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拳と魔法と勇者と世界  作者: マークIII
1章 王都への旅路
18/30

第14話 少女ミーシェの想い

今回も恋愛要素(?)が少し高めです。

ケイトとシヴァの戦いに決着が着いた頃、一行はシアンテの港に訪れていた。

ケイトの言う通り、何故か昨晩の間に修復が済まされており、一、二時間もすれば出港出来るらしい。

とりあえず船に乗り込み、それぞれ自由行動となった。

すると、ディライズがハルトに「話がある」と、甲板に連れ出す。



「どうしたのディライズ」

「……お前、気付いていただろ?」

「……何が?」

「とぼけるな。ケイトの地下室にいた奴の事だ」

「……何で分かったの?」



どうやら、この二人はシヴァの存在に気付いていたようだ。



「一度戦ったんだ。お前が殺気を放っていれば分かるさ」

「じゃあ、ディライズも気付いてたの?」

「ああ。と言っても、別れ際にケイトが敵襲のサインを出してようやくだが」

「……何で助けなかったの?」



ハルトのその言葉には、ディライズを責める語気はなく、ただ真意が知りたい、そんな言い方だった。



「『助けは不要』ってサインも出しやがったからな。それに、どうやらあいつは自力で何とかしたらしい」



そう言うと、ディライズは手帳を取り出す。

その手帳には、おそらく他の仲間である『魔人』の名が記されていた。

が、よく見ると不自然に行が空いている場所がいくつかあった。



「これはケイトが作った『命簿帳』と言ってな。俺達に何らかの危険が迫ると、名前の文字が薄くなる仕組みになっている」

「……じゃあ、この空いてる行って……」

「……察しがいいな。ああ、死んだ『魔人』達の名が記されていた」



ハルトは押し黙る。

分かってはいたが、やはり『魔人』もそれなりの犠牲は払ってきたらしい。



「……そう黙るな。お前が気に病むような問題じゃない。それよりこれを見ろ。ケイトの名はしっかりと残っている。つまり、あいつは無事な訳だ……では、同じ質問をさせてもらおうか。お前も敵の存在に気付いていたのなら、何故ケイトに加勢しなかった?」



ディライズの問いに、ハルトはしばらく黙り、やがて



「……サイン、かな」

「ん?」

「僕が動こうとしたら、ケイトさんがこっちを見たんだ。そして、唇だけ動かして……多分、『任せて』って言ったんだと思う」

「……はぁ。どうしてあいつは戦えもしないくせに、一人で抱え込むんだろうな」



ディライズは額に手を当てながら溜め息を吐く。

しかし、その表情にはどこか安堵したような、そんな感情が伺えた。

すると、新たに乗船する一人の男の姿があった。

セイレーンとの戦いで協力してくれた行商人、ハビッツだ。

ハビッツは二人に気付くと、笑顔を見せ会釈をする。



「ヘイジさん。どうやら帰りも一緒になりそうですね……そちらの方は?」

「ディライズ・ゼグラードだ」

「俺はハビッツ・セイゼル。行商人をやっています。短い付き合いですが、よろしくお願いします」



そう言うと、ハビッツは周りをキョロキョロと見回す。



「……あの、マテリアさんは?」

「え?えっと、多分もう部屋に戻ってる頃だと思うけど……」

「そ、そうですか。では、俺はこの辺で」



そう言うと、ハビッツは船室の方へと消えて行った。

しばらく押し黙っていたディライズは、やがて口を開く。



「……いいのか?」

「何が?」

「……いや」



そう言葉を濁し、自室へと戻って行く。

ディライズの質問の意図に、ハルトが気付く日は来るのだろうか。

やがて、船は出港時間を迎え、王都近くの港町、バルブへと進路を取る。

航海時間は一日程度、バルブから王都までは小一時間も歩けば辿り付けるだろう。


旅を始めて八日目にして、ついにその終わりが見えてきた。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






その夜、ミーシェは甲板で風を浴びていた。

おそらく明後日、いや、明日には王都に到着するだろう。

そして『貴族院』の用事を済ませれば、ハルトは故郷のカーロスに帰ってしまう。

ミーシェにとって、誰かとの別れがこんなに辛い事は今までなかった。



「……楽しかったな」



ミーシェは思わずそう呟く。

この八日間、色々な事があった。

『魔人』や精霊との戦い。

そこから知ってしまった『貴族院』の闇。

そして、仲間達との出会い。

これらの出来事は、ミーシェの運命を少なからず変える事になった。

おそらく、ハルトが居なければ、ミーシェは今でもピリンクを傷つけた罪悪感に苛まれていただろう。

ハルトには言葉に出来ないほど感謝している。


同時に、自分がハルトに対して、友情とは違う''何か''を抱き始めている事に気付いていた。


それを何と言えばいいのか、ミーシェには分からない。

しばらく色々考えた結果



「よし」



と、ミーシェは立ち上がる。

王都に着いて『貴族院』の用事を済ませたら、ハルトを自分の家に招待しよう。

他にも二人で行きたい場所がたくさんある。

彼は、自分なんかと一緒に行ってくれるだろうか?

ミーシェは夜空に想いを馳せた。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






翌日の夕刻。

特に何の問題も無く、船はバルブに到着した。



「……じゃあ、このまま行きましょうか」

「えー、もう行くの?」

「我が侭を言うなティナ。それに、少し歩けば王都はすぐそこだ」



すると、それを聞いていたらしい老人が



「……あんたら、王都ゼブリオに行くつもりかい?」

「ええ」

「残念だが、この先の道は数日前に降った大雨で土砂崩れが起きて進めないよ」



数日前の大雨……もしかすると、セイレーンの影響なのかもしれない。



「土砂崩れですか……パラソス、回り道するとしたらどのルートが一番近いかしら?」

「そうですね……ここからだと、ルーバス渓谷を抜けるのが一番早いと思われます」

「あの渓谷か……どのくらいかかるの?」

「ここから渓谷を通って、王都に着くまで……半日程度でしょうか」

「それじゃあ、今日はこの町に泊まりましょう。一度行った事があるけど、ルーバス渓谷には結構な頻度で魔物が出るわ。夜の魔物は凶暴性が増すから念を入れないとね。ハビッツさんはどうします?」

「よければご一緒させてください。俺一人で魔物に襲われれば、勝ち目ないですからね」



ハビッツは苦笑する。



「決まりね。じゃあピリンク、宿を……いえ、このまま皆で行きましょうか。時間も時間だしね」

『異議なし』



かくして、一行はこの旅路最後の宿へと向かった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






その夜。

ミーシェは寝付けすにいた。

何となく、初日のストルトでの夜を思い出し、くすくすと笑う。

ミーシェは夜風に当たろうと外に出る。

そこには、案の定ハルトの姿があった。

しかし、鍛錬をしている訳でもなく、ただ夜空を見上げている。

やがてミーシェに気付くと



「やあ。眠れないの?」

「ええ、そんなとこ。ハルト君はどうしたの?」

「いやね……なんとなく、この旅路を思い返してみたんだ」



そう言うと、ハルトはミーシェに向き直る。



「……思えばこの九日間、色んな事があったね。あ、明日を入れればちょうど十日か」

「……後悔してる?」



ミーシェは、ずっと言えずにいた事をハルトに問いかける。

しかし、ハルトはいつも通りに笑ってみせると



「いや、全然」



と答えるのだった。



「むしろ、僕はミーシェ達に感謝してるよ」

「え?」

「確かに、この十日間で色んな事を知ったし、体験した。知らない方がいいような事も多かったと思う。それくらい『貴族院』が強大だって事も解ってる」

「…………」

「でも、それでも、僕は王都に行かなきゃならない……『貴族院』に会わなきゃいけないんだ」

「……どうして、そこまでの覚悟が出来るの?実際、命を落としかけた場面だってあった。それなのに…」



その言葉を聞いたハルトはしばらく考えた後



「……君がカーロスに来たあの日、僕には王都に行く理由が出来た」

「……お金?」

「違うんだ。それは金貨がどうとか言う話じゃ……いや金貨の話って言えば金貨の話なんだけど……」

「?」

「……王都に着いたら、全部話すよ」



ハルトは苦笑しながらそう言うと、宿に向かって歩き出した。

と思うと、ふと何か思い出したように立ち止まり



「……ミーシェ、一つお願いがあるんだけど」

「何?」

「……フランク達には悪いんだけど、僕、王都って初めてでさ……その、街の中とか案内してくれると嬉しいなって……駄目かな?」



ミーシェは思わず吹き出す。

昨日悩んでいた自分が馬鹿らしくなったのだ。

笑いを何とか堪え、不思議そうな顔をしたハルトをまっすぐ見つめると



「もちろん、私でよければ」

「……あ、ありがとう」



ミーシェの笑顔に思わず顔を赤らめるハルト。

恥ずかしかったのか、そそくさと宿に戻っていった。

ミーシェはまだ戻らない。

何となく、夜空を眺めていたかった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






翌朝、新たにハビッツが加わり九人となった一行は、進路を南西に取り、ルーバス渓谷へと向かう。

数時間後、一行は渓谷に辿りつく。

しかし、その渓谷にミーシェは違和感を感じた。


魔物の気配が感じられないのだ。


が、ミーシェは特に気に留めず、一行を連れそのまま渓谷に入る。

昼に一度休憩を取り、再び渓谷を進んで行く。

そこで、ミーシェは違和感がどんどん大きくなっていくのを感じた。

パラソスも同じ事を思ったのか、ミーシェに小声で話しかける。



「……いくらなんでも、ここまで魔物がいないのはおかしいですよね」

「ええ。前に来た時は、少なくとも三回は襲われたわ」

「……『貴族院』の刺客でしょうか?」

「……可能性は十分にあるわね。用心する必要があるわね」



一時間後、パラソスの提示した可能性は的中する事になる。

しかし、その敵の正体は、誰もが予想だにしていないものだった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






空が徐々に赤く染まり、一行はようやく渓谷の出口付近の橋に差し掛かる。

橋は幅十メートル、長さは五十メートルと、結構大掛かりなものだった。



「結構大きいんだね」

「元々、この辺は断崖で通れなかったんですが、数年前に移動手段を増やす為、王都が大枚はたいて造ったそうですよ」

「へー……確かに、ここは通れないね」



ハルトは三十メートル下にある急流の川を見ると、ブルリと体を震わせる。


すると、橋の向こう岸に、二人の人影あるのを見つけた。


ミーシェ達軍人は二人に、それ以外はその内の一人に見覚えがあった。

ディライズは怪訝そうに目を細め、ミーシェは信じられないと言うように目を見開き



「……ザグロ?何故お前がここにいる」

「ズィバルダさん……?どうしてここに……」



二人組の内一人は、シアンテで別れ故郷の村に向かった筈の『魔人』、ザグロ・ぺテイスだった。

もう一人、ミーシェがズィバルダと呼んだのは、六十歳前後の老人だった。

ハルトはその名前に聞き覚えがあった。

そして思い出す。

その名前は、アンジェリカの祖父、体を壊したという、現『守六光』第五席の名の筈だ。

ズィバルダは黙したまま剣を抜くと、そのまま振り抜く。


瞬間、剣の軌道通りの衝撃波がミーシェ達を襲う。


対応が遅れながらも、ピリンクが『土』を作動させ、それを防ぐ。



「ズィバルダさん!何のつもりですか!」

「……すまんな、ミーシェちゃん」



ズィバルダはミーシェ達に向かって走り出す。

ミーシェはやむなく『衝』を使おうとする。


が、その『衝』は発動しない。



「ッ!?」



ミーシェは『衝』を発動出来ない理由が解らず困惑する。

ズィバルダは躊躇無く剣を振り下ろす。

ハルトは両者の間に入り、その剣を籠手で受け止める。

口を開いたのはザグロだった。



「無駄ですよ。この辺一帯には『衝』の封印術式が施されている」

「封印……術式……?」

「ええ。ベリオスで研究さえれている技術ですよ。全ての魔法の封印はさすがに無理ですが……先日、特定の魔法のみを封じる術式が完成したんです」

「……ザグロ。何故お前がそんな事を……」

「……それは貴方達が知る必要のない事です」



そう言うと、ザグロは体の『岩』で硬化させる。



「……ザグロ、お前」

「……無駄話は終わりです……行きます」



こうして、困惑のまま戦いが始まった。

空には虚しく(からす)の鳴声が木霊していた。

ということで、ミーシェの想いと、1章最後の敵について書いて見ました。

おそらく、次回で1章完結です。

長かったようで短かったようで結構長かったこの一ヶ月。

何とか節目を迎えられそうです。

いつも読んでくださる皆様本当にありがとうございます。

これからもお付き合い願えたらと思います。


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