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拳と魔法と勇者と世界  作者: マークIII
2章 勇者の遺産
28/30

番外編5 少年ハルトの修行時代(前編)

投稿までに時間がかかってしまいました。

今から十年前、約半年に渡る『人魔戦争』にも終わりが近づいてきたある日、ジグライオスの東端に位置する村、カーロスでは、早朝にも関わらず、王都へと旅立つ二人の人影があった。



「……さて、この村も見納めになっちまうかもしれねぇんだ。よーく拝んどけよ、ジョニー」

「縁起でもねぇ事言うんじゃねぇよフォルス。俺はまだ死なねぇぞ。息子に教える事が山ほど残ってんだ」

「……そういう話する奴は真っ先に死ぬぞ、定石的に」



二人は大体、五十前後の年齢で、肩には大荷物を抱えている。

すると、二人を遠巻きに見る、小さな少年の姿があった。

やがて、少年はとてとてと二人の元へと駆け寄る。



「……ハルト。起こしちまったか」

「……おじいちゃん、行っちゃうの?」

「そんな情けない顔すんじゃねぇよ。一ヶ月もすれば帰ってこれんだ」

「ほ、ほんと!?」

「おう!じいちゃんが嘘ついた事あっか?」

「ない!」

「だろう?だから、お前は安心してナッツと留守番してろ。ああ、あと、母ちゃん達が戻ってきたら文句の一つは言ってやれよ?はは」



そんな話をしていると、町の入り口から一人の男がこちらに歩いてきた。



「おっと。迎えが来たみてぇだ。じゃあな、ハルト」

「フランクをよろしくな」



二人はそう言うと、男の元へと歩いていく。

ハルトはその男をよく知っていた。

よくカーロスに訪れては、ハルトと一緒に遊んでくれる男だ。

男はハルトに気が付くと、ニコッと笑いかける。



「おいおい、俺の孫に気色悪く愛想振りまいてんじゃねぇぞ」

「気色悪い!?普通に笑っただけなんだけど!?」

「かーっ、これだから色男は。顔がいい男のやる事は大体気色悪いんだよ」

「それ、どう考えてもフォルスの僻みだよね!?」

「……ったく。二人とも馬鹿やってねぇでそろそろ行くぞ」



ジョニーの言葉に、渋々と言った様子で従う二人。

すると、男はハルトに向き直る。



「大丈夫だよ、フォルスは絶対に死なせないからさ。ね、ハルト」

「……うん」

「いい子だ。じゃあね」



男は向き直ると、フォルス達を追う。



「いってらっしゃい!おじいちゃん!ジョニーおじさん!」



ハルトは最後に、あの男の名を大声で叫ぶ。



「-ー-!」



男はそれに振り返らず、代わりに右腕を高く突き上げるのだった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






あれからニヶ月が経った。


『人魔戦争』は人間側の勝利で終結し、人々の生活に安寧と平穏が戻り始めていた。

だが、ヘイジ家は違った。

一ヶ月前、満身創痍ながらも、ジョニーはカーロスに帰還した。

しかし、一緒に行った筈のフォルスの姿はなかった。

ハルトは何度もジョニーを問い詰めたが、その度にジョニーは「すまない」と言い続け、詳細を語ろうとはしなかった。


だが彼の様子からして、フォルスがもう帰っては来ない事は、幼いハルトでも理解出来た。


が、それを知った上で、ハルトはフォルスの帰りを待ち続けた。

雨の日も、風の日も、彼は待ち続けたのだ。

最初は、それを黙って見守っていたハルトの叔父、ナッツだったが、ある日、雨でびしょ濡れになりながらも家に戻らないハルトを見て、ついに我慢出来なくなった。



「……ハルト、家に戻ろう。風を引いてしまう」

「…………」

「……ハルトの気持ちも分かる。でも、父さんは……お祖父ちゃんは、多分……もう帰ってこないんだ」

「……!な、何でそんな事!」



怒りをぶつける為、ナッツを振り返るハルト。

だが、ナッツの表情を見たハルトは、たちまち言葉を失ってしまう。


ナッツの瞳から、涙が溢れていたからだ。


ナッツは温厚ながらも強い芯を持つ人物で、ハルトは祖父のフォルスと同様、彼を尊敬していた。

そんな彼が涙を流す理由、幼いハルトには、まだそれが理解出来なかった。



「……僕だって、父さんとこんな別れはしたくなかった!もっと教わりたい事もたくさんあった!それなのに……。あの時、僕が代わりに行っていれば……!」

「そ、そんな、ナッツおじさんのせいじゃないよ!おじさんは、村を襲ってきた魔物もやっつけてくれた!おじいちゃんの言う通り、僕を守ってくれてるもん!」

「ハルト……」



雨に打たれながら、ナッツはハルトの体を抱き締めた。

やがて、その腕を解くと



「……今日はもう戻ろう。お腹も空いただろう?」

「……うん」

「いい子だ」



ナッツは優しくハルトの頭を撫でると



「じゃあ戻ろう……大事な話もあるからね」






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






食事を終えた後、ハルトはナッツの淹れたコーヒーを啜っていた。

温かいコーヒーが、ハルトの体を、心を溶かしてくれるのを感じた。



「……おじさん、大事な話って?」

「……ハルト、知っているかもしれないが、ヘイジ家は代々……と言っても、僕のお祖父ちゃん、つまり君の曾お祖父ちゃんの代からだけど、格闘家の家系なんだ」

「う、うん。おじいちゃんから聞いたよ」

「それで……父さんが言ってたんだ。ハルトに拳法を教えるかどうかは、ハルトに決めさせろ、ってね」

「え?」

「実は、僕も昔選らばさられたんだよ。普通に生きるか、格闘家として生きるか選べってさ」



「ははは」と苦笑してみせるナッツ。



「……おじさんは、格闘家を選んだの?」

「……うん。父さんに憧れてね」



ナッツは恥ずかしそうに鼻を掻く。



「一度、盗賊に襲われた事があってね。でも、父さんは拳一つでその盗賊達を叩きのめしたんだ……それを見たのが直接のきっかけかな」

「……やる」

「え?」


「僕も格闘家……やる」


「……いいんだね?僕や父さんがやったからって、君がその運命を背負う必要はないんだよ?」

「…………」

「……いい目だね、覚悟が宿ってる。本当の男って奴は、口にしなくても心が伝わるもんだ……って、父さんの受け売りだけどね」



ナッツは立ち上がると、窓を開け放つ。

いつの間にか雨は止み、空には虹が浮かんでいた。



「まるで、君の決意を祝福してるみたいだね。って、ちょっとクサかったかな」

「…………」



ハルトは無言のまま立ち上がると、ナッツに向かい、深々と頭を下げた。



「よ、よろしくお願い、します!」



その態度に、最初は目を白黒させたナッツだったが、やがてにこりと微笑むと



「ああ。こちらこそよろしく頼むよ」






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






翌日から、ハルトの修行は始まった。

それは一日分のメニューですら、大人の男が音を上げてしまうほどハードなものだったが、ハルトは弱音一つ吐かずに、それをこなしてみせた。

それどころか、ナッツの組んだメニューが終わった後に、自分で考えた鍛錬を毎晩欠かさずやり続けたのだ。


そして、八年の歳月が流れた。


長い時間を経て、ジグライオスは大国として進化を遂げた。

しかし、そんな中でも、全くと言っていいほど変化のなかったカーロス。


だが、そんなカーロスに、今、暗い影が歩み寄り始めていた。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






夏のある昼時の事。

ヨウコ・カンバヤシとフランク・ベイルズは、丘の上に建つ友人の家に向かっていた。



「それにしても、アンナ姐が修行で遠征ねぇ……マジで出るつもりなのかね、『大闘技祭』」

「みたいだよ。気まぐれらしいけど」

「気まぐれで出られちゃあ、他の参加者が可哀相だろ。アンナ姐に当たった奴は特に」

「確かにね」

「……まあ、それでもちゃんと修行とかする辺り、一応気合は入ってるみたいだけどな」

「……でも、残念だったね。折角の誕生日パーティなのに」

「ああ。ナッツさんももう四十か……おっさんって呼んでやろうかな」



「くくく」とフランクは笑う。



「もう、茶化さないの」

「悪い悪い。そういや、ハルトの奴、ちゃんとナッツさん連れ出せてっかな?」



ハルトがナッツを外に連れ出し、その間にフランクとヨウコがヘイジ宅でパーティの準備を済ませる。

それが、フランク達が考えた作戦だった。



「大丈夫だよ、多分。ハルトも楽しみにしてたし」

「だな。ハルトも馬鹿じゃない……し……」



ふとヨウコを見たフランクは、思わず言葉を止めてしまった。

風でなびく髪に手を当てるヨウコが、堪らなく可愛らしかったからだ。

その光景に、フランクは思わずドキッとしてしまう。



「?どうかした?」

「い、いや、何でもない。そ、それより、早く行こうぜ。帰ってきちまったら元も子もないしな」

「そうだね。早く終わらせちゃおうか」



赤くなった顔を見られたくなかったフランクは、足早にヘイジ宅に駆け寄る。

いつまでも、この変わらない日常が続けばいい。

フランクはそう思った。

もちろん、それが叶わない事は分かっている。

それでも、出来るだけ長く、少しでも長く、この生活が続けば……そう思っていた。


しかし、フランクの願いは、この後音を立てて崩れ去る事になる。


フランクは、事前にハルトから合鍵を受け取っていたのだが、玄関を見て、ある異変に気付いた。



「……あれ?」

「どうしたの?」

「いや……玄関が開いてんだ。変だな。あいつが鍵かけ忘れるなんて」



何となく不審に思いながらも、フランクは扉を開ける。


その瞬間、フランクは横から強い衝撃を頭に受けた。


意識を失い、よろめくフランクを、ヨウコが受け止める。



「フランク君!」

「……ちっ、面倒だ。そこの女も中に入れろ」



家の中から声が聞こえると、ヨウコは玄関から伸びる手に引きずり込まれた。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






十分後、フランクは激痛に目を覚ます。

体は縄で拘束されており、右にいるヨウコもまた同様だった。

フランクは家の中を見渡す。


見れば、三人の男達がヘイジ宅の中を物色していた。


その内の一人がフランクに気付くと



「大きな声を出すなよ。少しでも長生きしたかったらな」

「……お前らは誰だ?」

「……どうやら自分の置かれている立場が理解出来ていないようだな」



そう言うと、男はフランクの腹を蹴り飛ばした。



「フランク君!」

「カッ……ゲホッゲホッ!」

「質問を許した覚えはない」



そう言うと、男は部屋の物色を再開する。

ヨウコの体は震えていた。

恐怖で目には涙さえ浮かべている。



「た……て」



震えるような声で彼女は呟く。



「た…けて……助けて、ハルト君……!」


「呼んだ?」



どこからともなく聞こえたその声と共に、ドォン!という轟音が響き渡った。

男達は音源である玄関に目を向ける。

そこには、二人の人影があった



「……人の家で何やってるの?」

「……事と次第によっては、許せる事じゃないよ、これは」



二人の人影、ハルトとナッツは、静かに、だが隠し切れない怒りを放ちながら、三人の男達を睨みつける。



「……おい、見付かっちまったぞ、どうする?」

「どうするも何も……殺るしかないだろ」



そう言うと、男達のリーダー格である大男がナイフを構え、残りの二人も後に続く。



「……反省の色はなし、か。仕方が無い。ハルト、お願い出来るかな?」

「むしろ僕に任せてもらえなかったら、叔父さんを殴り飛ばす所だったよ」



ハルトは男の一人との距離を詰めると、その顔面に右手で強烈な一発をお見舞いした。

ぐらつく男に、ハルトはトドメと言わんばかりに、左手の裏拳を相手の顔面にめり込ませる。

男は堪らず、白目を剥いて倒れた。



「ば、馬鹿な……!」

「言い忘れていたけど、彼をただの少年だと思ってると痛い目を見るよ?」



ナッツの警告も既に遅く、ハルトはもう一人の男を沈めていた。

残りは、二人を仕切っていた大男のみ。

男は怯みながらも、ナイフでハルトを突き狙う。

ハルトはそれを避けようとせず、代わりに右手の裏拳を横に振った。


すると、男のナイフの刀身は綺麗にポッキリと折れていた。



「なっ!」

「歯、食い縛った方がいいよ?」



次の瞬間、ハルトの容赦ない拳が、男の顔面に突き刺さった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






「ヨウコ、大丈夫?」

「う、うん、平気。私よりもフランク君が……」

「……大丈夫。大した怪我じゃないみたいだ」

「……ふう、大事にならなくてよかったよ」



ハルトは安堵し、縄で縛った男の一人の頬を叩き、意識を戻す。



「……ん、んん……こ、ここは……」

「君達が空き巣に入った部屋だよ」

「ひっ!」



自分をボコボコにした少年の顔を見て、男は恐怖する。



「……そんなに怯えなくても」

「いや、あそこまでされたらしょうがないと思うよ?」

「……まあいいよ。で、君達は何で僕達の家で何探してたの?」

「…………」

「よし、歯を食い縛って」

「わ、分かった!言う!言うから!」



そう言うと、男は自分達の目的をハルト達に告白した。

何でも、彼らはある組織に属していて、ここに来たのもその組織からの命令らしいのだ。



「ふうん……で、何持って来いって言われたの?」

「こ、籠手だ。何でも特別な力を持ってるとか言う……」



ハルトとナッツは、その一言でその籠手が『不障の籠手』であると察した。



「……籠手、ね。じゃあ、最後に一つだけ聞くよ」

「な、何だ?」


「その組織っていうやつ……名前、何て言うの?」


「……い、言えねぇ。それだけは……俺があいつらに殺されちまう」

「……約束する。絶対に口外しない。それに、ここで君が喋らなかったら……どうなるか分かるよね?」

「うっ…………ぜ、絶対に誰にも言わない、んだな?」

「うん、神に誓って。誓う神なんていないけど」


「……そ、その組織の名前は……『紅の牙』……ギルドだ、裏のな」


「……裏ギルドか。何でまたそんな」



ナッツが溜め息を吐く。

裏ギルドとは、正規のギルドのような民間の依頼を受けず、貴族から受ける高給な犯罪紛いの依頼ばかり受ける、黒い噂の絶えないギルドだ。


そして『赤い牙』。

この存在が、後にハルト達の運命を大きく変える事となる。


ということで、ハルトが格闘家を目指す事になったきっかけと、彼の叔父にして師匠、ナッツについての話です。

あと、番外編なのに、伏線がもりだくさんw

まあ、番外編は見なくても大丈夫なように書くので、そんなに支障はありません。

そして、謝罪が一つ。

タイトルでお気付きになったかもしれませんが、今回は前後編に別れます。

いや、すいません……ただでさえ、投稿するのに、こんなに時間かかったのに前後編って……orz

23話は出来るだけ早く投稿するので、了承して頂けたら幸いです。



次回予告


裏ギルド『赤の牙』。

果たして、彼らの目的とは?

そして、ハルトの過去とは?

次回、番外編5『少年ハルトの修行時代(後編)』

頑張ります。



評価・感想・指摘等頂けたら幸いです。

質問も、頂けたらお答えします。

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