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拳と魔法と勇者と世界  作者: マークIII
1章 王都への旅路
14/30

第11話 行商人ハビッツの協力

サブタイトルで分かるかもしれませんが新キャラ登場です。

セイレーンが去ったその日の夜。

甲板で戦っていた六人は、トリシアから傷の治療を受けていた。

ハルト、バラドーは外傷が少なく、ミーシェとザグロも、魔力の消耗は激しいが大きな外傷もなかった。

だが、ディライズは怪我が治りきっていないにも関わらずの無理がたたり、傷が悪化し、ミーシェも魔力が空になった上に、傷も酷く、トリシアが全力で『治』を施していた。

しかし、『治』は大量に魔力を消費する為、そう連続で使い続けられるものではない。

やがてトリシアも魔力を使い切り、その場に座り込む。

慌ててミーシェが駆け寄った。



「トリシアさん!大丈夫?」

「……これで、二人は大丈夫かと……戦えるまでには、回復していませんが……」

「……十分よ。ありがとう、トリシアさん。ゆっくり休んでね」



トリシアは満足そうに微笑むと、自室へと戻っていった。

しかし、悪化ばかりする状況にザグロが呟く。



「……ティナちゃんとディライズさん抜きであの化物と、ですか」

「…………」



それだけではない。

魔力というのは、必ずしも一日で回復するものではない。

使用量が多ければ多いほど、回復には時間が必要となるのだ。

それも、使い切ってしまったともなれば、魔力が全快するのに二日から三日はかかるだろう。


つまり、少なくとも明日、トリシアは多くの魔力を使う事が出来ないのだ。


この事態を前に、ミーシェは



「……目的地を変更、できる?」

「変更って……どこに?」

「この辺りで一番近い港のあるのは……学術都市シアンテですね」

「どのくらいかかる?」

「最低でも、明日の夕方頃でしょうね」

「……だけど、あの女の子はこの船を沈めるって言ってたよ?僕達が行っちゃったらこの船の人達も……」

「…………」



ミーシェは再び考える。

どうやってもあと二日で何かしらの決着を着けなければ、この船は沈められてしまう。

しかし、ミーシェ達に二日も戦う程の余力は残っていない。


つまり、明日が勝負所なのだ。



「……とりあえず、迎撃態勢を整えるわよ。船員の人達にも協力してもらうわ。何が起こったのかはもう分かってるのよね?」

「ええ。ホールは大騒ぎですよ」

「対応を急がなきゃね。ピリンクとパラソスは着いてきて。残り皆は明日に備えて鋭気を養うように」



そう言うと、ミーシェ達は船長室へと向かう。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






船内のホールでは大騒ぎとなっていた。

その中にいた一人の青年、ハビッツ・セイゼルは後悔していた。

彼は異国の商品を扱う行商人で、隣国ザラハから商品を輸入し、王都へ帰るところだった。



「……やっちまったな」



彼には王都で待つ、歳の離れた妹がいる。

ただでさえ予定より一週間も帰国が遅れているというのに、こんな船に乗ってしまうなんて……少しでも早く帰ろうと一番出航時刻が早い船の乗船券を買ったのが仇となった。

海に立つ少女に、動く骸骨……どう考えても自分の領分ではない。


肩を落とす彼の目に入ったのは、奥の通路を進む、ジグライオス軍の甲冑を着た三人の兵士だった。


収拾しない事態に苛立ったハビッツは、一言文句を言ってやろうと、兵士達の後を追う。

が、無駄に広い船内の中のせいか、見失ってしまった。

周りを見回すと、『船長室』と書かれた部屋から話し声が聞こえる。

ドアが半開きになっていたので、ハビットはそこから中の様子を伺う。

すると、さっきの兵士達が船長らしき人物となにやら話していた。



「……つまり、あの化物はまた明日も来るんですか?」

「ええ、そうなります」

「……何と言う事だ」



船長は頭を抱える。



「安心してください。私が……『守六光』が責任を持って事態の収拾を約束します」



ハビッツは驚く。

その兵士は、まだ年端もいかない少女だったからだ。



「……でも、今日は無理だったんですよね?」

「……ええ。しかし、今回は来る事が分かっているので、先手の打ち様はいくらでもあります……ですが、今日の戦闘で仲間が二名、負傷してしまったので、そちらの船員の方にも助力をお願い出来ますか?」

「もちろん構いませんが……魔法を使える者は一人も……」



そこまで聞いたハビッツは、さっきまでの自分を恥じた。

どう見ても自分より年下のその少女は、明日もあの化物と戦わなければならないのだ。

そしてハビッツはある決意をすると、ドアを開け



「話は聞かせてもらいました」

「……貴方は?」

「俺はハビッツ・セイゼル。行商人をやってます。是非、協力させてください」

「……気持ちはありがたいですが、一般の方だと逆に足を引っ張られるので」



意外にストレートに言うんだなと思い、ハビッツは苦笑する。



「まあ、それはこれを見てからでも遅くないと思いますよ?」



ハビッツは行商人特有の口先で、相手の興味を煽る。

そして、バッグの中から液体の入った小さな小瓶を取り出す。



「それは?」

「これはザラハで手に入れたもので、この液体をかけたものと魔力反応が同じものの機能を停止させる事が出来ます。効果範囲は半径10メートル程度です。」

「……なるほど。それを屍の残骸にかければ……」

「はい。範囲内にいれば術者の動きも封じられるかと」

「……すごいですね。それほどのものです、とても貴重だとは思いますが……売ってはもらえないでしょうか?」



確かにこの小瓶はとても貴重で高価なものだ。

だが、生きて帰れる可能性を上げられるのならば、背に腹は変えられない。

当然代価はもらうが。



「ええ。構いませんよ。銀貨五枚でどうです?」



ちなみに、銭貨百枚で銅貨一枚、銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚である。

銀貨五枚もあれば、五ヶ月から半年は食べて行けるだろう。

しかし、他に代案も浮かばないミーシェは



「……分かりました。支払いは王都に戻ってからでいいですか?」

「ええ。俺の目的地も王都ですし、大丈夫ですよ」



「じゃあ使い方を説明しますね」と、ハビッツはミーシェ達を連れ、甲板へと戻る。


これがあれば勝てるかもしれない。

ミーシェは、ようやく見えた一筋の光に思いを馳せた。


しかし翌日、この認識は甘かったと思い知る事になる。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






翌日、明朝からミーシェは甲板に立っていた。

セイレーンも、昨日魔力を使い切った上に、ティナの攻撃を受けている。

そう早くは仕掛けてこない筈だ。

そんなミーシェの背後から、様子が気になったハルトが声をかける。



「やあ、おはよう。朝からご苦労様」



ハルトは船内から持ってきたコーヒーをミーシェに手渡す。



「ありがとう」

「どう致しまして」



甲板の中央には、昨日の屍の残骸が置いてある。

よく見れば、甲板には他にもちらほらと骨が置いてあった。

おそらく、あの骨全てにハビッツという行商人からもらった小瓶が使われているのだろう。

ミーシェに聞くと、船の至る所に同じ物が散りばめられているらしい。



「……勝算は、あるかな?」

「……勝負に絶対はないわ。仮に屍を封じる事が出来たとしても、楽に勝てる相手ではないでしょうね」

「だよね……向こうもどう仕掛けて来るか分からない訳だし」



「しんどい戦いになりそうだね」とハルトは苦笑する。

すると、再び船内の中から甲板に出る人影があった。



「あ、おはようございます、マテリアさん」



それはハルトにとっては面識のない男で、ミーシェはその男を「セイゼルさん」と呼んだ。

この公私の使い分け方には、本当に関心する。



「ヘイジさん、紹介します。こちらはハビッツ・セイゼルさん。例の小瓶を我々に提供してくださった行商人の方です」

「ハビッツです。今日はよろしくお願いしますね」

「あ、うん。こちらこそよろしく」



二人は握手を交わす。

やがてミーシェは尋ねる。



「こんな朝早くからどうしたんですか?」

「あー……ちょっとお話がありまして……ここで待ってようと思ってたんですが、マテリアさんの方が早かったみたいで」



ははは、とハビッツは頭を掻く。



「まあ今日は激戦になるでしょうからね……それで、話というのは?」

「……俺も、戦いに参加させて頂こうと思いまして」

「駄目です」



即答だった。



「言ったとは思いますが、今日は厳しい戦いになると思われます。戦いの心得もないような人間を戦場に立たせる訳にはいきません」

「……俺も隣国に行商に出る身です。自らの死くらい、覚悟しています」

「ならその覚悟を忘れず、これからも生きてください。わざわざ戦場に赴く必要はないでしょう?」

「……ならば仕方ありません」

「分かって頂けて幸いで」


「俺がいる事を了承してくれないなら、あの小瓶は返して頂きます。当然、代金はお返ししません。もう、少し使っているようですしね」


「なっ!」

「お願いです。邪魔はしません、約束します。俺はただ……」



「貴女の役に立ちたい」という言葉は、ハビッツの胸中で続けられる。

ハビッツの揺るがなき態度にミーシェは



「……分かりました。ですが、絶対に無理はしないでください」

「……ありがとうございます!」



ハビッツは目を輝かせて喜ぶ。


しかし、彼が余韻に浸る暇はなかった。


突然、雲行きが怪しくなってきたのだ。

ミーシェは空を見上げると



「……来る。ヘイジさん!急いで皆を呼んできてください!セイゼルさんは船長室に行って報告を!」

「任せて!」

「わ、分かりました!」



二人はそれぞれ言われた事を果たす為に走る。

そして、想像通り雨が降り出したかと思うと、海の向こうから少女が歩いてくる。



「……随分と早かったわね」

「うふふ、待ちきれなくてね」



そう言うと、少女は昨日と同じ様に光り出し、水を纏った美しき姿へと変貌する。



「最高に美しく、最低に惨たらしく殺してあげる」



そう言うと、セイレーンは『歌』を発動させる。

戦いの幕は、下ろされた-






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






ハルトは客室へと急ぐ。

まずはパラソスとピリンクを呼び、次に爆睡中だったバラドーを叩き起こす。

最後にディライズとティナの様子を見ていたザグロに声を掛け、一緒にいたトリシアに二人の看病を頼む。



「ど、どうか、お気をつけて……」



トリシアの声に頷くと、ハルト達は急いで甲板へと向かった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







ハビッツは船長室へと向かう。

一人残したミーシェの事が気にかかる。


……無事でいてくれよ。


ハビッツはそう願い、荒々しく船長室の扉を開ける。

船員達はもう準備が出来ている様で、各々が武器を持っていた。

ハビッツは叫ぶ。



「敵襲です!迎撃の準備をお願いします!」

「も、もうか?何か早すぎやしないか?」

「おそらく、敵も意表を突いて来たのでしょう。急いでください!今はマテリアさんが一人で応戦なさってます!」

「わ、分かった。総員、配置に着け!もたもたするなよ!」



船長の声を受け、船員達は甲板へ向かう。

ハビッツも急いでその後を追った。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






セイレーンは驚きを隠せなかった。

どれだけ『歌』で屍を出しても、船に上陸しようとすれば、突然糸が切れた様に落下していくのだ。

原因がまるで掴めない。

そうこう考えている内にも、ミーシェは攻撃を仕掛けてくる。

既に数発の『衝』を受けており、セイレーンは息を切らしていた。



「……何をしたの?」

「さあね。船から手を引くなら教えてもいいけど?」

「……ふざけんじゃないわよ!」



セイレーンは『歌』を発動させる。

屍が使えないのなら、他の手段を使えばいいだけの事だ。

ミーシェの『衝』を避け、海でも最も注意の必要となる災害の一つ、雷を甲板に落とす。

その雷は甲板に届く事なく、虚空で突然消失する。


しかし、その現象はセイレーンに''答え''を与える事となった。



「……あはは、なるほど。ようやく読めたわ、その船のカラクリ」

「…………」

「多分、そこら中に転がってる骨に宿っている私の魔力を媒介に、それと同じ魔力反応を持つものの機能を停止させた、そんなところかしら?」

「……例えそうだとしても、貴女にそれを破る手段は無いでしょう?」

「まあ、十年前なら無理だったかもしれないわね……でも、この体なら出来るのよ!」



そう言うと、セイレーンの体が再び光り出す。

やがて光の中から現れたのは、幾分か人間の姿に近づいたセイレーンだった。



「その船は、私の魔力を受け付けないんでしょう?それなら、''この体''の魔力を使うだけの事よ」


「なっ!そんな事、出来る筈が……!」

「まあ、普通の人間なら無理でしょうね。でも、この娘が持っていた魔力量は、常人とは比べ物にならないの。これだけあれば、十分私の魔力と併合できる。つまり、さっきの私の魔力とはまったく別物になるのよ!」



歌い出すセイレーンを、ミーシェは攻撃するが、(ことごと)くそれをかわされてしまう。

そして、セイレーンは歌い終わると、その小さな少女の顔を醜く歪めてみせた。

突然唸り出す黒雲、その時



「マテリアさん!」



ハルトが皆を連れ、甲板へと飛び出す。

「来ちゃダメ!」反射的にそう叫ぶが、間に合う筈もなかった。


瞬間、眩い閃光と共に、巨大な雷が甲板を襲った。


ということで、行商人ハビッツ君の登場と、セイレーンへの対策を軸にして書いてみました。

戦闘パートに2話使うなんて……次回でセイレーン戦は終了(予定)です。


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