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拳と魔法と勇者と世界  作者: マークIII
2章 勇者の遺産
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第17話 暗殺者ソロンの悦び

サブタイトルに詰まってきました。

ホール内は、静寂に包まれる。

やがてソロンが動き出し、ラズマを突きで狙う。


が、初撃と同様にその剣は右上に逸れた。


ラズマも、またもやソロンの動きを捉えられず、一歩も動けていない。

しかし、それは隙だらけのソロンを攻撃するには格好のチャンスだった。

そして、ラズマは女と言えども、この好機を逃すほど馬鹿でもお人好しでもない。

ラズマは小槌を握り直すと、ソロンの腹にそれを叩き込む。

だが、ソロンは呻き声一つ上げず、それどころか、その場を動きすらしなかった。



「……どんな腹筋してやがる」

「ふむ。この筋力では、私の目にも止まらない速度で攻撃をかわしている、という事は無さそうだな……となると、やはり魔法か」

「だったらなんだよ」

「……私は職業上、常人よりは魔法に詳しいつもりだ。だが、さっきの''現象''が魔法だとすると、私はそれを知らない。それはおかしい。幻系ならば納得も出来るが、それなら私の認識を外し、この場から逃げる事も可能だった筈だ……分からんな。貴殿は何者だ?」

「何者って……どこにでもいる善良な都民且つ、前途多望な学生だよ」

「ふっ、面白い冗談だ」

「……その冗談ってのは、善良な市民ってとこか?それとも前途多望ってとこなのか?」

「どっちともじゃない?」

「お前ちょっと黙ってろや」



ラズマがマリィを睨んでいると、ソロンは剣を構える。



「まあ、貴殿の魔法が何であれ、私はただ斬るだけだ」

「そう言わずにさ、平和的に行こうぜ」

「無理な相談だ」



そう言うと、ソロンは再び走り出す。

さすがに目が速さに慣れてきたラズマは、それを間一髪でかわし、もう一度小槌を腹に叩き込む。

だが、やはりダメージは受けていないようで、ラズマは慌てて距離を取る。



「……このままじゃ消耗戦だな……俺の魔力もいつまで持つか……」

「……どうするの?」

「どうするって……三十六計?」

「えっと……何だっけ?」

「お前は本当にシリアスブレイカーだな」

「ちょっと言ってる意味が分かんない」

「まあ、要するに……逃げるって事だよ!」



ラズマはマリィの手を引き、ホール入り口へと走り出す。

当然、ソロンはラズマ達を追う。



「やっぱ追うよな……けど!」



ラズマは懐に隠しておいた煙幕玉をソロンに投げつける。

それは、一度何らかの衝撃を受けると、たちまち煙が噴き出すつくりになっていた。

だが



(ぬる)い」

「げっ」



ソロンが剣を一振りすると、煙幕玉は真っ二つに切断される。

やがて、ソロンの数メートルほど後方にて、煙幕が噴き出す。

ソロンはじわじわと、ラズマ達との距離を詰めていく。



「……じゃあ、これでどうよ!」



ラズマは、もう一度ソロンに煙幕玉を投げる。

「無駄だ」と呟き、剣を振るソロン。


しかし、煙幕玉はラズマの''魔法''により、ソロンの数歩手前で剣の上方へ消えると、そのまま彼女に当たる。


瞬間、一気に煙が噴き出した。



「ッ……!小癪な!」



ソロンは剣を振り回し、煙幕を払う。

が、煙が晴れた時、既にラズマ達の姿は無かった。



「逃げられちゃいましたね」



まるで''何時間も前からからそこに居たかのように''厚いコートを着た女が呟く。



「……バンデか。目標は講堂から?」

「ええ。脱出したようです。私も『幻』で阻止しようとしたんですが……効かなかったんですよね、何故か」

「……ここに追い込む際、目標に『幻」は効いていたんだったな?」

「ええ。つまり、考えられるとしたら」

「あの男の魔法、か」



ソロンは剣を腰の鞘に収めると、壁にもたれかかり腕を組む。



「ぺレトゥは?」

「気絶してるだけでした。油断したんでしょうね」

「まったく。敵を見くびるからだ……私も人に言えた口じゃないが」

「手、抜いたんですか?」

「……いや、少なくとも全力で殺しに行ったつもりだ……だが」



ソロンは顎に手を当て



「底が見えない、とい言うのだろうか?少なくとも、ああいった輩を相手にしたのは初めてだ」

「……楽しそうですね、ソロンさん」

「楽しい?……そうか、楽しいのか。忘れていたよ」

「……それで、どうするんですか?」

「そうだな。とりあえず、あの男の素性を調べてくれ。確か、学校の方はまだ夏季長期休暇というやつらしい。学校に来ている者とくれば、大分絞り込める筈だ」

「了解です。それからは?」

「決まってるだろう」



ソロンは、ホールへ向かい歩き出す。



「付近一帯に『部隊』を手配しろ。最低でも、二日後までに目標を捕縛する」






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






ラズマが謎の集団と交戦した翌日。


そんな事を知る筈もないミーシェとティナは、王都の中心街を回っていた。

昨日から、『勇者の遺産』について『超光(オーバーレイ)』の面々と共に調べ回っているのだが、一向に手がかりが見付からない。



「……さっぱりだね」

「そうね。まあ、『十人議員』でも見つけられないものなんだし、そう簡単にはいかないわよ」

「……ケイトなら何か知ってるかもしれないんだけど」



王都に戻った数日後、ミーシェはケイトに話を伝える為、ピリンクとパラソスを学術都市シアンテへと遣わせた。

だが、ケイトの姿は家に無く、地下の研究所ももぬけの殻だった。



「まあ、ケイトの事だし、いつかフラっと戻って来るんだろうけどさ……タイミング悪いね、ホント」

「そうね……せめて、『勇者の遺産』がどんな物か分かればいいんだけど……」

「さっぱりだよ……大体、勇者って誰の事?」

「勇者ね……有名な伝承で言えば、『英霊ギルガメッシュ』、『英雄王アーサー』とかが有名ね」

「英霊?」

「死亡した人の魂に敬意を込めて呼ぶ言葉よ。一説によると、ギルガメッシュは死後、ジグライオスに迫る軍勢を、たった一人で薙ぎ倒したそうよ」

「え?でも死んだんじゃ……」

「そこがギルガメッシュが英霊と呼ばれる所以よ。彼は魂のみで戦場に現れ、一晩中暴れまわったそうよ……ま、あくまで伝承だけど」

「へー……『英雄王アーサー』っていうのは?」

「えっと……確か、隣国ザビリスの伝承で、伝説の剣を手に、竜を斬ったとか、巨人を倒したとか……」

「……随分と胡散臭いね」

「伝承なんてそんなもんよ。それでアーサーは、ザビリスの英雄王として名を残したの」

「王様に?」

「巨人退治云々はともかく、王だったのは確かよ。それも、戦場では相当優秀な指揮官だったらしいわ」

「……でも、二つの伝承も''勇者''って名はついてないんだね」

「そうね……あっ!」

「な、何?」


「……あまり知られてないけど、十年前の『人魔戦争』で……''勇者''と呼ばれた男が居たらしいわ」


「そ、そんな大事な事を何で!……あまりしられてない?」

「……ええ。軍上層部が、情報が漏れないよう緘口令(かんこうれい)が発せられたそうよ……今思えば、『貴族院』の命令だったのかもね」

「それはまた、きな臭いね……でも、どうして?」

「さあ……この事は口外禁止と言われるほどだから、私も詳しくは知らないわ。でも、もし緘口令を発したのが『貴族院』だとしたら……その話が『勇者の遺産』に関わってる可能性は十分にあるわ」

「なるほどね……それで、その''勇者''って?」


「……その男の名は、ノヴァ。『人魔戦争』において、魔王を討ち取ったとされる者よ」






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






その頃、王都北東部のとある小さな民家。

玄関には''エイジス''と書かれた立札が掛けてある。

昨晩、ラズマとマリィはここで一晩を過ごした。

とは言っても、手を出す勇気など米粒分もないミスターチキンことラズマは、床で眠る事になったのだが。

一人、ベッドで寝るのが心苦しかったのか、マリィは「一緒に寝る?」などと言い出したが、ラズマは赤くなった顔をを見られないようにするので精一杯だった。



「……で、本当に奴らには心当たりが無いんだな?」

「うん。見覚えも、ない」

「手掛かりは無し、か。奴らはまた襲ってくるだろうし……ここが割れるのも時間の問題だな」

「どうするの?」

「そうだな……奴ら、何か言ってなかったか?」

「言ってた」

「やっぱりか……ん?」

「え?」



二人は不思議そうに声を掛け合う。



「……ちょっと待て。もう一度聞くぞ?」

「うん?」

「奴ら、何か言ってなかったか?」

「言ってた」

「……何で言わないんだよ」

「聞かれなかったから……痛い痛い、ぐりぐり、痛い、冗談、冗談だってば。今思い出したの、今」



ラズマはマリィの頭から手を離し、マリィは涙目で頭を押さえる。



「……ったく。お前はいつもいつも」

「ごめんなサイダー」

「もっかいいっとくか?」



ラズマは再び両手拳を握り締める。

慌てたように、首を横に振るマリィ。

ラズマはもう一度「ったく」と呟くと



「……んで、何て言ってたんだ?」

「よく、分からない。聞き取れたのは一言だけだったし」

「そうか……まあ、参考になるかもしれないし、とりあえず何て言ってたか聞かせてくれ」

「分かった。えっと……」



マリィは頭に手を当て、昨日の事を思い出す。

やがて、手をポンと叩き



「うん、思い出せない」

「…………」

「ゴメン、悪かったからその手をしまって」

「……で、何て言ってたんだ?」


「『勇者の遺産』」


「ん?」

「あの人達、私の事を一度だけ、''『勇者の遺産』の鍵''って呼んでた」

「鍵?『勇者の遺産』?……分からねぇな。お前は?聞いた事とか」



マリィは首を振る。



「知らない。身に覚えがないわ」

「そうか……んー、謎が深まっただけだな」



ラズマは腕を組み、「んー」と唸り続ける。

マリィもそれを真似て腕を組む。


すると、家の外からドォン!と、爆発音のような音が鳴り響く。


ラズマとマリィは顔を合わせ、急いで外へと向かう。


外に出たラズマは、破壊されている民家と、その近くに見える人影の姿を見て、ギリッと歯を食い縛る。



「もう来やがったか……!」



その人影は、昨日ラズマを襲撃した黒装束と同じものを纏っていた。

黒装束は、ラズマの姿を確認すると



「……ラズマ・エイジスか?」



それは、低い女の声だった。



「……名前も割れちまったらしいな。ああ、そうだ」

「では、そこにいる女が目標で間違いないようだな」



そう言うと、黒装束の女は右手をラズマに向けると、その手から炎弾が放たれる。

「炎系の魔術師か」と、ラズマは冷静に分析する。

炎弾は、ラズマの''魔法''により、直撃する数メートルほど手前で、上方へと軌道が逸れた。

女は右手を下ろす。

黒装束でその顔は見えないが、どうやら笑っているようだった。



「どうやら、ソロン隊長の言う通りだな。そんな魔法、見た事も無い」

「……だったら、もう分かるだろう?これ以上やってもお前の負けは明らかだ。さっさとここから出て行きやがれ」

「残念ながら、私の任務は目標と貴様を捕縛する事でな。受けた任務は最後までやるタイプだ」



そう言うと、女は詠唱を始める。

ラズマは「げっ」と小さな悲鳴を漏らすと、マリィの腕を引き、女と反対の方へと走り出す。

女は「無駄だ」と言うと、炎弾をラズマに放つ。

ラズマは自身の''魔法''で炎弾を上に逸らす。


が、ラズマは女の魔法が『追尾炎弾』である事に気付けなかった。


炎弾は上空で旋回すると、もう一度ラズマに向かっていく。

ラズマは驚いたように目を見開くと



「なっ!……追尾型か!」



ラズマはもう一度''魔法''で軌道を逸らすが、炎弾は消える事無く、ラズマを狙い続ける。

このままでは埒が明かない。

そう考えていると、ラズマは足元の小石に躓いてしまう。



「しまっ……!」

「ラズマ!」



咄嗟の出来事に、ラズマの''魔法''は解け、無防備となってしまう。

マリィはラズマの上に覆いかぶさった。

そして、二人を炎弾が狙う。

その時だった。


突然、巨大な人影が二人の前に立ち塞がった。



「!?」



ラズマは突然の出来事に困惑する。

するとその人影は、目線だけラズマに送り



「安心しろ、味方だ」



そう言うと、その人影は腕を炎弾に向ける。

「危ない!」とラズマは叫ぶが、人影は何も言わず


すると、炎弾は音も無く、その腕に''吸い込まれた''。


他にも言い様はあるだろうが、その光景はまさに''吸い込まれた''という言葉が相応しかった。

黒装束の女は驚いたように目を見開く。

それは、人影の腕によって炎弾が消し去られたからでは無く、その男の顔を見たからだった。



「……何故、お前が……!」



女は体を震わせる。



「……ちょっと人探しをしてたんだが、思わぬ現場を目撃した、っていう話だ」



ラズマは立ち上がると、その人影の姿をまじまじと見つめる。

言うまでも無く男で、巨大な体躯に、その背には巨大な槌が担がれていた。

女は歯を食い縛ると、その男の名を口にする。



「……『魔術師潰し(ウィザードブレイカー)』のバラドー……!」



バラドーと呼ばれたその男は、口の端を吊り上げると、顎を撫でる。



「……お前さん、ブロンドウェイの駒だな?確か……名前はチェイズ、だったか?」

「…………」

「無言って事は、どうやら当たりみてぇだな。そんじゃ」



バラドーは背から大槌を取り出す。



「教えてもらうぜ。ブロンドウェイの情報、知ってる限りな」



バラドーは槌を構える。

その姿を、ラズマはただ見ているしかなかった。



ということで、ラズマ対ソロン、『勇者の遺産』に触れていきました。

ようやくバラドーさんの登場……トリシアさんはもう少しお待ちをw

次回、ブロンドウェイの新たな刺客が……そして、ミーシェ達は勇者ノヴァについて調べるが……という感じになると思います。


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