第八話:人。
「なんであんなことするんだよー!」
明菜が哲に向かって叫ぶ。
「まぁ、傷がつかないだけましじゃねぇか、な?」
哲が必死になだめる。すると明菜はそれ以上何も言えなくなったのかむすっとして黙り込んだ。
しかしそこまでしてバグを殺したいと思う明菜もどうかと思うが(普通女だったら虫は見るのもいやなんじゃないのか?)、なぜ哲は明菜を、いや、明菜だけを守ったのだろうか。
孝太はそう思ってたずねた。
「テツ、なぜこんな奴だけを守るんだ?」
「こんな奴って何だよ!!」
明菜が叫ぶ。しまった、口がすべった・・・。
哲がはは、と笑った。
「お前らはほんと仲がいいな。」
「どこが!こんな奴!!!」
孝太は必死でそう言ったが明菜と声がそろってしまった。
「いや、そういうとこ。」
哲が大笑いした。
「そいつはな・・・。」
哲が思い出したように孝太の質問に答えた。
「絶対に死なせてはならん。」
「そんなの当たり前だろ。誰だって死なせたくないよ。」
孝太が言う。
「そういうことじゃねぇよ。」
哲は真剣な顔をしていた。
「今の地球を救えるのはこいつなんだ。」
哲の指先は明らかに明菜を指していた。
私?!という風に明菜はびっくりしている。
「テツさん・・・私はそんなに強くないよ?」
「そうだよ、こいつは逆上がりできないんだぜ?!」
「ちょっ、孝太!今言うか普通?!」
明菜の顔が赤くなる。明菜は運動はできるほうだが鉄棒はからきし駄目だった。よくうなってる所を冷やかしたものだった。
「そういうことじゃねぇよ、馬鹿。」
あきれたように哲は言った。
「お前らと話してると頭がおかしくなりそうだ。」
よいしょ、と哲が腰をあげてほとんど壊れてしまった街を見る。
街の人はほとんど動かなくなっていた。
むっとするような焼けた臭いが孝太の鼻をつく。
李と劉はがっくりと膝をついて動かなくなってしまった人を抱きかかえていた。
孝太はなぐさめようと李の肩に手を置こうとしたが、その手は止まってしまった。
李は泣いていた。
それでも泣き声はあげまいと必死に声をこらえていた。
孝太はそれをみて何を言ってよいのかわからなくなった。
「家族です。」
李が動かなくなった人を抱きながら言った。
苦しい・・・。
バグはこんなにたくさんの人の笑顔を奪ってどうするんだ。
俺たちの幸せを奪ってどうするんだ!
孝太はやりどころのない怒りをどうにもできなくてそばにあった石を蹴飛ばした。
蹴った足は痛くなったが、苦しさが少しまぎれた。
街は十字架で埋まった。生き残った街の人たちは手を合わせている。
縦横にきれいに十字架が並んでいる。その中のひとつの前に李が立っていた。
墓の前にりんごを置いた。
「娘が好きだったんです。私はいつも娘にけむたがられていましたが。」
そう孝太にいうと、李はちょっと照れくさそうに笑った。
孝太は李の顔をまともに見れなかった。
「娘さん、きっとりんごを貰えて喜んでますよ・・・。」
孝太はそれだけしか言えなかった。
哲が廃墟となった建物にタバコをふかして座っている。
タバコの煙は空に吸い込まれるように消える。
孝太はその煙を追うようにして空を見上げた。
空には雲も何もなく、ただ青かった。
なかなか執筆が進まない・・・。読んでくれている方には申し訳ないです・・・。