第2話:光
空は透き通るように青かった・・・その何もない空を鳥たちがうれしそうに羽を伸ばし、自由にそらを飛んでいた。
孝太はその景色から目を離すと深呼吸をした。うん、と背伸びをする。それだけで自分が今、学校から家に帰宅することも忘れさせてくれた。
校門の周りにはたくさんの人がいた。それぞれが友人と談笑していた。
孝太は別に友がいないわけではなかった。ただ帰り道で、空を見るのが好きな男であったため、いつしか一人で帰宅中に空を見るのが習慣となっていた。
門に近づくにつれて、彼をどうしようもない不安が襲い始める。
「今日は・・・いないみたいだな・・?」
ふぅ、と胸をなでおろす。 と、いきなり肩をドンと押された。
「こうた♪」
しまった、後ろか・・・一気に心が沈む。
「明菜・・?」
わかってはいながらも、一応そう尋ね、孝太は後ろを向いた。
そこには一人の女が立っていた。少しふてくされた顔をしている。
「待ってて、って言ったじゃんか!」
「俺は一人で帰りたいから・・・」
「さびしい人だねぇ。空はなにか言ってる?」
明菜は家が近いせいか幼いころからかなり一緒に遊んでいた。俺には分からないがクラスの人気者で、男からもかなり告白されるらしい。
だが、俺はこいつを一度も好きになるといったようなことはなかった。彼女も男には興味がないようで、いままで告白された誰とも付き合っていなかった。
俺のことは馬鹿にしてるし・・・どこがいいんだこんな奴。
孝太は明菜の言ったことを無視して、前へ進んだ。
「ちょ、ちょっと、無視?!」
後を明菜がついてくる。
かまわず歩を進める。
「ついてくるなよ。」
冷たく言ったつもりだったが、分からなかったみたいだ・・・
「私の家はこっちですから、別についていってるわけじゃないですけど。」
周りには大きな建物などなく、太陽が二人の長い影をつくった。
急に孝太は走り出した。
明菜も走ってついてくる。
「やっぱりついてきてんじゃねぇかぁ!」
孝太は息をきらせながら言った。
「ち、違うわよ!これが普通のスピードなの!」
なんて言い訳だ・・・明菜の顔もかなりつらそうに見える。
と、いきなり明菜が立ち止まった。
「どうした?もう駄目か?」
孝太はふん、と鼻から軽く息を出した。
「違うわよ!馬鹿!あれよ、あれ。」
明菜は空を指差した。
「孝太、星に詳しいでしょ?あれ何かな?」
確かに明菜の指差す方向にはかなり明るい星があった。その星は透き通ったまだ青さが残る空にぽつり、と浮かんでいた。
最初孝太は金星かと思った。しかし方向が違う。
「分からないな・・・」
孝太が答える。
「孝太でもわかんないの?なんだろ?きれいな星だね。」
明菜はうっとりとした顔をした。もしかしたらクラスの男どもはこういうところが好きなのかもしれない。
ひゅう、と、ふいに冷たい風が吹いた・・・そばにあった木の葉が揺れる・・・
孝太にはその星の光がなぜかいやな光に感じた。孝太はじっとその星を見つめていた。というよりも目が離せなかった・・・
動いている・・・
孝太は目の前の現象が信じられないという風に目をこすった。そしてもう一度空に視線を戻す。
やはりうごいている・・・
「隕石かな?」
明菜が不安そうな声で言った。どうやら彼女も気づいたらしい。
と。明菜が言い終わったとたん、地面が小刻みに揺れだした。
視界が揺れる。周りにあった木がざわつきだす。
「何よ!これ!」
明菜のおびえた声が振動の音に混じって聞こえる。
「星」は確実に近づいている。そして振動がひどくなる。
「伏せろ!明菜!」
孝太は自分でも驚くほどに大きな声を出していた。
明菜は何がなんだか分からないといった様子で地面に伏せる。
「星」は音を出し始めた。隕石の音とはまた違う、鉄をこすり合わせたような音だった。
星?いや違う。星ではなかった。近づくにつれてそれが分かった。
それは、そう、光だった・・・
まるで太陽の光が降り注いだようだった・・・しかし太陽の光のやさしさとは別の冷たい感じをもっていた。
「くそ!」
孝太は明菜をかばうような形で地面に倒れた。明菜は震えていた。体を通してそれが分かった。
光ははるかかなたへ去っていく・・・スッっと光が消えたかと思うと、周りの音が消え、急に静かになったような気がした。
そして。
ただ、周りは爆風に包まれた・・・
ご指摘があったため、一部を変更させていただきました。ありがとうございます。