。そんで、その小さい自分の悩みなんてもっと小さいんだなぁって思って、というか悩みなんてなかったかのように感じるって言うか、なんていうか・・・。」
「何が言いたいのかさっぱりわからん。」
「もう!君にはわかんないのかね〜この純情な心が!」
これだから男は、とでも言うように明菜はやれやれと首を横に振った。
孝太は明菜の言ってることがわからないでもなかった。あの広い空を見るとささいな悩みなんてどうでもよく感じることはいくらでもあったのだ。
「お前に純情な心があるとはおどろきだな。」
「な、なんだとぉ!」
ゴツン!という衝撃が孝太の頭を襲う。横を見るとムスッとした明菜の顔があった。
「い、いてぇ・・・。」
「私を馬鹿にした罰だ!」
明菜はそういうとフンとそっぽを向いてしまった。
やれやれ・・・ホントに冗談の通じない奴だ・・・。
孝太は腫れた頭をさすりながらそう思った。
「おーい!お前らそんなとこでイチャイチャしてないでこっち来て一緒に飲もうぜ!」
哲が呼んでいる。
「べ、別にイチャイチャなんて・・・!」
「いいから早く来い!」
孝太と明菜が同時に起き上がり、同時に反論したのを制して哲が叫んだ。
「ふぅ・・・じゃあ行くとしますか。」
「うん!」
孝太が言うと明菜が元気に答える。
あの空がいつまでもこの隣にいる元気な奴の為にきれいな青でいてほしい。
孝太は空を見上げふと、そう思った自分が少し恥ずかしかった。
長い間更新できなくてすいませんでした・・・。
忙しくなってきたので更新は遅くなるかもしれませんがどうか暖かい目で見守ってやってください!