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拳と魔法と勇者と世界  作者: マークIII
1章 王都への旅路
16/30

第13話 研究者ケイトの研究所

今回少しいつもより長くなってしまいました。

セイレーンとの戦いが決着したその日の夕方。

船は学術都市シアンテに到着した。

その街を見たティナは歓声を上げる。



「すっごーい!なにあのでっかい時計!」

「シアンテ名物『夜の時計塔』だろう。俺も見るのは初めてだが、夜になると時計の数字が光り出す仕組みになっているらしい」

「へー!早く見たいね!……ね、ねえ、ディライズ。もしよかったらアタシと二人で」

「ん、そういえばザグロ。お前、確かこの近くの村に用事があるんじゃなかったか?」

「ええ」



話の腰を折られ「むー」と唸るティナ。

ザグロは自分の荷物を持ち直すと



「では、急ぎの用事があるので、僕はここでお別れです」

「大丈夫?何ならピリンクかパラソスを護衛につけさせてもいいけど?」

「いえ、お気遣いなく。平和な町ですからね……実は、僕の故郷なんです」



ザグロは恥ずかしそうにポリポリと頬を掻く。



「……そう。じゃあ、気をつけてね」

「ええ、皆さんも。それではお元気で」



そう言うと、ザグロは街の出口に向かって行った。

やがてザグロの姿が見えなくなり、ミーシェはこれからの予定を皆に伝える。



「とりあえず、船の修復には2日ほどかかるらしいから、今日はゆっくり休みましょう。皆セイレーンとの戦いで疲れているだろうし。と言う事で、この街にいる『魔人』に会いに行くのは明日でいいかしら?」

「ああ、構わん」

「うん……アタシ、あの人苦手だしね」

「決まりね。じゃあピリンク。宿を取ってきてくれる?」

「了解です」



ピリンクが宿を取りに街へと赴く。

ハルトは何となく気になっていた疑問をディライズに尋ねた。



「……そういえば、この街にいる『魔人』ってどんな人?」

「元々はベリオスで『魔人』を研究していた一人だったんだが、色々好き勝手やり過ぎたせいで、処刑代わりに魔物と合成させられたんだ。まあ、研究者の奴らも、まさか合成が成功するとは思ってなかったようだがな」

「へ、へー」



どうやら、相当風変わりな人物らしい。



「それで、やっぱり強いの?」

「いや、戦闘能力は皆無だな。頭脳派の『魔人』と言った所だ」

「……頭はいいんだけどね。その分、ネジがぶっ飛んでるっていうか……」

「ぶっ飛んでるとは失礼だねー。そんな事言っちゃってると色々しちゃうよん?」



突然現れたその女は、場違いな白衣を纏い、口には煙草(たばこ)(くわ)えていた。

女はティナと肩を組み「にひひ」と笑う。

ティナは引きつった笑みを浮かべ



「ケ、ケイト……ひ、久しぶりだね~……ちなみに、色々って?」

「改造と解剖、どっちがお好み?」

「……珍しいな。お前が街に出てくるなんて」

「お、ディライズ。おっひさー」



女は手を振り、ティナはそそくさと女から離れる。



「……えっと、ひょっとしてこの人が?」

「ああ」

「ケイト・ウェイルスだよーん。ケイトでいいよー、ケイトっちでも可ー。それでディライズ。この見るからに面白そうな御一行は?」

「……話せば長くなる。明日、お前の家で色々話したい事がある」

「おーけー。でも、ディライズ。君は今夜家に泊まらない?最近、家に引き篭りっぱなしなもんだからご無沙汰でさー」



その言葉に、ディライズを除く未成年三人組は顔を赤くする。

バラドーに至っては「どういう意味っすか?」とハルトに尋ねてる始末。

しかし、ティナは赤くなりながらも



「だ、ダメだよ!知ってるよ!そういうの、『ふじゅんいせーこーゆー』って言うんでしょ!」

「あはは、ティナちゃん難しい言葉知ってるねー。で、意味は?」

「え?そ、それは……お、お姉ちゃん」



ティナは涙目でミーシェを見る。

どうやら詳しい意味を知らない様だった。

だが、ミーシェとしても答え辛い質問で、顔を赤らめながら俯き何も言おうとしない。

その様子を見たケイトは



「あはは。相変わらずティナちゃんは弄り甲斐があるねー、ドS心が(くすぐ)られるよん」

「……そのぐらいにしてやれ。あと、俺は今日は疲れているんでな。パスだ」

「えー。ディライズのいけずー」



「ぶーぶー」とケイトは頬を膨らます。

すると、街の方からピリンクが戻ってきた。

どうやら宿の準備が出来たらしい。



「ただいま戻り……あれ、そちらの方は?」

「変人だ」

「変人だよ」

「綺麗にハモったね」

「なぬ。変人とは失礼な。私は(れっき)とした変態だよ!」

「自覚してるんだね」

「えっと……こちらはケイト・ウェイルスさん。私達が会いに行く予定だった『魔人』よ」

「それじゃあケイト。俺達は宿に行くから、家の片付けくらいはしておけよ」

「はいはーい。テーブルぐらいは片しておくよん」



そう言うと、ケイトは街の中へと消えて行く。



「……何かこう、強烈な人だったね」

「すぐに慣れる」

「いや、多分アタシは一生慣れる事はないと思うよ」

「……私も、ちょっときついかも」




ケイトの登場に衝撃を受けながらも、一行は宿に向かった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






宿に着いたピリンクは、まず皆に謝罪の言葉を告げる。



「すいません。どうやらこの頃は利用客が増える時期らしく、三部屋しか借りれませんでした」

「……あれ?デジャヴな上に嫌な予感がするんだけど」



どうやらハルトの嫌な予感というのは高確率で当たるらしい。



「じゃあ、部屋割りは、ピリンクとパラソス、私とトリシアさんとティナ、ヘイジさんとバラドーさんとディライズで」

「異議なし!」

「異議あり!」

「……………」



ちなみに、バラドー、ハルト、ディライズの順である。

しかし、やはりディライズさえ何も言わないのに、自分だけ我が侭を言う訳にもいかず、「何でもない」と手を下げる。

この状況もまたデジャヴだった。



「じゃあ、まずは食事ね。時間も丁度いいし、このまま食事でいいかしら?」

『了解』



『魔人』を含め、初めて全員の声が重なった瞬間だった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






翌日、一行は宿屋の前に集合していた。

しかし、女性陣は皆眠たそうに目を擦っていた。



「……どうしたの?」

「……ちょっと色々ありまして」



ミーシェは決して多くを語ろうとしなかった。

やがて、全員がその場に揃い、一行はケイトの家に向かった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






ケイトの家の前に来たハルトの第一声は



「……普通だね」

「……まあ、思っていたよりは」



ケイトの家はハルト達の予想に反し、その辺の民家と大して変わった様子はない。

しかしティナは



「まあ、ケイトって外面はいいしね……本人の人柄がよく出てる家だよ」



と、意味深な言葉を漏らす。

少し気になりながらも、ミーシェは扉を叩く。

しばらくして、息を切らしたケイトが扉を開く。



「はぁ……はぁ……いらっしゃい……」

「……お前、また下に居たのか?」

「またっていうか……ここのところは、毎日、だよん」



ケイトは少し息を整えると



「まあ、とにかく入って入ってー」



昨日と同じ様にどこか裏のありそうな笑みを浮かべ、一行を招き入れる。

家の中も、普通の民家とほとんど変わらない構造だった。


部屋の中央に地下へと続く階段がある事以外は。


いかにも何かありそうな階段に、ハルトの童心は擽られる。



「……何かテンション上がるよね、こういうの」

「分かります」

「分かります」

「俺もですアニキ!」

「……少し癪だが、それには同意だ」



男性陣がそれに全面的に同意する理由が分からず、女性陣はただただ不思議がっていた。



「んじゃ、八名様ごあんなーい」



ケイトが地下への階段を下り始め、一行もその後に続いた。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






地下は予想以上に深く、数分ほど歩きようやく地下室らしき扉の前に辿りつく。



「ふっふっふー。これが私の仕事部屋。聞いて驚け見て笑え!これが天才少女ケイト様の地下研究所なりー!」



ケイトは高らかに叫びながら扉を開く。

「少女は無理あるんじゃ……」とさりげなく呟いたティナの頬を抓りながら。



「すごい……」



それがミーシェの抱いた感想だった。

地下室は予想以上に広く、少なくとも上の三倍以上の広さはあった。

そして研究所の名に相応しく、部屋の中には様々な機器や薬品などが並べられている。



「……よくこんな大掛かりな施設を……」

「まーねん。ここまで掘るのに『魔人』を総動員して半年かかったからねー」

「……ディライズ、一つ聞いていいかしら?」

「何だ?」



ミーシェは顔をしかめ、ディライズに向かう。



「……忘れているなら言っておくけど、私は軍人、それも『守六光』よ?もし私が軍に密告したら……そうは考えなかったの?」

「……その時は俺に人を見る目が無かったってだけだ。ま、お前が俺の思っている通りの人間ならば、密告など万が一にもあり得ないがな」

「……舐められたもんね」

「舐めてはいないさ……ただ」

「ただ?」


「お前達のような軍人なら、信用するだけの価値はある……そう思っただけさ。我ながら血迷っているとしか思えないがな」



ディライズは自嘲気味に笑う。

冷酷だと思っていたディライズの意外な一面を見たミーシェは思わず面食らった。

当然、ミーシェは最初から密告する気など無い。

ただ、ディライズの、『魔人』の真意を確かめたかっただけだ。

何故か嘘かもしれないという疑惑は浮かんでこなかった。

これこそがディライズの真意なのだと、不思議と納得出来た。

その様子を見たティナは「んー」と唸り



「……これは手強いライバル……だよね」



と呟いていたが、ミーシェには何の事だか理解出来なかった。

ケイトは青筋を浮かべながら笑みを浮かべ



「本当はもっと色々と無駄話でも挟もうと思ってたんだけど不愉快だからさっさと本題に入っちゃうねー」



と言うが、彼女を不快にさせた理由もミーシェが知る事は無かった。

ケイトは突然真面目な顔になると



「んじゃ、まずは何故君達が一緒にいるか、それから聞かせてもらおうかねん」



ディライズとティナが今までの経緯を話す。

キャリオスで初めて顔を合わせた事、王都行きの船で出会った事、そしてその船を突然襲撃してきた精霊、セイレーンの事。

全てを聞き終えたケイトは、これまでにないような真顔で、顎に手を当て考える。



「精霊、か……確かに、二年前のベリオスでもそんな話はあったよ。精霊が魂のみで生きてるって事は判明してたしね……なるほど、元から魔力量の多い人間に憑依、か……こんなぶっ飛んだ事考えるのは……やっぱ、ハイドマンのイカれ頭しかいないだろうね」

「ハイドマンって……まさか、フレクト・ハイドマン博士?」

「お、よく知ってるねー、えっと、パラソル君だっけ?」

「パラソスだ。若くしてベリオス研究所の副所長を任される天才……そのハイドマン博士が……」

「天才、ねぇ……私に言わせれば天災だけどね。ちなみに、魔物と人間の合成……『魔人計画』の発案者もハイドマンだよん」



どうやらパラソスはその人物を尊敬していたらしく、珍しくショックを受けていたようだった。



「……それで、ケイトさんは何か精霊について知ってる事ってない?」

「んー。何分専門外だからねー……あ!」



ケイトは思い出したように声を上げる。



「そう言えば研究所から逃げ出す時に、現在魂のみで生き残っている精霊のリスト持ち出してたよ!」

「……何故お前はそう大事な事を先に言わないんだ」



ディライズの言葉を無視し、ケイトはそのまま奥の本棚から一束の書類を取り出す。

ミーシェはそれを受け取り、食い入るように書類に目を通す。

そのリストには精霊の名前、特徴、使用する魔法などが記されていた。

精霊の生き残りの数はセイレーンを含め十五、その中には小さい頃誰もが聞かされるような御伽話に出てくるような精霊の名もあった。

一通りリストに目を通したミーシェは



「……ケイトさん。もしよければこのリスト」

「うん、勿論差し上げちゃうよー」



思いの他あっさりと了承するケイトに拍子抜けするミーシェ。

だがケイトは「ただし」と言葉を続ける。



「王都までの旅路、ディライズとティナちゃんの事、くれぐれもよろしくねん」


「……分かったわ。『守六光』の名に懸けて、この二人の身柄の保護は約束する」

「……ふん」



ケイトは優しい笑顔で「にひひ」笑い、煙草を口に銜えながらリストを手渡す。



「そんじゃ、追っ手が来ないとも限らないし、足が着く前に早くこの街から出て行った方がいいよん?」

「でもまだ船が」

「はっはっはー。それは昨夜天才の名に懸けて直しといたぜー。多分、そろそろ動く頃じゃないかな?まあ、セイレーンって奴は倒してるんだから、ミーシェちゃん達の顔が割れてる事はないだろうけど」

「……色々とありがとう」

「いいのいいの。私も久々に楽しかったしねー。今度は仕事抜きで遊びに来て頂戴な」

「ええ」



二人は軽く手を叩き合う。

そして、一行は地下室を後にする。

ケイトはそれを見送った後、地下室の扉に鍵をかけた。



「……いるんでしょー、そろそろ出てきたらー?」



そう言うと、本棚の前に細身の男が立っていた。

まるで最初からそこに居たかのように。



「……気配は完全に消していた筈だが」

「残念ながら私はエルフの『魔人』でねー。姿が見えずとも、第六感ってやつで把握出来るのさ」

「なるほど。標的はあの『魔人』達だけだったからな。貴様の事をよく調べておくべきだったよ。だが、何故俺がいると気付いていながら重要な情報を漏らしたのだ?」

「あの子達には教えなきゃならない事だったからねー。ちなみに聞いておくと、あんたは精霊だったり?」

「いかにも。仙霊シヴァだ……当然、名乗ったからには死んでもらうが」



そう言うと、シヴァの姿が突然消える。



「これが俺の魔法『(かすみ)』だ。その名の通り、体を霞に変化することが出来る……聞けば、貴様に戦闘能力は無いらしいな。動くな。動かなければ余計な痛みを受けずに済む」

「……一応聞いとくけどさー。私を殺した後どうすんの?」

「決まっているだろう。あいつらを全員殺し、貴様が渡したリストとやらを処分する」

「それを聞いて安心したよ……これで」



ケイトは煙草をふかすと、いつも通り「にひひ」と笑って



「あんたを心置きなく拷問出来る」


「……強がりにしか聞こえんな」

「ところでさ、まだ大丈夫なの?」

「?何を訳の分からない事を……」

「だからさ、まだ呼吸してて大丈夫なの?」



その時、突然シヴァは「ぐっ」と声を漏らすと、霞は消え、体は元に戻っていた。



「き、貴様……何を……」

「はっはっはー。中々効かないから失敗かなーと思ってたんだけどね。やっぱ私ってば天才だわ」



けらけらとケイトは声を上げて笑う。



「まあ、折角だしタネ明かしくらいはしてあげるよん。これさ」

「…………」

「だからこれだってば。この煙草から出てる煙……あー、もう言葉も出せないんだね」

「…………」

「ん?『何故お前には毒が効かないのか?』そんな顔してるねー。いいよん、教えてあげる」



そう言うと、ケイトは近くにあった大きな装置を操作する。



「煙草の煙ってさー。主流煙と副流煙に別れてるんだぜー。主流煙が喫煙者が吸う煙で、副流煙が煙草から出る煙ね。ちなみに、主流煙より副流煙の方が体に有害な物質が多く含まれててね。つまり、煙草は自分だけじゃなく周りの人間にも害を与えちゃうんだよねー。まあ、それでもやめる気はないんだけど」



ケイトは笑いながら装置の操作を続ける。



「んで、私がやったのは簡単な事。この煙草の副流煙に''全身が麻痺する特殊な毒''を、主流煙に''その毒のワクチン''を仕込んだって訳さー……って、ありゃ。もうへばってるじゃんよ。まったく、人の話は最後まで聞けっての」



シヴァは意識を失い、ピクピクを体を痙攣させていた。

ケイトは気だるそうにシヴァをかつぐと、動き出したその装置の中に放り込む。



「ま、まずはその辺から''教育''し直そうかねん」



そう言うと、ケイトは装置の『拷問』と書かれたボタンを押す。

その顔には、これまでとはまた違う笑みを浮かべていた。


ということで、1章終了間際にも関わらず、新キャラのケイトさんにご登場してもらいました。

まあ、多分彼女は2章でも登場すると思うので勘弁してもらえたらありがたいですw

前書きにも書きましたが、今回はいつもよりちょっと長くなってしまいました。

というか、もっと長くなる予定だったんですが、その辺の話を次回、番外編としてお届けしようと思います。

舞台は、シアンテで一泊したそれぞれの夜にしようと思ってます。

あと、何となく思ってましたがトリシアさん空気……まあ、それもあっての番外編なんですがw


評価・感想・指摘等頂ければ幸いです。

質問ももらえればお答えします。

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