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拳と魔法と勇者と世界  作者: マークIII
1章 王都への旅路
12/30

第9話 淑女トリシアの憂鬱

今回は久しぶりにあの人達&新キャラの登場ですが、説明回となります。

ハルト達がストルトを出発して数時間後。

日も傾き始め、太陽が赤く染まっていく。

そして、ようやく港町ニューゼルが見えてきた。



「お、予想より早く見えてきましたね」

「そうね。このペースだと、ギリギリ今日の便にも乗れそう」

「……船っていいですよね。気持ちいいし」

「アッシも海は好きだぜ。自分の小ささが馬鹿らしくなる」

「……ありきたりだな。その通りだとは思うが」

「海……か。そういえば久しぶりだな。5年振りくらいか」

「私は結構見慣れていますが、大抵は任務で船を利用するくらいですからね。その内プライベートで行きたいものですよ」



ミーシェは苦笑してみせる。

皆で行きたい、ハルトはそう思った。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






ニューゼルに着いた一行は宿にも行かず、波止場へ向かう。

何とか最終便に間に合い、そのまま船へと乗り込んだ。

アンジェリカのくれた乗船許可証は、そこそこ大きな客船のもので、他の乗客も多かった。



「無事に船には乗れたけど、王都までは3日ほどかかるわ。各自、それまでは自由行動という事で」

『異議なし』

「それでは部屋の鍵を配ります。2人で1部屋だけど問題ないわね?」

『異議なし』

「そう。じゃあ部屋割りは、パラソスとピリンク、私とランゼスさん、ヘイジさんとバラドーさんで」

「異議なし!」

「異議あり!」



ハルトとバラドーの声が綺麗に重なる。

が、自分だけ我が侭を言うのも心苦しくハルトは「何でもない」と手を下げる。



「じゃあ、解散。あまり羽目を外し過ぎないようにね。特にピリンクとパラソス。下の方には修練場もあるから、そこを利用するように」

「うへぇ……」

「……分かりました」



2人は嫌々というように頷く。

ハルトはそそくさと甲板に向かう。

が、予想通りと言うべきか、バラドーが目の前に回ると



「アニキ!稽古つけてください!」



傍から見ればどう考えてもハルトがバラドーに言うような言葉と共に、バラドーは深々と頭を下げる。

ハルトは溜め息を吐くと



「……分かったよ。修練場でいいかな」

「あ、ありがとうございます!」



嬉々とするバラドーと共にハルトは修練場に向かった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






トリシアは甲板で海を眺めていた。

船に乗れば、甲板に出て潮風を浴びるのが彼女の楽しみだ。

が、トリシアの顔色は優れない。

ミーシェ達とうまくやって行けるのかが不安で仕方ないのである。

ニューゼルへの道中、ミーシェはトリシアに何度も言葉をくれた。

しかし、トリシアは何一つ言葉を返す事が出来なかった。

言葉をくれたのは嬉しかったのだが、何と答えればいいのか分からなかったのだ。

何であの時……と自己嫌悪に陥る。

すると



「あ、いたいた」



後ろから声をかけられる。

振り返ると、そこにはミーシェがいた。



「探したわよ。部屋にも居ないんだもの」

「え……あ……」

「隣りいい?」

「あ……は、はい」



トリシアは、ようやくミーシェの言葉に返事を返す。

ミーシェはホットしたように


「……よかった」

「え?」

「私、ランゼスさんに嫌われてるのかと思ってたからさ」

「そ、そんな事、ないです!」



トリシアの大声に思わずたじろぐミーシェ。

トリシアは我に帰ると



「す、すいません……」

「あ、いや、別に怒ってないんだけどね」

「……マテリア様が声をかけてくれて、私、すごく嬉しかったんです。でも、何て答えればいいか分からなくて……」

「……じゃあ、まずは呼び方から変えないとね」

「え?」

「ミーシェでいいわよ。私もトリシアさんって呼ぶから」

「……あ、ありがとうございます……ミミミ、ミーシェ…さん」



「ミーシェで言いってば」とミーシェが笑う。

その時だった。



「あー!!」

「……どうしたの?そんな大声出して」



と、2人の後方から声が響く。

ミーシェは何事かと振り返る。

そこには



「ッ!アンタは……!」

「え、え?」






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






ハルト達は第一修練場へやって来た。

中は意外に広かったが、利用している者は1人もいない。



「うーん。1人ぐらい居て欲しかったんだけどな……まあ、しょうがないか」

「よろしくお願いします!」



バラドーは再び頭を下げる。



「そうされると何か照れ臭いな……よし、じゃあ、始めようか。どこからでもかかって来ていいよ。あ、武器は使ってもいいからね」

「では、遠慮なく!」



そう言うとバラドーは、背中に担いでいた大槌を持つと、ハルトに向かって行くと、そのまま大槌を振り下ろす。

ハルトはそれを緩慢な動作でかわすと、バラドーの腕を掴み、そのままぶん投げる。

それは柔道や合気道などではなく、まさに『ぶん投げた』と言うに相応しい光景だった。

バラドーは地面に叩きつけられ、短く悲鳴をもらす。

背中をさするバラドーに、ハルトは言った。



「バラドーさん、何で今投げられたか分かる?」

「え?そりゃあアニキの怪力で」

「違うよ。確かに腕力はそこそこいるけど、今のはバラドーさんの力をそのまま利用しただけさ」

「と、言うと?」

「確かに、バラドーさんの大槌に当たればひとたまりのないだろうね。でも、一撃が強力な分、避けたら隙だらけなんだ。避けてしまえば、あとはバラドーさんが突っ込んでくるだけだから、その力に合わせて投げる事で、威力も倍増!ってわけさ」

「な、なるほど。盲点でした……」



バラドーは納得し、腕を組みながら考える。

見た目より呑み込みは早いようだ。



「じゃあ、次は他の誰かとやってもらいたいんだけど……ちょっと、隣りの修練場を見て来ようか」

「オス!」



ハルト達は隣りの第二修練場へ向かう。

灯りは点いており、物音も聞こえるので誰かいるのだろう。

2人は扉を開け、中に入る。

すると、中には1人の男の姿があった。



「すいません、少し手合わせをお願い……え?」

「手合わせ?……悪いが、俺は1人で……ん?」



ハルトはその男に見覚えがあった。

男もまたハルトに見覚えがあった。


やがて、両者が同時に相手の名を口にする。



「……ハルト・ヘイジ、だったか」

「……ディライズ・ゼグラード、だよね?」



2人は睨み合う。

事情を知らないバラドーは何事かと目を白黒させる。

両者の間に一触即発の雰囲気が漂う。

が、ディライズはミーシェから受けた傷がまだ完治していないらしく、「チッ」と舌を打つと



「……何故お前がこんなところに居る?」

「王都に向かう予定だったんだけど、君のお仲間にやられた連れの傷が酷くてさ。コルザ山脈も行けないみたいだし、海路しかなくてさ」

「なるほど……丁度いい、か。少し話がある……ここではなんだ、甲板でいいか?」

「……いきなり不意打ちって事はないよね?」

「この体でお前に勝てると思うほど自惚れていないさ」



2人は上に上がっていく。

すっかり取り残されたバラドーは慌てて後を追う。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







ハルト達3人が甲板に戻ると、ミーシェが2人の男女と揉めていた。

1人はティナ・フェイトス。

ディライズと共にキャリオスでハルト達を襲撃してきた『魔人』だ。

もう1人は見覚えのない少年だった。



「だ・か・らー!アタシ達は別に何も企んでなんかいないんだって!」

「ええ、本当なんですよお嬢さん、信じてください」

「信用できるわけないでしょう?可愛い顔して私の部下を傷つけた貴女の言葉なんか……!」

「……ティナちゃん、それは信用されないのも無理ないよ」

「うっ……それは……ゴメン。で、でも!アタシの言ってる事は本当なんだって!アタシ達は逃げてきただけで……!」

「……何やってんだ、ティナ」



ディライズが声をかけると、ティナは目を輝かせる。



「ディライズ!……あれ?そっちのお兄ちゃんは……」

「ああ……話があったんだが、この人数だと目立つな……お前らの部屋でいいか?」

「……どういう事ですか、ヘイジさん?」

「いや、どうやら彼らにも事情があるみたいでさ……話だけでも聞いて上げようよ」

「…………」



ミーシェは渋々頷くと、トリシアと共に自室へ戻る。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






事情を聞いたパラソスとピリンクも話に加わる。

部屋は中々広かったのだが、さすがに9人も入れば狭くなった。



「ああ、そう言えば紹介が遅れたな。こいつはザグロ・ぺテイス。俺達の仲間、『魔人』だ」

「えっと、ザグロです。よろしくお願いします」



ザグロはペコリと頭を下げる。

そして、ハルトは早速本題に入る。



「……で、話の前に聞こうか。えっと……」

「……好きに呼べ」

「じゃあ、ディライズ達はどうしてこの船に?」

「お前達と戦り合った後、取り敢えず俺の傷を治療する為に近くの町へ行った。ザグロともそこで合流したんだ。それで昨日、依頼人がご丁寧にもその町に来てな。依頼金の受け渡しかと思ってたんだが……」

「だが?」


「奴ら、裏で『貴族院』と繋がっていやがったんだ。数十人の部隊連れて俺達を''連れ戻し''に来たのさ」


「……また『貴族院』か。それで?」

「ティナとザグロのおかげで何とか町から脱出、あとは俺達のボスから受け取っていた乗船券でこの船に乗ったという訳だ」

「……事情は大体分かったよ。それで1つ聞きたい事があるんだけど」

「何だ?」

「君達の依頼人って?」

「……話とはまさにその事だ」

「という事は……その依頼人がキャリオスを?」

「ああ。そいつが1人で殺った」



その返答を聞いたミーシェは、その依頼人が誰かを悟った。

たった1人でそんな事を出来る人物を、ミーシェは1人だけ知っている。



「俺達に依頼を頼んだのは、ジバルド・ベイグバン……『守六光』第二席だ」


「なっ!?」

「…………」



ミーシェは何も言わなかった。



「それで、おそらく俺達がこの船に乗っている事はとっくに割れているはずだ。攻めてくるのも時間の問題だろう………お前達には、俺達と共同戦線を張ってもらいたい」

「……私達は軍人よ?犯罪者である貴方達の頼みを聞き入れる訳ないでしょう?」

「だろうな。もちろん、それなりの代償は払う」



そう言うと、ディライズは懐からスクラップ帳を取り出す。



「この2年間、『貴族院』の汚職をまとめた代物だ。どう使うかはお前達に任せる」

「ディ、ディライズ!それはアタシ達3人の……!」

「分かってる。だが、俺達でこの場を切り抜けるのは難しい。こんな物で命が助かるのなら安いもんだ」

「……悔しいけど、その通りだね。お姉ちゃん達が居てくれれば心強いし」

「……分かりました。あなたがそこまで言うのなら僕は何も言いません」

「すまないな、ティナ、ザグロ」

「……どうする?マテリアさん」

「……分かったわ。その話、引き受ける」



ハルトは少し驚く。

ミーシェがこんな事を引き受けるタイプには見えなかったからだ。

ミーシェも、数分前なら断っていただろう。

だが『貴族院』が、ジバルド・ベイグハンが関わっているのなら話は別だ。


ミーシェは『貴族院』に立ち向かう決意をした。


その時だった。

甲板の方から人々のざわめき声が上がる



「……何かあったのかな?」

「行ってみましょう。ピリンクとパラソスはここにいて。ディライズの護衛をお願い」



甲板へ繋がる廊下を進む中、トリシアはミーシェに話しかける。



「あ、あの」

「……どうしたの?」

「え、えっと……さっきの話、私にはよく分からなかったけど……何か、国が関わるような大事だっていうのは分かりました」

「…………」

「だから、その、えっと」



トリシアは言葉に詰まる。

やがて、意を決すると



「つ、辛かったら、そ、相談してください!……その、私じゃ頼りないかもしれませんが……」



口下手なトリシアがここまでストレートに言う事に驚くミーシェ。

やがて彼女は表情を緩め



「……ありがとう。頼りにしてるわね」

「は、はい!」



そんな2人の会話を聞いた一行は思わず笑ってしまう。

6人は甲板へと向かった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






甲板に出ると、既に船首に人が集まっていた。

何事かと思ったミーシェ達は、人混みを掻き分け船首に出る。

そこに居たのは1人の少女だった。

が、船首の上ではない。


少女は海の上に立っていた。


ミーシェは他に言葉を探すが、立っているとしか言い様が無かった。

船が進むスピードに合わせて少女も動いている。

すると、少女がこちらに気付き、ミーシェと目が合った。


その時、少女は外見に見合わぬ邪悪な笑みを浮かべた。


突然、少女の体が光り出したかと思うと、その姿を変える。

そこにいたのは、大きなハープを持った美しい女性った。

その顔には先ほどの少女のものである。

しかし、その足は人間のものではなく、代わりに魚のヒレのようなものが生えていた。


その姿はまるで人魚の様だった。


全く状況の掴めていないミーシェ達を嘲笑うかのように少女はハープを弾き鳴らす。

そして、その綺麗な声で歌い出した。


すると、さっきまで快晴だった空が、急に曇り始めた。


それが何を意味するのか。

この後、一行は嫌と言うほど知る事になる。


という事で、『魔人』との再会とキャリオス襲撃の真実を軸にして書いてみました。

新キャラとしてザグロ君を投入しましたが、ほとんど空気でしたw

まあ、彼には後にそこそこ重要な役回りが与えられるのでその時に活躍してもらいたいです。

最後に登場した少女は何だったのか、物知りな方はピンと来られたかもしれません。

では、次回は(多分)戦闘回です。

7話よりはうまく書きたいものです。


評価・感想・指摘等もらえると嬉しいです。

質問ももらえればお答えします。


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