表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拳と魔法と勇者と世界  作者: マークIII
2章 勇者の遺産
23/30

第18話 魔術師潰しバラドーの再来

今回、ちょっと短めです。

黒装束の女、チェイズは忌々しそうに舌を打つ。

彼女は、巷では『魔術師潰し(ウィザードブレイカー)』と呼ばれているこの男を知っていた。

一度だけこの男、バラドーの戦いを見た事があるのだ。

超光(オーバーレイ)』への依頼で、王都近辺を荒らし回った魔術師を拘束した時の事とだった。

相手は『弾』の魔術師で、手から魔力の弾を撃ち出すという魔法の使い手。


しかしその魔術師は、五発ほどの『弾』を撃った後、バラドーの『吸』によって生じた魔力を一身に受け、全治三ヶ月の大怪我を負う事となった。


その光景を影から見ていたチェイズは、''この男との戦いだけは避けなければならない''と肝に銘じた。

だが、この状況ではそういうわけにもいかない。

チェイズは深呼吸をすると、目の前の敵を見据える。

その顔を見たバラドーは、ニッと笑う。



「いい顔じゃねぇか。アッシに対する怯えが無くなった」

「…………」

「それじゃあ……行くぞ!」



バラドーはチェイズに向かって突進する。

チェイズは自身の魔法、『炎』を発動させる。

『火』と『炎』、この二つの魔法の違い、それは範囲によるものだ。

性質や威力自体は、どちらもほとんど違いは無いのだが、『炎』の攻撃範囲は『火』の二倍から五倍まで拡張すると言われている。

チェイズは、即座に炎弾をバラドーに放つ。

バラドーはそれに対して『吸』は使用せず、その前に『吸』によって生じた魔力をその炎弾にぶつけ、相殺させる。


その行動は、チェイズの中で組み立てていた''ある仮説''を成り立たせた。


彼女が知りたかったのは、''『吸』で吸収出来る魔力の限界''だ。

先ほどの様子を見る限り、バラドーはチェイズの炎弾を一発までしか吸収出来ないらしい。


それさえ分かれば、少しはまともに戦える。


チェイズは、襲い掛かるバラドーの槌をかわすと、隙だらけの脇腹に炎弾を放つ。



「何度やっても無駄だ」



バラドーはそれを吸収し、もう一度槌を振るう。

チェイズは身軽な動きでそれをかわし、バラドーから距離を取る。



「……ちょこまかと動き回りやがって」

「貴方と戦り合うのなら、これくらいは当然だろう」



チェイズはそう言うと、『炎』による広域炎弾をバラドーに放つ。

範囲が広く、避ける事も出来ないその炎弾に、バラドーは顔をしかめ『吸』でストックしていた魔力をその炎弾と相殺させた。

チェイズはその隙を逃さず、バラドーに三発の炎弾で、追撃を仕掛ける。

直後、爆音が鳴り響き、辺りが土煙に覆われた。

だが、チェイズは追撃の手を緩めず、詠唱を始める。

『追尾炎弾』の二倍ほどの長さはある詠唱の後、チェイズの右手が『炎』で覆われた。

その名も『フレアグラブ』。

『炎』の特性を最大限にまで活かした技で、遠距離、近距離、どちらにも対応する事が出来る。

チェイズは土煙の中を進み、バラドーの姿を探す。

今の攻撃、『吸』を使っても全てを吸収する時間は無かった。

つまり、少なからずダメージは受けている筈だ。

あの巨体と言えども、手負いで『フレアグラブ』を受ければひとたまりも無い。

チェイズはそう考えた。

確かに、その推測は間違っていないだろう。


ただし、バラドーがダメージを受けていればの話だが。


突然、チェイズの左方から巨大な影が現れる。

言うまでも無く、バラドーである。



「なっ!」



驚くチェイズを尻目に、バラドーは槌を打ち込む。

チェイズは腕をクロスしてガードするが、魔力の上乗せされたその一撃に、彼女の体は宙を舞った。

受身を取れず、体が地面に叩きつけられる。



「ガッ……!」

「勝負あり、だろ?これ以上の無理は体に毒だぜ」



バラドーは、悠然と、槌を肩に担ぐ。

それは余裕綽々といった様子で、とてもダメージを受けているようには見えなかった。

チェイズはよろよろと立ち上がり、痛みに顔を歪める。



「……何故だ。『吸』によって吸収出来る魔力は……」

「お前さんの魔法一撃分しかない、ってか?」

「……!まさか」



バラドーは笑う。



「アッシが『魔術師潰し』と知って喧嘩を売る魔術師は結構多くてな。お前さんみたいな策を取ってくる奴とは腐るほど相手してんだよ。大体、お前さんの攻撃程度を一発しか吸収出来ずに、『魔術師潰し』は名乗れねぇよ」

「……どうやら、アンジェリカ氏以外の魔術師相手に、負け無しという噂は本当だったようだな」

「……いや、間違いだ。この場を借りて訂正しとくぜ」

「……?」

「残念ながら、二週間くらい前に、三人の魔術師のせいで、その噂は破綻しちまったんだよ」



バラドーは憎々しげに呟く。



「一人は十三の女の子。一人は無口な青年。もう一人は……『火』の魔術師だ」

「……何?」



自分と同じ系統の魔法の名を聞いて、チェイズは怪訝な顔になる。



「……馬鹿な。『火』如きが……」

「確かに、お前さんの魔法はそいつより上だったよ。でもな、戦略はお前さんのを遥かに上回ってたぜ」

「…………」

「お前さんは、魔法と自分の身体能力に頼り過ぎなんだ。戦略も悪くないが、一般レベルは抜け出せてねぇ」



バラドーの言葉に、チェイズの眉間の皺はどんどん深くなる。

しかし、そんなチェイズをお構いなしに、バラドーは



「ま、つまりお前さんは、裏稼業をやるには脳筋過ぎるんだよ」



バラドーが言えた台詞でも無いが、それを聞いたチェリズは激昂し、『フレアグラブ』が消えていない右手を、バラドーに向ける。

前述した通り、『フレアグラブ』は近距離、遠距離共に対応する事が出来る。

近距離は言うまでも無く、殴る事によってその効果を発揮する。

対して、遠距離攻撃はと言うと、『フレアグラブ』に込められた魔力を竜巻状にして放つのだ。

チェイズは、怒りに身を任せ、渾身の力でそれを撃ち出す。



「……やりゃあ出来るじゃねえか」



バラドーは槌を地面に突き立て、両手で炎の竜巻を受け止める。

数秒の後、それはバラドーに吸収された。

チェイズは体を震わせ、その場に崩れる。



「そん……な」

「……今度こそ終わりだ。さあ、喋ってもらうぞ。ブロンドウェイの情報をな」



チェイズは、恐ろしい形相でバラドーを睨みつける。



「……喋るわけがない、そう言いたげだな?仕方ねぇ。お前さんを拘束してから色々と聞かせてもらおう」



バラドーの言葉に、チェイズは再び怪訝な顔になる。

チェリズのスピードは、バラドーも確認している筈だ。

傷は深いものの、これほどの距離があれば、彼女にとって逃げるのは造作も無い事だろう。

チェイズの顔を見たバラドーは、槌を担ぎながら笑ってみせる。



「まあ、アッシが拘束するとは一言も言ってねぇがな」



その言葉の意味を、チェイズは後頭部に強い衝撃を受け、振り返り、ようやく知る事が出来た。

彼女の視線の先、そこには、小槌を振り下ろしていたラズマの姿があった。

薄れゆく意識の中、チェイズは呟く。



「……要は使いよう、か。勉強に、なった」






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






チェイズを縄で縛り、ようやく一息着くラズマ。

また敵が来ないとも限らないので、マリィは家の中で休ませた。



「ふう、助かったぜ……えっと」

「バラドーだ」

「ありがとな、バラドーさん。俺はラズマ・エイジス、あいつはマリィ・レウズだ」

「礼には及ばんさ。アッシも、この女には用事があったところだしな……ところで、お前さん方、この女に襲われていたみたいだが?」

「……よく分からねぇんだ」



ラズマは、昨日の出来事をバラドーに話す。

バラドーは、話が進むにつれ、眉間の皺が深くなっていった。



「……あの女、マリィだったか?そいつを襲ってきたのか?そのソロンって女が」

「え?ああ……ソロンって奴、知ってるのか?」

「……ブロンドウェイの側近だ」

「そういやさ、そのブロンドウェイって奴誰?」

「ああ、そうか。知らないのが普通か……シャルロット・C・ブロンドウェイ。『十人議員』の一人だ」



さすがに『十人議員』の名は知っていたのか、ラズマは「マジかよ」と息を呑む。



「……でも、『十人議員』なんてお偉いさんが、どうしてマリィを?」

「さあな……ソロンは、他に何か言ってなかったか?」

「あいつは別に何も言わなかったけど……マリィが、そいつらが『勇者の遺産』とか何とか言ってたのを聞いたんだと」

「『勇者の遺産』……きな臭ぇ言葉だな。とりあえず、それが鍵になりそうだ……一ついいか?」



そう言うと、バラドーはラズマに歩み寄る。



「何でも言ってくれ。俺に出来る事はやらせてもらう」

「いや、大した事じゃないんだが……アッシは雇ってもらえねぇか?用心棒として」

「……そりゃあ願ってもない話だけどよ……金なんかほとんど無いぜ?」

「報酬は刺客から剥ぎ取った戦利品と、聞き出した情報だけで構わんさ」

「そんなんでよければ喜んでお願いするぜ……で、これからどうすればいいと思う?」

「とりあえず、ここに居たら危険だからな。王都の中心部へ向かうぞ。そこに、アッシと同じ目的を持つ奴らが居る筈だ」

「……そういや、バラドーさんは何でブロンドウェイを嗅ぎ回ってるんだ?」



ラズマはふとした疑問をぶつける。

バラドーは、少し視線を落とし



「……ある人を、探し出してぇんだ」






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






一方その頃、ミーシェ達二人は、王城の資料室に居た。

『勇者の遺産』、そして勇者ノヴァについて調べる為だ。



「勇者ノヴァ……勇者ノヴァ……うーん、こっちには見付からないよ」

「……!あった」



ミーシェが報せる吉報に、ティナは目を輝かせて、その資料を食い入るように見つめる。

どうやら、ノヴァ本人に関するものでは無く、『人魔戦争』の資料のようだった。



「おそらく、ノヴァについての資料は残って無いんでしょうね。王都がひた隠しにするくらいだし」

「……えっと、知らない字だよ?」

「……これは、暗号ね。情報を外部に漏らさない為の」

「……読めるの?」

「多分……えっと、''十月十五日、魔王が根城とする城に突入''」

「おお!」



歓声をあげるティナ。

ミーシェはそのまま読み進める。



「''ジグライオス軍は、前線を切り込む二十人程度の部隊を編成''……二十人とは、随分と少数ね」

「そ、それで?」

「''ここに、その二十人の名を記す。『ノヴァ・ロード』、『サーティス・エッジボルグ』、『バージィ・トレイト』、『ズィバルダ・ナイトレイジ』''……ズィバルダさんも居たんだ……それに、エッジボルグって、確か『十人議員』の筈よ」

「……やっぱり、『貴族院』が関わってたんだね」

「みたいね……続き読むわよ。''『ジョニー・ベイルズ』、『バゾル・ドゥ』''……!」



突然、ミーシェが読むのをやめた。

その目は、驚きによって見開かれていた。



「な、何?何が書いてあったの?」



ティナは困惑する。

ミーシェは、深呼吸をすると、その資料に書いてあった名を述べる。



「''『フォルス・ヘイジ』''」


「……え?それって確か……」



ティナは必死に記憶を辿る。

どこかで聞き覚えのある、その名前の記憶を。

そして、ようやくその答えに辿りついた。



「……ズィバルダって爺ちゃんが言ってた……それにヘイジって……」

「……ええ」



ミーシェは、汗を流しながら、その答えを口にする。



「おそらく、彼の……ハルト・ヘイジの祖父よ」


という事で、バラドーさんに活躍してもらいました。

『火』の上位魔法にあたる、『炎』が登場しましたが、この辺の説明もその内説明していきたいです。


あと、お気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、2章のタイトルを「勇者再臨」から「勇者の遺産」に変更させて頂きました。

やはりこっちの方が2章に合ってるかなーと思った次第です。

まことに申し訳ありませんorz


次回、いよいよブロンドウェイが動き出す予定です。

果たして彼女の取った策とは……ラズマに、最大の危機が……?

といった感じにしようと思ってます。


評価・感想・指摘等頂けたら幸いです。

質問も頂ければお答えします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ