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拳と魔法と勇者と世界  作者: マークIII
1章 王都への旅路
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第1話 少年ハルトの旅立ち

投稿するのが思ったより遅くなってしまいました。


ハルト達がカーロスを出発して3時間。

辺りは暗闇に包まれていた。

ミーシェの部下の炎魔法により松明を作り、なんとか光を確保しつつ進むことができた。

その炎を見て、ハルトはなんとなく抱いてた疑問を口にする。



「そういえば、マテリアさんは何の魔法使うの?僕の家の床に穴を、僕の家の床に穴を空けてくれたあの素晴らしい魔法」

「だから謝ったじゃ……コホン、私の魔法は『衝』の魔法です」

「……その歳で、飛ばせるほどの『衝』が使えるの?」

「え?最初から飛ばせましたけど…?」



この言葉を聞いて、ハルトは何故彼女が『守六光』に選出されたのか分かった気がした。

話題を変えるためにハルトはミーシェの部下2人に同じ質問をしてみた。

最初に答えたのは小太りの兵士、ピリンクだった。



「自分は『土』の魔法を扱います。防御の方はお任せください」



ピリンクはおどけたように笑ってみせた。

続いて長身の兵士、パラソスが答える。



「私は見ての通り『火』です。まあ、大したことはできませんが」

「よく言うぜ。こいつ、俺達一般兵の中では1,2を争うくらい強いんですよ」

「お、おい、話盛りすぎだろ!」

「ふふ、安心して前衛を任せられるわね」

「ちょ、隊長まで、勘弁してくださいよ」



そんな3人のやり取りを見て、ハルトは思わず笑ってしまう。

とても王都最強の『守六光』が率いる部隊とは思えなかったからだ。



「魔法…か。僕も小さい頃は魔術師になれると信じて疑わなかったな」



そう、魔法というのは努力で使えるモノではない。


魔法とは、いわゆる才能のようなものだ。

魔術師のほとんどが先天性のもので、親が魔術師であればその子も魔術師である場合が多い。

そして、力の程度も魔術師それぞれだ。

だが、天は二物を与えないとはよく言ったもので、生まれ持つ魔法は、基本的に1人1種類である。

極稀に、2つの魔法を持ち生まれる魔術師もいる。

しかし、その魔術師はどちらの魔法も通常の魔術師の半分かそれ以下程度にしか育たない。


それがこの世界の『魔法』だった。


魔術師の人口はこの世界の約200万分の1と言われている。

その点、ジグライオスの魔術師の人口は4割を超えている。

この国が魔法大国と呼ばれる由縁だ。



「でも確か、ヘイジ殿は代々対魔術の格闘家の家系と聞きましたが?」

「あ、やっぱ調べてた?…まあ、一応僕も小さい頃からそういうのは叩き込まれたんだけどさ」

「対魔術師用の格闘術、ですか…一度手合わせ願いたいものですね」

「いや、マテリアさんとじゃ命の危険があるから、主に僕が」

「そういえば、ヘイジ殿のご両親は?姿が見当たりませんでしたが」

「3ヶ月前に隣国のザビリスに居るって手紙が来たっきりだね。元気そうだったよ」

(子供を置いて、か……辛くないのかしら?)



ミーシェはそう思ったが、ハルトの様子を見る限り苦はないようだ。


そこからしばらく歩き、ようやく町の灯りが見えた。

ストルトの町、ハルトもフランクらと共に何度か来たことがある。

ここも田舎には変わりないのだが、カロースより店も多く、遊べる場所も多い。

だが、カロースから少々遠すぎるため、頻繁に訪れるほどでもなかった。



「夜が早かったせいで予定よりも到着が遅れたわね。今日はここに泊まりましょうか。ピリンク、宿を取ってきてくれる?」

「了解しました。では、先に行ってますね」



そう言うと、ピリンクはストルトに向かって走り出す。

彼の姿はやがて町の灯りへと消えていった。



「パラソスもありがとう。また貴方の魔法に助けられたわ」

「勿体ないお言葉、ありがたく頂戴します」

「えっと、明日は1つ先の町の行商人に頼んで、馬車を仲介してもらうんだよね?」

「はい。そこから約2日ほどで鉄道の通る街、クライオに到着する予定です。そこからは鉄道で王都まで一直線です」

「へぇ、案外楽に行けそうだね」

「楽観はできません。魔物に遭遇する危険もありますし、馬車での道中で盗賊に襲われる場合もありますから」

「パラソス!護衛対象を不安にさせるような発言は控えなさい」



「失礼しました」とパラソスが頭を下げる。

どうやら、2人のこのやり取りはよくあるものらしい。



「まあ、戦闘になったら隊長が一掃してくれますから、盗賊集団だろうと魔物の群れだろうと」

「私をアテにしてどうすんのよ」



それでも「無理」とは言わないのは『守六光』故の自信だろうか。

まあ、戦闘に関しては特に不満はない。

いざという時は自分も出ればいいだけの話だ。

そんな事を考えているうちに町へ到着し、一行は宿へと直行した。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






夜、既に町の住民も眠りに就いた頃。

ミーシェは目を覚ました。

再び寝ようと目を瞑るが、1度起きてしまうとどうしても目が冴えてしまう。

仕方なく起き上がり、夜風を浴びようと宿を出る。

すると、宿の前に先着の人影があった。


片手で倒立をしていた(上半身裸の)ハルトだった。


ハルトもミーシェに気付き、2人の目が合う。

先に口を開いたのは意外にもミーシェ。



「…へ」

「へ?」

「この変態!」

「ええ!?いや、僕はただ鍛錬してただけで」

「言い訳しないで!さあ、そこに直れ!」

「え、ちょ、マ、マテリアさん!?今、夜中だからそんなの撃ったら大事に…」

「キャ、いや、近寄らないで!!」

「マテリアさーん!?」



今にも『衝』を連発しそうなミーシェを何とか説得し、落ち着かせるハルト。

我に返ったミーシェは、先程の振る舞いを恥じ、顔が赤く染まっていた。



「…すいませんでした、ヘイジさん。気が動転していました」

「い、いや、いいよ…それとさ、言おうと思ってたんだけど、別にタメ口でいいんだよ?」

「いえ、公私混同は避けていますので」

「うーん…あ、こう言えばいいのか」

「?」

「さっきのこと、タメ口利いてくれないと2人にばらしちゃうよ?」

「!?そ、それだけは勘弁!…してください。部下にそのような事知られたら…」

「知られたら?」

「…からかわれちゃう…」



その言葉に吹き出すハルト。


なんだ、普通の女の子じゃないか。


それはそうだ。

『守六光』と言っても元は自分達と何も変わらない人間なのだ。

それが自分と歳の変わらない女の子なら尚更だ。



「じゃあさ、2人の時だけでもいいからタメ口で…ダメかな?」

「…分かりました。それが貴方の…いえ、キミの望みなら」



ミーシェとしては正直気恥ずかしかったのだが、ハルトとは、この少年とは任務の関係だけでは終わりたくない、そう思ったのだ。

だが、仮にミーシェと同じくらいの騎士がいたとしたならば、この要求には答えないだろう。


「任務に私情を挟んではならない」


軍人として最も重要な心構えの1つだ。

しかし、ミーシェに友人と呼べる人物は極めて少なかった。

それは僅か15歳という若さで『守六光』に選出されたが故だ。

彼女を妬んだ、或いは畏怖した同年代の者達は彼女から距離を取った。

それは、それまで普通に友人と接してきた者も例外ではない。


そんなミーシェにとって、自分を『守六光』と知りながらも自分に近づいてくれたハルトの存在が、とても輝いて見えたのだ。

「そうこなくちゃね」とハルトは手を伸ばす。

一瞬躊躇いながらも、ミーシェはその手をしっかりと握った。



「よろしく、マテリアさん」

「…ミーシェでいいわよ、歳も近いんだし。アタシもハ、ハルト…君って呼ぶから。も、もちろん2人の時だけだけど」

「はは、分かったよ。よろしく、ミーシェ」

「ええ。よろしく、ハルト君」



まだ鍛錬を続けるというハルトを残し、「無理はしないようにね」と声をかけ、ミーシェは宿へと戻っていった。

1人となり、ハルトは再び上着を脱いだ。



「…あんな簡単に人を信じちゃって大丈夫かな?」



ハルトは思わず声を漏らす。


実はハルトがミーシェに近づいた理由は、ある事を聞き出すためだ。


彼が王都へ旅立つ直接の原因となった事。

だが、おそらく彼女は何も知らないだろう。

もし知っているのならば、部下2人で来るなど軽率な行動は出来ないはずだ。

ならば何故彼はミーシェと親しくなろうと思ったのか。



「……まあ、可愛い女の子と仲良くなるのに理由はいらない、ってのが男の性……なんてね」



早い話、下心が含まれた試みだったのだ。

しかし、予想以上にミーシェが友好的な態度を示してきたので、正直罪悪感で胸が一杯だった。

まあ自業自得ではあるのだが。

自責の念が激しく責め立てるが、心を無にして鍛錬に臨む。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






翌朝、部屋を出たハルトはちょうどミーシェと鉢合わせたが、彼女は何事もなかったかのように



「おはようございます、ヘイジさん。順調に行けば今日の昼までには次の目的地であるキャリオスに行けると思いますので、それまでどうかご辛抱を」

「え?あ、ああ、うん。別に大丈夫だよ」

「そうですか。では、私はこれで」



そう言ってミーシェは自室へ戻っていった。

出発の準備をするのだろう。

だが、ハルトがそれ以上に気になったのは



「…昨日と同じ女の子には思えないな」



どうやら公私混同しないというのは本当だったらしい。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






宿で朝食を終え、ストルトを出発する一行。

進路を北西に取り、キャリオスへと向かう。



「そういえば、キャリオスってどんなとこなの?」

「商業の盛んな街ですよ。問屋を介してないので、色々と物が安く買えます」

「へー、楽しみだな…って、遊びに行くわけじゃないんだけどさ」

「ははは、まあ、馬車を用意するのにも時間がかかりますし、その間ヘイジ殿は好きにしてもらって構いませんよ」

「あ、ホントに?…でも、2人が働いてるのに僕だけ遊んでるってのもなぁ…」

「我々のことはお気遣いなく。雑務は一般兵の仕事ですから」



そんな他愛もない話を続けている中、ミーシェは考えた。

その考えが、軍人として間違っていることはもちろん分かっている。

だが、彼女にとってこんなに任務が楽しいと思ったのは初めてなのだ。

「もっと旅が続けばいい」

ミーシェはそう思った。


しかし、彼女のその願いは最悪の形で叶うこととなる。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






ストルトを出発して3時間ほどが経過した。

途中で休憩を挟みつつ、ハルト達は順調にキャリオスへと歩を進める。



「…お、見えてきた見えてきた」



ピリンクの言う通り、民家や露店らしきものが立ち並ぶ街が見えてきた。

だが、更に街に近づいたところで



「ヘイジ殿、ここまで来ればあと10分程度で……ん?」



そこまで言いかけたところで、ピリンクは目前に見えるキャリオスから違和感を感じた。

やがて、全員がその違和感の正体に気付き始める。

口火を切ったのはパラソスだった。



「……少し、静か過ぎじゃないですか?」



そう、ピリンクの話によればこの街は商業が盛んらしい。

それなのにこの静かさは普通ではない。

ここまで近づいたというのに人っ子1人見当たらない。

ミーシェ達3人は、共通の嫌な予感を感じ取った。

まるで、戦場を前にするかのような…今のキャリオスにはそんな雰囲気が漂っていた。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






一行は街の入り口までやって来たが、相変わらず人の姿は見当たらない。



「……全員でどこかに出かけてる…わけないよね」

「うーん、別の場所で祭でもやってるんでしょうか?」

「だとしたら、ここで露店が出てるのはおかしいだろ」



ミーシェは住民は居ないのかと、近くの民家を訪ねた。

すると



「(…開いてる?)」



鍵はかかってなく、ミーシェは慎重に扉を開けた。

中はいかにも普通の民家という感じだったが、やはり住民の姿は見当たらなかった。


だが、そのあまりの普通さに疑問を抱いたミーシェは家の中へと入る。


家の中には、僅かではあるがミントの香りが漂っていた。

何かないかと家の中を調べる。

すると



「!!」



ソレを見たミーシェは直感的にソレが何を意味するかを悟った。

ミーシェは慌てて民家を飛び出すと



「パラソス、少し街の様子を見てくるからついてきて」

「隊長、自分はどうすれば?」

「ピリンクはヘイジさんの護衛をお願い。そこを動いちゃダメよ」



ミーシェはパラソスと共に近くの民家を10軒ほど回った。

彼女の予想通り、ほとんどの民家の家の鍵は開いていた。

どの民家にも人が居ないにも関わらずだ。

そして、ミーシェが最初の民家で見つけたソレも、2軒ほど発見できた。



「…パラソス、これを見て」

「これは……血痕、ですか?」



ソレは、正直血痕と呼べるかどうかも怪しい、雫が落ちたかのような血の跡だった。



「…これが何か?」

「周りにも同じような血痕がいくつかあるでしょう」

「…お言葉ですが、これくらいの出血なら普通にあるのでは?」

「じゃあ、この血痕をよく見て、何か変じゃない?」

「…?」


「分からない?まるで何かで拭き取ったようじゃない」


「…それが?」

「これと同じような血痕があった民家が合計で3軒。それも、全てこの血痕と同じように拭き取られたような跡があったわ」

「!…まさか」

「…あくまでまだ仮説だけどね」

「…ええ、それを証明するには、聊か証拠が足りません」

「…ねえ、この部屋ミントの匂いがしない?」

「そう言われれば…僅かですが匂いますね…それが何か?」



別に、ミントの香りを家に漂わせる民家は珍しくない。

臭い消しとしてやっている事だろう。

だが



「これまでの10軒、そして私が最初に調べた1軒……全ての民家で、これと同じ比較的匂いが薄いミントが使われていたわ…いくらなんでも変でしょう?この辺一帯の民家が全てミントを、それも同じものを使っているなんて」


「……つまり、隊長は何が仰いたいのですか?」



薄々パラソスも気付いていた。

あまりにも突拍子な話だ、信じられないのも無理はない。

ミーシェは、重々しい口を開き、その仮説を語った。



「……つまり、この街を何者かが襲撃し、その痕跡を消した……そして街の人々が…生存している可能性は極めて低い……そういう事よ」



「あくまで仮説だけどね」とミーシェは付け足す。

だが、パラソスの体からは決して暑さのせいではない汗が止め処なく流れ続けた。


後半でようやく物語を動かす事ができました。

評価等つけてもらえれば幸いです。

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