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拳と魔法と勇者と世界  作者: マークIII
1章 王都への旅路
8/30

第6話 格闘家ハルトの戦い方

今回、ついに主人公がまともに戦います。

アンジェリカが宿を出た後、3人は彼女が壊した扉を修理していた。

たまにミーシェが「アイツ今度殴る、『衝』で」と呟くがのがたまらなく怖かった。

あと、数分に1度、冷え切った目線をハルトに向けてくるのだが、ハルトは気付かないフリを突き通した。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






その日の夕方、ハルトはストルトの端にある『ツォルゼ防具店』を訪れていた。

が、店内には客どころか店主すらいなかった。

すると



「お、客とは珍しい」



店の奥から髭を生やした大男が現れる。

おそらく、この男が店主なのだろう。



「兄ちゃん、何をお探しだい?」

「ああ、ちょっとグリーヴが欲しいんだ。できるだけ軽くて丈夫なやつ」



グリーヴとは、いわゆる(すね)当ての事だ。



「はは、グリーヴとはまた珍しい。兄ちゃん、格闘家かなんかかい?」

「うん、よく分かったね」

「……これは驚いたな。このご時勢に、それも兄ちゃんくらいの歳の子が格闘家とは……よし、ちょっと待ってな」



そう言うと、店主は店の奥へと消える。

しばらくすると、グリーヴを抱えた亭主が戻ってきた。



「最近は客足自体が少なくなった上に、格闘家なんて滅多に見なくなっちまったもんでな……けど、これの品質は確かだ。ちょっと型は古いが……どうだ?」

「へー……いいね、これ」



そのグリーヴを手に取ったハルトは素直にそう答える。

素材は軽く丈夫な物で、ハルトの注文通りにできており、つくりは衝撃を拡散するように工夫が施されていた。



「うん、気に入ったよ。いくら?」

「いや、御代はいいよ。貰ってってくれ」

「え?でも」

「いいんだよ。どうせ倉庫で眠ってたやつなんだ。欲しい奴に貰われた方がそいつ(グリーヴ)も喜ぶってもんだ」

「…ありがとう、大事に使うよ」

「おうよ」



店主は気さくに笑う。

2人はそのまましばらく話す。

店主の名はヘベゾス・ツォルゼ、25の頃からここで防具店を始めてもう10年になるという。



「それにしても、兄ちゃん今までグリーヴもつけずに旅してたのかい?」

「うん。一応、耐久ベストは着てるし、この辺は魔物とか盗賊も少ないから大丈夫だと思ってたんだけど……どうやら、これからはそうもいかないみたいでね」

「……兄ちゃん、まさかグリフォンの代わりに出てきたケツァルなんとかってのを倒しにいくつもりか?」

「まさか!……あれ、なんでコルザ山脈の事知ってるの?」

「さっき『守六光』のナイトレイジ様が来てな。どうやら、この町の1軒1軒に説明して回ってるらしいぞ。まだお若いというのに……立派な方だよ」



それは素直に頷けた。

アンジェリカは、自分の1つ上には見えないほど凛々しく、強い芯を持っている。

1年後、自分もあんな風になれるかと問われれば、答えはNOだ。



「よかった、俺んとこの防具買った奴を、死ぬかもしれないような戦場にはやれないからな」

「そんな勇気ないさ。ナイトレイジさん、他に何か言ってた?」

「何でも、近々『超光(オーバーレイ)』の選抜部隊を組んで討伐に出るらしい」

「……そうなんだ。ありがとう、そろそろ行くよ」

「おう、機会があればまた寄ってくれや」



笑いながら手を振るヘベゾス。

ハルトは、それに応えながら防具屋を出て行く。

なんとなくだが「また会える」、そんな気がした。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






宿に戻ると、入り口にはミーシェが立っていた。

ミーシェはハルトに気付くと



「ヘイジさん、お待ちしておりました」



ミーシェは満面の笑みを浮かべていた。


……目以外は。


ハルトは前にもこの顔を見た事がある。

初めて出会った時、ミーシェ達が家を訪ねてきて、ハルトが居留守を使った時の顔だ。



「少しお話があります。立ち話もなんですから、私の部屋に来ていただけませんか?」

「……えっと、ほ、ほら!グリーヴ買った(?)からさ、ちょっと試してみないと」

「来て頂けませんか?」

「いや、その」

「来て頂けませんか?」

「…………はい」



もはやハルトに折れる以外の選択肢は残されていなかった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






ミーシェの部屋を訪れたハルト。

その面持ちは、さながら死刑宣告を受けた囚人のようだった。

ミーシェは相変わらず(目以外は)笑みを浮かべながら口を開く。



「何か言う事は?」

「すいませんでした」



ハルトは即刻謝罪を述べる。

彼もそこまで馬鹿ではない。

少なくとも、何故ミーシェが自分を呼び出したのかは見当がついていた。



「えっと、ナイトレイジさんの条件を勝手に呑んだ事……だよね?」

「それ以外にも何か後ろめたい事が?」

「い、いえ」



どうやら相当お怒りのようだ。

「まったく」とミーシェは溜め息を吐く。



「アイツの……アンジェの勝負事に一々付き合ってたら身がもたないわよ」

 


プライベートではアンジェと呼ぶようだ。

少し意外に思いながらも、命が惜しいので口にはしない。



「えっと、ナイトレイジさんとはどんな関係なの?」

「大体はあそこで言ってた通りよ。アイツが困ってるみたいだから、ちょっと助言したら……顔合わせる度に色々と絡んでくるようになったの」



あのお堅そうな令嬢にそこまで懐かれるのとは。

さすがと言うべきか、お人好しと言うべきか。



「アイツはいつもそうなのよ。勝負事大好きな奴で……困った奴よ」

「でも、友達なんでしょ?」



そう言うと、ミーシェは照れ臭いのか頭を掻く。



「いやまあ友達っていうか……アイツはどう思ってるのか分からないし」

「そう?ナイトレイジさん、ミーシェに会えて凄く嬉しそうだったじゃない」

「……そう、かしら?」



ミーシェは頬を染めながらハルトに訊ねる。

その様子に、ハルトは思わずドキッとする。



「でも、アイツの方が年上なんだから、もう少しそれらしく振舞ってもらいたいんだけどね」

「……お姉ちゃんが欲しい、とか?」

「まあね。1人っ子だったし」



今の言葉でハルトはなんとなく察した。

おそらく、ミーシェは甘えられる相手が欲しいのだろう。

両親の事は聞いてないが、話題に挙がらないという事は触れたくないのかもしれない。

だったら、自分がそういう''甘えられるような存在''になれないだろうか?



「?…どうかしたの?」

「ん、何でもないよ」



まあフランク達には悪いが、まだ旅は続くのだ。

これから少しずつ一緒の時間を増やせばいい、そう思う。

が、その必要はなかった。

何故なら



「さて、じゃあここからはお説教タイムね」



これからたっぷりと絞られるようだったからだ。



「どうして、アンジェの要求を勝手に承諾したの?」

「……えっと、船で行く方が早く着くのかなー、って思ったんだけど…」

「確かに、現状ではそれが1番安全な方法ね」

「じゃあ」

「それで明日ケガでもしちゃったらそれこそ本末転倒でしょ!それに、私が『守六光』である事を示せば、船くらい簡単に乗れるわよ」



ミーシェは任せろと言うように自分の胸を軽く叩いて見せる。

が、あの場でそれを言い出さないという事は、やはりそれは職権濫用なのだろう。

ただでさえ、一部の『守六光』以外は世間にあまり良く思われていない。

そんな事をしてしまえばミーシェの評判に関わる。

それを知ってか知らずか、ハルトは



「まあ、今更ナイトレイジさんに約束を取り消してもらうのもなんだし、僕だって格闘家のはしくれだ。ケガをしにくい戦い方ってのもあるしね。旅に支障はきたさないつもりだよ」

「……分かった、私の言い方が悪かったのね」

「?」


「……わ、私は護衛対象のハルト・ヘイジにじゃなく……えっと、その、ハルト君にケガしてもらいたくないの!……あ、ゆ、友人としてね!」



ミーシェのたどたどしいその答えは、ハルトの顔を赤らめさせるには十分過ぎる威力だった。

だが、それでもハルトは折れるわけにはいかない。

これでもプライドはあるのだ。



「……あ、ありがとう、でも」

「分かってるわよ。キミみたいなタイプは、1度決めた事は最後までやり切るまでやめないもの」

「…………」

「でも、条件が1つあるわ」

「?」


「絶対に勝ってきて」


「……分かった、頑張る」



2人は軽く拳を合わせる。

そもそも、ミーシェはハルトの実力に関しては心配していなかった。

彼の努力は、初めてこの町に来た時既に確認している。

ピリンクの話によると、『魔人』の1人であるディライズを、実質1人の力で追い込んだともいう。

大抵の人間ならば相手にもならないはずだ。


だが、それでも不安が拭い切れないのは、相手が''あの''アンジェリカだからだろう。


そして翌日、その不安は的中する事となる。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






翌日の正午、ハルト、ミーシェ、パラソスの3人は町の広場へとやって来た。

既にアンジェリカとギルドの面々は勢揃いしていた。

当然、ハルトはグリーヴを足に、籠手(ガントレット)を手に装着している。

準備は万端だ。



「はは、やはり来たか。まあ、逃げる事はないだろうと思っていたがな」

「『守六光』にそう買ってもらえるとは嬉しいね」

「''代理''だ。貴様からは不思議な匂いがするのでな、船の事を抜きにしても実力を見たいとは思っていた」

「……あんまし買い被られてもね……で、力を示すってどうやれば?」

「簡単だ。これから『超光』のメンバー3人と戦ってもらう。なぁに、''全員に勝て''と言うわけではないから安心しろ」

「……それはありがたい話だね」

「じゃあ、まずはこいつからだ」



そう言うと、ギルドメンバーの中から1人が前に出てくる。

細身ではあるが、筋肉のついた引き締まった体をした男だった。



「こいつはアンマ。ウチのギルドの中でも随一の槍使いだ」

「あんたがハルト・ヘイジとやらか?あんたを倒せばボーナスが出るんでね、悪く思うなよ?」



そう言うと、アンマは槍を構える。

対するハルトは何も構えない。



「……調子に乗るなよガキが!」



アンマは槍を構えたままハルトに突っ込む。

だが、それでもハルトは構える様子はない。

やがて、槍がハルトに届くかどうかの距離に迫ったその時


ベコッ!と、鈍い音が響き渡る。


それは、ハルトの足がアンマの顔面にめり込む音だった。

そのまま蹴り飛ばされるアンマ、その目は既に白目を剥いている。

意識の有無は明らかだった。



「……ある程度は予想していたが、まさかここまでとはな。ふふ、あれでは力量を測る事も出来ないじゃないか」

「3回も()るんなら、出来るだけ温存しておきたいんでね」



その場にいる誰もが、ミーシェとパラソスさえもが唖然とした。

平然としていたのアンジェリカくらいである。



「ふむ、貴様の言う事もご(もっと)もだ。じゃあ、2戦目といこうか」



そう言うと、次に現れたのは筋肉質でがっしりとし、大槌を持った大男だった。



「アッシの名はバラドー。一応、『超光』の兵長を務めさせてもらってる」

「……『魔術師潰し(ウィザードブレイカー)』のバラドー、か」

「パラソス、知ってるの?」

「ええ。魔術師相手には負けなしとも言われている男です」

「負け無し、ね。まあ、少なくともヘイジさん相手だと関係ないでしょう?」

「いえ、あの大槌からも分かるように、白兵戦でも相当強いはずですよ……ヘイジ殿、大丈夫でしょうか?」

「…………」


気がつけば、騒ぎに気付いたストルトの住民達が何事かと様子を見にやってきていた。


が、それも構わず戦いは続行される。

バラドーは大槌を構えると、ハルトの出方を伺う。

さっきのカウンターを警戒しているのだろう。

仕方なく、ハルトはバラドーに向かって走り出す。



「速い……!」



バラドーはカウンターをする間もなく、後ろに下がって間合いを取る。

だが、ハルトはそのままバラドーに突っ込む。

さすがに距離が開いたので、今度は大槌で迎え撃つ。


しかし槌は空を切り、ハルトは既にバラドーの懐に潜り込んでいた。



「なっ!?加速、したのか……!」

「正解だよ」



ズン、と拳がバラドーの腹に突き刺さる。

凄まじい衝撃が走るが、何とか意識を保つバラドー。

が、2発目の拳で彼の意識は確実に途絶えた。



「ふぅ、さすがにタフだね」

「……バ、バラドーさんがあんなガキに」

「嘘だろ……」

「3人目はどうするんだ?」



『超光』の面々は騒ぎ立つ。

その様子を見かねたアンジェリカは



「静まれ!」



耳を塞ぎたくなるような大声で一喝する。



「……正直、3戦目は保険だったのだがな」



そう言うと、アンジェリカは静かに立ち上がる。

その動きには何者にも物を言わせない、そんな迫力があった。



「まさかバラドーさえ捻じ伏せるとは……どうやら貴様を過小評価していたようだ」



アンジェリカはそのまま前に出る。

そして、剣を抜くと



「3戦目は私がお相手しよう。さあ、かかってこい」



と、構えてみせた。

無茶言うな、ハルトは心中でそう叫ぶ。

これが『守六光』の威圧感というやつなのだろう。

ハルトの体から止め処なく汗が流れる。



「ふふ、久しぶりに楽しい闘いになりそうだ」



そう言ったアンジェリカの顔は、ご馳走を前にした子供のように、無邪気な笑みを浮かべていた。



すごい微妙なとこで終わってしまいました……前回短くした結果がこれだよ!

今回はミーシェの想いとハルトの実力を軸にして書いてみました。

次回、ようやくストルト編完結(予定)です。


評価・感想・指摘等もらえれば嬉しいです。

あと、なにか質問があれば喜んでお答えします。



追記:すいません、ギリギリでストルト編終わりませんでしたorz

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