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拳と魔法と勇者と世界  作者: マークIII
1章 王都への旅路
10/30

番外編2 伍長ピリンクの回想

今回はあの3人の出会いの話です。

ピリンクがティナの攻撃を受け、ストルトで手術を受けている頃。


彼は昔の夢を見ていた。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






2年前、自分がまだ駆け出しの兵卒だった頃。

ピリンクとパラソスは、軍の研修で同じ隊に派遣された。

思えば、それ以来パラソスとはずっとつるんでいる気がする。

その時派遣された隊の士官というのが、兵卒の間でも『鬼教官』ならぬ『赤鬼教官』というあだ名で有名な男だったのだ。



「いいか良く聞け!貴様らのような地べたを醜く這いずるだけの蛆虫がここに立つという事さえありえないのだ!貴様らはただ息をするだけの蛆虫に過ぎん!この2週間、この隊のほとんどの蛆虫が軍人の道を諦めた。無様なものだ」



当然だ、この教官の組む訓練内容は他の教官のそれの5倍はあると推測されている。

ちなみに、この研修には各隊に約50人の兵士が派遣されるのだが、この隊に派遣された者の中で2週間耐え抜いた者は例年10人にも満たないという。

そう考えれば、何とか15人程度は残っているピリンク達の部隊は、まだマシだったという事だろう。

そして、同時にこの訓練に耐え切った者は屈強で優秀な兵士に成長するとのもっぱらの評判だった。



「しかし!無様にも地を這いずる蛆虫ながらも、まだ残っている貴様らは、蛆虫の中では多少骨のある蛆虫らしい」



ちなみに、この前時代的な鬼軍曹風の喋り方をするような教官も、ピリンクが知る限りこの男だけである。

だが、意外にもこの教官は兵士達から人気がある、理由は



「……本当によく頑張ったな。今日は飲みに行くぞ!俺の奢りだ、光栄に思え蛆虫共!」

『おおおおおおおおお!』



ただ厳しいだけの教官ではなかったからだ。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






それから1週間。

研修を終えたピリンクはパラソスと共に、王城に派遣され二等兵として雑務を命じられていた。

魔術を扱える者は優遇されるのだが、軍に入った最初の半年は実践任務を受けられず、階級を上げる事はできない。

貴族出身の兵士ならばコネで上等兵、実力が備わっていれば伍長や軍曹からスタートする事もある。

が、大体は研修の訓練にすら耐え切れずに逃げ出す貴族がほとんどだった。。



「でさ、俺は友達に聞いてみたんだよ。『どうして処女は優遇されるのに、童貞はむしろ煙たがられるんだろう?』ってな」

「その答えには興味があるな、それで?」

「ああ、そいつは『1度も攻められた事のない城砦と1度も攻めた事がない兵士、どっちが欲しい?』ってさ」

「……なるほど、真理だな」



2人は、毎日そんな他愛もない話をしながら雑務をこなしていた。

だが、ある日その生活はこれまでと一変する事となった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






王城で半年の仕事を終え、いよいよ実践任務を受けるられるようになった2人。

だが、ピリンクの中では「このままでもいい」そういう気持ちが大きくなってきていた。

確かに、軍の研修を受けていた頃は、父のような軍人になりたいと決心を固めた。


しかし、半年という月日は思ったよりも長く、ピリンクの決心は揺らいできていたのだ。


そんな悶々とした想いを抱え、初任務としてパラソス以下数名の兵士と共に王都の下町へと繰り出す。

最近、高町に住む少年が、魔法を使い下町の住民を襲撃しているというのだ。

高町と言うのは、王都の中でも、貴族等の金持ちが住む町である。

逆に下町と言うのはその逆で、言い方は悪いが貧しい者達が住む町だ。



「犯人は高町の者、か」

「ああ。目撃証言から間違いないらしい」

「それで、毎日この時間帯に下町に来るんだよな?」

「らしいな……まあ、捕まえてもすぐに釈放だろうがな」

「……金に物言わせて、か」



それが、今の王都の現状だった。



「とにかく、俺達はあまりその犯人にケガを負わせず捕まえりゃいいんだよ」

「……納得はいかないけどな」



すると、近くでドゴン!という音がしたかと思えば、音の方角から煙が立ち昇る。



「来たぞ!」

「ああ!」



2人は音のする方向へと向かう。

そこには、壊れる家屋と、その中心に立つ青年の姿があった。


おそらく、この青年が例の襲撃犯だろう。


痕跡から見るからに『衝』の魔法を使うようだ。



「……ん?あんた等、王都の兵士さん?俺を捕まえにきたの?」

「……ああ。連行させてもらう」

「アハハ!あんた等馬鹿だろ?俺はオングズ家の息子だぞ?捕まったってすぐに出られるんだよ!高町に住んでるってだけでなぁ」

「…………」

「そうだ。あんた等、俺を捕まえに来たって事は魔術師なんだよな?ハハ、じゃああんた等を倒せば俺も王都軍に入れるって事だよなぁ!」



どうやら、このオングズとかいう少年は軍の研修に耐え切れずリタイアした1人らしい。

おそらく、下町を襲っているのも単なる憂さ晴らしだろう。

住民街や高町を襲えば、最悪『守六光』が出てくる可能性すらあるからだ。



「ハハハ!そうしよう……って事で、眠ってくれや!」



オングズは『衝』を繰り出す。

が、『赤鬼軍曹』どころか、普通の士官の研修すら成し遂げられなかったオングズ如きに引けを取る2人ではなかった。

ピリンクは『土』で『衝』を防ぎ、パラソスは『火』を使い、火柱でオングズを囲む。



「ヒッ……!」

「よし、拘束するぞ」



パラソスがオングズに近づく。

が、オングズはパラソスが『火』を解いた瞬間、パラソスをかわし後ろに下がる。



「おい、悪足掻きは」

「動くなぁ!」



見ると、オングズは隠れていた少女の首を腕で固めていた。

少女はびっくりしたように目をパチクリさせていた。



「っ!お前……」

「へ、へへ、動くなよ。動けばこのガキがどうなってもしらねぇぞ!」



オングズは狂ったように笑うと、『衝』で2人に攻撃を仕掛ける。



「ぐっ!」

「ガッ!」

「……ハハ、ハハハハハ!なんだ、王都の魔術師ってのも大した事ねぇなぁ!」



オングズはとどめを指そうとピリンクに手を向ける。

やられる、そう思った。


だが、オングズの攻撃が放たれる事はなかった。



「……もういい」

「は?」



瞬間オングズの体は吹き飛び、自身が壊した家屋の瓦礫へと突っ込んでいた。

その場に立っていたのは、もはや人質に取られていたはずの少女だけだ。

少女は不機嫌そうに口を開く。



「私達の町を壊して、私まで人質に取った上に無抵抗の兵士さん達を傷つけるなんて……最低よ。反省してるなら注意で済ませようと思ってたのに」



オングズは状況がよく出来ていなかったが、自分よりも年下の、それも女に吹き飛ばされた為、プライドが大いに傷つけられた。

その怒りは当然少女に向けられる。



「……ふっざけんなクソ女ァ!」



オングズは最大の威力で『衝』を放つ。

が、少女は余裕の態度を崩さない。



「……へぇ、アンタも私と同じ''やつ''なんだ」

「へ?」



少女は『衝』の方に手を向けると



「でも、これじゃあダメね」



少女の手から凄まじい衝撃波が放たれたかと思うと、それは簡単にオングズの『衝』を呑み込み、彼のすぐ右隣りを貫く。

オングズは腰が抜けたように、その場に崩れる。



「よし。じゃあ、兵士さん。あとはよろしくお願いします」



ピリンクとパラソスはその場を動けなかったが、我に戻ると



「ま、待ってくれ!」

「え、え?」



少女は困惑したように立ち止まる。

ピリンクも引き止めたはいいが、何から尋ねればいいか分からなかった。



「えっと……き、君の名前は?」

「あ、そういうのってやっぱ大事なんですよね、すいません」



少女は照れ臭そうに頭を掻くと



「マテリア、ミーシェ・マテリアです。住所は」

「あ、いや、そういうのじゃなくて……君も襲撃犯を探してたのかい?」

「ええ。前に襲われたのが私の友人の家だったんです。それで」

「ああ、なるほど……えっと」



ピリンクは何を言えばいいか分からなかった。

が、彼女を引き止めてしまった理由は分かっている。


彼女の圧倒的な力に見惚れたのだ。


この力があれば、今の王都を変えられるかもしれない。

ミーシェを軍に引き込みたい。

ピリンクは純粋にそう思った。



「……ねえ、この下町を自分の力で守ってみたいとは思わない?」






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






1週間後、ミーシェは軍人となった。

研修も無しで、だ。

ピリンクに話を持ち掛けられた時、考えて欲しいと彼女は言った。

実はその頃ミーシェの家は、月の学費を払えないほど貧窮していたらしい。

ピリンクとパラソスにより、上官に紹介されたミーシェは持ち前の魔法の腕を見せ、下町出身にも関わらず兵長からスタートした。


そして1年後、ミーシェは晴れて最年少の『守六光』となった。


『守六光』になったその日の午後、ミーシェは久々にパラソスとピリンクに再開する。



「ピリンクさん!パラソスさん!その節はどうも……」



が、2人は



「マテリア隊長!この度は『守六光』就任おめでとうございます!」

「これからはどうぞ我々を顎でお使いください」

「……え?えっと、あの何で敬語なんですか?それに隊長って……」

「貴女は今日から『守六光』就任と同時に少佐に昇進なされた。それは同時に一隊の指揮官である事を意味します。我々は、本日付けでマテリア隊に派遣される事となりました!」

「えっと……」

「隊長。我々に敬語を使う必要はありません。我々は貴女の駒であり、犬なのですから」

「で、でもお2人のおかげで私は!」

「隊長」



パラソスが静かに、しかし厳格な声でミーシェを諭す。



「我々は、1年前隊長にお会いした時からこの日をずっと待っていました……隊長もご存知でしょうが、今の王都は何かがおかしい」

「…………」

「ですが我々は隊長の強さを見た時、この人なら、王都を内側から変えられる、そう思いました。ですから、その隊長が部下に対して敬語では格好がつきません」



ピリンクも頷く。

ミーシェは「うー」と頭を抱えると



「……分かりました、いえ、分かったわ。これからもよろしくね」

「はい!」

「ええ」



3人は拳を交し合う。

そして、締めの言葉をミーシェが口にする。



「ピリンク、パラソス。これから私達は、この王都を内部から改革していく。危険な目にも合うかもしれない……でも」



そこでミーシェは一拍置くと、覚悟を決めたように片目を閉じておどけてみせる。



「私と一緒に、未来(さき)までついて来てくれる?」

「もちろん!」

「お望みとあれば地獄の底まで」



これが、1年前の出来事だ。

以来、危険な事も何度か合ったが、その度にミーシェは冷静な判断でその場を切り抜けてきた。

それはこれからも変わらない。

無論、目が覚めても……。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






ピリンクは珍しく騒がしいパラソスの声で目が覚める。

病室にはミーシェ達3人と、町医者らしき男がいた。

さっきまで夢を見ていたピリンクは思わず



「あ、あれ?おはようございます」



と言ってしまった。

皆に笑われるが、その声にからかいの色はない。


情報交換を終え、ミーシェと2人になった時



「隊長」

「うん?どうしたのピリンク?」

「……実は自分、昔の夢を見ていました」

「昔の?へー、いつの?」

「隊長に初めて会ってから、マテリア小隊が結成した時までです。覚えていますか?」

「当たり前でしょう。懐かしいなあ」

「……正直、あの時我々は隊長に頼りっぱなしでした……ですが、今はヘイジ殿がいます。正直、あの方ならば隊長のお力になれると思うのです。だから」


「何言ってるの?今の私があるのは貴方とパラソスのおかげよ。『守六光』になって、苦しかった事もあったけど、私は後悔していない……言える内に言っておくわね」



ミーシェは照れ臭そうに頭を掻く。

その仕草は、出会った時と何も変わらない、可愛らしい少女の姿だった。



「いつもありがとう。感謝してるわ。これからもよろしく」



その言葉で、ピリンクの胸は一杯になる。

この人に一生ついていこう、改めてそう思った。



と言う事で、ピリンクの昔の夢を軸にして書いて見ました。


ミーシェは昔から強かったんです、はいw

ついでに、ピリンクの軍での階級も明らかにしました、タイトルだけでですがw


次回からは本編に戻ります。

ようやくハルト達の旅が再開されます。

そして、ハルト達一行に新たな仲間が?

そんな感じにしようと思ってます。

(今度こそ)次回でストルト編完結です!


評価・感想・指摘等もらえれば嬉しいです。

あと、質問をもらえれば喜んでお答えします。

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