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拳と魔法と勇者と世界  作者: マークIII
1章 王都への旅路
9/30

第7話 格闘家ハルトの死闘

前回、ストルト編完結とか言ってましたが、ギリギリ終わりませんでした。

申し訳ありませんorz

「待ちなさいナイトレイジ!彼は私達の護衛対象よ。貴女と戦わせるわけにはいかないでしょう!」

「ふん。相変わらず無駄に生真面目な奴だなマテリア。仕方ないだろう?力を見るのが目的だったはずが、あの2人ですらこいつの実力を引き出す事すら出来なかったんだ。私が出るしかあるまい」

「ダメよ。どうしてもと言うなら私が貴女の相手をするわ」



そう言うとミーシェは『衝』を体に纏わせる。



「……惜しいな。実に惜しい。確かに、また貴様と真剣勝負をしてみたい気持ちはある」

「だったら!」

「だが、それでも私はこいつの力が知りたい。それが『貴族院』の''裏''に通じているのなら尚更な」

「……だからって、ケガでもさせたらどうするのよ」

「心配ない。その時は『超光(オーバーレイ)』が責任を持って最善を施す。驚け、うちには『治』の魔術師がいるんだ。だから安心しろ」

「……そういう事なら分かった」

「分かっちゃうの!?」



ハルトは思わずツッコミを入れる。

正直、彼としてはアンジェリカを止めて欲しかったのだ。

実力は引けを取らない自信があるが、頭の中で勝てるイメージが浮かばない。

やはりミーシェはまだ怒っているのだろうか、そう考える。

もちろん、彼女としては嫌がらせのつもりではなく、『治』の力を知っているからこそ引き受けたのだが。

だが、引き受けた理由はもう1つある。

ここまできたなら見てみたいのだ。


ハルトとアンジェリカ、2人の戦いを。


それはミーシェだけでなく、パラソス、ストルトの住民、『超光』の面々達にも言える事だった。

もう戦うしかないようなので、ハルトも気合を入れ直す。

戦いが終わった時、十中八九無事ではいられないだろう。

それでも「()る時は()る」、それが彼の信条だった。



「さあ、邪魔が入ったな。続けようか」

「そうだね、ちょっと震えが止まらないけど」



そう言うと、両者は構える。

間合いを詰める瞬間を探っているのだ。

2人は静かに''その時''を待つ。

少しでも速かった方がこの勝負の主導権を握るだろう。

辺りに緊張の糸が張り巡らされる。


やがて、''その時''は訪れる。


次の瞬間、2人はほぼ同時にスタートを切る。

そして、ガキィンと何かがぶつかり合う音が響き渡った。

群集の目はようやく2人の動きに追いつく。


そこには、籠手(ガントレット)と剣をぶつけ合わせ、膠着(こうちゃく)状態の2人の姿があった。


(つば)()り合い、とはこの場合呼べないだろう。

やがて2人は弾かれたように距離を取る。


それはまさに「互角」と呼ぶに相応しい戦いだった。



「……ふむ。その籠手、この剣で斬れないとは……どういう事だ?」

「生憎と特別製でね」

「興味深いな。それに、初めてだ。私の動きについてこれる者というのは」

「……僕もだよ。一応確認するけどさ、それって魔法使ってるわけじゃないよね?」

「ああ、私の魔法は肉体を強化するものではない」



「魔法など使えない」というのがベストな答えだったのが、やはり『守六光』はそう甘くないらしい。



「……身体能力はほとんど同じなのに、まだ魔法も使ってないとはね……嫌になるよ」

「はは、謙遜するな。僅かだが貴様の方が速かったではないか」



確かにそうだが、それが見えてるという事は2人の身体能力にほとんど差はない。

ならば、魔法を持っているアンジェリカが有利なのは明らかだ。

ハルトにも''奥の手''と呼べる手段はある。

が、それは体に負担をかける為、なるべく使うのは避けたい。

そもそも、ハルトの戦い方は格闘家としてはかなり異質なタイプだ。

この世界のほとんどの人間は魔法を使う事の出来ない普通の人間である。


しかし、魔法の行使に必要な''魔力''は、個人差はあるが誰もが持っている。


その魔力を戦闘に使うのが、現代の格闘家のスタイルだ。

だが、ハルトは戦闘に魔力を使った事はない。

かと言って使えないわけではないのだが、ある理由があって''今は''使う事が出来ない。

自分が''ここ''だと思った場面以外では魔力を使ってはならない。


それが、彼の師匠が彼に伝えた最後の言葉だった。



「とは言ったものの、この相手に魔力を使わずに勝てってのは……難しい話だよね」

「何をぶつぶつ言っている?続けようじゃないか」

「ここで降参したい所だけど……ダメだよね」

「当然だろう」



2人は再び間合いを詰める。

時折、得物のぶつかり合う音が響く。

が、両者共決定打を与えられず、もう一度距離を取る。

思わず舌を打つハルト。

対してアンジェリカは、舌を打つどころか高笑いすらしてみせる。



「はっはっは!いいぞ、いい闘いだ!ここまで素晴らしい闘いはマテリア戦以来だ!」

「……昨日から思ってたけど、ナイトレイジさんって……変人?」

「「今頃ですか」」



ミーシェとパラソスの声が綺麗にハモった。



「むっ、失礼な。私はただ戦闘狂(バーサーカー)なだけだ」

「うん。自分で戦闘狂って言い切っちゃう時点で変だという事に気付いてもらいたいよ」



ハルトは軽口を叩きながらも構えを解く様子はない。

それはアンジェリカもまた然り。

緊張の糸が解れる事はない。



「ふむ。では、そろそろこの闘いに一波乱加える事にしよう」



そう言うと、アンジェリカは剣を構えたまま何かを呟く。


それが詠唱だと気付くのはそれからすぐの事だった。


瞬間、アンジェリカの剣が光ったかと思うと、見る見るうちに形を変え、銀色の刀身は青く染まる。



「これがナイトレイジ家に代々する魔法、『鉄』だ。自分の記憶を媒介に、鉄を生成・加工する事が出来る」

「……生成も出来るの?」

「魔力の消耗は激しいがな。ああ、あとこの剣の名は神速剣『ソニックドロウ』。由来は……すぐに分かる」



ハルトが知る限り『鉄』は結構希少な魔法だ。

そして、生成できるともなれば、それだけでアンジェリカの魔法の腕が伺える。


そのアンジェリカが、僅かな時間ではあるが詠唱までして創り出した剣……その意味をハルトはまだ理解できていなかった。


アンジェリカは剣を構えると、ハルトに向かって一気に走り出す。

が、そのスピードは先ほどとは比べ物にならないほど速い。



「!」



ハルトは何とかその動きを目で捉え、右に避ける。

アンジェリカは一度動きを止め、ハルトの方に向き直ると、もう1度突っ込む。

流石に避けられないと悟ったのか、腕を十字に組み防御の体制を取る。

アンジェリカは激突の瞬間、ハルトに剣を振り下ろす。

籠手が激しい音を立て、ハルトは衝撃に耐え切れず吹き飛ばされ、後方の民家に激突する。



「カハッ!」



肺の中の酸素を全て吐き出した、そんな錯覚に襲われる。

が、ここで倒れる訳にはいかない。

さもダメージ等通っていないかのように振舞う。



「……まあ、さすがにあの速さを捉えるのはキツいね」

「まだ闘えるのか?驚いたな。常人ならば失禁でも済むか分からない一撃だというのに」



そう思うなら、と言いたくなる気持ちを必死で堪える。



「だが、もう一度食らえば命の保障は出来かねんぞ?」

「一度受けた技は二度食らうなってのが師匠の教えでね」

「ふふ、面白い奴だな貴様は」



そう言うと、アンジェリカは加速する。

ハルトは冷静に考える。

おそらく、アンジェリカの尋常ではないスピードはあの剣がもたらす効果なのだろう。

だが、速いのならば止めてしまえばいい。

ハルトはアンジェリカをギリギリまで引きつけると、紙一重でかわしてみせる。

当然、追撃を仕掛けるアンジェリカ。

ハルトは初撃と同じように引きつけ、そしてかわす。

それから2、3回ほど同じ行動を繰り返した所で



「よし、見切った」



そう言うと、ハルトは突撃するアンジェリカへ逆に突っ込む。

そして、激突の1歩前で下に屈むと、アンジェリカの足を払う。



「ッ!」



バランスを崩し、片手を地面に着いてしまうアンジェリカ。

その隙をハルトは逃さなかった。

アンジェリカの懐に潜り込むと、彼女の腹に肘鉄を食らわせる。



「ごめんね」



アンジェリカは声を上げる事はなかったが、さすがにダメージを受けているらしく、左手で腹を押さえていた。

そのままゆっくりと立ち上がる。


気がつけば、雨が降り始めていた。


「……まさか数回で『ソニックドロウ』のスピードを見切るとはな。想像以上どころではないな。今のは効いたぞ」

「……女の子を殴るっていうのは気が引けたんだけどね。さすがに君クラスとなるとそんな事も言ってられないよ」

「はは、お褒めに預かり光栄だ……では続けようか」



そう言うと、アンジェリカは再び詠唱を唱える。

すると『ソニックドロウ』は大剣へと姿を変え、刀身は紅く染まった。



「剛剣『クリムゾンロード』。その昔、100人以上の人間を斬った事から『血剣』と呼ばれ、この剣の所有者が通る道は血に染まったと言われている」

「……随分と物騒な剣だね」

「物騒なのは風貌だけではないがな……行くぞ」



そこから20分は、まさに激闘と呼ぶに相応しい戦いだった。


徐々に強まる雨足と共に、戦いも熾烈(しれつ)を極めていく。

アンジェリカの『クリムゾンロード』の破壊力は相当のものだったが、大剣であるが故の隙の大きさをハルトは狙った。

その後、アンジェリカは様々な剣を創り出し、ハルトに攻撃を仕掛ける。

ハルトは攻撃を受けながらも、アンジェリカの剣を次々に攻略していく。


そして20分後。


両者共、もはや無事と呼べる状態ではなかった。

若干ハルトの方がダメージは大きいが、アンジェリカも魔力の消耗で息を切らしていた。



「まさかここまで追い詰められるとは……本当に面白い奴だな貴様は!」

「……正直、ここまで長くなるとは思わなかったよ。どっちが勝つにしても短期決戦だと思ってたのに」

「私もだ……負ける気はなかったがな。では、マテリアの顔が見てられないので、そろそろ決着を着けよう」



言われて、ハルトはミーシェの方を見る。

そこには、必死に歯を食いしばり、目に涙を溜めているミーシェの姿があった。

ミーシェは悔しかった。

ハルトがあんなにボロボロなのに何も出来ない。

見ることしか出来ない。


だから、せめて最後まで目を背けずに見ていよう。


その顔を見たハルトは



「……戦う理由が増えたかな」



両手の拳を合わせ、アンジェリカに集中する。



「……いいな」

「え?」

「い、いや何でもない……では、終わらせようか」



アンジェリカは詠唱を始める。

それは、今日聞いた中で一番長い詠唱だった。

そして、アンジェリカの剣が光出す。


現れた剣はハルトが見た中で最も美しく、最も威圧を放つものだった。



「……これが秘剣『ナイトレイジ』。これが私の姓名(ナイトレイジ)を冠する意味は……聞くまでもないな」



どうやら、これがアンジェリカの持つ最強の剣らしい。



「とは言っても、これはナイトレイジ家の頭首を襲名し、初めて創る事のできる剣でな。これは6,7割程度の力しか使えないレプリカに過ぎん」



レプリカでこれほどまでとは……本物でなくてよかったと心から思う。



「では……決着を着けようか!」



アンジェリカは走り出す。

ハルトは構えたままそこを動かない。

やがて、アンジェリカは『ナイトレイジ』を横一閃に振るう。

ハルトはそれを籠手で受け止める。


その光景を見て、一番驚いたのはミーシェだった。



「……ふむ、やはりその籠手は斬れんか」



そう言うとアンジェリカは『ナイトレンジ』で連撃を繰り出す。

ハルトはそれを両腕を使いながら何とか防御する。



「……ねえ。その剣の能力、もしかして」

「ん?気付いたか」



そう言うとアンジェリカは距離を取る。



「よく気付いたな、その籠手を使っていながら」

「……って事は、そっちもこの籠手の事……」

「ああ、大体は察しがついた……『無干渉』、だろう?」

「……これを僕にくれた人は『不障(さわらず)の籠手』って呼んでたけどね」



群集は、ミーシェを含めて、2人の会話をよく理解出来なかった。



「じゃあ、やっぱりその剣は……」

「ああ。''斬れ味''に特化した魔剣、それが『ナイトレイジ』だ」



そう言うと、アンジェリカは切っ先を下に『ナイトレイジ』を落としてみせる。


すると、『ナイトレイジ』の刀身はすっぽりと地面に埋まり、鍔の部分でようやく止まった。


雨でぬかるんでいるとは言え、さすがにハルトは息を呑む。

群集にもどよめきが広まった。

アンジェリカは剣を引き抜く。

その刀身には泥1つ付いていなかった。



「この剣は刀身の''どの部分でも''斬る事が可能だ。泥が付着していないのは泥を斬った、それだけの事だ」



ミーシェはただ驚いていた。

彼女は『ナイトレイジ』を一度だけ見た事がる。

当然、どういう剣かも知っている。


だからこそ、何故ハルトの籠手が斬れないのか、それが不思議でならないのだ。



「……ナイトレイジ様は、『無干渉』と言ってましたか?」

「え?ええ、確かにそんな事言ってたわね」

「じゃあ、あれが……」

「……どういう事?」


「……『無干渉』というのは、魔力の影響を受けない武器、もしくは防具の事ですよ。今では幻と言われるくらい希少なものです」


「……それじゃあ、ヘイジさんのあの籠手が?」

「信じられませんが……あの剣を受け止めたという事は、おそらくそうなのでしょう」



ハルトは拳を構える。

おそらく、次で勝負が決まるだろう。

確かに、ハルトの籠手は『ナイトレイジ』の効果を受けない。

だが、裏を返せばそれは籠手以外の部分に『ナイトレイジ』を受ければ終わりだと言う事だ。

しかし、消耗した状態であれほどの剣を創り出したのだ。

アンジェリカの方も体力の限界だろう。

両者共構え、決着のその時を見極める。


やがて、唐突に両者が走り出す。


瞬間、ガキィンという鋭い音が連続して響き渡る。

まず2回、籠手と『ナイトレイジ』がぶつかり合う。

次に、ハルトは跳んだかと思えば、アンジェリカの上空から右手で狙う。

が、それも『ナイトレイジ』で防がれ、更には着地を狙われるが、何とか体の軸をずらし、『ナイトレイジ』は空を斬った。

ハルトは地面に着地すると、もう2発籠手で連発する。

再び籠手と『ナイトレイジ』がぶつかり合った。

2人の間に若干の間合いが生まれる。



「……すごい」



パラソスは思わずそう呟く。

群集も皆見惚れていた。

それほどまでに、両者の動きは華麗だった。


が、やがてその戦いにも終わりが訪れる。


僅かに生まれた間合い。

その瞬間、2人は決着を悟ると、最後の一撃を構える。


最初に動いたのはアンジェリカだった。


一気に間合いを詰め、アンジェリカは渾身の力を込め、横一閃に剣を振った。

それは今まで最も鋭く、疾い一撃だった。


が、その一撃は空を斬る。


ハルトの姿は下にあった。

アンジェリカの攻撃を察し、咄嗟に屈んだのだ。

ハルトはそこから本日2回目となる足払いをかける。

攻撃を放っていた事もあり、アンジェリカは簡単に崩れた。


ハルトはそのままアンジェリカを後ろに押し倒すと、両腕を膝で塞いでマウントを取った。


決着が、着いた。



「……僕の、勝ちだね」

「……ああ」



アンジェリカは認める。

が、その顔色はいつも以上に優れていた。



「私の負けだよ、楽しかった」



その言葉を口火に、群集は湧き上がり、拍手が鳴り響く。

『超光』の者達は驚きを隠せなかったが、やがて2人の健闘を称えるように拍手をする。

が、ハルトは突然アンジェリカの上に倒れる。



「お、おお!?」



アンジェリカは驚き、珍しく顔を赤らめる。

ミーシェとパラソスは、急いでハルトに駆け寄る。


どうやら緊張の糸が切れたからか、気を失っているだけだった。



「……はあ、心配させて」



しかし、ミーシェは僅かに笑みを浮かべると



「頑張ったね」



そう言うと、ハルトの髪を優しく撫でるのだった。



という訳でアンジェリカとハルトの戦いを軸に書いてみました。

ついでにと思って魔力の設定や、ハルトの籠手についても触れてみました。

戦闘描写は本当に難しいですね。

上手く書けた自信がありません。

「こうすればいい」とか気軽に教えてもらえれば幸いです。

次回は番外編にしようと思ってます。

まあ、ほとんど書き上がってるんですがw

ピリンクの夢から、あの3人の過去に触れていこうと思います。


評価・感想・指摘等してもらえれば嬉しいです。

あと、質問があれば喜んでお答えします。

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