第6話:人は歩き出す
三年前のあの「地獄の光」が落ちたのは(第二話で孝太たちがみた光のこと)アメリカのど真ん中だった。
破壊力はすさまじくアメリカ全土どころではなくその外まで広がった。
日本は北部を完全にやられた。(孝太のところはぎりぎりの所だったのでかろうじて助かったが)
先進国はほぼ壊滅的となり、アメリカは戦闘能力をなくした。わずかに残った地球の軍はほとんどの勢力をかけて「未知の者達」に報復を考えた。
世界各国の軍あわせてその数、9000万。宇宙戦艦は2千隻が動員された。これは地球の宇宙戦でのすべての戦力だった。
結果は無残なものだった。
地球軍は奮戦したものの、1時間後にはたったの50隻になっていた。
退却命令が出たが地球にたどり着けたのは3隻のみだった。あとの約40隻は行方がわからないままである。
地球の司令部はあせった。残りの地球の軍は100万人ほどだった。多いように見えるが「侵略者」のやつらにはとうてい適う数ではない。
司令部は最後の命令を出した。いや、司令部はこのとき最後だとはおもわなかったろう。
わずかな軍を残して地球陸軍は地球に着陸してきた「侵略者」を食い止めようとした。これが後の第一次バグ討伐戦であった・・・。
「敵宇宙戦艦が着陸します!」
部下が叫んだ。
でかい・・・。哲中尉は自分が震えているのがわかった。だが、それが恐怖からなのか、武者震いなのかはわからなかった。
「こんな奴に勝てるんでしょうか?」
自分の横にいる部下がそう言う。だが声は落ち着いていた。
さすが自分の部下だな、と哲は安易なことを思っていた。
「勝つしかないだろうが。逃げてもどの道死ぬだけだ。それなら・・・」
「なら、戦う。ですね?」
部下がにっこりと笑って哲が言おうとしたことを遮った。
哲はこの笑顔をみるといつも胸が痛んだ。
哲は部下の名前は聞かないことにしていた。聞いたらそいつを人間としてみてしまう。部下が死んだときそれを人間と思っては俺は恐怖に震えるだろう、と思ったからだった。
「そういうことだ。」
バグの戦艦がズズズ・・・というでかい音を出して着陸した。距離は2kmといったところか。それでも山ほどでかくはっきりと見えた。
哲は後ろを振り向いた。自分の部下は300名ほど。そのほかの部隊も後ろに見えた。
正直地球の軍は勝てないだろう。それはみんな思っていることだ。
だが、この草原を埋め尽くすほどの「人」を見るとなぜか戦えるような気がした。
「俺たちは軍の先頭を突っ走る!敵はどういう奴かしらんが俺たちは目の前に現れた馬鹿どもを蜂の巣にするだけだ!」
部下たちが歓声をあげる。
「いくぞおぉ!」
走った。あのでかい「山」に向かって。
敵が戦艦からでてきた・・・。
哲の部隊の走りはとまった。部下たちは呆然としている。
ズン。
ひときわ大きい「足音」。
目の前にあわられたのは20mはあるでかい「虫」(形がカマキリに似ているため後に[マンティス]と呼ばれる)だった。その足元には俺たち人間ほどの大きさのこれまた「虫」がうじゃうじゃとうごめいていた。
「なんだ、あれは・・・。」
部下の一人がそうつぶやく。哲も驚いていた。
侵略者は当然変な機械にのっているタコみたいな奴か、人間のような形をしているとみんな思っていたからだ。
でかい虫がひときわでかい声で耳障りな甲高い鳴き声をあげた。
「げぇ、気持ち悪いな。俺虫は苦手なんすよ。」
俺の部下のムードメーカーが沈黙を破るようにそういった。
「テツ中尉、蜂の巣にしてやるんでしょ?早く行きましょうや。」
続けてそういう。そうだな、俺たちはいつも恐怖などなかった。
「そのとうりだ!奴らを「駆除」してやるぞ!虫なんかにこの星を渡すな!」
そう叫んで哲たちは走り出した。後ろにはたくさんの味方もはしっている。
キュゥゥゥゥン・・・。
光が哲の横を走った。あのひときわでかい「虫」からだ。
大きい爆風・・・。
その「光」にあたった奴らはみんな消えていた。草原を埋め尽くす人だかりにその光が走った部分だけなにもなかった。
一瞬の静寂。
哲は自分がなんだかわからなくなった。恐怖はなかった。
「うわぁぁぁあ!」
哲が叫んだ。みんなも突っ走った。
みんな自分が何をしているかわからなくなっていた。逃げるものはいなかった。
目の前に自分たちほどの虫が自分たちと同じように走ってくる。嫌な「鳴き声」をだして。
哲の銃が火を噴いた・・・。
気づくと、哲は歩いていた。足がふらつく。
周りに人はいなかった。あれだけいたのがただの一人もいなかった。
ただ一人荒れた荒野を歩いていた。
無残なものだった。
奴らの前にはわれらなどゴミに等しかった。そう、まるで人が「虫」をもて遊ぶように・・・。
司令部は最後の命令「退却」を命じた。遅い退却命令だった。
部下はどうなったかはしらない。おそらくほとんどが死んだであろう。
司令部は崩壊した。もう人間をまとめられるものは消えた。
各地にはわずかな兵が残っているだろう。だが、それはもう軍ではない。
この世界に戦闘能力はなくなった。残っているのは戦えない国民のみ。
哲はそう思っていた。重い足取りながら着実に「逃げて」いた。
だが哲の思いは裏切られる。残った国民はみな武器を取った。戦闘経験のないもの達だ。この美しい「地球」を守るため民間人は無謀な戦いに望んだ。ひにくにもこのとき初めて人類はひとつになった。
残り人類約一億人・・・。
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「それでお前たち、[対侵略者民間抵抗軍]ができたわけだ。」
哲は食後のお茶を飲んでそういった。
孝太たちもこの運動に参加した。とういうより動けるものはほとんど参加している。
バグたちにとってはハエみたいなものだろう。それでも抵抗軍は各地でテロのような小競り合いをやってきた。
「俺はこの地球で暮らしたい。」
孝太が言った。
「そんなことは全員思ってる。」
哲がつぶやく。
「だったら、なぜ仲間に入ってくれない!」
「無駄だよ、この地球は。もう終わっている。戦うだけ無駄なことだ。」
「わからないだろ、そんなこと!」
「鍛えられた9000万人の兵隊でも適わなかったのにか!」
哲が叫んだ。
孝太は黙ることしかできなかった。
「ところで、そっちのお穣ちゃんはなんていう名前なんだい?」
雰囲気をかえるように哲が明菜に向かって言った。
いままで黙っていた明菜が突然聞かれてびくっとした。
「あ、明菜っていいます。」
弱々しい声で言った。
こいつなりに空気読んでるんだな、と孝太は思った。
突然、哲は固まった。持っていた湯のみを落としてしまった。
明菜はあっ、と叫ぶとまるで悪いことをしたかのように「ご、ごめんなさい!」と謝った。
「 明菜だと!」
突然哲は叫んだ。
「お前あの東条博士の娘か?!」
哲は驚いていた。
「そうですけど・・・?」
明菜の父は博士と呼ばれていた。軍で働いているなんてうわさも立っていたが、孝太に言わせればいつも外をぶらぶらしているただの変人だった。
「驚いたな・・・LAST KEYか!」
哲は震えていた。
明菜はなんのことかわからないという風にしている。
「お前孝太、とかいったな。」
「ああ。」
孝太と明菜はなぜこの男がこんなに驚いているのかわからなかった。
「前言撤回だ、ボウズ。この地球は助かる!」
一瞬の静寂がおとずれる。
「仲間になろう。」
哲が言った。
ここでやっとこの世界に起こっていることがわかりました。早くここを書きたかったです(笑)
これからもよろしくお願いします。