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拳と魔法と勇者と世界  作者: マークIII
1章 王都への旅路
20/30

番外編4 首領アンジェリカの伝説

番外編第4作です。

アンジェリカさんの活躍をお楽しみ頂ければ幸いです。

ここは魔法大国ジグライオスの東端にある辺境の村、カーロス。

そこに小さく佇む『ベイルズ鍛冶』と書かれた民家。


そんな鍛冶屋の扉を叩く、一人の女の姿があった。



「失礼する」



女は長い赤髪を棚引かせた美女で、どう考えてもこの場には不似合いな女だった。



「へい、いらっ……しゃ、い」



修行中だった鍛冶屋の息子は、女の姿に驚き目を白黒させていた。

すると、店の奥にいた鍛冶屋の店主らしき男がやって来る。

店主の年齢は六十過ぎくらいだろうか。



「おいフランク!お客さんが来た時は大声で迎えろっていつも言って……ん?」



店主は女の姿に気付くと、その顔を食い入るように見つめる。

やがて、短く嘆息すると



「……おいフランク、お前ちょっと外行ってろ」

「え?でも祖父ちゃん、親父が旅に出たから忙しいって」

「いいから行ってろ。このお客さんは特別なんだよ」

「わ、分かった」



フランクと呼ばれたその少年は、鍛冶場を片付けると、外へと出て行った。

店主は近くの椅子に座ると、持っていたキセルをふかす。



「悪いね、話を聞かない馬鹿孫で」

「いえ……ご子息、旅に出てらっしゃるんですか?」

「ああ。六日前からな。ったく、俺は引退したっつってんのに……」



店主は悪態をつくと、女に向き直り



「……で?お客さん、何の用だい?」

「高名なジョニー・ベイルズ氏に、私の剣を打って頂きたい」


「……じゃあ、やっぱあんた、ナイトレイジの人間か」


「……ええ。アンジェリカ・ナイトレイジと言います。どうしてお分かりに?」

「その目、昔のズィバルダの奴にそっくりだよ。髪の色が違うんで最初見た時は目を疑ったがな」

「この髪は染めていまして……祖父とは面識が?」

「ああ。俺はあいつの剣を打った事があってな。懐かしい話だよ」

「祖父から貴方の話は伺っております。人魔戦争では''名工ジョニー''と呼ばれ、ジグライオスに名を轟かせる剣士の多くが、貴方の打った剣を使っていると」

「人魔戦争、か。酷いもんだったよ、あれは。あの戦争からもうどれくらい経つ?」

「今年で十年です」

「そうか……ラーヴィスの奴が死んで、もうそんなに、か」

「……父をご存知なのですか?」

「ああ。ズィバルダは一人息子のあいつを可愛がっていたよ……それだけに、あいつが死んだ時のズィバルダは……本当に見てられなかった」

「…………」

「ああ、すまない。仕事の話だったな。どんな剣が欲しいんだ?」

「ベイルド氏にお任せします。あと、ご存知かもしれませんが、ナイトレイジの魔法は『鉄』。出来た剣を一日ほど見せて頂ければ、あとはお返ししますので」



それを聞いたジョニーは溜め息をこぼす。



「ズィバルダもラーヴィスも同じような事言いやがったよ。まあ、その度に俺は''絶対に『鉄』で創り出せないような剣''を打ってやったんだ」



それを聞いたアンジェリカは意味が分からないというように首を傾げる。

その様子を見たジョニーは「カカッ」と笑いながらキセルをふかす。



「それじゃあ明日まで待っていてくれ。それまでには出来てるだろうよ」

「分かりました。御代はいかほど?」

「ああ、いらんよ。そんなもん」

「え?」

「ラーヴィスに剣を打ってやったって言っただろ?結局、それを渡す前にあいつが逝っちまってな。代金はもらってったのによ」

「……分かりました。ありがとうございます」

「お礼なら父ちゃんに言ってやんな」

「はい……ところで、一つお伺いしたい事があるのですが……」

「?」


「ハル……へ、ヘイジさんのお宅は……その、どちらにあるんでしょうか?」






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






翌日、アンジェリカは再び『ベイルズ鍛冶』へと向かう。

その顔色は、いつもより数段に優れている。

ちなみに、彼女が昨日宿泊した場所についてだが、それは乙女の事情で伏せさせてもらう。


一つ言えるとすれば、彼女の調子と宿泊した場所は少なからず関係がある、という事だ。


『ベイルズ鍛冶』に入ると、既にキセルをふかしているジョニーの姿があった。



「おう、来たな。もう出来てるぞ」

「ありがとうございます」



ジョニーは傍に置いていた包みをアンジェリカに渡す。

それを開けたアンジェリカは信じられないと言うように目を見開く。



「……これは」

「気に入らなかったか?まあ、それはそうだろうな」



「カカッ」とジョニーは笑う。

その剣は……いや、それは剣とも呼べないだろう。


何故なら、包みの中にあったのは剣の''(つか)''だけだったからだ。



「…………」

「うん?意外だな。てっきり何か言ってくるかと思ったんだが」

「祖父が言っていました。''もしお前がジョニーに剣を作ってもらう事があれば、その剣に対して何も不平不満を言ってはならない。後で恥をかくだけだ''と」

「カカッ。体験談だろうなそりゃあ」

「なので、私は何も言いません。ちなみにこれは鉄を?」

「いや、使っちゃいない。この柄自体はただの柄だ。見た目はな」



鉄を使っていない、つまり『鉄』で生成するのは不可能という事だ。



「ま、そのくらいなら荷物にもならんだろ」

「はい……これの名は?」

「ああ、名前はあんたに任せるよ」

「?どういう……」

「俺は打った剣に名前は付けないんだ。使い手が付けるのが一番って思ってるんでな」

「……分かりました。ありがとうございます。これから大きな仕事があるので、それが片付いたら改めて御礼に参りますので」

「……その仕事ってのは、ケツァルコアトル討伐、か?」

「…………」

「図星みたいだな。まあ、止めはしない。だが」

「?」


「ズィバルダより先に死ぬなんて親不孝……いや、爺不幸はしちゃならんぞ?」


「……では」



アンジェリカは会釈をすると、『ベイルズ鍛冶』を後にする。

一人になったジョニーはキセルをふかし



「……血は争えないな、ズィバルダ」



と、古い友人の名を呼ぶのだった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






アンジェリカはそのままカーロスを後にし、その日の夕方、ストルトに到着する。

超光(オーバーレイ)』の面々には何も言わずに出て行った為、大袈裟に心配されてしまった。

事情を説明し、アンジェリカは



「決戦は明後日だ。選抜部隊の十一人は十分に備えるように!」



こう言うが、アンジェリカはミーシェに告げたように、一人で行くつもりだった。

それが彼女なりのケジメだったのだ。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






次の日の明朝、アンジェリカは仕度を始める。

懐にジョニーから受け取った柄を忍ばせ、一人、宿を抜ける。

生きて帰るのは難しいかもしれない。

それでも、彼女は部下に挨拶する事なく宿を出た。

するとそこには



「お待ちしてましたよ、首領(ボス)



ケツァルコアトル討伐部隊、総勢十一名が揃っていた。

その中から代表として、槍使いのアンマが前に出る。



「貴様達……」

「まあ、こんな事だろうとは思ってたんだけどね」

「首領、水臭いじゃないですか。俺達も連れてって下さいよ」

「そうそう。伝説魔獣(レジェンド)相手に一戦かますなんて滅多に出来ることじゃないですし」

「それに、逝っちまったあいつらにも面目ねぇしな」

「……死ぬかもしれなのだぞ?」


『それがなにか?』



アンジェリカは思わず微笑む。



「私はいい部下を持って幸せだよ」

「我々は困った首領を抱えて大変ですけどね」

「なあ。もっと頼ってもらいたいもんだよ」

「……ふふ、ならば、存分に頼らせてもらおう。だが、着いて来るにあたり、一つ条件がある」



アンジェリカは歩き出す。



「誰一人、死ぬ事は許さんぞ」



こうして、アンジェリカを含めた十二人はコルザ山脈へと向かった。

伝説を、殺す為に。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






数時間後、一行はコルザ山脈の頂に辿りつく。

見たところ、その場にケツァルコアトルの姿は見えない。

しばらく周りを見回してみると、突然、強い風が辺りを吹き抜けた。



「……来たか」



そして、空から巨大な影が落ちてくる。

背には大きな翼を生やし、胴体は蛇のような形態をしており、全長は約三十メートル。

それが風を操る伝説魔獣(レジェンド)、ケツァルコアトルの姿だった。



「……私が前線を請け負う。貴様達は、隙あらば攻撃を頼む」

「そんな一人で!」

「任せた」



そう言うと、アンジェリカは詠唱を始める。

詠唱を終えると、剣は銀色に輝き出す。

秘剣『ナイトレイジ』、アンジェリカは最初から全力で戦いに臨んだ。

ケツァルコアトルとの距離を一気に詰めると、そのまま斬りかかる。


が、その一撃は簡単に弾き飛ばされる。


''斬れ味''に特化した『ナイトレイジ』が、だ。

それはケツァルコアトルの体が『ナイトレイジ』でも斬れないほど硬いわけではない。

ケツァルコアトルの体を覆う『風』の装甲の強度が『ナイトレイジ』の斬れ味を上回るからだ。

レプリカではなく、オリジナルの『ナイトレイジ』ならば、或いは斬る事が出来たかもしれない。

それでも無いものは仕方なく、アンジェリカは態勢を整える。

あれだけの巨体を覆うのだ、魔力の消耗は激しい筈。

アンジェリカはケツァルコアトルの魔力切れを狙っていた。


しかし、その認識は甘かったと思い知る事となる。


ケツァルコアトルの爪が、アンジェリカを襲う。

アンジェリカは『ナイトレイジ』で受け止めるが、やはり爪も斬る事は出来ず、アンジェリカの体はそのまま吹き飛ばされる。

何とか受身を取り、立ち上がる。

ケツァルコアトルは追撃を仕掛けようとするが、選抜部隊の攻撃によりそれは阻まれる。

すると、突然ケツァルコアトルは上を向くと、その口に魔力が集まっていく。



「皆逃げろ!来るぞ!」



そして、ケツァルコアトルの口から巨大な竜巻が放出される。

選抜部隊は突然の事に対応出来ず、動く事が出来ない。

アンジェリカは歯を食いしばると、『鉄』を発動させる。


が、剣はただの鉄塊としてアンジェリカの前に出現する。


それが、瞬時に出来た最も効率のいい防御手段だった。

だが、伝説魔獣の一撃が鉄塊で止められるはずも無く、アンジェリカの体は吹き飛ばされる。

アンジェリカの甲冑は既にボロボロとなっており、彼女のダメージもまた少なくは無い。

後ろを見ると、選抜部隊の面々も無傷ではいられなかったらしく、立ち上がれる者はいなかった。

剣は鉄塊のまま砕け、アンジェリカに攻撃の手は残されていない。

これまでか、とアンジェリカは腹を括る。

その時だった。



「『飛影槍(ひえいそう)』!」



アンマの声と共に槍の突きが魔力となってケツァルコアトルに直撃する。



「アンマ!」

「首領!早く逃げて下さい!時間は稼ぎます!」

「馬鹿を言うな!」

「……首領を守れなかったら、バラドーの奴に合わせる顔がねぇ……早く!」



当然、アンマの攻撃にビクともしないケツァルコアトル。

だが、その矛先は確実にアンマへと向けられる。

アンジェリカは立ち上がる。

そして、懐からあの''柄''を取り出す。



「私の仲間に……手を出すな!」



その瞬間、''柄''が光りだしたかと思うと、柄の鍔から一筋の光が伸びる。


それはただの光では無く、魔力の籠もった、光の刀身だった。

アンジェリカもその剣に驚き目を見開くと、その剣の''特性''をすぐさま理解する。。



「……''ジョニー・ベイルズの仕事にケチをつけるな''か」



アンジェリカはその''柄''に更に魔力を籠める。

すると、刀身は更に伸び、アンジェリカの背丈を大きく上回った。

が、重さはほとんど感じられず、アンジェリカは刀身を見つめる。



「……どうやら、魔力の消耗は激しいようだな。信じられない速さで魔力が減っていくのが分かる」



「ならば」と、アンジェリカは構える。



「一気に決めるしかないようだな」



そう言うと、アンジェリカは一気にケツァルコアトルとの間合いを詰める。

ケツァルコアトルはアンジェリカを爪で狙う。

だが



「ハアッ!」



アンマは『飛影槍』でその爪の軌道をずらした。



「後は頼みます、首領!」

「うおおおおおおおおおおおお」



アンジェリカはそのままケツァルコアトルの下に潜り込むと、その胴体に''柄を振り上げた。


一瞬の間の後、ドパッと大量の鮮血と共に、ケツァルコアトルの胴体は真っ二つに分断される。


ケツァルコアトルは二、三度ほど体を痙攣させると、やがて動かなくなった。

その様子を、倒れながらも見ていた選抜部隊は、やがて糸を切ったように歓声を上げる。

アンジェリカは静かに微笑むと、光が消えた''柄''を見つめる。



「……そう言えば、名前を付けるようベイルズ氏に言われていたな」



アンジェリカはそう呟くと、さっきまでボロボロだったにも関わらず騒ぐ仲間達を見た。

そして、その光景を見たアンジェリカは、その''柄''の名前を決めた。



「光剣『オーバーレイ』……それがお前の名だ」



アンジェリカは珍しく年頃の女の子のようにニッと笑うと、一同に撤収を呼びかけた。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






こうして、アンジェリカは伝説魔獣、ケツァルコアトルの討伐に成功した。

これをきっかけに、彼女は後に『伝説剣士(ソードオブレジェンド)』と呼ばれる事になるのだが、それはまた別の話だ。



という事で、アンジェリカさん一行対ケツァルコアトルの対決でした。

前半では久々の登場フランク君w

その祖父は実はズィバルダさんの旧友だと。

最近、人魔戦争というワードを多く出していますが、いつかその辺について外伝とか書けたらいいなー、と思います。


さて、今回、何とかケツァルコアトル相手に勝利を収めたアンジェリカさんですが、あれは『オーバーレイ』がたまたま相性がよかったというだけで、実際、伝説魔獣というのはめっさ強いんです。

何とか勝利したアンジェリカですが、この後王都に戻った彼女はハルトが行方不明になったと知る事に……。

あと、『オーバーレイ』の特性についてですが、それはいずれ本編の方で語っていこうと思います。

ちょっと今回グロかったかなーと思うんですが、「残酷描写あり」にした方がいいんでしょうか?

どの辺からが残酷描写なのかいまいちよく分からなくて……。


次回は、2章を開始するかもう1本番外編をやるかで、まだ悩んでる次第であります。

どうしたものか……。

同時進行しながら決めようと思ってるんですが、中々決まらないところです。


ちなみに、番外編になる場合は「その頃のカーロス」にする予定です。

ハルトの行方不明の報せを受けたフランク、ヨウコ、アンナは……。


2章の場合は、ハルト達が行方不明となった二週間後の王都を舞台にしようと思います。

あと、ようやくずっと出したかった新キャラを登場させられます。

2章『勇者再臨』、1章以上に頑張りたいです。



評価・感想・指摘等頂ければ嬉しいです。

あと、質問も頂ければお答えします。


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