第5話 首領アンジェリカの体験
ちょっと今回は短めです。
「……『守六光』の……第五席?」
「ええ。正確に言えば五席''代理''ですが」
「どういう事?」
「元々、第五席はアンジェリカ様の祖父、ズィバルダ・ナイトレイジ様だったんですが、去年、体を壊してしまったらしく、それまでの代理をアンジェリカ様に代任なさったんですが……アンジェリカ様は既に王都でも絶大の人気を誇り、時期第五席はほぼ決まってると言っても過言ではありません」
「それはまた……でも、どうしてそんな人がギルドの首領なんかやってるの?」
「ん、興味があるのか?よし、答えてやろう」
話に入ってきたのは話題の当人、アンジェリカだった。
「恥ずかしながら、私には幼き頃から鍛えてきた剣の腕以外誇れるものは何もない。だが去年、それでも祖父様は私に、ナイトレイジ家の時期頭首という役職と共に『守六光』をお任せになられたんだ」
「は、はぁ……」
「私は考えた。自分に出来る事は何かと……それで、今の王都を認識を変える為に、無償で依頼を引き受けるギルドを立ち上げた」
どうやらアンジェリカは、見た目以上の勇敢さと行動力とを持ち合わせているようだ。
「最初は方々に反対されたさ。友人、家族、王都の重役共……だが、唯一私の考えを認めてくれた者がいてな」
「ああ、それがマテリアさんって訳ね」
「…………ふん」
「その通りだ。その後、私は少しずつギルドを大きくし、徐々にではあるが都民の信頼を得られるようになったんだ」
「でも、無償でやっているのに、ギルドの人達の給料とかはどうやって?」
「『守六光』としての給金、それと、たまにくる王都からの依頼で稼いでいる」
それを聞いたハルトは素直に感心する。
歳は17らしいが、それに見合わぬ強い芯を彼女は持っていた。
「そして、私はマテリアに戦いを挑んだのだ」
「ちょっと待って、急に話が見えなくなったんだけども」
「……コイツはこういう奴なんです」
ハルトの質問にミーシェが答える。
アンジェリカはこう続けた。
「自分の行動は正しかったのか……私を理解してくれたマテリアと戦い、答えを見つけたかったのだ」
「……別に戦う必要はないんじゃ…」
「真剣勝負ほど相手と心を通わせる方法など存在しないだろう」
アンジェリカははっきりと言い切る。
清々しいまでに自分を突き通すタイプらしい。
だが、この2人の決闘には興味があったのでハルトはパラソスに訊ねる。
「それで、どうなったの?」
「……えっと」
「まあ、勝敗にそこまで意味はないさ」
「……そうね、気持ちのいい話でもないし」
残念ながら言葉を濁されてしまう。
が、追求はしない。
この2人を敵に回せば、例え巨大魔獣を連れてでも降参せざるを得ないからだ。
「では、遅くなったがマテリア。最初の質問に答えよう。私がここに来た理由、それは単純に皆を休ませる為さ。先ほどまで任務だったのでな」
「任務って?」
「コルザ山脈のグリフォンの掃討だ」
「なっ……魔物の処理は正当防衛でない限り、余程の事がない限り出来ないはずよ?」
「まあ、民間の依頼ならそうだろうな」
「……まさか」
「ご想像の通りさ。『貴族院』に依頼された。王都の中でもあれほどギルドを毛嫌いしていた奴らがな」
「……どうして?」
「さあな。理由は私にも分からん。だが、金も大分貰ったからな。深くは考えない事にした……じゃあ、次は私が質問する番だ」
「……答える理由はないと思うけど」
「そう言うな。部下が負傷したと聞いたぞ?何か力になれるやもしれん」
「……ハァ、貴女のそういう所が苦手なのよ」
ミーシェはパラソスとハルトと共にアンジェリカを連れ、宿の自室へと案内する。
さすがと言うべきか、部屋は綺麗に片付いていた。
そして、今までの経緯をアンジェリカに話した。
『貴族院』の命を受け、ハルトを王都へ連れて行く道中である事。
キャリオスが何者かに襲撃を受け全滅した事。
そこで出会った『魔人』の事。
全てを聞いたアンジェリカは、顎に手を当て考える。
「……『キメラの悪夢』、か。聞いた事もない。が、貴様の言葉を聞く限り、あながち嘘でもないようだな」
「ええ。少なくとも、全て嘘ではないと思う」
「そうか……だが、残念ながら今コルザ山脈を超える事は不可能だぞ?」
「……え?でも、グリフォンは貴女達が討伐したんじゃ」
「ああ。確かにグリフォンは1頭残らず掃討した。が、コルザ山脈にいた魔物はそいつらだけではなかったのだ」
「……まさか、グリフォン以外の魔物が?」
「そのまさかさ。グリフォンばかりと思っていたのだがな。最後の1頭を狩った時だった。今まで狩ったグリフォンの死体から''何か''が抜け出たのだ」
「抜け出た?」
「ああ、他に言いようがない」
「……まさか」
「どうしたの、パラソスさん?」
「あ、いえ……」
「話を続けるぞ?それで、グリフォンから抜け出た''何か''は、山脈の頂上へと集まっていった。当然、我々もそれを確認する為、頂上に向かった……思えば、それは間違いだったのだろうな」
「……何があったの?」
「……頂上にいたのは伝説魔獣の一角、風を司る魔物、ケツァルコアトルだった」
「なっ!?……この周辺に伝説魔獣がいるなんて、それこそ聞いた事もないわよ」
「私もさ。最初は目を疑ったよ。だが、何度部下に確認しても、ケツァルコアトルで間違いないらしい……部下も数人殺られたよ」
「そんな……」
「……やはり、そうですか」
パラソスは何か分かったらしいが、その顔は優れない。
「パラソス、何か知ってるの?」
「……おそらく、『上位召還儀式』だと思われます。その昔、魔物を利用していた民族が生み出した術式だと言われています」
「どういう術式なの?」
「術式を仕掛けた場所一帯にて、属性が同じ下級の魔物がいなくなった時、自動的に発動する術式です。その下級の魔物の魂を吸収し、それより上位の魔物が召還される……条件が難しい上に、複数の魔術師が居ないと使えない為、今では使われる事などほとんどありません」
「それって……」
「……つまり」
「私達が来る事を、グリフォンを掃討する事を知っていてその術式を仕掛けた……そういう事か」
「……おそらくは。そして、その術式を仕掛けた連中というのは状況から察するに」
「『貴族院』、で間違いないだろうな」
ハルトは絶句した。
仮にもこの国の政治を担う存在であるはずの『貴族院』が、何故王都の損失になるような事をしたのか。
政争とはほど遠い世界にいたハルトにとっては、到底分かりかねない行動だった。
「『魔人』の件といい、ケツァルコアトルといい……『貴族院』はどうかしてるぞ」
「ええ……」
そこでミーシェはハルトに視線を向けた。
ハルトを呼び出したのも『貴族院』である。
つまり、ハルトにも何かしらの危険性があるという事だ。
だが、ハルトはその程度で旅をやめるつもりはなかった。
「まあ、ケツァルコアトルの方は『超光』に任せろ。ストルトや近隣の町村に危害を加える前に片付ける」
「……いくらなんでも、その人数で伝説魔獣相手は無理でしょう。私達も手伝」
「貴様等には任務があるのだろう?そうやって遅延させていいものなのか?」
「……でも」
「私達なら大丈夫だ。それに、私の実力を知っているだろう?」
「…………」
「貴様等は迷わず進めばいいさ。ここから南にあるニューゼルへ向かい、海路から王都を目指せ」
「無理よ。今回は陸路のつもりだったから、乗船許可証を貰ってないの」
「何だ。それなら、私が紹介状を書こう。あの街には貸しがあるからな。きっとそれで大丈夫なはずだ」
「……ありが」
「ただし、その男……ハルト・ヘイジと言ったか?そいつの力を示してからだ。そいつに本当に守るだけの価値があるのか見せてもらおう」
「かっ、彼は関係ないでしょう!護衛対象にそんな事させられるはずないじゃない!」
「じゃあこの話はなしだ。なぁに、別に強さを見るわけではないさ。言っただろ?真剣勝負は、その相手の全てを見せる」
「……そうね、貴女はそういう人だった」
「どうする?この話、乗るか?乗らないか?」
「当然、乗るよ。海路が1番安全なんでしょ?」
「ヘイジさん!別に無理に話に乗る必要はないんですよ!」
「いいんだよ。それに」
「?」
「そろそろ、守られるだけの奴って思われたくもないからね」
そう言ったハルトの顔は、ミーシェが初めて見る顔だった。
「ははは!いいぞ、威勢のいい男は好みだ。よし、場所はこの町の広場、時間は明日の正午でどうだ?」
「いいよ。ピリンクさんもまだ動けないしね」
そう言うと、アンジェリカは高笑いしながら宿を出て行った。
という事でアンジェリカの人柄と『貴族院』の陰謀を軸にしてみました。
もう少し進めたかったんですが、事情もあって切りの悪いところで終わってしまいましたorz
次回、いよいよハルトの実力が明らかに?
なる予定ですw
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