第3話 守六光ミーシェの実力
戦闘の激化とその終了まで進めてみました。
ミーシェとパラソスは押し黙っていた。
その様子を見たティナは、意地悪そうな笑みを浮かべ
「ヒャハ!な~に?お姉ちゃん達いきなり黙っちゃって。『魔人』がそんなに珍しい?」
「……少なくとも、貴女のような体をしている人間は見た事ないわね」
「ふ~ん、まあ、アタシ達みたいに実験に成功した検体はほんのちょっとだったからね……いや、ヤツらに言わせれば''失敗''なのかな?」
「ヤツらって?」
「ベリオスの研究者共だよ。2年前、世間には公表されていない最悪の実験事故『キメラの悪夢』アタシ達はそれで『魔人』になったんだ」
ベリオスというのは、王都の西にある技術都市のことだろう。
そこで2年前に起きたという『キメラの悪夢』……聞いた事もない。
「ヤツらはさ、魔物や動物同士でのキメラ合成じゃ飽き足らず、アタシみたいな魔力を多く持ってたり、魔法の素養が高い人達を片っ端から攫いやがったんだ……より強力で知能の高いキメラを作る為にね」
「……そんな非人道的な事が、何故世間に公表されなかったの?」
「ハハ、そんなの簡単だよ」
ティナは可笑しそうに笑う。
だが、その目は決して笑っていなかった。
「イカれた王都公認の実験だったからだよ、正確に言えば『貴族院』の独断だけどね」
「なっ!?」
「『貴族院』がそんな事……デタラメを言うな!」
「……あ、よく見ればその服…お姉ちゃん達、王都の兵士だったんだね。残念だけど全部ホントだよん。アタシの体を見れば分かるでしょ?」
「……っ!」
パラソスも本能では分かっていた。
だが信じたくなかったのだ。
この国の政治を担う存在である『貴族院』がそんな事を認めたという事実を。
もしそれが本当ならば
この国は既に病んでいる、それも2年も前から。
もしかすると、同じような事がもっと前からあったのかもしれない。
「そんで、こんな姿になっちゃったアタシ達は日々色んな実験をさせられてね。魔物と戦わせられたり、よく分からない薬打たれたりね。それで死んじゃう『魔人』も少なくなかったよ」
「……貴女はそこからどうやって出てたの?」
「ある『魔人』が皆を説得して、脱出する事にしたの。だけど、裏切り者が1人いてさ。そいつの密告のおかげで、沢山死んだよ。『魔人』も、研究者も。結局、生き残った魔人は両手で数えるほどしか残らなかった」
2人は思わず息を呑む。
自分達が知らない所でそんな事が起きていたなんて。
「……この街の人達を殺したのは貴女?」
「いんや~、私達は依頼を受けただけだよ。死体と痕跡の処理、あと、2時までにここまで来る奴らを消せってね」
「……依頼を受けた後、ここに来たのは私達だけ?」
「うん。ここに通ってる行商人とかは、ほとんど昨日に殺されちゃったからね」
「そう……じゃ、この後はどうするの?」
「決まってるじゃん!早いとこコレ片付けないといけないから、お姉ちゃん達を倒さないとね」
「……どうしても、戦わなきゃならないわけね。分かった、相手してあげる」
「そうこなくっちゃ!」
「ただし」
「?」
「貴女は強い……だから、手は抜けないわよ?」
そう言うと、ミーシェは左手を突き出し『衝』を放つ。
翼が生え、機動力の上がったティナは上空へ飛翔しそれをかわした。
いや、かわしたつもりだった。
瞬間、ティナの足に衝撃が走る。
確認すると、『衝』が掠めていたらしく両足の靴がボロボロになっていた。
一瞬で放った『衝』にも関わらず恐るべき範囲である。
「……えっと、お姉ちゃんって何者?」
「『守六光』第四席」
「……あちゃ~、これは失敗だね。大失敗だよ。完全にお姉ちゃんの実力を見誤ったね……どうしよ、色々喋っちゃったな…ディライズに怒られちゃう」
「どうする?投降するなら今のうちよ」
「まさか!」
そう言うと、ティナは突然の詠唱を始める。
同時に、ティナの剣が光り出す。
あまりにも唐突だったので、ミーシェは一瞬対応が遅れた。
ミーシェは急いで『衝』を放とうとする。
が、それよりも早く詠唱を終え、ティナは剣を振った。
「『魔風太刀』!!」
爆風と共に巨大なカマイタチがミーシェを襲う。
ミーシェは溜息をつくと、両手を前に突き出し巨大な『衝』を放った。
その一撃はカマイタチを吹き飛ばし、更にティナの体を吹き飛ばした。
「カハッ…!」
ティナはそのまま後方の民家に激突する。
何とか立ち上がるが、やはり相応のダメージを負ったのか、立つのがやっとのようだった。
「……王都の魔術師とは何度か戦り合ったけど、やっぱ『守六光』は桁違いだね。痛っ!今のアタシの最強の技を、詠唱も無しに吹き飛ばしちゃうなんて」
「…これ以上抵抗しない方がいいわよ?無駄な怪我を負うだけだから」
「ハハ、言うね……まあ、その通りだからさ……逃げるが勝ちってことで!」
ティナはそう叫ぶと翼を展開し、風を起こしつつ一気に飛翔する。
ミーシェは風で怯み追撃が遅れるが、パラソスは即時に詠唱を始め追尾炎弾を放っていた。
だが、ティナが魔法と羽ばたきを組み合わせた事で発生させた強風により、炎弾を消されてしまう。
「ハハッ!そっちの兄ちゃんには負けないよん」
「くっ!」
ティナはそのまま街の入り口へと飛んでいく。
「ッ!入り口にはヘイジさん達が……!」
「隊長!我々も急ぎましょう!」
2人は入り口へ向かって走る。
パラソスは、先程のティナについての疑問を口にする。
「……あの少女の言う事は本当なのでしょうか?」
「さあね。まあ、あの体を見る限り、一概に嘘とは言い切れないわ……それに、もし彼女の言葉通りなら、彼女と同じ体質の人間が他にも何人かいるって事になるわね」
「……この先、敵に回るとしたら厄介ですね」
「いえ、多分すぐに戦う事になるわね」
「えっ」
「何故、彼女は入り口に向かったと思う?」
「それはヘイジ殿達を襲う為……あっ」
「気が付いた?彼女はずっとここで死体の処理をしていたはずよ。それなのに、入り口にヘイジさんが居るなんて分かるはずないじゃない」
「……という事は」
「仲間が居るかもしれないって事よ。それに、既にヘイジさん達と戦闘に入っている可能性があるわ」
「……アレと同等の力を持っているとしたら、ピリンクだけで防げるか分かりませんね」
「ええ……でも、ヘイジさんも一応戦闘はこなせるはずよ」
「……あのような化け物を相手にできるほど、ですか?」
ミーシェは押し黙る。
昨夜、ハルトの鍛錬を見たミーシェだったが、それでも不安は拭い切れない。
ミーシェは速度を上げて入り口に向かう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ハルト&ピリンクとディライズの戦闘は意外な展開を見せていた。
ハルトがディライズの攻撃をほとんど受ける事なく、一方的に攻めたてたのだ。
ディライズは腹部を押さえ、息を切らしながらこう思う。
「(……どういう事だ。確かに、あのデブの『土』も助力とはなっているだろう……だが、それを差し引いてもこの状況はおかしい。何故こちらの攻撃が当たらない)」
「『どうして攻撃が当たらないのか』そんな顔してるね?」
「…………」
「簡単な話だよ。君が僕を舐めてるからさ、丸腰だからってね」
確かに、心のどこかでディライズはそう思っていたのかもしれない。
どんどん銃の改良も進むこのご時世に、格闘家などは時代遅れだ。
だが、ディライズは仕事に手を抜くような男ではない。
多少油断はしていたかもしれないが、本気でハルトを殺すつもりで戦った。
「(それでも仕留め切れないとなると……いよいよアレを使うしかないか)」
突然、ディライズは戦闘の構えを解いた。
そのまま静かに目を瞑る。
ハルトはチャンスだと分かっていたが、ディライズの異様な空気に攻めあぐねた。
が、直後にそれは間違いだったと悟る事になる。
ディライズが目を開いたその瞬間、ゾクッとハルトの身体を何かが突き抜けた。
本能が叫ぶ「早く攻撃しろ」と。
ハルトはディライズとの間合いを一気に詰め、右の拳で殴りかかる。
その時、両者の間に上空から強い風が叩きつけた。
ハルトは攻撃を強制的に中断され、ディライズからもさっきの異様な空気は消えていた。
その場にいた3人は上空を見上げる。
そこには、翼を生やした少女が浮かんでいた。
「なっ!?」
「はいは~い、そこまで、次回に持ち越しってね」
「……ティナか」
「ねえ、アレはまだ使っちゃいけないってボスにも言われたでしょ?止めたアタシに感謝してよね」
「フン……処理は終わったのか?」
「いんや~、それがまだ30人ほど残ってるんだけど、『守六光』が割り込んできちゃって…」
「やはり、お前が相手するには無理があったか」
「……知ってたの?」
「当たり前だ。王都の要人だぞ?敵の顔くらい覚えてろ」
「ムキャー!だったら助けに来てよ!」
「そのつもりだったんだがな。残念ながらこちらの敵も只者じゃなくてな」
「えっ、ディライズを負かしたの!?」
「……負けてはいない」
あまりに突然の出来事だったので、ハルト達は呆然とするしかなかった。
すると、その場にミーシェ達が駆けつける。
「ヘイジさん!ピリンク!」
2人の無事な姿を確認し、思わず安堵するミーシェ。
だが
「アチャ~、追いついて来ちゃったよ」
「どうする?コイツらをどうにかしない限り、依頼は果たせそうにないぞ」
「ハハ、大丈夫だよ。お姉ちゃんの事だから、多分こうすればね!」
一瞬だった。
ティナは剣を抜き、そのまま振り抜く。
剣の軌跡をなぞったカマイタチが飛ぶ。
そして
「ガッ……!」
その一撃はピリンクの体を切り裂いた。
直後、鮮血が飛ぶ。
「ピリンクさん!」
「ピリンク!」
「大丈夫、死にはしないよん。すぐに設備の整った所で治療すれば、だけどね」
「……お前もエグい事をするな、わざと生かすとは」
もし、ここでティナがピリンクを殺せば、怒りに満ちたミーシェ達にやられてしまうのがオチだろう。
だが、あえて死ぬかどうかの傷を与える事で、ミーシェ達をこの街から追い出す事ができるのだ、怒りを買うのは同じだが。
しかし、ティナの狙いは1つだけ外れた。
真っ先にピリンクの元に駆けつけるものと思っていたミーシェが、その場を動かなかったのだ。
ミーシェは下を向いたままブツブツと何かを呟いている。
ティナとディライズは、ようやくそれが詠唱であると気付いた。
「チッ」
ディライズは詠唱をやめさせる為、ミーシェに攻撃を仕掛けようとする。
が、それはティナによって止められる。
「ダメ!早く逃げなきゃ!」
「……分かった」
ティナは羽ばたき、広場へと向かう。
ディライズはそれに続きジャンプし、そのまま空中を進んで行く。
彼の魔法は『重』、その名の通り重力を操作する魔法である。
結構魔力を消費するのだが、空中を浮遊する事も可能だ。
「クソッ!『守六光』の詠唱魔法なぞ食らえば一撃だぞ!」
「分かってるよ!だから急いで!」
2人とも最速のスピードで空を進むが、ミーシェの詠唱は予想以上に早かった。
右手をティナに照準を合わせ、左手で右手をしっかりと固定する。
一瞬、ティナはミーシェの方を振り返る。
その目は怒りに満ちていた。
部下を傷つけた敵への怒りと、それを止められなかった自分への怒り。
ミーシェは静かに、そして荒々しく魔法の名を叫んだ。
「『巨人の咆哮』!!」
瞬間、大気が震える。
ミーシェの放った一撃は空を、地上を大きく揺るがした。
そして、その一撃は確実にティナを捉える。
が、その時
「……チッ!」
ティナの前にディライズが立ち塞がる。
実際、空中にいるので立つ事はできないが、ディライズのその姿は『立ち塞がる』以外の表現
できない。
「ディライズ退がって!死んじゃうよ!」
「五月蝿い!黙ってろ!」
ディライズは体に『重』を纏い、更に腕を魔物のものと変化させ、『巨人の咆哮』を受け止める。
当然、ディライズの体には信じられないほど衝撃が走る。
が、それでも彼は退かなかった。
やがて、止められないと悟ると片手でティナを突き飛ばす。
「キャッ!何を…!」
「邪魔だ、どいてろ」
そして、魔法を受け止められなくなったディライズは、それを身に被る。
「ガッ…!アアアアアアアアア!!」
ディライズはこの世のものとは思えない痛みに絶叫する。
ティナはそれを見ているしかなかった。
やがて、魔法の効果がなくなると、とっくに魔法の効果が切れていたディライズは落下を始める。
すかさずティナはディライズを空中で受け止め、広場に向かう。
ティナは今にも泣きそうな顔をしていた。
それを見たミーシェは、罪悪感に駆られる。
「何よ……悪いのはそっちじゃない」
彼女が消え入りそうな声でそう呟いた事は誰も知らない。
その背後からハルトが声をかける。
「……ピリンクさん、血は止まったけどまだ危険な状態は抜け出してないんだって」
「……分かりました。それでは、ストルトに戻りましょう。少しでも進みたいところですが、広場を通ればまた奴らと鉢合わせしてしまう可能性があるので……おそらく旅は長くなってしまうと思われます。本当に申し訳ありません」
「しょうがないよ、緊急事態だもん……ねえ、大丈夫?マテリアさん」
「……大丈夫?何がですか?私は軍人ですよ。気遣いは無用です」
「……そうだね、ゴメン。じゃあ、行こうか」
言ってすぐミーシェは後悔する。
何も悪くないハルトに八つ当たりしてしまった。
自己嫌悪に陥りそうになるミーシェだったが、ぐっと堪え、皆を連れストルトへと向かった。
ということで、『魔人』の存在と『守六光』であるミーシェの力を軸にしてみました。
ちょっと敵(主にディライズさん)をかっこよくし過ぎた気もしますがw
あと、自分の技のネーミングセンスに改めて…orz
『魔人』についてはまた書く事になると思います。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
次回は短めの番外編を上げてみようと思います。
戦闘後のティナとディライズの様子を書くつもりです。
評価・感想・指摘等もらえれば幸いです。