第5話:ヒゲヅラ
男は葉巻をマンティスの上に捨てると孝太たちの元から離れるようにして歩いていった。
その男の先には小さな小屋があった。
「この明菜様を無視するとはいい度胸だなぁ。」
そうふざけて言った明菜の顔には汗がにじんでいた。隊長たちまで驚きで何もいえないようだ。
マンティスを一人で倒した・・・。孝太はそんな人間を今まで見たことがなかった。いや、ここにいる全員がそうだろう。
マンティスはいわば怪物だ。少々の銃弾や砲弾ならびくともしない。それを一瞬で・・・
「いこう。」
孝太は小屋に向かって歩き出した。自分がひどく興奮しているのがわかった。スピードが、速くなる。
「え、ちょっ、ちょっとまってよ!」
明菜がそう叫んでついてきた。
いっつもついてくんなよ。孝太はそう思ったが明菜が必死についてくるのを見てそう言えなかった。
しかし待っているのもなんだか変な気がしたので走ることにした。
「聞こえてないのかよぉ。いじわる!」
無視無視。
おそらく手作りであろうその小屋はさびたトタンでつくった簡単なものだった。
孝太はドアノブに手をかけドアを開けた。途端にいい香りが孝太の鼻を楽しませる。
部屋の中も貧相な作りではあったがどこか温かみを感じた。
部屋の真ん中にぽつんと鍋が置いてあり、その中からいい香りがでていた。
鍋の奥に男が座っていて鍋になにやら入れている。
男は立てば2m近くあるだろうと思われた。顔は無精ひげを生やしており、黒いコートを羽織っていた。
座っていても孝太を圧倒するような迫力があった。
やはりさっきの男か・・・。
「ノックぐらいしろ・・・。失礼な奴だな。」
突然野太い声がした。
「え、あ・・・すまない。」
突然しゃべりだした男に孝太はあせってしまった。
「まぁ座れよ。」
男は鍋の前に孝太を呼んだ。
孝太の目の前においしそうな匂いが漂う。この「戦争」がはじまってからこんないいにおいは嗅いだこともなかった。
と、ドアをノックする音がして明菜が入ってきた。
「孝太ぁぁ!ぁ・・・すいません。」
男をみて気まずそうに明菜が言う。
「はは、こっちのお嬢ちゃんは礼儀をちゃんと知ってやがる。」
ふいに男が笑い明菜はなんのことかわからないという風にキョトンとしていた。
「お穣ちゃんもこっちに座りなよ。」
男が言った。
ペコリ、と頭を下げ明菜がゆっくりと孝太の横に座った。
男は鍋の中に入っているスープを少し古めの茶碗にいれ、孝太に突き出した。
「飲めよ。」
孝太の目の前にはうまそうな湯気のたったスープがある。
「すまない。」
孝太はここ最近このような暖かいものを食べたことがなかった。いや、それ以前にここ最近はまともな食べ物などにありつける状況ではなかったのだ。この「戦い」のせいで・・・。
スープはうまかった。久しぶりに胃を喜ばせられたようだ。
「ほら、お穣ちゃんも。」
明菜は手を振って遠慮したが、お腹は遠慮をしらなかった。
ぐうぅぅ・・・。
静寂が訪れる。
明菜は少しうつむいて、恥ずかしそうに茶碗を受け取った。
孝太はスープを噴出しそうになるのを必死でこらえた。
目の前の茶碗は空になった。しばらくは動けそうにない。
明菜も同様だった。満足げだというように、足をひろげていた。
こいつはホントだらしねぇなぁ・・・。
孝太はそう思うと男のほうをみた。
「あんた、名前は?」
「そういうときは自分から言えよ。」
あぁ、そうか・・・。
「孝太という。」
「まぁ、知ってるけどな。このお穣ちゃんがお前の名前を大声で、叫んで、飛び込んできたからな。」
そういうと男は、はは、と笑った。
明菜は赤面し「すいません・・・。」と小さな声で言った。
「俺は哲という。まぁ、テツさんとでも呼んでくれや。」
テツか・・・。いい名前だと思った。
「テツ?!あの哲中尉ですか?」
明菜が叫んだ。
「やめてくれ、昔のことだ。」
テツが照れくさそうに言った。
「哲中尉?」
「孝太、知らないの?第一次バグ討伐戦の最前線で生き残った10人のうちの一人、[マット・ドッグ(狂犬)]と呼ばれて恐れられた軍人よ!」
あの討伐戦で生き残った?つくづくなんて男だ。
こいつなら地球を救える・・・。
そう思った。
「仲間になってほしい。」
孝太はそう思ったとたんテツに向かって言っていた。
「一緒に地球を救ってほしい。」
「いやだな。」
哲が言った言葉に孝太は拍子抜けしてしまった。
「なぜっ・・・」
「どれ、お前らガキに第一次バグ討伐戦の話をしてやるか」
孝太の言葉を遮るように哲は話し始めた。
鍋の中の湯気がテツを隠した。
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僕は本当に更新が遅いです。これは本当に悲しい。というか忙しい!でもがんばるのでよかったら感想ください。とても励みになるのです。
次話でとうとうこの地球で起こっていることがわかります!(ん?前もどこかで書いたような・・・)