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拳と魔法と勇者と世界  作者: マークIII
2章 勇者の遺産
27/30

第22話 十人議員シャルロットの提案

ほとんど説明回にも関わらず、いつもより長くなってしまいました。

タナトスの襲撃があった翌日。

退院したラズマは、宿泊していた宿を訪れていた。

当然ながらマリィの姿はなく、彼の心は深く沈んだ。

だが、感傷に浸っている暇はない。

彼は受付に向かい、目当ての人物がいる事を確認し、その部屋へとやって来た。



「……てっきり、もう逃げてるもんだと思ってたけどな」



ラズマは呆れたように呟くと、その扉を開ける。

そこには、扉の外から差し込む光に目を細める、一人の女の姿があった。


女の名はチェイズ。


シャルロットが、ラズマ達に仕向けた刺客の一人だ。

彼女の腕と足はロープで拘束してあり、ベッドの上にムスっとした表情で座っている。



「……どうした。今更、貴様に喋る事など何もないぞ」

「いや、俺はてっきりあのタナトスとかいう女に連れ出されてるもんだと思ってたんだが」

「……ああ、あの『死神』か」



チェイズは嘆息する。

どうやら、会ってはいたようだ。



「何で出て行かなかったんだ?てか、お前ならそのくらいの拘束、苦でもなかっただろ?一応、外から鍵はかけてたけど、逃げ出すチャンスなんていくらでもあった筈だ」

「……ここまでの失態を晒しておいて、すごすごと戻れるものか」



暗い表情のまま、チェイズは俯く。

ラズマは一度溜め息を吐くと、ここに来た理由である''本題''を切り出す。



「……お前の身柄を開放する。代わりに、ブロンドウェイの居所を教えろ」

「……何を言っている?ひょっとしてお前は馬鹿か?馬鹿なのか?」



チェイズは呆れたと言わんばかりに顔をしかめる。



「任務に失敗し、敵の捕虜にまでされたんだ。帰れるわけがない。その上敵に居場所を教えるなど……言語道断も甚だしい」

「……じゃあ、いいんだな?」

「……?」


「昨日の騒ぎがブロンドウェイによるものだって、触れ回ってもいいんだな?」


「……ふん、ただの学生であるお前の言葉など、誰が信じるものか」

「まあ、ここ以外だったらそうだろうな」



そう言うと、チェイズに歩み寄るラズマ。



「けどな。俺はずっとこの辺で育ってきたんだ。当然、この辺の多くの住民とは顔見知りなわけだ。それに加えて、ここは商業の盛んな北東部……何が言いたいか分かるな?」

「…………」

「行商人の耳に入れば、たちまち王都中にブロンドウェイの黒い噂が広まるっつう寸法だ」

「……そんな信憑性に欠ける噂話、広まるわけがない」

「まあ、普通ならな。ところがどっこい、俺もまだ運に見放されてなくな」



ラズマが不適に笑い、チェイズの背筋にゾクッとする何かが流れた。

その時、チェイズの腹部から「ぐぅ~」という情けない音が聞こえてきた。



「……そういえば、ここの宿って食事は用意してくれないんだったな」

「ち、違う!これは、違う!」

「いや、別に隠さなくても……丸一日飯を抜けば誰だって腹は減るさ。あ、飯持ってこようか?ブロンドウェイの居場所を吐くならだけど」

「だ、誰がそんな取引に応じるか!」



チェイズは拗ねたようにそっぽを向いた。

その様子を見たラズマは、思わず笑ってしまう。



「まあ、とりあえずは話の続きだ。えっと、ブロンドウェイの所業を暴露する方法だったか?」

「…………」

「だんまりか。まあいいさ。俺もすっかり忘れてたけど、バラドーさんは''ある組織''の幹部に当たる男でな」

「……まさか」

「ああ。多分、今考えてるそれで正解だ」


「……『超光(オーバーレイ)』を動かすというのか……馬鹿な、出来る筈がない!」


「それが俺のもう一つの運のよかった所でな。偶然にも、『超光』の首領さんの目的が、俺達にも無関係ではないみてぇでよ。協力し合う事で合点がいったわけ」



ここで、ラズマはハッタリをかまけた。

確かに、トリシアの話から、『超光』の首領、アンジェリカ・ナイトレイジの目的が『勇者の遺産』であると分かった為、ラズマ達との目的と合致はするだろう。

だが、昨日の今日でアンジェリカと直接話が出来る筈はない。

しかし、二日間の監禁により、精神状態が不安定だったのか、チェイズには少なからず動揺が生まれる。



「…………」

「さあ、どうする?決めるのはお前だ、俺じゃない」



ラズマは、ハッタリと虚勢でチェイズに迫る。



「恥を偲んで主人の元へ帰るか、それとも、戻らずに主人の名誉に傷をつけるか」

「…………め…を……しろ」

「あ?」



チェイズは何かを呟いたが、ラズマに聞き取る事は出来なかった。

すると、チェイズの足を拘束していたロープが突然焼き切れる。

そのまま勢いよく立ち上がると、ラズマを食い殺さんばかりの勢いで睨みつけ



「飯を用意しろと言った!聞こえなかったのか、この愚図が!」



と、大声で毒を吐いたのだった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






その日の午後、所変わって、ここは王都近郊に存在するブロンドウェイ邸。

その一室に、シャルロットとタナトス、ソロンの姿があった。



「それで、例の彼女は?」

「……それが、頑なに『魔』の使用を拒み、食事も取ろうとせず……」

「困りましたね……ただでさえ、彼女の魔法は身体への負担が大きいらしいですからね。飲まず食わずでは''計画''に支障をきたします」

「……ごめん、なさい。私が、あの男、連れてくればよかった」

「そうですね……ですが、あの辺りの住民には、もうタナトスの顔が割れているでしょうし……はて」



「困りました」と、シャルロット頬をつく。

すると、突然、部屋の扉が静かに開けられた。

見ると、困ったような顔を浮かべたガーティンがそこに立っていた。



「どうしたんですか、ガーティンさん?何か分かったんですか?」

「あ、いや、そうじゃないんですが……その、来客です」

「来客?今日はそんな予定無かったと思いますが」

「はぁ……それが……その来客というのが……」

「?一体誰だと言うんですか」」


「その……ラズマ・エイジス、と名乗っていまして」


「ば、馬鹿な!奴が此処を知る筈が……!」

「……彼一人、でしたか?」

「いえ、もう一人、両手を拘束された女性がいました」

「……まさか」

「チェイズ、でしょうね」



それを聞いたソロンは、わなわなと震え始める。



「チェイズ……!敵に捕まるだけに飽き足らず、此処の情報まで漏らしたというのか!」

「おそらく、そのラズマという少年に言い包められたんでしょうね。ふふ、彼女らしい」



シャルロットは、口元を手で押さえ「くすくす」と笑う。

普通ならば、とても笑える状況ではない。

だが、今は違う。

ラズマの来訪は、少なからずマリィに影響をを与えるだろう。



「通して下さい」

「……いいんですか?」

「ええ。マリィ・レウズの魔法は、『勇者の遺産』を手に入れる為には大事なプロセスですからね。彼女の体調を整える必要があります。それに、ラズマ・エイジス……彼の魔法も気になりますしね。うまくいけば、仲間に引き込めるかもしれません」

「……分かりました」



そう言うと、ガーティンは玄関へと向かう。

数分後、ラズマとシャルロットは、初めて顔を合わせた。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






「……あんたがブロンドウェイか」



ラズマの言葉に、ソロンがピクリと眉を動かす。



「……貴様、それが『十人議員』に対する口の利き方か」

「知らねぇよ。俺にとっては誘拐グループの黒幕だ」

「無礼者ッ!」



ソロンは腰の剣を抜き、ラズマに斬りかかる。

ラズマはそれに対し、『誘』を発動させると、懐の小槌を取り出す。

二人が接触する、まさにその時。

両者の間に割って入った人影があった。



「シャ、シャルロット様」

「おやめなさい、ソロン。今日は争うつもりはありません。そうでしょう、ラズマさん?」

「……ああ」



ラズマは小槌をしまうと同時に、シャルロットの人並外れた何かを感じた。



「とりあえず、こいつは解放するぜ」



そう言うと、ラズマはチェイズの拘束を解いた。

チェイズはどこか怯えた表情でシャルロットに近づくと、震えながら口を開く。



「………た、ただいま戻りました、シャルロット様」

「お帰りなさい、チェイズ。よくやってくれました」

「……え?」

「貴女が彼に此処を教えなければ、状況はもう少し遅れていたでしょう。礼を言います」



シャルロットのその言葉に、チェイズは困惑したような、ホットしたような顔を浮かべていた。

そして、シャルロットはラズマに向き直る。



「……それで、今日はどういったご用件でしょうか?」

「……決まってんだろ。マリィの身柄を解放しろ」

「それは難しい相談ですね。彼女の能力は、我々の''計画''には必要なものなので」

「ふっざけんな!そんなもん、お前らで何とかしやがれ」

「何とかする為に、彼女を誘拐したんですが?」



シャルロットの屁理屈に、唇を噛み締めるラズマ。



「……まあいい。どうせ、こんな話じゃ解決しないと思ってたしな」

「では、どんな話なら解決するとお思いで?」

「……どうせ、その辺はあんたが考えてんだろ」

「ふふ、人任せですか。まあ、貴方の言う通り、大体の筋書きは用意していましたがね」



そう言うと、ガーティンが二枚の紙をラズマに手渡す。

一枚は、いかにも高価そうな羊皮紙で、もう一枚は『隔月闘技大会・八の月』と書かれた紙だった。



「……これは?」

「一枚は、見ての通り『隔月闘技大会』の告知ポスターですよ。『隔月闘技大会』、知っているでしょう?」

「……まあな」



偶数月に一度、王都立闘技場にて行われる闘技大会、それが『隔月闘技大会』だ。

ちなみに、毎年十月には、年に一度の『闘技祭』なるものがあるのだが、これらのイベントは貴族達の政略戦争や賭けなどに使われる事が多い。

そんな大会が、一体何の関係があるというのだろうか。



「簡単な話ですよ。一週間後行われるこの大会で、白黒をつけようと言うわけです」

「……どういう意味だ?」


「つまり、貴方がこの大会で優勝すれば貴方の勝利、マリィさんは解放しましょう。しかし、敗退すれば貴方の負け、貴方は私の手駒として従順に働いてもらいます」


「……意味分かって言ってんのか?優勝なんて出来るわけねぇだろうが!」

「まあ、出ないなら出ないで私は構いませんよ?こちらには『操』の魔術師がいましてね。マリィさんを

操って『魔』を発動させる事は出来るんですよ……まあ、身体にかかる負担は通常の倍でも済まないでしょうが」

「……テメェ!」

「私としても、それは不本意なんですよ。おそらく、『操』で操った場合に発動出来る『魔』の効果は半分もないでしょうからね」



ラズマは歯を食い縛る。

つまり、マリィを助ける為には『隔月闘技大会』で優勝しなければならないという事だ。



「……分かった。その話、呑ませてもらう」

「賢明な判断ですね」



そう微笑むと、シャルロットはラズマの持つ羊皮紙を指差す。



「では、それにサインをお願いします」



見れば、その羊皮紙には既にシャルロットの言った条件が記されていた。

しかし、「この女が普通の事をさせる筈がない」と考えたラズマは


「……これ、普通のもんじゃねぇだろ?」

「あら、気付かれましたか?」



シャルロットは意地の悪そうな笑みを浮かべる。



「その羊皮紙は『絶対の誓い』という契約書でしてね。それにサインし、書かれた内容に離反すると……」

「……どうなんだよ」

「自分が裏切った人物の、文字通り''操り人形''となります」

「……つまり、裏切れないようにする為の契約書、そういう事か」

「そういう事です。ちなみに、今回は二対二のタッグマッチらしいですからね。バディの決定は慎重に」



ラズマはしばらく俯くが、やがて意を決したように顔を上げると、その羊皮紙にサインする。

それを確認したシャルロットは、自分の名前を羊皮紙に記すと、完成した『絶対の誓い』を、ガーティンに渡した。



「……これで用は終わりだ、が……」

「マリィさんに会いたい、ですか?」

「…………」

「いいですよ。まあ、そんな長い時間は了承しかねますが」



そう言うと、ソロンが「こっちだ」とラズマを案内する。

マリィのいる部屋は、ブロンドウェイ邸の一番奥にある部屋で、厳重な鍵が施行されていた。

ソロンがその鍵を一つ一つ開けていき、やがて最後の鍵がカチャリと開けられる。


部屋の中心には、ボーっと佇むマリィの姿があった。


たった一日見ていないだけなのに、マリィの体は痩せ細って見えた。

やがて、マリィは開かれた扉の方を見やり、そして目を見開く。



「……ラズ、マ?」

「マリィ!」



ラズマはマリィに駆け寄ると、その華奢な体を抱きしめる。



「ごめん……本当にごめん……!」

「……痛いよ、ラズマ」



ラズマはハッと気付くと、顔を赤らめながら抱きしめる腕を解いた。



「わ、悪ぃ」

「……別に、抱きしめるのをやめろとは言ってないんだけど」

「え?何だ?」

「何でもないよ馬鹿ラズマ……私なら、大丈夫だから、ね」

「……ごめんな。あと一週間だけ、待っててくれ」

「分かった。どうせ、ラズマはまた無茶するんでしょう、あの時みたいに」

「あー……多分」



マリィはわざとらしく溜め息を吐く。



「まあ、一週間程度なら頑張れるから、ラズマは頑張って」

「任せ、ろ……」



その時、ラズマの思考は停止した。


彼の頬に、マリィの唇が押し付けられていたからだ。


マリィは唇を離すと、顔を赤らめる。



「これはお呪い。ほら、女の子に、恥じかかせないで」



そう言うと、ラズマを部屋から追い出す。

その光景を見ていたソロンは



「……青春、というやつか?私にはよく分からんが……」






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






数分後、ラズマはブロンドウェイ邸を後にする。

その姿を見届けたシャルロットは、僅かに微笑みながら、心中を吐露する。


「さて。これでこの件については手が打てましたね。あとは、''奴''がどう動くかです」

「……ですが、本当によかったのですか?タナトスは顔が割れいるますし、もし……もしもあの男が優勝するような事があったら……」

「いえ、問題はないでしょう」

「?」

「現在、ガーティンさんに''私が刺客を『隔月闘技大会』に出場させる''という情報を流してもらっています」

「なっ!それは事実では……!」

「ええ。確かに、私も何人か出場させる予定ですよ。でも、ラズマ・エイジスの実力が未知数な以上、用心に越した事はありません。私が関わるとすれば、数日前からこそこそ嗅ぎ回っている、ミーシェ・マテリアも出場する可能性が出てきます」

「……まさか」


「ええ。今回の目的は優勝ではありませんからね。ミーシェ・マテリアをラズマ・エイジスにぶつける事で、この問題は解決、晴れて『魔』は私のもの、マリィ・レウズも、彼の言う事ならば聞くでしょう」


「…………」



その時、ソロンの背筋をゾクッとする何かが通り抜けた。

自分の仕える主人が、改めて恐ろしい女だと悟った瞬間だった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






ブロンドウェイ邸を後にしたラズマは、バラドーとトリシアのいる病院へと戻っていた。

『隔月闘技大会』、当然ながら、出場する選手達も猛者だらけだろう。

そんな猛者達がひしめく大会を、ラズマが勝ち抜ける筈もない。


一つだけ幸があったとすれば、それはタッグマッチだという事だ。


しかし、バラドーが入院している為、戦ってくれるようなパートナーは他にいない。

ラズマが心重く俯いていると



「どうしたんだい、少年?そんな人生に絶望したみたいな顔しちゃって」



と、後ろから女の声が聞こえてきた。

振り返ると、鼻につく煙草の匂いが漂う。



「……誰だ?」



ラズマの問いに女は「ニヒヒ」と笑うと



「通りすがりの天才だよ、ラズマ・エイジス君」


ということで、いよいよ見えてきた2章の山場となるであろう『隔月魔法大会』。

そろそろ2章も佳境、ここからが本番(予定)です。

そして、今回のラストに登場したケイt……謎の天才。

果たして、ケイt……彼女の正体とはw


次回は久々の番外編にしようと思います。

最近全然出番がなく、主人公(笑)となってしまったハルト君の修行時代ですw


果たして、彼に拳法と教えてくれた人物とは?

そして、ハルトの過去とは?

次回、番外編『少年ハルトの修行時代』

頑張ります。


評価・感想・指摘等頂ければ幸いです。

質問も、頂ければお答えします。


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