第3話:戦人
相変わらず、空は青く透き通っていた・・・。
そして、その空と同様にに地上には何もなかった。しかしその光景は空のように美しいとはいえなかった。地面はひび割れ、地上を走る動物も虫もいなかった。
しかし荒れ果てているにもかかわらず、そこにはたくさんの人がいた・・・。最初、彼らはどこかの兵隊かと思った。手には黒く光る武器を持ち、表情は厳しかった。「最初」といったのには訳がある。彼らは兵隊特有の軍服がなかったのである。彼らが着ていたのは、汚れてはいるが一般人の着るような平素な服であった。まるで彼らは反乱を起こしている、「レジスタント」のようであった。
その先頭には男が立っていた。
「偵察部隊!敵の状況は!」
男はそう言って、無線に耳を傾ける。しかし無線からは何の返事も来ず、ただノイズがザァザァとなっているだけであった。
「隊長・・・。あきらめましょう・・・。」
その男の横にいる小柄な男がいかにも悔しそうに言った。
「孤立した・・・。敵に囲まれている。」
隊長といわれた男は無線から耳を離して、そういった。
すると、遠くから一人の男がやってきた。疲れているのか、よろよろと動いている・・・。
「偵察隊がきたぞお!」
疲れた様子の男はどうやら偵察兵らしい。
隊長が駆け寄る。偵察兵は両脇をほかの兵に支えられている。
「どうした、なにがあった!」
よく見るとその偵察兵は体中から血を流していた・・・。
「す、すいません・・・。第1、2、3偵察部隊及び第2攻撃部隊は全滅しました・・・。」
「くそっ・・・。[何体]だ・・・?」
みるみるその隊長の顔色が悪くなる。
「2体です・・・。それに250匹・・・。」
偵察兵はそう言うと、うっ、と言って、血を吐いた。
「おい、誰かこいつをはこんでやれ!」
そういうとその隊長はがっくりとうなだれた。
「こちらには後何人いる?」
隊長は先ほどの小柄な男に聞いた。
「約三千人です・・・。」
「厳しい戦いだな・・・。」
数では勝っていた。しかし、数だけだ・・・。隊長はそう思った。
「バグ(虫)です!数250!」
丘の上にいた兵が答える。それは悲鳴に近かった。
「戦闘隊形!」
そういって隊長は丘に駆け上がる。
丘の下には広い荒野が広がっていた。先ほどの何もない荒野だ。しかし今はその大半を「何か」が隠していた。
それは少なくとも人ではなかった。さっき彼らが言ったように虫、といたほうがよいかもしれない。
荒野に広がっていたのは2mはあろうかという大きな足が6つある生き物であった。顔にはいかにも切れ味のよさそうな牙が備わっている。それが群れをなして、ものすごいスピードでこちらに向かっている。地球上の生物では考えられないほどの速さであった。
「まだマンティス(カマキリ)はきてないな・・・。みなの者ここが修羅場だ!迎え撃て!」
そう隊長は叫ぶと自身も銃を手にした。銃先が太陽に照らされ、きらりと光った。
「虫」が迫る・・・。その不気味な姿だけでもう味方を圧倒していた。
手が震えていた。銃先は小刻みに揺れていた。
隊長はその震えをグッとこらえて叫んだ。
「射撃開始!撃て!」
その言葉が発せられたとたん、3000の銃は一斉にうねりを上げた。
銃先からは火花が散り、鉄の玉が虫たちに向かって光のように飛んでいく。
しかし、どうやらこいつらをこの武器で倒すのは難しいらしい。その光をたくさんに受け、緑色の液体を出して、倒れるものもいたが、ほとんどの銃弾があたってもその硬い殻のようなもので跳ね返されていた。
さらに虫が迫る。兵達は少し後ずさりをはじめたが、遅かったようだ。
虫は目の前に「獲物」が来ると、急に牙を見せ、兵に噛み付いた。兵からは赤い液体が噴出す。その兵は暴れていたが、やがて力なく、ぐったりとなった。
あちこちで悲鳴が聞こえ出す。その悲痛な声ははまるで地獄にいるようだった。
その地獄の中でも兵達は必死に銃を乱射していた。しかしほとんどのものが銃弾を使い切ることなく、地面に倒れ、あるいは空中に舞った・・・。
「隊長!やはり無理です!兵が足りません!」
先ほどの小柄な男が叫ぶ。
「くそ・・・。もはやこれまでか・・・。」
隊長はうなだれた。もはや自身の弾薬も少なくなり体は傷だらけだった。
兵はみるみる少なくなり、三千人もいたはずが今はそのほとんどが地面で動かなくなっていた。
と、小柄な男が叫んだ。
「隊長!人が見えます!!援軍です!」
かなり小柄な男は驚いているようだった。確かに驚きたくもなる。ここは敵陣のど真ん中なのだ。味方など当の昔にあきらめていた。
小柄な男が指差す方向を隊長は見た。明るい空と一体になっている丘の上には確かに人が集まっていた。彼らの中心には旗が立っていた。
旗には狐の顔のようなシルエットがある。
「狐の牙か!!」
隊長は叫んだ。
「これで戦況は変わったな!われらの勝ちだ!」
小柄な男はわけが分からないといった風にきょとんとしているが、隊長は続けてそう言った。
狐の牙といわれた丘の集団の先頭には二人の男女が立っていた。
男は空を見ていた。どうやら空が好きらしい。頬には古傷があったがあの空好きの面影が残っていた。
「孝太、敵は200くらいよ。どうする?」
女は、空を見ていた男に尋ねた。しかし返事は分かっているのだろう。女は後ろにいる人達に、もう指示を送っていた。
「味方が虫を独り占めにしてるんだ。分けてもらおうぜ、明菜。」
孝太と呼ばれた男は頬にある古傷をポリポリと掻きながら、そう言った。
ご指摘を受け、一部を変更させていただきました。ありがとうございます。
なんとか第3話まできました。誤字・脱字等ありましたら、言ってやってください!
ご感想いただければ幸いです。